私、森田さん、蔵前さん、石井さんの4人で最後の麻雀が始まる。
この結果には私たちの破滅か蔵前さんの破滅かのどちらかがかけられている。それ以外はあり得ない。そこまで限度いっぱいいく。
掴み取りで東を引いた。サイコロを振る。私が親だ。右隣が森田さん、対面が蔵前さん、左隣が石井さんでいよいよゲームが始まる。
牌を取っていく。14牌、そして開いた手牌を静かに見つめる。
……酷い配牌だ。とても50億勝ったとは思えない配牌、手がバラバラでまとまりが無い。
だけれども悪いことだけでは無い。發と白が一枚ずついる。
私がこれだけ悪いのだ、おそらく森田さんと蔵前さんには手が入っているのだろう。そして森田さんに手が入っているといえば、それは大三元ではないのだろうか。
原作『銀と金』で森田さんは大三元を聴牌し蔵前さんを追い詰めた。成就はしなかったけれども銀さんの巧みな話術により3000億相当の利益を出すことに成功した。
もし、本当に森田さんに手が入っているというのならそれは大三元だろう。それをサポートすることのできる牌が私の手元に2つもある。だけど、
……これを切って鳴かせていけば私の勝利もなくなる。森田さんと蔵前さん、どちらが勝つかはわからないけど少なくとも私の勝利は無くなってしまうだろう。それでは意味がない。
この場に来たのは森田さんに会うためだけれどもこの席に座ったのは自分のためだ。勝ちたい。勝って神様を捕まえたい。
チームとして戦うなら森田さんをアシストすべきだ。だけれども私は森田さんの恋人としてここに座っているのではないのだ。
スタンドプレイの好きな赤木家の人間ですから、だから自分のために打つよ。
そう考えるとこの配牌は私の状況に合っている。良い手牌というのは流れに沿った牌が来ることを言う。トップで軽く和了れば勝ちのときにドラ3の重い手が来ても仕方ないしラスで逆転を、というときに翻牌の種がある軽い手ではダメなのだ。
ひとりでいい。誰の力も借りずひとりで歩いていく。鳴きを必要としないようなそんな手牌がいい。私は自分の力で掴み取る。
方針は決まった。ならば隠すことなど何もない。
自分の手牌の中で唯一面子になっている八筒を叩き切る。次の手番も次の手番も、私は八筒を手牌から切る。
私の河には八筒の暗刻が並んでいる。だけれどもその代わり3枚の幺九牌が手牌に来た。これで私の手の中の幺九牌は10種、
匂いを消すならば切り方は他にあったのかもしれない。だけれども隠す必要などないだろう。
狙うのは役満、国士無双だ。
全ての幺九牌を手元に納めることで成就する役、国士無双。鳴くことは許されない。周りに助けを求めることもできない。
自分の足で歩いて行こう。一歩、一歩踏み込めていく。
第2戦、東一局。始まったばかりの戦いだけれどもたぶんもう次局はない。この一戦ですべてが決まる。
勝つのは私なのか、他の誰かなのか、まだわからない。ただ、この一局は嵐のごとく荒れる気がした。
※森田視点
蓮は八筒の暗刻落としか。何かあるな……。
俺と蓮との間に途方も無い実力差があることはさっきの一戦で理解してしまった。銀さんは裏社会最強の博徒だと言っていたが本当にそうなのだろう。蓮の思考、スケールは次元が違う。
でもだからといって蓮ひとりに蔵前を任せるつもりはなかった。これは俺たちがふっかけた喧嘩だ。それを後から恋人に尻拭いされるような奴は男じゃねえ。
蓮がとてつもない博徒であることと俺が自分の命を張らないことは関係ない。俺は俺のできることをしよう。自分の力で蔵前に食らいついてやる。
そう思って引いて来た俺の手牌には發がふたつと白がふたつと中がひとつ。役満、大三元の種が5つも入っていた。
ドクンと心臓が高まるのを感じた。まだ場は始まったばかり、これは東一局であるがもうここが勝負の場であると感じた。この一局ですべてが決まる。
ここが俺の死に場所かもしれない。蓮は俺の隣にいる。もう未練はない。勝てなければ死ぬ、そういった心構えで臨もう。
ギャンブルはただ跳ぶこと、そう改めて蓮に教えられた。
賢明であることはもうやめよう。ここで蔵前を捕まえることが出来なければ胸を刺して死のう。
銀さんに先ほどもらったナイフを今ならば躊躇いなく使える気がした。
さて、それで、蓮の八筒の暗刻落とし。チャンタか染め手か、それとも素直に読むなら国士無双か……。
大三元は鳴いても問題のない役だ。そして悟られれば相手からは絶対に鳴くことのできない役でもある。味方の蓮に入っていればかなり有利に進めることができる。
だけれども、もし蓮が国士無双を狙っているというのならば白發中を出させることは蓮の手を失わせることを意味する。蓮の奇跡の闘牌を俺が潰してしまうことになる。
俺は何のためにこの席に着いた?蓮の足を引っ張るためか?違うだろ。自分の力で蔵前を倒すためにここにいるのだ。
サインは決めていないがその気になれば蓮に白發中を捨てて欲しいと伝えるのは難しくない。俺の後ろには仲間がいる。西条がやっていたように背中にサインを書き込んでもらえれば伝えることは難しくない。
だけれども俺はそれをしない。蓮を頼らない。俺自身の力でこの手を完成させてみせる。それに命を注ぎ込もう。
蓮、君がどんな人間だとしても俺は隣に並び立っていたい。
足は止めない。走り続けていく。
大きく、跳ぶために。