LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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黄金まばゆき 鞍置きわたし


駒のひずめの音高し


魂込めし 業物にない


幾年共に 鍛えたる


腕の力 競いてみん


いざや友よ 連れだちて


空は緑 気は澄みて


獲物は山に 野に満てり


ララララ…



~歌劇『魔弾の射手』第三幕 狩人の合唱より引用~





第十一話 SNIPER 狙撃手

 

 

 

 

アンボイナガイ

 

 

学名『 Killer Cone Snails』『 Cigarette Snail 』

 

 

 

海中にて、最も恐ろしい生物とは何か。

 

 

その疑問を解決すべく、一番危険な生物を調査する企画が行われた。

 

 

結果、一位に選ばれたのは海のギャング『鮫』でもなければ、凶悪な毒針を持つ『エイ』でもない。

 

 

そして、海の王『シャチ』ですらなかった。

 

 

選ばれたのは、小さな貝。

 

 

『イモガイ』と呼ばれる貝の一種。

 

 

その中でもこの『アンボイナガイ』は、群を抜いて凶悪。

 

 

美しい外見と、凶悪な毒。

 

 

その二つの相乗作用により

 

 

【死亡者多数】

 

 

その血清は存在せず、刺されれば

 

 

【生存者少数】

 

 

綺麗だからという理由で腕を伸ばした結果。

 

 

体内の毒が内蔵した弾、『毒銛』が襲いかかる。

 

 

秘められたその毒、人間であれば三十人を殺す毒性。

 

 

これらのことから、『殺人貝』という意味を込めて『 Killer Cone Snails』。

 

 

刺されれば、葉巻を吸っている間にあっさり死んでしまうという意味を込めて『 Cigarette Snail 』の名前が命名された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

───────────

 

 

 

 

ユーリ・レヴァテインは見下ろす。

 

 

全てを、見下ろす。

 

 

彼の上に輝くのは、満月のみ。

 

 

「…三射目、適中」

 

 

そう言い終えた直後、襲撃者の一人はまた一人、頭に何か突き刺さった状態でテラスに落下してくる。

 

 

「四射目、的中」

 

 

また一人。

 

 

「五射目、直撃」

 

 

また一人。

 

 

「六射目、ヒット」

 

 

そしてまた一人。

 

 

「……………七射目、着弾」

 

 

そして、また一人。

 

 

気付けば、十人いた襲撃者は残り三人となっていた。

 

 

「何だ…」

 

 

襲撃者の一人が、ポツリと呟く。

 

 

「何なんだあいつはよぉ……」

 

 

こちらが聞きたいぐらいである。

 

 

クーガはそう内心呟いた。

 

 

狙撃とは、かなり技量のいる技術だ。

 

 

風向きもあれば、当然目標ターゲットも動く。

 

 

それ故に本来、観測手スポッターと呼ばれる相棒が傍らに必要なのである。

 

 

それを、たった一人でやってのけた。

 

 

しかも、

 

 

「………全部脳天に突き刺さってやがる」

 

 

どの死体を見ても、全てが頭に直撃していた。

 

 

『One Shot One Kill』。

 

 

そんな言葉が狙撃手の養成学校で掲げられているらしい。

 

 

そして、自分達は今。

 

 

そんな言葉を体現したかのような男を目撃していた。

 

 

もう少しその戦いぶりを見守りたいところだが、生憎と今はそんな場合ではない。

 

 

自分達には任務がある。

 

 

『兄』を守ると約束した男がいる。

 

 

それを思い出したクーガは意識を取り戻す。

 

 

「…行こう。唯香さん」

 

 

「ふえっ!?」

 

 

クーガが声をかけると、唯香はすっとんきょうな声を上げる。

 

 

どうやら、クーガと同様にユーリの技量に気を奪われていたようである。

 

 

「………避難経路は確保されているんだったな」

 

 

最も、一郎は全く動じていなかったようだが。

 

 

「で、でもユーリさんは…」

 

 

「あいつならきっと大丈夫だ」

 

 

八人目の襲撃者を仕留めたユーリを見て、クーガのその言葉は『きっと』から『絶対』へと変わる。

 

 

「…うん!そうだね!首相!ついてきて下さい!!」

 

 

「言われなくてもついていく。死体の落下を見物する趣味はない」

 

 

クーガ達三人はテラスから降りていく。

 

 

襲撃者と、狙撃手の戦いをその場に残して。

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

──────────

 

 

 

「九射目、十射目。…最早言うまい」

 

 

九人目、十人目の襲撃者がテラスに落下していくのを見守る。

 

 

ただ翔んでくるだけでは自分に撃ち落とされると判断したのか、一度テラスに降り立ってバッタの脚力で跳び移ってこようとした。

 

 

しかし。

 

 

「本来の持ち主の猿真似で私に勝つ?馬鹿を言え」

 

 

ユーリ・レヴァテインは右腕を降ろし、そう呟く。

 

 

「お前達はその男の足元にも及ばない。『虫けら』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあその虫けらにお前は殺されるんだなぁ!!」

 

 

 

ユーリの首元に、刃物が当てられる。

 

 

しかし、その姿は見えない。

 

 

恐らく、『ニジイロクワガタ』の能力。

 

 

FPSゲームなどで狙撃手(スナイパー)を排除したい時どうすれば良いか。

 

 

その手段の一つとして、近寄ってから白兵戦により排除するという手段が挙げられる。

 

 

スコープ内に集中している狙撃手(スナイパー)は、格好の獲物だ。

 

 

簡単に仕留めることが出来る。

 

 

が、

 

 

「か、か、か、かてぇ!!」

 

 

襲撃者は、ユーリの首元に何度もナイフを突き刺す。

 

 

しかし、ナイフが刺さることはない。

 

 

『アンボイナガイ』の能力。

 

 

脆弱な軟体動物であるが故に、身に付けた貝殻(アーマー)

 

 

『炭酸カルシウム』と『コンキオリン』で形成されたその鎧、極めて強固。

 

 

「見破っていたが…敢えて泳がせておいた」

 

 

これも、『アンボイナガイ』の能力。

 

 

暗闇にも慣れたその眼、極めて敏感。

 

 

「マリア・ビレン」

 

 

ユーリは、右腕を襲撃者のこめかみに当ててそっと呟く。

 

 

「その名前を知っているか?」

 

 

「ししし知らねぇよ!アアアアンタの女か!?」

 

 

「いいや」

 

 

それと同時に、襲撃者のこめかみに向かって毒銛を発射する。

 

 

『アンボイナガイ』の能力の三つ目。

 

 

伸縮自在の筋繊維を用いた、毒銛の発射。

 

 

静かに、凶悪な一撃が突き刺さる。

 

 

祖国(ロシア)の同胞で…その能力の本来の持ち主だ。覚えておけ」

 

 

バタリと倒れた襲撃者を尻目に、ユーリ・レヴァテインは次の獲物へと目をやる。

 

 

「そんなに硬いならよぉ!!突き飛ばしてやりゃいいだけの話じゃねぇか!!」

 

 

恐らくあれは、『蜘蛛糸蚕蛾』の能力。

 

 

強靭な糸を用いてまるでターザンのように、ビルの間を駆け抜けていた。

 

 

「やれやれ…今度はスパイダーマンのお出ましのようだな」

 

 

『アンボイナガイ』の動きは緩慢。

 

 

非常に遅く、素早く動けない。

 

 

しかしユーリはそれを補う為に、オリジナルを編み出していた。

 

 

変異した右腕の、円錐形の貝殻の殻口から、隣のビルに向かって毒銛を発射する。

 

 

先程と異なるのは、その毒銛に『毒腺』に繋がる長細い体内菅と、筋繊維がついていたこと。

 

 

毒銛が、隣のビルに突き刺さる。

 

 

『アンボイナガイ』の毒銛は先端に『返し』と呼ばれる形状になっている 。

 

 

それ故に、一度刺されば簡単には抜けない。

 

 

それを応用した、移動術。

 

 

ゲームでよく耳にする『フックショット』と言えば解りやすいだろうか。

 

 

筋繊維と体内菅を一気に体内に手繰り寄せる。

 

 

しかし、その先にある『毒銛』は抜けず。

 

 

従って、ユーリは瞬く間に隣のビルへと引き寄せられる。

 

 

「なっ!?」

 

 

襲撃者も、呆気に取られていた。

 

 

一瞬で、あれだけ移動を遂げたのだから。

 

 

「………さてさて」

 

 

ユーリは、毒銛と筋繊維を分離させる。

 

 

毒銛は、使い捨てである。

 

 

本人の意思で分離することも可能。

 

 

ユーリはそのまま、まっ逆さまに落下していく。

 

 

そして、右腕を相手へと向ける。

 

 

「………撃ち抜く」

 

 

毒銛を発射する。

 

 

しかし、襲撃者の頬を掠めるだけに留まった。

 

 

「は…ははは!とうとう外しやがったなぁ!!」

 

 

襲撃者は宙を舞いながら、高笑う。

 

 

しかし、その顔は直ぐに青冷める。

 

 

自らの腕から出ていた強靭な糸が出ない。

 

 

そればかりか、身体の自由すらも効かない。

 

 

『アンボイナガイ』の毒は神経毒である。

 

 

初期段階で、麻痺症状が出る。

 

 

掠めただけでも、それは充分。

 

 

 

 

 

 

───────────もし

 

 

 

 

「この…この卑怯もんがあああか!!」

 

 

 

 

──────────この生き物(アンボイナガイ)

 

 

 

 

「……………卑怯?私が?」

 

 

 

 

──────────狙撃手(ユーリ・レヴァテイン)のものとなれば

 

 

 

 

ユーリは、まっ逆さまに落下していく最中にも関わらず胸に手を当てる。

 

 

 

 

─────────その時この生き物(アンボイナガイ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有り難う。狙撃手(スナイパー)にとってそれは名誉だ」

 

 

 

 

 

 

 

───────外れぬことを約束された『魔弾』となる

 

 

 

 

 

 

「ク゛ソ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

全体が麻痺して呂律の回らない声で叫んだ次の瞬間、襲撃者はビルの先に設置されたタワー先端の串刺しになる。

 

 

ユーリはそれを見届けると、懐に入れていた葉巻に火をつける。

 

 

地上まで、まだ時間がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

─────────

 

 

 

クーガ達三人は、セントラルパークから最も近い(ブリッジ)に向かって車を走らせていた。

 

 

『眠らない街』というだけあって、NY(ニューヨーク)の人混みは多い。

 

 

この中で戦闘を続けるのは危険だ。

 

 

唯香の手回しによって、今向かっている橋は閉鎖している。

 

 

通過出来るのは自分達だけ。

 

 

彼処でなら、最悪戦闘を行ってもいい。

 

 

クーガは後部座席の二人を見入る。

 

 

一郎と唯香。

 

 

せめてこの二人だけでも守らなければ。

 

 

そうして再び前に視線を戻した時、フロントガラスに貼りついたユーリの姿が視界を支配した。

 

 

「…スゲー邪魔なんだけど!!」

 

 

「私だって好きで貼りついた訳ではない。ルーフを開けろ。そこから入る」

 

 

「人に物頼む態度じゃねぇ!」

 

 

クーガが仕方なくルーフを開けると、ユーリはそこから車の助手席に体を滑り込ませた。

 

 

「流石にここに『毒銛』を撃ち込むのは危険だと思ってな。途中からターザンのように小刻みに落下衝撃を和らげて降りてきた」

 

 

「何のことだかわからねぇし、クールな姿勢崩してないけども!さっきの光景二度と忘れないからな!!」

 

 

「月が綺麗だ」

 

 

「誤魔化し方下手糞か!!」

 

 

クーガが怒鳴り散らした後、閉鎖された橋の入り口を通過する。

 

 

「襲撃者に関しては上にいる輩は始末した。問題は下にいる連中だな」

 

 

「…下、か」

 

 

「クーガ君!後ろ!」

 

 

唯香の一声でサイドミラーを確認すれば、後ろから三人程の襲撃者が猛スピードで追い掛けてくるのが見える。

 

 

恐らく『メダカハネカクシ』の能力。

 

 

ユーリはルーフから身を乗り出し、直ぐ様変異した右腕を向ける。

 

 

高速で目標は移動し続けているが、ユーリは忽ちそれを仕留めてしまう。

 

 

相変わらず正確無比な腕だ。

 

 

ユーリはあたかもそれを当然であるかのように、助手席へと戻る。

 

 

「ユーリさん…アナタは一体…」

 

 

凄まじい腕であるが故に、疑問を感じざるを得ない。

 

 

どうして、『一人』であるにも関わらずそこまでの腕を持っているのか。

 

 

唯香がそれを尋ねようとした瞬間、車の前に二つの何かが落下してきた後に、車を受け止める。

 

 

『パラポネラ』。

 

 

自分の百倍近い物体を持ち上げることが出来る、『蟻の王』。

 

 

その特性を持つ二人の『襲撃者』が車を受け止め、ひっくり返した。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

──────────

 

 

 

「首相!大丈夫ですか!!」

 

 

「…………ああ。問題ない」

 

 

咄嗟に一郎が庇ったおかげで、唯香は無事だ。

 

 

その一郎も、頭から血を流す程度。

 

 

「ッ……………!!」

 

 

クーガは、肩から血を流しつつ、窓から何とか這い出す。

 

 

割れたガラスが突き刺さるが、そんなもの後から『変異』すれば押し出されるように体外に排出されるだろう。

 

 

ふと横を見れば、頭を打ったらしく、フラフラと足元がおぼつかないユーリがいた。

 

 

しかし、『変異』していたお蔭で幸い怪我はない様子だ。

 

 

立ち上がり、薬を用意して周囲を見渡す。

 

 

閉鎖された入り口・出口を突破してきたであろう、襲撃者達が次々と押し寄せてくる。

 

 

先程の『パラポネラ』に加えて、見覚えのある襲撃者達が勢揃いだ。

 

 

中には、『オケラ』と恐らく『カマキリ』であろう新顔まで加わっている。

 

 

「…………まさかここで軍隊のありったけぶつけて来ようってか?」

 

 

クーガはニヤリとほくそ笑む。

 

 

恐らく、数にして七十人。

 

 

援軍も考えれば数はもっと増えるだろう。

 

 

「唯香さん!下の『水』に飛び込めばなんとかなるか!」

 

 

「駄目!『オケラ』は水中でも動けるの!闇雲に飛び込めばこっちが不利になるだけ!もう少しだけ待って!なんとか事前に手回ししておいたプランでなんとかなりそう!」

 

 

唯香は仕切りに携帯端末を操作している。

 

 

どうやら、時間さえ稼げばなんとかなりそうだ。

 

 

「…ユーリ。協力して時間を稼ぐぞ」

 

 

「私一人だけでいい」

 

 

ユーリはそう言い放ち、淡々と右腕を構える。

 

 

「一人じゃ無理だ!協力するぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 私 一 人 だ け で い い と 言 っ て い る ! ! 」

 

 

ユーリは、クーガ達が見ていた冷めた様子から想像も出来ない程に声を張り上げ、怒る。

 

 

そして、襲撃者達に向かって毒銛を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

────────────もう、誰も信じない。

 

 

 

そう誓った、二年前の冬を思い出す。

 

 

 

極寒の地、ロシアにて。

 

 

 

ユーリ・レヴァテインは、狙撃手(スナイパー)として名を馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 







ちょっとまた更新が遅くなるかもしれません。


ロシア語のテストの勉強せにゃならん…


助けてユーリ!!


感想頂けたら嬉しいですぞ\(^-^)/


つうか感想欄37も行ってるわい(≧ω≦)ぐふふ


皆さんがオレみたいな野郎の作品を楽しみ?にしてくれてると思うと凄く嬉しいです。


これからも頑張りますね(^-^)


それではまた次回!!


※因みに表紙の制作協力者の所にツイッターでいつもお世話になってる方の名前を入れました!!


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