な ん と か 勝 て た
ひろさんとの私の日本への航空券をかけた戦いは私が勝つことができた。
でもホント最悪な戦いだったわ。ルールは一応教えてもらってたけど実際にやってみるとどのタイミングでポンとかチーとか言えばいいのかわからないし鳴いたとしても何が役かわからんし、リーチすべきなのかもわからない。わからないことだらけだった。
結局1回目の半荘は何もできずに終わってしまった。ひろさんにトップ取られた時は心の中で絶叫したね。私の野垂れ死が近付いてきたんだからもう気が気でなかったよ。
半荘2回目は何か気付いたらほとんど二枚組が出来ていてあと一枚で手が完成するみたいな形になったからとにかくリーチをかけてみた。リーチかけたならロン牌でたら上がれるしわかりやすくていいよね。
で、なんかわからんが2回戦はついていたのかとことん上がりまくった。お、これはいけるんじゃね?と思って迎えた3回戦目は何も出来ませんでした。鷲尾さんと金光さんの接戦でまったく入り込めませんでした。つらい。
だけどもそれでも私は一度も振り込まなかった。なんか牌掴んだ時に、こう、ざわざわっとした物が背筋を駆け上ったりする時があるんだよね。そういう時は大概誰かの当たり牌っぽい。なんだこの当たり牌発見センサーは。チートやんけ。赤木さんのDNAが強すぎる。
迎えた4回戦目、早めにテンパイすることができたからサクッとリーチをかける。当たり牌なんだろうと手の中の確認すると自分の河にロン牌があった。これ、4と7以外に1も当たり牌だよね。終わった。もう上がることできないじゃん。え、じゃあこれって当たり牌もないのにただずっとツモった牌切っていくことしかできないの?なんだその拷問は。
いや、待て。確か自分で当たり牌切っちゃった場合でもツモるのはおっけーだった気がする。おおっ、セーフ!まだ勝ち上がれる可能性はあるぞ!
その局はなんとかツモることができた。でもその後から何故かひろさんが調子を崩して私に2回も振り込んでくれた。お腹でも痛かったのか?なんにしても上がることができて本当によかったよ。
これで私が2回トップを取ることができた。後1回トップを取れば日本に帰ることができる。じゃあ5回戦を始めようというところでそういえば気になったことがあったんだと思い出す。確かリーチをした後って手を変えれないと聞いていたのに金光さんがカンしたんだよな。あれってアリなのかな?
赤木さんに聞くとリーチをした後でも役が変わらなかったら大丈夫らしい。まだ麻雀のルールはイマイチわかってないところがあるからね、この状態でこのメンツに挑むって本当に無謀だよな。
それから5回戦目、ひろさんがめっちゃ攻めてきた。1巡目からチーと鳴いてその後も鳴いてあっという間に二フーロ、もうテンパったのかな?うーん、まずいな。
取り敢えず字牌を整理していく。2つ組が多いしここは七対子狙いかな?あ、でも1萬が重なったぞ。流石に3つになった奴捨てるのは嫌だな。1枚のやつ捨てていこう。
あ、また3つになった。これで西以外は3つ組になっているね。えっと、これ確か役あったはずなんだけど、トイトイだっけ?じゃあリーチかけなくとも上がれるんじゃね?見ていると結構皆テンパったからといってリーチかけるわけでもないみたいし私もこのまま待っているか。西こい西!
といっている間にひろさんから西が出てきた。おおっ!やった!黙っていたらまさかのひろさんからロン牌が出てきたぞ!やっぱり黙って待っているのもいいんだね!
「人を信じすぎだよひろさん。私が初心者だと聞いてそれを過信しすぎるのは気が緩んでいる。その心の隙を狙う者もいるんだから」
上がれて機嫌良くペラペラ喋る。なんか喋り方偉そうだな私。将来黒歴史になっていそう。
「ロン。その西だ」
牌を倒す。でも点棒計算はできないから誰かがいくらっていうのを待つ。いくらくらいになるんだろう。1万点くらいはいくのかな?
「四暗刻、西、地獄待ち単騎」
ひろさんがボソッとそう呟き顔色を失いイスに沈む。え、スーアンコー?なんだそれ、トイトイじゃないのか?
「この局面で差し馬に役満振り込ませるとは流石アカギの娘だな」
「ああ、こりゃ将来とんでもないバケモンになるぞ」
横に座っていた鷲尾さんと金光さんが口々にそういう。うん、役満?あれ、それって麻雀で1番得点の高い役じゃなかったっけ?え、この手そんなに凄い手だったの?3つ同じ牌を4組集めると役満なのか。マジか。
「それじゃあ日本に戻るとするか。おもしれえこともやっているみたいだしな」
そういって赤木さんがタバコに火をつける。あ、やっと日本に帰れるのか。もう日本行きのチケット賭けた勝負とかしたくないので帰れるのは素直に嬉しい。
しかし、今の状況は非常にまずい展開だ。自分のことでいっぱいいっぱいで忘れていたけどこれ確か東西戦の出場権賭けた戦いだったよね。私ひろさんに勝っちゃったんだけどまさかひろさんの代わりに東西戦出ろとかいう展開にならないよね。いやいやいや、無理無理無理。あんなヤクザが絡んだ不法地帯で麻雀打つなんて冗談じゃないぞ。今たまたまひろさんに勝てたけどビギナーズラックだよこんなもん。東西戦出たらフルボッコにされる自信があるわ。
それにここでひろさんが東西戦に出なかったらHIROの方はどうなるんだ?まさかなくなっちゃうの?私の存在がある時点で原作なんて崩壊しているも同然だがそれでもひと作品をぶち壊すような展開にするのは嫌だぞ。
「ふーん、東西戦に出るってこと?」
「ああ、お前も来るだろ?」
「ひろさんが来るなら行ってもいいよ」
そういうと赤木さんは勿論ひろさんも驚いた顔をした。まあ今まで対戦していた相手が来るなら行くっていうのは意味わからんよな。しかしここは譲らん。原作改変なんて責任重そうなことをやらかすのはごめんなのです。
「東西戦は間違いなく過酷な戦いになるぞ。なんでひろを連れて行きたいんだ?」
「必要だから」
「必要?」
「ああ、ひろは間違いなく将来とんでもない打ち手になる。連れて行くべきだ」
ひろが主人公になるには絶対に東西戦を経験する必要がある。そうじゃなくてもひろは色々とキーを握る人物だ。ここでひろさんが参戦しなかったらどう原作が変わるか全く読めなくなる。そんな恐ろしい事態には絶対にしたくない。
「お前がそんなこというなんて珍しいな。というわけだ、来るかひろ?」
「は、はい、勿論です!行かせて下さい!」
タバコをふかしながらそういう赤木さんにひろが嬉しそうに答える。ああ、よかったよかった。これで無事ひろさんは東西戦に参加できるね。ちょこちょこ原作変わっちゃっているけどひろさんが東西戦に参加しないなんて大きな改変が行われなくてよかったよ。
そしてその後ひろさんが参戦するなら自分も参加すると言ってしまっている事実に気付いて頭を抱えるのだった。