LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕 作:ゆっくん
黄金まばゆき 鞍置きわたし
駒のひずめの音高し
魂込めし 業物にない
幾年共に 鍛えたる
腕の力 競いてみん
いざや友よ 連れだちて
空は緑 気は澄みて
獲物は山に 野に満てり
ララララ…
~歌劇『魔弾の射手』第三幕 狩人の合唱より引用~
アンボイナガイ
学名『 Killer Cone Snails』『 Cigarette Snail 』
海中にて、最も恐ろしい生物とは何か。
その疑問を解決すべく、一番危険な生物を調査する企画が行われた。
結果、一位に選ばれたのは海のギャング『鮫』でもなければ、凶悪な毒針を持つ『エイ』でもない。
そして、海の王『シャチ』ですらなかった。
選ばれたのは、小さな貝。
『イモガイ』と呼ばれる貝の一種。
その中でもこの『アンボイナガイ』は、群を抜いて凶悪。
美しい外見と、凶悪な毒。
その二つの相乗作用により
【死亡者多数】
その血清は存在せず、刺されれば
【生存者少数】
綺麗だからという理由で腕を伸ばした結果。
体内の毒が内蔵した弾、『毒銛』が襲いかかる。
秘められたその毒、人間であれば三十人を殺す毒性。
これらのことから、『殺人貝』という意味を込めて『 Killer Cone Snails』。
刺されれば、葉巻を吸っている間にあっさり死んでしまうという意味を込めて『 Cigarette Snail 』の名前が命名された。
───────────────────
───────────
ユーリ・レヴァテインは見下ろす。
全てを、見下ろす。
彼の上に輝くのは、満月のみ。
「…三射目、適中」
そう言い終えた直後、襲撃者の一人はまた一人、頭に何か突き刺さった状態でテラスに落下してくる。
「四射目、的中」
また一人。
「五射目、直撃」
また一人。
「六射目、ヒット」
そしてまた一人。
「……………七射目、着弾」
そして、また一人。
気付けば、十人いた襲撃者は残り三人となっていた。
「何だ…」
襲撃者の一人が、ポツリと呟く。
「何なんだあいつはよぉ……」
こちらが聞きたいぐらいである。
クーガはそう内心呟いた。
狙撃とは、かなり技量のいる技術だ。
風向きもあれば、当然目標ターゲットも動く。
それ故に本来、観測手スポッターと呼ばれる相棒が傍らに必要なのである。
それを、たった一人でやってのけた。
しかも、
「………全部脳天に突き刺さってやがる」
どの死体を見ても、全てが頭に直撃していた。
『One Shot One Kill』。
そんな言葉が狙撃手の養成学校で掲げられているらしい。
そして、自分達は今。
そんな言葉を体現したかのような男を目撃していた。
もう少しその戦いぶりを見守りたいところだが、生憎と今はそんな場合ではない。
自分達には任務がある。
『兄』を守ると約束した男がいる。
それを思い出したクーガは意識を取り戻す。
「…行こう。唯香さん」
「ふえっ!?」
クーガが声をかけると、唯香はすっとんきょうな声を上げる。
どうやら、クーガと同様にユーリの技量に気を奪われていたようである。
「………避難経路は確保されているんだったな」
最も、一郎は全く動じていなかったようだが。
「で、でもユーリさんは…」
「あいつならきっと大丈夫だ」
八人目の襲撃者を仕留めたユーリを見て、クーガのその言葉は『きっと』から『絶対』へと変わる。
「…うん!そうだね!首相!ついてきて下さい!!」
「言われなくてもついていく。死体の落下を見物する趣味はない」
クーガ達三人はテラスから降りていく。
襲撃者と、狙撃手の戦いをその場に残して。
──────────────────
──────────
「九射目、十射目。…最早言うまい」
九人目、十人目の襲撃者がテラスに落下していくのを見守る。
ただ翔んでくるだけでは自分に撃ち落とされると判断したのか、一度テラスに降り立ってバッタの脚力で跳び移ってこようとした。
しかし。
「本来の持ち主の猿真似で私に勝つ?馬鹿を言え」
ユーリ・レヴァテインは右腕を降ろし、そう呟く。
「お前達はその男の足元にも及ばない。『虫けら』だ」
「じゃあその虫けらにお前は殺されるんだなぁ!!」
ユーリの首元に、刃物が当てられる。
しかし、その姿は見えない。
恐らく、『ニジイロクワガタ』の能力。
FPSゲームなどで
その手段の一つとして、近寄ってから白兵戦により排除するという手段が挙げられる。
スコープ内に集中している
簡単に仕留めることが出来る。
が、
「か、か、か、かてぇ!!」
襲撃者は、ユーリの首元に何度もナイフを突き刺す。
しかし、ナイフが刺さることはない。
『アンボイナガイ』の能力。
脆弱な軟体動物であるが故に、身に付けた
『炭酸カルシウム』と『コンキオリン』で形成されたその鎧、極めて強固。
「見破っていたが…敢えて泳がせておいた」
これも、『アンボイナガイ』の能力。
暗闇にも慣れたその眼、極めて敏感。
「マリア・ビレン」
ユーリは、右腕を襲撃者のこめかみに当ててそっと呟く。
「その名前を知っているか?」
「ししし知らねぇよ!アアアアンタの女か!?」
「いいや」
それと同時に、襲撃者のこめかみに向かって毒銛を発射する。
『アンボイナガイ』の能力の三つ目。
伸縮自在の筋繊維を用いた、毒銛の発射。
静かに、凶悪な一撃が突き刺さる。
「
バタリと倒れた襲撃者を尻目に、ユーリ・レヴァテインは次の獲物へと目をやる。
「そんなに硬いならよぉ!!突き飛ばしてやりゃいいだけの話じゃねぇか!!」
恐らくあれは、『蜘蛛糸蚕蛾』の能力。
強靭な糸を用いてまるでターザンのように、ビルの間を駆け抜けていた。
「やれやれ…今度はスパイダーマンのお出ましのようだな」
『アンボイナガイ』の動きは緩慢。
非常に遅く、素早く動けない。
しかしユーリはそれを補う為に、オリジナルを編み出していた。
変異した右腕の、円錐形の貝殻の殻口から、隣のビルに向かって毒銛を発射する。
先程と異なるのは、その毒銛に『毒腺』に繋がる長細い体内菅と、筋繊維がついていたこと。
毒銛が、隣のビルに突き刺さる。
『アンボイナガイ』の毒銛は先端に『返し』と呼ばれる形状になっている 。
それ故に、一度刺されば簡単には抜けない。
それを応用した、移動術。
ゲームでよく耳にする『フックショット』と言えば解りやすいだろうか。
筋繊維と体内菅を一気に体内に手繰り寄せる。
しかし、その先にある『毒銛』は抜けず。
従って、ユーリは瞬く間に隣のビルへと引き寄せられる。
「なっ!?」
襲撃者も、呆気に取られていた。
一瞬で、あれだけ移動を遂げたのだから。
「………さてさて」
ユーリは、毒銛と筋繊維を分離させる。
毒銛は、使い捨てである。
本人の意思で分離することも可能。
ユーリはそのまま、まっ逆さまに落下していく。
そして、右腕を相手へと向ける。
「………撃ち抜く」
毒銛を発射する。
しかし、襲撃者の頬を掠めるだけに留まった。
「は…ははは!とうとう外しやがったなぁ!!」
襲撃者は宙を舞いながら、高笑う。
しかし、その顔は直ぐに青冷める。
自らの腕から出ていた強靭な糸が出ない。
そればかりか、身体の自由すらも効かない。
『アンボイナガイ』の毒は神経毒である。
初期段階で、麻痺症状が出る。
掠めただけでも、それは充分。
───────────もし
「この…この卑怯もんがあああか!!」
──────────この
「……………卑怯?私が?」
──────────
ユーリは、まっ逆さまに落下していく最中にも関わらず胸に手を当てる。
─────────その時この
「有り難う。
───────外れぬことを約束された『魔弾』となる
「ク゛ソ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
全体が麻痺して呂律の回らない声で叫んだ次の瞬間、襲撃者はビルの先に設置されたタワー先端の串刺しになる。
ユーリはそれを見届けると、懐に入れていた葉巻に火をつける。
地上まで、まだ時間がある。
────────────────────
─────────
クーガ達三人は、セントラルパークから最も近い
『眠らない街』というだけあって、
この中で戦闘を続けるのは危険だ。
唯香の手回しによって、今向かっている橋は閉鎖している。
通過出来るのは自分達だけ。
彼処でなら、最悪戦闘を行ってもいい。
クーガは後部座席の二人を見入る。
一郎と唯香。
せめてこの二人だけでも守らなければ。
そうして再び前に視線を戻した時、フロントガラスに貼りついたユーリの姿が視界を支配した。
「…スゲー邪魔なんだけど!!」
「私だって好きで貼りついた訳ではない。ルーフを開けろ。そこから入る」
「人に物頼む態度じゃねぇ!」
クーガが仕方なくルーフを開けると、ユーリはそこから車の助手席に体を滑り込ませた。
「流石にここに『毒銛』を撃ち込むのは危険だと思ってな。途中からターザンのように小刻みに落下衝撃を和らげて降りてきた」
「何のことだかわからねぇし、クールな姿勢崩してないけども!さっきの光景二度と忘れないからな!!」
「月が綺麗だ」
「誤魔化し方下手糞か!!」
クーガが怒鳴り散らした後、閉鎖された橋の入り口を通過する。
「襲撃者に関しては上にいる輩は始末した。問題は下にいる連中だな」
「…下、か」
「クーガ君!後ろ!」
唯香の一声でサイドミラーを確認すれば、後ろから三人程の襲撃者が猛スピードで追い掛けてくるのが見える。
恐らく『メダカハネカクシ』の能力。
ユーリはルーフから身を乗り出し、直ぐ様変異した右腕を向ける。
高速で目標は移動し続けているが、ユーリは忽ちそれを仕留めてしまう。
相変わらず正確無比な腕だ。
ユーリはあたかもそれを当然であるかのように、助手席へと戻る。
「ユーリさん…アナタは一体…」
凄まじい腕であるが故に、疑問を感じざるを得ない。
どうして、『一人』であるにも関わらずそこまでの腕を持っているのか。
唯香がそれを尋ねようとした瞬間、車の前に二つの何かが落下してきた後に、車を受け止める。
『パラポネラ』。
自分の百倍近い物体を持ち上げることが出来る、『蟻の王』。
その特性を持つ二人の『襲撃者』が車を受け止め、ひっくり返した。
──────────────────
──────────
「首相!大丈夫ですか!!」
「…………ああ。問題ない」
咄嗟に一郎が庇ったおかげで、唯香は無事だ。
その一郎も、頭から血を流す程度。
「ッ……………!!」
クーガは、肩から血を流しつつ、窓から何とか這い出す。
割れたガラスが突き刺さるが、そんなもの後から『変異』すれば押し出されるように体外に排出されるだろう。
ふと横を見れば、頭を打ったらしく、フラフラと足元がおぼつかないユーリがいた。
しかし、『変異』していたお蔭で幸い怪我はない様子だ。
立ち上がり、薬を用意して周囲を見渡す。
閉鎖された入り口・出口を突破してきたであろう、襲撃者達が次々と押し寄せてくる。
先程の『パラポネラ』に加えて、見覚えのある襲撃者達が勢揃いだ。
中には、『オケラ』と恐らく『カマキリ』であろう新顔まで加わっている。
「…………まさかここで軍隊のありったけぶつけて来ようってか?」
クーガはニヤリとほくそ笑む。
恐らく、数にして七十人。
援軍も考えれば数はもっと増えるだろう。
「唯香さん!下の『水』に飛び込めばなんとかなるか!」
「駄目!『オケラ』は水中でも動けるの!闇雲に飛び込めばこっちが不利になるだけ!もう少しだけ待って!なんとか事前に手回ししておいたプランでなんとかなりそう!」
唯香は仕切りに携帯端末を操作している。
どうやら、時間さえ稼げばなんとかなりそうだ。
「…ユーリ。協力して時間を稼ぐぞ」
「私一人だけでいい」
ユーリはそう言い放ち、淡々と右腕を構える。
「一人じゃ無理だ!協力するぞ!!」
「 私 一 人 だ け で い い と 言 っ て い る ! ! 」
ユーリは、クーガ達が見ていた冷めた様子から想像も出来ない程に声を張り上げ、怒る。
そして、襲撃者達に向かって毒銛を放つ。
────────────もう、誰も信じない。
そう誓った、二年前の冬を思い出す。
極寒の地、ロシアにて。
ユーリ・レヴァテインは、
ちょっとまた更新が遅くなるかもしれません。
ロシア語のテストの勉強せにゃならん…
助けてユーリ!!
感想頂けたら嬉しいですぞ\(^-^)/
つうか感想欄37も行ってるわい(≧ω≦)ぐふふ
皆さんがオレみたいな野郎の作品を楽しみ?にしてくれてると思うと凄く嬉しいです。
これからも頑張りますね(^-^)
それではまた次回!!
※因みに表紙の制作協力者の所にツイッターでいつもお世話になってる方の名前を入れました!!