誘い
エスポワールから4ヶ月の月日が流れた。
私はカイジさんのいるコンビニでバイトを始めた。
いやだってカイジさん毎日毎日一生懸命ズタボロになるまで働いて帰ってきたら泥のように眠って、それで稼いだお金を全部私にくれるのだぞ?申し訳なさすぎる。
罪悪感で死にそうになったので私も働くことにした。未成年で保護者の同意が必要だったからカイジさんになってもらうことにした。最初は別のところで働こうかと思っていたけど『腕一本かけたヤクザの代打ちとか裏カジノに行きそうだから目の届くところにいろ』と言われたのでカイジさんのいるコンビニで働くことになった。私への信用が低すぎる。
私がレジを打っている間にカイジさんが窓を拭く。カイジさんは一生懸命働いているように見えるが店長に『毛っ!切れよいい加減!』といびられている。キツイ仕事ばかり押し付けられるしあまり店長からの評価はよくない。
しかもシフトが終わって帰ろうとすると店長に『10万円の入った封筒がなくなったからカバン見せろ』と詰められる。あ、うん。あったな、この展開。罪なきカイジさんに疑惑がかけられちゃうやつ。
カイジさんは『封筒が見つかれば100万払うが見つからなければ逆に10万をくれ』とギャンブルを持ちかけたが店長は無理難題をふっかけて下ろしにきてるだろうと逆に詰め寄る。
結局佐原さんに場を納められ取りあえずその場は終わるが、実はカイジさんは10万円を持っている。勿論カイジさんは取っていない。
佐原さんがくすねてカイジさんのカバンにこっそり忍ばせたのだ。
その後追いかけてきた佐原さんにカイジさんもそのことに気づき、お詫びに佐原さんにご飯を奢ってもらう流れになった。
ぶらぶらと2軒ほど飲みに付いて行き、からかわれたことを怒るカイジさんと謝る佐原さんと共に家に戻ると客がいた。
薔薇の花束を持って暗闇に佇む男、カイジさんをこの世界に引き摺り込んだ張本人、帝愛グループの遠藤だ。
遠藤さんが来るのはいい。私とカイジさんには合わせて1000万ほどの借金があるのだから帝愛がくるのは当然のことだ。借金を取り立てない代わりに次のゲームに参加を強要する。
それはいい、それは問題ないのだ。問題なのは止まっているベンツが5台もあることだ。……え、おかしくない?私とカイジさんを迎えにきただけでなんでこんなに車があるの?他の債権者迎えに行っていた車が合流してきたの?
いや、もしかしたら、
遠藤さんは家に上がり込むと『新しいギャンブルに参加しないか?』と問いかけてきた。断るカイジさん、そして参加を望む佐原さん、それを遠藤さんはクツクツ笑う。
「一晩で2000万、それを得られるかもしれないギャンブル、まあお前らの参加は自由だ。カイジが参加しまいが佐原が参加しようがそれは構わない。だが、蓮。お前の参加は強制だ。会長から直々に指名されている」
「な、ふざけろ!なんで蓮は強制なんだよ!絶対俺は許さないからな!蓮にあんな非情なギャンブルは二度とさせねぇぞっ…!」
「カイジさん、無駄だよ。外に迎えが来ている」
ハッとした顔でカイジさんが窓を覗く。これでカイジさんも車の台数の異常さに気付いただろうけどだからといってできることはない。
いやな想像が当たってしまった。帝愛は我々を逃すつもりはないらしい。
「察しの通り断れば強制的に連れて行く」
「なんで、蓮が何したっていうんだよっ…!俺が行く!だから蓮は連れて行くな」
「残念ながら会長の指名はそこのお嬢さんだ。何をしたか知らんが会長はそこのお嬢さんにご執心なんだよ」
「だがっ…!」
「カイジさん、いいよ」
それでも食い下がるカイジさんを制す。ここで言い合いをしても向こうは決して引かないだろう。だからいい。
正直兵藤会長から指名される理由は全くわからないけど、これから始まるゲームは鉄骨渡りとEカード、そして箱ティッシュくじ引きだ。
『カイジ』は連載期間の長い作品だ。アカギよりも天よりもずっとずっと長く続いている。福本作品の代表作、そしてこの長い長い作品の中でたった一度だけカイジさんは兵藤会長と戦っている。
それが箱ティッシュくじ引きだ。カイジさんはEカードで勝ち取った賭け金2000万と指4本を賭けて兵藤会長に挑み、そして敗れた。長い連載の中で兵藤会長と戦えたのはこのたった一度だけだ。
だからこれはチャンスだ。神域に至るために蔵前さんを倒した。だけどこれで神域に至ったかは定かでないのだ。
アカギさんは鷲巣さんの生へのこだわりと豪運に敗れた。
カイジさんは兵藤会長の凄まじい強運と洞察力に敗れた。
主人公を倒した怪物達が福本作品にはいた。
私が神域に至ったかどうか測るための試金石、兵藤会長ならばそれに足りうるだろう。
赤木さんがかつて勝つことができなかった怪物、鷲巣巌、それと同等の存在である兵藤会長を倒すことができたら神域に至ったと言えるのではないだろうか。
赤木さんの通夜まで3年を切った。これほどまでのチャンスはこの先きっとないだろう。
ここで兵藤会長を倒す。それが赤木さんに続く道だと思うから。
「私は参加するよカイジさん」
「蓮っ…!なんでだよっ…!」
「王を冠する化け物がそこにいる。カイジさん、私にはどうしてもこの勝負が必要なんだ」
本気で赤木さんに勝とうと思うならば赤木さんが超えてきた物を私も乗り越えなければならない。だからこれは必要なことなんだと思う。今までも金を未来を人生を賭けてきた。だから、もう一度、もう一度だけ、命を賭けて戦う。
…行こう。死戦くぐりに。
赤木さんのいる未来を手に入れる為に戦うのだ。
その後『蓮。1人で行かせられるかよ!俺も行くからな…っ!』というカイジさんと2000万という金が欲しい佐原さんもこのギャンブルに参加を表明する。
次のゲームは鉄骨渡りか。……落ちないように練習しておこう。