気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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〜カイジ(限定ジャンケン)〜
始動


赤木さんを繋ぎとめる何かになろうと思ったけどそんなことは全くもって無理でした。

 

誠京麻雀から3年が経った。その間に本当に色んなことがあった。

 

取り敢えず東京から離れようと北に南に色んなところへ行った。北海道では鷲尾さんに会ってお弟子さん達と麻雀した。卓下で牌を投げたり掴んだりしてたからたぶんこの2人がHERO編でひろさんとオーバー•ザ•9999する人たちじゃないかな?卓上じゃなくて卓外でイカサマやるって発想がマジすごい。まあネタがわかったら対処は難しくないので飛んできた牌をキャッチ&リリースしてたら『ば、馬鹿な。俺達が数年がかりで築き上げたフライング・パイがこんなあっさり破られるなんて、……化け物かよ』って絶望した顔で言われた。いや、私だけじゃないから。ひろさんだって一撃で見抜くから。なのに赤木さんが『まあ、蓮の勘の良さは常軌を逸してやがるからな』ってニヤニヤ笑ってるし鷲尾さんもうんうん頷いていた。解せぬ。

 

大阪ではなんか偶然健さんに会ったので一緒に三麻をやってみた。ポンポンみんな鳴いて展開が速くてリズミカルだったな。牌の種類が四麻より少ないから国士とか四暗刻とか緑一色とかでやすいなーと思ったら『いくら出やすい言うてもそんなにバカスカ役満が出るかいな!』って健さんにキレられた。解せぬ。

 

九州ではなんかマグマって異名の人と麻雀することになった。この人も確かHERO編にいなかったっけ?時間が経つとアホみたいに打点の高い役で和了するからさっさとポンチーいって場を回すようにした。関西のポンポン麻雀が役に立ったなー。名前聞かれたから『蓮だ』って言ったら目を剥いてた。なんで九州で名が知られてるんだよ。解せぬ。

 

そんな感じで日本全国周って最後に沖縄でも行こうかなーって思っていたのにある日突然赤木さんが失踪した。たぶん事件性はなくて『あー、そろそろだな』とかぼやいていたから恐らく私とぶらぶらするのにも飽きて1人でどっか行ってしまったのだろう。むしろあの飽き性のジジイが3年間も一緒に旅できていたことの方が奇跡であるが、でも声を上げて言いたい。

 

 

 ふ ざ け ん な ク ソ ジ ジ イ っ !

 

 

なんで50歳にもなって協調性のカケラもないんだよ!言えよ!何処行くかとか何したいとか全く何も言わずふらりと消えるんじゃない馬鹿野郎!なんで九州の見知らぬ地で同行者見捨てて勝手に消えるんだこのアホ!報・連・相!せめてひと言何か声かけろよ!

 

これはヤバい。マジやばい。いや、ジジイの常識のなさが知的生命体と思えないレベルであることもそうなんだけどそれより切にやばいことがある。

 

 

赤木さんのお通夜まで3年を切っているのだ。

 

 

1999年9月、赤木さんは自殺する。アルツハイマーで失った脳は戻らないと言い自分が自分である為に死ぬと言ってマーシトロンによって人生を終わらせてしまう。これを止める為に平穏な日常とさよならしてドボンとギャンブルの世界に飛び込みダイブしているわけなのだが、そもそもあの夜が起こる事自体が良くない。

 

お通夜が行われるということは赤木さんがアルツハイマーになることを意味する。たとえアルツハイマーになろうとも自殺なんてさせるつもりなんてないがそもそも脳が失われなければ赤木さんが死のうとすることもなくなる。

 

つまり病気にならないことがベストの選択なのだ。

 

アルツハイマーがいつから始まるとか知らんけどもう首に縄括り付けてでも病院に連行する時期だろう。それなのに当の本人がいなくなったのだ。

 

ヤバい。正直、こまめに病院に放り込んでたらあの夜は防げるんじゃない?と密かに思ってたのに完全に企画倒れだわ。本人不在とかどうすればいいんだよ。全くもって赤木さんは思い通りにならない。

 

とにかく早急に赤木さんを探さねばならない。九州にはもういないのかもな。下手したら日本にいない可能性まであるぞ?マジつらたん。

 

取り敢えず知り合いに片っ端から『ジジイを探してる』って連絡入れて私自身も赤木さんを探す。どうせ赤木さんは勝負が人生なのだからまた何処かでギャンブルを始めるだろう。何処かの賭場で名前が鳴り響いたら即刻首根っこひっ捕まえて病院へ連行だ。このタイミングで逃したのマジでつらい。ああ。

 

取り敢えず私も東京に戻ることにする。赤木さんがいる可能性もあるし天さんもひろさんもいるからジジイ探してるって言えば協力してくれるだろう。

 

そんなわけで天さんの家への道すがら大通りから2本も3本も離れた路地を歩いている時のことだった。道端に停められた車のそばに座り込み何やら作業している人がいた。

 

車がパンクしたのかな?と思って見ていると大振りのナイフでザスザスとタイヤを切り裂いていた。直す方じゃなくて潰す方でしたね。自分の車にそんなことするわけないからイタズラか。クズじゃん。いい歳した大人が何してるんだよ。え、めっちゃしょうもない。

 

まあ、だからといって通報したり注意したりするほどの興味もないので放っておこうと思ったら急に立ち上がりその場を去ろうとしたパンク犯と目があった。

 

当然向こうは犯罪現場(といってもみみっちい物だけど)を見られたわけだからあたふたしているのだが私の思考は別の所へ行っていた。

 

 

「伊藤カイジ……」

 

「は?なんで俺のこと知ってるんだ?」

 

 

思わずポロリと言葉が漏れる。黒い長髪に緑色のシャツを着た特徴的な顔立ちの男性、何故わかったのか理由を言葉にできないけれど目があった瞬間はっきりとそう確信した自分がいた。

 

目の前の人物が福本作品で最も有名な主人公、伊藤カイジであると。

 

え、カイジ?カイジってあのカイジだよね??福本作品で敗者への特典が絢爛豪華な『カイジ』だよね?腕にアウチな焼印入れられたりとかお星様へのチケット強制購入とか指に一生物のギザギザリングをつけられたりとかされちゃうあの『カイジ』だよね?

 

ここ、『天』や『アカギ』や『銀と金』だけじゃなくて福本ワールド全集合なの?え、じゃあ零とかもいるのかな?ニュースはあんまり見てなかったんだけど義賊とかやってドリームランドで命懸けのギャンブルとかやっていたの?いや、この世界のどっかにあんな危険なワンダーランドがあるとか信じたくないけど。

 

目の前の人物が本当にカイジなら全くもって会いたくなかった。いやだってこの人ヤクザもびっくりな超アンダーグラウンドの世界で生きてるんだもん。なんとか関わらずにやり過ごせないかな。あ、でも私名前呼んじゃったのか。あちゃー。

 

 

「なんで俺の名前知って、って、ああっ!お前蓮!蓮じゃんか!!」

 

 

どうやって誤魔化そうか考えているとなんとカイジさんが大声で私の名前を叫ぶ。え、なんで私の名前知っているんだ。私がカイジさんのこと知っているのは原作知識だけどカイジさんが私を知るすべとかなくない?え、こわ。なんで身バレしてるんだ?

 

 

「蓮!お前今まで何処に行ってたんだよ!叔母さんも全然連絡取れないし姉ちゃんも心配してたぞ!」

 

 

「……なんで?」

 

 

「なんでって、そりゃ仲の良かった従姉妹が急に音信不通になれば誰だって心配するだろ!昔はよく一緒に遊んで『カイジにいちゃん』とか呼んでくれてたじゃん。俺が中学生くらいの頃から叔母さんと連絡取れなくなって蓮の近況もわからなくなって皆心配したんだぜ?いやあ、無事でよかったわ」

 

 

カイジさんがニコニコと笑いながらそういう。なんの他意もなくの底から無事を喜んでいる感じだ。

 

それを見ながら私は静かに絶望していた。

 

……マジか。マジなのか。え、本当にガチ?実はドッキリとかそういう落ちじゃない?本当に本当にリアルなの?

 

私って、カイジさんの従姉妹なの?

 

ええええええっ。カイジさんの従姉妹!?あのカイジさんの従姉妹!?耳も指も命も平気で賭けちゃうズタボロボンボンギャンブル中毒のカイジさんの従姉妹!?嘘だといってよバーニー。私、カイジさんのことをお兄ちゃんとか呼んじゃう立ち位置なの!?

 

自分が赤木しげるの娘だとわかった時以上の衝撃だ。いや、自分の名字が伊藤ってわかった時から不穏さは感じてたけど本当に血縁関係があるとは思わないじゃないか馬鹿野郎。伊藤って名字なんて全国に1万人くらいいるのになんでピンポイントでそこを引いてくるんだ(涙)

 

勿論カイジさんと一緒に過ごした記憶などないからあれは私の意識が戻る前の話なのだろう。だとしても私がカイジさんの従姉妹だというのは変わらぬ事実なのだけど。赤木しげるの娘で伊藤カイジの従姉妹か。とんでもない血縁関係の身体ですね。

 

ここで会えたのも何かの縁だから家に来いよとカイジさんに言われる。逆らう理由を見つけられなかった私はとぼとぼと後を付いて行った。

 

 

 

 


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