ヴィヴィオはそれでもお兄さんが好き   作:ペンキ屋

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ども〜

遅くなりやした。

過去編が長いのでと言う言い訳は……させてください!?



ではよろしくお願いします!


第14話【散った恋と弟子心】

アインハルトが暴走してから翌朝。青年は1人目を覚ます。1人……とわざわざ付けるのは昨晩、結局アインハルトが聞き分けがなく。せめて青年と寝ると言い出し、青年が折れてそのまま寝てしまった為だ。だから青年が起き上がった隣ではアインハルトがスヤスヤと気持ちよさそうに眠る。本来ならアインハルトも早起きでいつも1人朝練をするのだが、青年はそれよりもさらに朝が早かった。

 

 

「寝顔は可愛んだが……はぁ……朝から何言ってんだ俺は…………」

 

 

目的は当然朝の鍛錬。だが、青年が1人訓練場の方へ行くとそこには先客が1人。青い髪の青年がよく知るギンガの妹、スバルがいた。最初は目を丸くして彼女の方をみて固まっていた青年。でもスバル相手だと気まずい青年はすぐに背を向けて場所を変えようとしたのだが、それはできなかった。何故ならその前に青年がスバルに見つかった為である。

 

「来ると……思ってました」

 

「はぁ……なるほど? だから俺に気づいたわけか。……いいさ。言いたい事全部聞いてやる。元はと言えば、俺の所為だからな」

 

 

「私が聞きたいのは1つだけです……どうして誰にも言わなかったんですか? 」

 

普段明るいスバルだが、今この瞬間は違った。声のトーンは下がり、彼女の雰囲気からは気まずさが滲み出る。スバルにとって青年という存在は大きい。何故かと言えば、青年はかつてスバルが子供だった頃……その時起きた空港火災の時で彼女を助けた人間の1人。だからスバルにとってはなのはと同じぐらい尊敬に値する人間であった。

 

なのはとは別に、目標となれる先輩。青年はスバルのもう1つの目標だった。

 

しかし4年前に青年が死のうとした事で、スバルの中でそれは迷いとなり、1つの目標を失った。真実を知らないが故にそうならざるをえなかった。だがここにいる彼女は4年前とは違う。

 

「言ってる意味がわからないが」

「とぼけないでください!!! 」

 

「い、いや別にとぼけてるわけじゃ」

 

「ティアから全部聞きました。先輩の中にあるアレがまだ消えてないって」

 

「おいマジかよ……あのお喋り。それでも執務官か」

 

「あ、違がっ、そうじゃなくて……私だから話してくれて……私なら信用できるからって……だから! ……っ!? 」

 

「もういい、やめてくれ」

 

青年はヒートアップして行くスバルを手で止め、それ以上の言葉を許さなかった。青年自身よくわかっていた事だ。一時の平和はいつか壊れる。1つ露見すればまた1つ。それは連鎖して漏れ出して行く。理由はどうあれ、4年間隠し通してきた事が確実に白日のもとに晴らされつつあった。まだなのはには広がってないにしても、それは時間の問題。この時青年はその不安を積もらせていた。

彼がもっとも恐れているのはなのはに真実がバレる事。彼女を今一度傷つける事。自分が死ねず中途半端に生きているが為にできたしわ寄せがここにきて青年を苦しめ始める。

 

「スバル……それはお前の胸の中にしまっておいてくれないか? 」

 

「それは……私は嫌です! だってこの事を知ればみんな先輩の事昔みたいに!? 」

「頼むよ……これ以上俺を……困らせないでくれ…………」

 

「……そ……そんなつもりなん……て…………」

 

スバルは理由がよくわからなくても青年を困らせているかも知れないとわかった途端、言葉を詰まらせる。青年はそんなスバルの表情を見てまた後悔した。フェイトに話すべきじゃなかったと。

いや、それ以前に早く死ねば良かったのではないか。青年は思考を巡らせる。しかしそんな事をすれば青年はまたあの顔を見る事になるかも知れないと思考を強制的に止められた。まるで呪いのように青年の頭に4年前のヴィヴィオの顔が浮かび上がる。

 

「せ、せんぱっ……」

「大丈夫。大丈夫だから……多分俺は……もう死ねない。お前らが心配するような事にはならないよ。やっとわかった。どうして毎日苦しいのか。自分が惨めで……情けなくて……弱いのか。俺が認めてないからだ。俺自身の弱さと……どうしたいのかって事。はは……ありがとうな、スバル。おかげで素直になれそうだ」

 

青年は笑った。スバルはそれを見て大きく目を開きながら固まる。スバルの訴えはキッカケにすぎない。青年は誰よりそれを理解している。今自分がここにいられるのは誰のおかげか。今自分が抱いている感情を持っていられるのは誰のおかげか。

 

そして……

 

「それって……なら先輩は今どうしたいんですか? 」

 

「俺は……」

 

10年近く感じられなかった人として当たり前の欲求。青年は今それを欲し始めていた。スバルとの会話が引き金となり、青年の心にその欲求が広がり始める。ただ同時に1つの感情も青年は認めなければならない。

 

青年はスバルだけがいるこの場でそれを口にした。スバルだけが聞き、スバルだけが知った青年の本心。

 

「そう……ですか」

 

「ああ。どうだ、幻滅したか? 」

 

「……はは……あはは! いえ! すっごく、いいと思います! ただ〜」

 

「ん? 」

 

「せっかくなので私の今の素直な気持ちを言わせて貰っていいですか? 」

 

スバルは青年の気持ちを聞き、心から満足した。親指を立て、青年の言葉を何より嬉しく感じている。しかし同時に彼女はどうしてもいいた事ができてしまった。よってあらたまって青年に申し立てる。

 

「な、なんだ……うっ!? お、おい!? 」

「先輩の……」

 

青年は突然スバルに距離を詰められ、そのまま体を密着。そしてゆっくり顔を耳元に近づけながら言い放つ。

 

青年が今一番言われたくない言葉を。

 

 

「ロリコン! 」

「…………」

 

 

「はは! それじゃ〜頑張ってください! なのはさんに殺されないように」

 

「…………」

 

 

ロリコン。そのワードはいつまでも青年の心に突き刺さった。スバルが去った後も青年は立ち尽くして目を丸くしている。だが途端に顔を赤くし、青年は大声をあげその場の地面をぶっ叩き始めた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? ちくしょ、なんだ今の!? 最近で一番効いたぞ!? うわぁぁぁ……恥ずかしい!? 」

 

 

 

 

ただ青年は経験があるはずなのに知らない。憧れとは時に別の感情へ変わってしまう。それはスバルも例外ではない。何故なら彼女もまた恋する1人の女の子だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは……フラれちゃった。告白してないけど。ティアに慰めて貰お〜っと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、朝食の時間。なのは達含めて全員が集まった。当然青年もその場にいる。だがなのはは終始青年と目を合わせようとせず、むくれて青年からそっぽを向いていた。それは誰が見ても分かる通り青年がいる為の気まずさである。

 

「俺がいる事が不満なら抜けるぞなのは? 」

 

「別に君がいようといまいとどうでもいいから気にしなくていいよ」

 

「そ、そうか? ならいいが」

「先生! 」

 

「そうだ。コロナ? お前後で話がある」

「ハゲが気安く呼ばないでください。耳が腐ります」

 

「いや……いきなり毒吐かれても困るんだが……」

「先生! 」

 

「マジで話がある! 昨日の一件について」

 

「さぁ〜なんのことだか? 」

 

青年は昨晩のアインハルトの一件について問いつめようとしたが、コロナはなのはと同じくそっぽを向いて毒を吐き続ける。最初はいつもの事だと思って気にしなかった青年だった。しかし何度もコロナに話があると言っていると、青年はあることに気づく。

 

 

コロナがいつものキャラ被りで毒を吐いていないということに。

 

 

「お、お前なんか怒ってないか? もしかして俺なんかした? 」

「先生聞いてください! 」

 

「知りません。自分の胸に聞いてください」

 

「いや、わかんねーって!? 」

「何故無視するのですか先生!? 」

 

「ああもう、やかましい!? なんだ!!! 」

 

青年とコロナが話している最中、横からアインハルトが声を出していたのだが、青年はシカト。でも何度も無視をされ我慢ができなくなったアインハルトは青年の腕に掴み掛かり少し音量をあげて青年を呼ぶ。そうなると流石の青年も無視するわけにはいかず、怒鳴り声になりつつアインハルトに反応した。

 

「うっ……そんなに怒鳴らなくても……いいじゃないです……か……」

 

「え……いや……その……あ、おい!? 待てアインハルト!? ……はぁ……なんなん……いっ!? 」

 

 

アインハルトは青年に怒鳴られ、涙目になりながらその場から逃げ出した。青年もまさか泣かれるとは思っていなかった為戸惑い、逃げ出すアインハルトの背中をただ見つめる。しかしふと視線を食卓に戻すとその場にいた全員の視線が突き刺さった。まるでこの場にいる全員で青年を攻撃するかのように。

 

「何故そんな目で見る!? 」

 

「あーあ。泣かせましたね。ハゲはこれだから」

「ハゲは関係ないだろ!? 」

 

「お兄さんが最低だからです」

「いや、そんなつもりじゃ……ていうかお前もなんか怒ってないかヴィヴィオ? 」

 

「知らない! お兄さんのバーカ! 」

 

「うっ!? ……やめろ……そんな目で見るな!? わかった! 追いかけるよ。だからそんな目で見るな!? たくっ……」

 

ツルっツルの頭をさすりながら青年はアインハルトの後を追いかけ始めた。他の人間ならともかくヴィヴィオの攻撃的な目は青年的には容認できない為渋々そうなってしまう。そして何より、弟子と認めてしまった責任もあった為だ。

 

 

「お! いたいた。アインハルトー」

 

「っ!? ぶ、武装形態! フっ、ハァ!! 」

「ちょっ!? 」

 

広い草原の真ん中で、アインハルトはいじけていたが、青年の姿を確認するなり大人モードへ変わるといきなり青年へと拳を向けた。だが義足を着用した青年に当てることはできずその拳は空を舞う。そして再度向けた拳は青年の左手へ吸い込まれ、簡単に受け止められた。

 

「…………」

 

「な、なぁ悪かったよ。ついさ。俺だって器用な方じゃないんだ。勘弁してくれ」

「嬉しかったんです。昨日先生が弟子にしてくれるとおっしゃった事が……でも……」

 

アインハルトは青年に拳を受け止められたまま頭を前へ倒すと青年の胸に顔を埋めた。彼女にしてみれば弟子にしてもらって昨日の今日。色々話したいこともあれば青年に構ってもらいたいと思うのも不思議ではない。

何故なら彼女にとって青年は初めてできた師と呼べる人間なのだから。

 

「先生……私まだ不安なんです。自分が選んだ先生が、本当に正しいかどうか」

 

「軽く失礼だなおい…………」

「そうですね……ですが……仕方ないじゃないですか」

 

「確かにそうだ。仕方ない。俺みたいな人間じゃな……アインハルト。俺にチャンスをくれ。構えろ」

 

「え? 」

 

ポンっと、青年はアインハルトを後ろへ押すと少し距離を開け、左拳を作る。自分なんかの弟子になる為、アインハルトはできる全ての手を使って努力した。ならば青年の通す意地は1つしかない。答える方法は1つしかない。

 

「俺にお前の先生に『なれる』チャンスをくれ。お前が認めるような人間に、選んだのは間違えじゃなかったと胸を張って誇れる男だとお前に認めさせてやる。だから……全力でかかってこい! 」

 

「っ!? ……は、はい! (気迫が……これは……この間と次元が…………)」

 

アインハルトは前回の青年との戦いを思い出した。自分が弟子になりたいと思った日の戦い。あの時も青年からなみなみならぬ物を感じ取ったが、今言葉と共に戦闘モードへ移行した青年はその時とはレベルが違った。自分が感じたことのない物。手を出す出さないではなく、動いた瞬間やられると言った殺気にも似た青年から発せられるオーラ。

故に彼女は動けなかった。しかし彼女もまたそれで黙っていられる程弱くはない。大きく深呼吸し、ゆっくりと構えると大胆に正面から突っ込んだ。

 

青年はそれを見て少し笑うと、その場から一歩も動かずに突き出されたアインハルトの拳を左手で受け止める。

 

「くっ!? (止められた。ですがこのタイミングなら断空で一撃……)え……なっ!? 」

 

瞬間、アインハルトはゾクリという悪寒を感じながら止まった。初めて感じる体感。意識がハッキリしているのにも関わらず時間の流れが遅く感じ、全てがスローモーションのように流れ出し逃げる事が許されない。目の前に見える青年の拳が確実に迫っているのにも関わらずアインハルトは防御する事も、避ける事もできない。

 

まるで時が凍りつくように、アインハルトは自由を奪われ、気がついた瞬間その拳は彼女の目の前で止まった。

 

「……あ……あ…………」

 

「これが……人間の限界点とも呼ばれる領域。魔法を使わずに人が到達できる場所だ」

 

「せ、先生……これは……ぜ、絶対領域では……で、でですがそこへたどり着いた人間なんてわ、私は『1人しか』聞いた事が……」

 

アインハルトは青年を見ながらこれ以上ないくらい動揺した。長い歴史において、魔法を使わずに絶対領域へ足を踏み入れた者はいない。そこまでの身体能力とその場所へ行く為の技術を知ってるの者がいない為だ。しかし青年は違う。力を失う前、異常なまでの身体能力を体現し、その場所への扉を開いたが故にその技術を強引に知った者。現在唯一その場所へ行く事のできる力を持ったファイター。

 

 

「どうだ? ここまでだったら、お前を連れて行けるぜ? お前が望めばだが」

 

 

青年は似合わないウィンクをし、アインハルトにそう言いながら笑いかける。でも彼女は唖然と青年を見ていた。彼女は知った。今の一撃、自分が体現した絶対領域の世界で、目の前の青年が何者なのかという事を。

4年前、JS事件で無慈悲にゆりかごでの戦闘が映し出される中、魔法を使わずに拳1つで戦い抜いた男がいた。戦いの最中左足を失い、それでも仲間とミッドチルダの人々を救う為、利き腕を犠牲にしてミッドチルダを守り抜いた英雄。

 

今のストライクアーツの平和と強き拳の象徴。

 

 

そして…………

 

 

あの時のその戦いを見た人間の希望と憧れ。

 

 

故に管理局の人間とは反対にミッドチルダの人々は彼をこう湛えた。

 

 

「せ、先生……先生が……」

 

「ん? 」

 

「ミッドチルダ最後の拳と言われた……英雄」

 

 

 

 

『ラストフィスト』と…………

 

 

 

 




さぁ〜次はなのはと少しガチンコな戦闘……ゴホッン!? ……なんでもありません。


次回もよろしくおねがいします。

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