「東のメンツ…、俺の席はあけてあるんだろうな」
日本に帰って来て東西戦に参加するために天に会いに行こうという話になり訪れたのはどこぞのマンションの一室だった。
赤木さんがノックするとともにドアが開かれ中に入って行く。しばらくすると赤木さんの『はいんな』という声が聞こえ鷲尾さんと金光さんが入ってひろさんも入っていったのでその後に私も中に入る。その瞬間中にいた面々から驚きの視線を受ける。
「赤木さん、その子は、」
「ああ、俺の娘の蓮だ。麻雀始めて日は浅いが腕は立つぞ。東のメンツに入れてやってくれ」
「赤木さんの娘!??」
顔に傷のある天さんと思わしき人が大声をあげる。まああの赤木しげるに娘がいるとかびっくりだよな。気持ちめっちゃわかるわ。
にしてもこの人が天さんか、大きくて傷まみれで髪の毛が逆立っていて、なんというか熊みたいな人ですね。でも原作見ていると大らかだし器が広いし悪い人ではなさそうだ。嫁は2人いるらしいけど。
「腕は本当に確かですよ。ハワイで打ったのですが僕は負けてしまいました」
「ああ、わしらと卓を囲んだんだが蓮がトップだった。ルールを知ったばかりの初心者とは思えねえ」
「ひろだけでなく鷲尾さんや金光さんがいる卓でトップだと!?」
元々部屋にいたメンツがざわめく。まあ確かにこんな子どもが東の錚々たるメンツの中で勝ち抜いたとなれば驚きもするだろうけど、ただのビギナーズラックなのでそんなに注目しないで下さい。え、ちょ、なんか凄い勢いで私のこと認知されていってね?いやいやいや、だから裏世界で生きて行くつもりはこれっぽっちもないんだって!ヒィィイィッ、天さんのことは嫌いではないけど裏プロトップの人に名前なんて覚えられたくないよ!
「蓮っていうのか。あの3人と打ってトップ取るなんて流石赤木さんの娘だぜ。俺は天だ。よろしくな」
「…伊藤蓮です。どうも」
「伊藤?赤木じゃないのか?」
天さんが不思議そうに首を傾げる。取り敢えず苗字名乗って赤木さんと無関係アピールしてみる。赤木さんのことは好きだが裏社会で超有名人である赤木さんの名前は背負いたくないんです。そういうと赤木さんはタバコをふかしながらクツクツ笑う。
「どうも蓮は俺の名前で有名になるのが嫌みてえだな。俺とは関係なく自分で戦い抜きてぇなんて大した奴だろ?」
「なるほど。確かに赤木さんの娘だとそれだけで色眼鏡で見られるものな。自分の力だけでのし上がっていきたいなんて芯が通った生き方してんな、蓮」
ニカッと笑うと天さんは私の頭にぽんぽんと手を置いた。うん、いい雰囲気になっているっぽいけどちゃいますよ?裏社会でのし上がりたいなんてこれっぽっちも思ってないし赤木さんの苗字名乗らないのはそっちの道に行きたく無いからだよ!なんか私が我が道を行く強気な野心家みたいな流れになっているけどマジ違います。ヤーさんたちと麻雀なんて打ちたくないよぅ。
その後銀二さんも来て東のメンバーが揃った。そのままマンションにお泊まりし(結局ここ誰の家だったんだ?)次の日開催場所のホテルに向かう。なんでヤクザの会合はくっそ高そうな場所で行うんだろうな。まあ美味しいご飯食べられるのは素直に嬉しいです。
東側に与えられた部屋でルールについて確認する。まあ内容は原作通りでした。取り敢えずドベにならなかったらそれでいいらしい。そもそも私は打つつもりないし気楽にいこう。
と思ったら、と思ったら!
メンバー表に私の名前があって発狂しそうになる。え、ちょ、ひろさんは!?ここはひろさんがA卓入って健さんと原田と打つ場面じゃないのか?!
「ひろさんは?」
「ひろは予備戦力だな。向こうは武道派のヤクザだから勝負が拗れたら何をするかわかんねえ。戦力は多いにこしたことがない」
「なんだひろひろって。そんなにひろに懐いたのか?かーっ、寂しいね。俺なんてクソジジイ呼ばわりだっていうのに」
そういうと赤木さんはグリグリ私の頭をかいぐり回す。なんかちょっと痛いぞ。怒っているのかこの人。
まあそれより、いやいやいや、ひろさん出ないってどういうことだよ!まさかこのままずっとひろさんポジに私が居座って打ち続けるのか?なにそれ死んじゃう。だから私完全初心者でルールも怪しいんだぞ?麻雀ってコンビ打ちも大切なんだよね?私サインとか覚えられる自信ありませんわ。
取り敢えずこの回は変更なし。次の半荘は向こうとの交渉次第でひろさんも打たせてもらえることになった。おおおっ、よかった!まだ希望はあるね!なんとしてもひろさんには打ってもらわないといけないから天さん頼んだぞ!
「ねえ、どうしてそんなに僕を買ってくれるの、蓮」
試合が始まるまで後3時間はある。ロビーで麻雀のルールブック読みながら座っているとひろさんがやって来てそう尋ねた。ひろさんの表情は少し暗い。
「確かに技術は上かもしれないけど実力は君の方が上だ。それもすぐに君も身につけて僕は全く及ばなくなる。なのにどうして君は僕を東西戦に出そうとするんだ」
「必要だから」
いや、なに言っているの。技術も実力も圧倒的にひろさんの方が上だよ。私は本当にただの初心者なんです。場違い感が半端ないわ。
「必要?」
「この東西戦勝つにはひろさんが必要なんだよ」
「でも、僕は蓮に負けて」
「ひろさんが強くなるのはここからだ」
ひろさんの麻雀が神がかるのはこれから先、東西戦を経験して10年という月日を刻んで赤木さんと話をしてそこから神眼を手に入れるのだ。ひろさんは必要ですよ、こんなところでスピンオフの主人公をなくしてたまるか!
「ひろさんの未来に期待している。だから貴方はここで打たないといけないんだ」
そういうとひろさんは目を見開き固まった後ふっと口元を緩め、『蓮がそういってくれるなら僕もがんばってみるよ』といって去っていった。よかった、取り敢えずひろさんが東西戦に全く参加しないという最悪の事態はなくなりそうだ。あとは次の勝負で私がいきなり吹っ飛ばないことだね。それが最も難しいんだけれども。
そして始まる東西戦、同じ卓のメンバーが原田、南郷、健だと聞いて頭を抱えるのだった。