LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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ボス【人物】

boss, Boss

上役、親方、首領など。当該人物に対する呼称・ニックネームとしても使われる。





第十話 BOSS 蛭間一郎

 

 

 

 

桜唯香の朝は早い。

 

 

AM5:00起床。

 

 

歯を磨いた後にシャワーに入り、髪を乾かした後に着衣。

 

 

朝食の支度をした後、もうすぐ日本の内閣総理大臣がこちらに演説に来るというニュースを見た後、同居人を起こしに行く。

 

 

一階で暮らしている同居人、ゴキちゃんの部屋に入る。

 

 

部屋に入ってみれば、ハンモックに揺られてすやすやと眠っているゴキちゃんの姿が目に入る。

 

 

ベッドも用意しているのだが、どうやらハンモックの方が寝心地はいいらしい。

 

 

「ゴキちゃん起きて。朝ご飯だよ!!」

 

 

「じょう………」

 

 

眠い瞼をこすりながら、ゴキちゃんはリビングへと向かっていく。

 

 

ゴキちゃん起こし終えた後、次はハゲゴキさんの部屋へと向かう。

 

 

部屋に入ると、ハゲゴキさんは既に起きていた。

 

 

寝坊の多いハゲゴキからすれば珍しいことだ。

 

 

「ふえっ!?ハゲゴキさんが起きてる!!」

 

 

「じぎぎぎぎぎ!!」

 

 

ハゲゴキさんは、ドヤ顔で唯香を指さした後、リビングへと向かう。

 

 

やけに今日のハゲゴキさんは規則正しい生活をしているな、と唯香は疑う。

 

 

しかし、気に留めるほどのことではないと判断し、すぐに次の行動へと移る。

 

 

「さてと!次はクーガ君を起こしに行かなきゃ!」

 

 

この時、桜唯香は疑念を捨てるべきではなかった。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

──────────

 

 

 

AM7:00。

 

 

早朝から、一台のリムジンが『テラフォーマー生態研究所第四支部』の前で停止する。

 

 

中から降りてくるのは、蛭間七星。

 

 

『地球組』の臨時司令官にして、『アネックス1号計画』副司令官。また、日本航空自衛隊三等空佐でもある。本日は、クーガと唯香に直接任務を依頼しに来た。

 

 

インターホンを押す。

 

 

「…桜博士。蛭間です」

 

 

応答はない。

 

 

「…………クーガ・リー。まだ寝ているのか?」

 

 

それでも返答はない。

 

 

暫くした後に、もう一度インターホンを押そうとすればガチャリとドアが開く。

 

 

「………じょ、じょう」

 

 

『ゴキちゃん』と呼ばれている実験個体である。

 

 

基本的に勝手にドアを開けて、来客の対応をすることは禁止である。

 

 

でなければ、宅配業者が玄関口で気絶してしまう。

 

 

しかし、『この人なら開けてもいいですよシート』に顔を記載された人物のみ、対応を許可されている。ゴキちゃんが手元に持っている、ラミネート加工されたシートがそれである。

 

 

「…………あー……… 」

 

 

蛭間七星は動揺していた。

 

 

この研究所のテラフォーマーの管理体制は耳にしていた。しかし、いざ対面したとなると、どうコミュニケーションを取っていいのかわからない。

 

 

一方、ゴキちゃんも動揺していた。実は、来客の対応など初めてである。ゴキちゃんの脳内では、初めてのお使いのBGMがループしていた。

 

 

「……………クーガ・リーはいるか?知り合いだ」

 

 

「じょ、じょうじょ」

 

 

心なしか、『ど、どうぞ』に聞こえた気がするが気のせいか。

 

 

七星はゴキちゃんに案内されるまま、リビングへと案内される。

 

 

しかし、クーガと唯香の姿は見えない。

 

 

と、思った次の瞬間。

 

 

「ヒアアアアアアアアアアア!!」

 

 

クーガを起こしに行ったはずの唯香の悲鳴だ。

 

 

ゴキちゃんは、テレビを見ているハゲゴキさんを見る。

 

 

知らんぷりしているが、どうせ犯人は彼だろう。

 

 

七星とゴキちゃんは、唯香の安否を確かめる為に二階へと駆け上がる。

 

 

悲鳴が聞こえてきたのは、一番奥のクーガの寝室だ。

 

 

そっと、覗いてみる。

 

 

すると、そこには唯香をベッドに押し倒したクーガの姿が。

 

 

しかも胸に顔を埋めていた。

 

 

「え?え?え?唯香さん?え?」

 

 

押し倒した本人も、事態を把握していない様子だがどういうことか。

 

 

「ゆ、唯香さんこれは違」

 

 

「ヒアアアアアアアアアアア!!」

 

 

「ちょっ、話聞」

 

 

「ヒアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

「本当に違うんだって!!」

 

 

「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

あんぐりと、その場の状況を見て困惑する七星とゴキちゃん。

 

 

仮にクーガの言う通り誤解だったとしても、さっさと手を避けなければ誤解が解けないのは明白である。事実、唯香の『ヒアアアアアア警報』は鳴り続いている。

 

 

そして、七星とゴキちゃんの二人も。

 

 

「……………じょ、じょうじ」

 

 

「そ、そうだな。確かに情事だ」

 

 

※情事[じょうじ]意味…男女の肉体関係。いろごと。

 

 

「違う!!オレはやってない!!ハメられたんだって!!」

 

 

「ヒアアアアアアアアア!!」

 

 

どう見ても〝ハメ〟られたではなく、〝ハメ〟ようとしてる側にしか見えないクーガの弁解は、唯香から引き離して小一時間にも及んだ。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

──────────

 

 

「…で、実際の犯行動機はなんなんだ」

 

 

「ヤバイと思ったが性欲を押さえきれなかったって違うわ!!だ~か~ら!!『毎朝ハゲゴキさんがいきなり早起きしだして、ゴマフアザラシのぬいぐるみをオレのベッドの横に置いたり顔に押しつけたりしてたの!!そんで、今日も南極からゴマフアザラシが攻めてきたと思ってこっちから攻めにいったの!!そんでいざ目を開けたら唯香さんだったの!!Do you understand!?』」

 

 

かなり苦しいし無茶苦茶だが、事実なのだろう。

 

 

やけに馬鹿正直なクーガのことだ。

 

 

嘘はつけまい。

 

 

「ももももういいよ!!大声出しちゃったのは私だし!!」

 

 

唯香は優しすぎる気もするが。

 

 

「…まぁいい。本題に入る。今日は任務の依頼にきた」

 

 

「来るタイミング悪すぎだろ…で、どんな内容だよ?」

 

 

「日本国内閣総理大臣の護衛だ」

 

 

「ふえっ!?」

 

 

あまりにもエキセントリックすぎる任務内容に驚かざるを得ない。

 

 

内閣総理大臣の護衛など、映画の中でこそよく目にするものの、実際に依頼されるなんて夢にも思わなかった。

 

 

「……わざわざオレ達に任務が回ってきたってことは、『バグズ手術』を受けた死刑囚が関係してるってことか?」

 

 

「ご名答だ。脅迫状が届いた。NY(ニューヨーク)で演説する予定の内閣総理大臣を『殺す』という内容のな」

 

 

脅迫状を机の上に叩きつける、七星。

 

 

『身内』が脅されれば、気が立つのも当たり前だろう。

 

 

「そして今回の任務だが…他のメンバーと合同で行って貰いたい」

 

 

「合同?アズサちゃんとレナちゃんですか?」

 

 

「いや。あの二人には別件を当たって貰っている。組んで貰うことになるのは…この男だ」

 

 

七星は、懐から取り出した顔写真を机上に置く。

 

 

「………こいつは」

 

 

「ユーリ・レヴァテイン。『第四位』だ」

 

 

病的とも言えるほどに、白く、美しい肌。

 

 

銀色の長髪に、人形のように整った顔立ち。

 

 

どこぞのファッションモデルでもやっていそうだ。

 

 

レナの話だと、かなり優秀なロシアのスナイパーらしいが。

 

 

「…本当は『アースランキング第五位』の帝恐哉と任務を担当して欲しかったんだが…いかんせんお前とあの男はあまり良好な関係とは言えない。トラブルでも起こされたら困るからな」

 

 

帝恐哉。『集会』を開いたあの日にクーガと揉めかけドレッドヘアーの男。

 

 

あの男と任務を担当すれば、確実に揉めるだろう。

 

 

内閣総理大臣護衛などという重大任務において、それは喜ばしくない。

 

 

「そしてこの男…ユーリ・レヴァテインだが、『裏切り者(ユダ)』である可能性が最も高いと言える」

 

 

「…どういう、ことですか?」

 

 

唯香が尋ねると、七星は一枚の診断書を取り出す。

 

 

第六位、トミーマコーミックのものだ。

 

 

「胸部を何かに貫かれていた。第四位の『サポーター』も同様にな」

 

 

もしユーリが『裏切り者』だとしたら、最も邪魔なのは何かと言われると、自分を24時間見張っている『サポーター』の存在である。

 

 

「新しい『サポーター』がつくまでの間…奴は自由に立ち回れる。第六位を殺害することも可能だったろう」

 

 

プルプルと、七星の手が震え出す。

 

 

「奴の『特性』もそれが可能な特性だ」

 

 

七星は、突然椅子を立ち上がった後に頭を深々と下げた。

 

 

「おい七星さん!!ふざけんな!!頭上げろよ!!」

 

 

「ロシアとの外交問題で奴を任務から外す訳にはいかなくなった。頼む。クーガ・リー。内閣総理大臣を……『(あんちゃん)』を守ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

─────────

 

 

二日後。大都会NY(ニューヨーク)、セントラルパークにて、大巨漢の男が、演説を行っていた。

 

 

第502代 日本国 内閣総理大臣 

 

 

「…それ故に、日米のパイプの強化が求められています」

 

 

蛭間一郎。

 

 

二十年前の『バグズ2号』の生き残りにして、不死生物『ネムリユスリカ』の『特性』を持つ男。

 

 

最も、先日の事件にて不死ではないことが証明され、それ故に護衛がつくことになったのだが。

 

 

「以上です。これからも我々(日米)の関係が…友好であらんことを」

 

 

拍手喝采の後に、壇上を降りていく蛭間一郎。

 

 

そこに、ドッとパパラッチ達が囲み取材をしに来る。

 

 

それを制するのが

 

 

「はいはい落ち着いて!!どぉどぉどぉ!!」

 

 

クーガの仕事その一である。

 

 

そして、その傍らには、同業者がもう一人。

 

 

「…どうか冷静に。首相はお疲れです。そこに貴女方のような美しい華に囲まれれば心も落ち着かないでしょう」

 

 

マスコミの女性記者たちを手玉に取っている。

 

 

ユーリ・レヴァテイン。

 

 

七星曰く、裏切り者である可能性が最も高い男。

 

 

パパラッチとマスコミを追い払った後に、一郎と共にリムジンに乗り込む。

 

 

「クーガ君お疲れ!はい麦茶!!」

 

 

唯香(クーガ曰くエンジェル)が出迎えてくれた。

 

 

今回の任務は前回と違って、唯香がいる。

 

 

癒されるという理由よりも、何よりも頼もしい。

 

 

窮地の時は頼りになるだろう。

 

 

「首相もどうぞ!!」

 

 

「…いただいておく」

 

 

コワモテながら、蛭間一郎という人物はあまり悪い性格ではないらしい。

 

 

このような時、大抵偉い人間は『口に合わない』という理由で断りそうなもんだが、きちんと飲み干してくれた。

 

 

「…ユーリさんもどうぞ!」

 

 

唯香はユーリにも麦茶を勧めた。しかし、

 

 

「私は遠慮する。毒でも入っていたら堪らないからな」

 

 

感情が全く伴っていない言葉で、それを拒否した。

 

 

そして、その瞳は氷のように冷たい。

 

 

「……そうですね!こんな状況だから仕方ないですよね!!」

 

 

「ああ。その通りだ。もしかするとお前達が『裏切り者(ユダ)』かもしれないからな」

 

 

その言葉を聞いた途端、クーガは握り拳を震わせフツフツとこみ上げてくる怒りをぐっと堪えた。

 

 

「あの……そ、そう言えばユーリさんのベース生物って!」

 

 

「報告の義務はない。もう私に話し掛けないで頂けるとありがたいな」

 

 

「……おい。それぐらいは答える義務がお前にもあるはずだろ」

 

 

堪え切れなくなり、クーガは車内で立ち上がる。

 

 

「義務?それは何故だ」

 

 

「……今回一緒に任務を行う『仲間』だからだ」

 

 

『仲間』と聞いた途端にユーリはそれを鼻で笑う。

 

 

「そう思っているのはお前達だけだ」

 

 

クーガは堪らず、拳を振り上げる。

 

 

「止めとけ」

 

 

そう言って制したのは、蛭間一郎だった。

 

 

「……俺は任務さえこなせば何も文句は言わない。だが目の前で鬱陶しいやり取りをされれば流石にクレームをつける」

 

 

「…………申し訳ありません」

 

 

ユーリが頭を下げると、クーガも同時に頭を下げる。

 

 

この程度のトラブルであればあっさりと納められるあたり、この人物の手腕がうかがい知れる。

 

 

「運転手。次はこの場所だ。向かってくれ」

 

 

蛭間一郎は、御抱えの運転手に地図を渡すと、一向は次の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

─────────

 

 

 

 

PM8:00。

 

 

各地区を回って、一向はセントラルパーク付近のホテルへと戻る。

 

 

一日中巡りに巡った為に、ヘトヘトである。

 

 

ホテルに入って休息を取ろうとするが、ユーリだけがホテルの中には入ろうとしない。

 

 

「……何処へ行く?」

 

 

一郎が尋ねる。

 

 

「私には自らのやり方があります。職務を放棄する訳ではないので御安心を」

 

 

一礼すると、ユーリは何処かへと去っていった。

 

 

「…チームプレーって文化がロシアにはねぇのかよ?」

 

 

「私人の悪口言ってる時のクーガ君は嫌い!!」

 

 

分かりやすく、プクッーと頬を膨らませる唯香。

 

 

それを見たクーガは、頬をつつきたい衝動にかられながらも、後ろに顔を背けてこう言葉を漏らす。

 

 

「結婚しよ」

 

 

「…俺はあいつよりもお前の仕事の方が不安だ」

 

 

ボソッと心の本音が漏れたクーガの呟きに、思わず一郎も不安を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

───────────

 

 

一時間後のPM9:00。

 

 

月明かりに照らされて、銀髪を静かに揺らしながら、ユーリ・レヴァテインはとある場所にて待機していた。

 

 

葉巻を吸い、時間を潰す。

 

 

そして、指で鉄砲の形を作る。

 

 

それを、一郎達が滞在してるホテルへと向ける。

 

 

「………狙撃日和だ」

 

 

天上で輝く月を見上げ、ユーリ・レヴァテインは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

────────

 

 

PM10:00

 

 

「本当に!?本当にいいんですか!!」

 

 

「…ああ。構わん」

 

 

「後から小粋なジョークでしたとか言わないよな!?」

 

 

「生憎そんなに性格は歪んでない。食え」

 

 

「「 いっただきまーす!! 」」

 

 

目の前に運ばれてきたジャパニーズ料理、『すき焼き』に腹を減らした二人は飛び付く。

 

 

食材も高級なものばかりだ。

 

 

しかも。

 

 

「で、でも流石にそんなことまでして頂かなくとも…」

 

 

「別に俺だって好きでやってる訳じゃない。昔から兄弟の世話をしてきたからな。つい習慣になってるだけだ。ありがたがられても困る」

 

 

「…ある意味世界で一番贅沢な飯食ってるかもな、オレ達」

 

 

クーガと唯香の分を、一郎はわざわざ取り分けていた。

 

 

運転手や、その他の一般のSPの分についても同様である。

 

 

「まだまだ追加はある。好きなだけ食え」

 

 

「ごちになりまーす!!」

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

─────────

 

 

PM11:00。

 

 

食事の席が終わると、一郎はクーガと唯香以外を別のホテルに退去させた。

 

 

襲撃があった際に巻き込まれるといけないから、だそうだ。

 

 

セントラルパークが見え、果てには屋上のテラスまでついてる。

 

 

二階構造で複数部屋がある超豪華スイートから追い出されるのだから、少し全員ガッカリしていたが。

 

 

「…これって、襲撃されたら結構ヤバくねーか?」

 

 

フロントの従業員と他の宿泊客を巻き込まない為とはいえ、いくらなんでも泊まる場所のチョイスをミスしてしまったのではないだろうか。

 

 

「大丈夫!避難経路とか色々手回ししておいたからね!えっへん!」

 

 

「手回し?」

 

 

そうクーガが尋ねようとしたところで、一郎に対して電話がかかってくる。

 

 

「…すまない。ちょっと失礼する」

 

 

テラスへと上がっていき、電話に応じる。

 

 

「もしもし。…ああ。小吉。お前か」

 

 

「小吉さん!?」

 

 

こどものように無邪気な声を上げたクーガ。

 

 

慌てて口を塞ぐが、もう遅い。

 

 

唯香はキョトーンとした表情で見てるし、一郎もこちらを見ながら電話越しの小吉と何かごにょごにょと言ってる。

 

 

今、宇宙にいる『アネックス1号』のメンバーは、各国の代表とパイプを形成している。

 

 

定時報告、定時連絡が基本となっている。

 

 

暫く話した後に、こちらに電話に使っていた携帯端末を渡す。

 

 

「扱いには気を付けろ。重要な端末だ」

 

 

宇宙の『アネックス1号』と通話しているだけあって、やはり通常の端末とは異なるらひい。

 

 

恐る恐る、電話口に耳を当てる。

 

 

「…も、もしもし」

 

 

 

 

 

 

 

『お!クーガか!!久しぶりだな!!』

 

 

懐かしい声が聞こえる。

 

 

10日前程度なのに、かなり久方ぶりな気がする。

 

 

もう、永遠に声も聞けないかもしれない。

 

 

そんな思いばかりがあった。

 

 

でも、

 

 

『ははぁ~ん!もしかして…俺の声が久しぶりに聞けて感動してんのか?』

 

 

幼い頃の自分を助けてくれた、『英雄(ヒーロー)』の声は確かに聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「全く」

 

 

『そこは嘘でも寂しかったって言っとけ!!そういや聞いたぜ?事件解決したって。流石は俺の弟分って奴だな!………「地球組」が壊滅したことは残念だったな』

 

 

「ああ。でもよ、安心してくれ。アンタ達のケツは絶対に守る」

 

 

『はは。頼もしいな、本当に…』

 

 

電話越しで、小吉の鼻が啜る音が聞こえる。

 

 

クーガの成長を実感し、感動でもしてるのだろうか。

 

 

「…小吉さん。周りに人はいないよな?」

 

 

『ん…ああ。それがどうした?』

 

 

「相談に乗って欲しいことがある」

 

 

クーガは、事情を話す。

 

 

『地球組』の中に『裏切り者』がいること。

 

 

その『裏切り者』かもしれない人物が、今回の任務に同行していること。

 

 

それを、小吉に伝えた。

 

 

『…そいつは難しい問題だな』

 

 

小吉はウーンと唸る。

 

 

そして、

 

 

『難しいこと一切考えなきゃいい』

 

 

「…どういう事だ?」

 

 

デリケートな問題故に、慎重に考えなければいけない問題の筈だ。

 

 

それを、何も考えなければいいというのはどういうことか。

 

 

『クーガはよ、何ていうか…目がいいだろ?』

 

 

幼い頃から戦地を駆け抜けてきたクーガにとって、目は何よりも大事なものだ。

 

 

相手の弱点を見定めたり、筋肉の動きを見て、相手の攻撃を回避したり。

 

 

殺しにしか利用したことはないが、それがどうかしたのだろうか。

 

 

『冷静に客観的な事実を切り取る力はその…それこそお前のベースになった「オオエンマハンミョウ」みてぇに飛び抜けてる』

 

 

だから。

 

 

『内面を変にゴタゴタと予想するな。確実な証拠だけを見つけ出せ。きっとお前ならそれで大丈夫さ』

 

 

「…ありがとよ、小吉さん」

 

 

冷静に、客観的な証拠のみを切り取る。

 

 

それが自分には出来る。

 

 

憧れの『英雄(ヒーロー)』が言ってくれた。

 

 

これ程に嬉しいことはない。

 

 

『ミッシェル達とも代わってやりてぇが…この内線は機密事項の塊なんだ。規則上俺以外の人間と話せない。すまないな』

 

 

「いいさ。『また』会えるんだからな」

 

 

『……そうだな』

 

 

これが、永遠ではない。

 

 

これは、これから何度もある会話のうちの1回である。

 

 

そう信じて、クーガ・リーは。

 

 

一人の『兵士(ソルジャー)』は、通信を終了した。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

───────────

 

 

 

AM12:00。

 

 

深夜に時間が突入した直後。

 

 

一郎は立ち上がる。

 

 

「…………来るぞ」

 

 

一度、裏切った自分にはわかる。

 

 

『裏切り者』が、どのタイミングで攻撃を仕掛けてくるかも。

 

 

一日を越えたという安心感と同時、人気もそれなりに少ない時間帯。

 

 

襲撃を仕掛けてくるなら、今。

 

 

準備は整っていた。

 

 

クーガも戦闘態勢に入っている。

 

 

すると、けたましい程の羽音が徐々に聞こえてくる。

 

 

騒がしい程に摩天楼を谺するその音は、すぐそこから聞こえてきた。

 

 

三人は、テラスに上がる。

 

 

すると、けたましい音の正体が判明する。

 

 

『サクトビバッタ』。

 

 

『バグズ手術』の中でも、かなりの戦闘力を発揮したことで知られている。

 

 

人間大にすると、ビルを飛び越す程に強烈な脚力。

 

 

そして、能力はそれだけに留まらない。

 

 

薬の過剰接種により、『最古の害虫』が目を覚ます。

 

 

体色の黒い『群生相』。

 

 

翅が黒く延長したことにより飛行が可能になる。

 

 

それだけでなく、戦闘力も十五体程度の『テラフォーマー』であれば単独で殲滅できる程に強力なものとなる。

 

 

それが、約十体。

 

 

テラスの上空を、翔び回っていた。

 

 

単純計算で、百五十体の『テラフォーマー』を相手に出来る戦力と真っ正面からやり合わなくてはならないことになる。

 

 

例えそうだろうと闘わなくてはならない。

 

 

クーガは、素早く自らの首に『薬』を注入しようと『した』。

 

 

動きが止まったのは、突然敵の二体がテラスに落下してきたからだ。

 

 

何かが、脳天に突き刺さって死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

───────────

 

 

 

『アネックス1号』には、ズバ抜けて遠距離に優れているメンバーがいた。

 

 

アレックス・K・スチュワート。

 

 

天上の荒武者(オウギワシ)』の能力を持つ、マーズ・ランキング12位の青年。

 

 

その正確無比な投擲能力から『魔弾の投手』と呼ばれたこともある。

 

 

 

 

 

しかし、『雲の上』以外にも遠距離を征する生物はいた。

 

 

 

例えば、『海の底』。

 

 

 

 

【静かに、ただ静かに】

 

 

潜み。

 

 

【暗さにも馴れた、その眼で】

 

 

捕らえ。

 

 

【一撃で、仕留める】

 

 

一撃必殺(ワンショットキル)

 

 

 

 

 

ユーリ・レヴァテインは、銀色の髪を靡かせる。

 

 

 

エンパイア・ステート・ビルディング。

 

 

 

ニューヨークで最も高いビルの、最も高い場所に立っていた。

 

 

 

変異した右腕を向け、こう呟く。

 

 

 

「高い場所が貴様らのような『襲撃者(バカ)』だけのものだと思わないことだ」

 

 

 

次の獲物に、眼を移す。

 

 

 

「高い場所を好むのは」

 

 

 

変異した右腕から、毒銛を放つ。

 

 

 

「馬鹿と」

 

 

 

一射目。命中。

 

 

 

「煙と」

 

 

 

二射目。必中。

 

 

 

 

 

──────────────狙撃手(スナイパー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ・レヴァテイン

 

 

国籍 ロシア

 

 

23歳 ♂

 

 

183cm 70kg

 

 

MO手術〝軟体動物型〟

 

 

 

 

 

──────────アンボイナガイ──────────

 

 

 

 

 

 

『アース・ランキング』四位

 

 

 

 

 

 

 

───────────魔弾の射手(アンボイナガイ)目標視認(ロックオン)

 

 

 

 

 

 








テスト近いから更新遅くなるぜぇ?(確信)


次回、アンボイナガイの生態説明及びバトル回。


皆さんも気を付けて下さいね。


アンボイナガイ、海中の危険生物一位にノミネートされてますので。







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