気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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変化

 

 

私が三暗刻を和了したことですべての役を作り上げクリア麻雀は終了した。

 

最後の局は四暗刻も狙えたけどもクリア麻雀に勝つだけなら四暗刻を和了できても意味ないので普通に三暗刻を狙った。

 

でもただ三暗刻を和了してもあのままだと私の持ち点最下位だったしその状態で勝ったというのはなんか違う気がしたからリーチかけて点数あげようとしたら裏ドラ全部乗って数え役満まで行きました。マジか、流れ来ていると思ってたけど全部乗るほどツイていたのか。ラッキーだったね。おかげで役をすべてクリアした上で点数もトップで終われましたよ。

 

それで肝心のひろさんはどうするのかな?と思っていたら終わった瞬間キラキラと目を光らせながら『蓮、君は本当に凄いよッ!こんな奇跡のような打ち回し…、神様がそこにいるみたいだった。僕も君を追うよ。一生この道を歩き続けていく!』といってギュッと手を握ってきたから大丈夫だと思う。よほど興奮していたのかちょっと手がミシミシいっていたけど、うん、まあ大丈夫だと思います。

 

このままひろさんが麻雀の世界で生きていくならばいつかきっとHEROになってくれるだろう。それによって未来が変わってくれることを信じている。

 

ひろさんと天さんは帰っていきまた私にはいつもの日常が戻ってきた。学校に行って家で赤木さんのご飯を作って時折赤木さんの持ってくるギャンブルに巻き込まれてドタバタと騒がしくなる。

 

そうしているうちに夏が終わっていく。蝉の声が聞こえなくなり草木が色づき始めた。9月の中頃、あの日がくる。

 

9月26日、赤木さんの命日だ。死ぬのはまだ先、7年後であるとわかっていても気が滅入る。赤木さんが死んでしまうのはどうしようもなく嫌だった。

 

東西戦で原作を変えてクリア麻雀でひろさんの運命を変えた。これで果たして赤木さんの未来に変化はあるのだろうか。

 

原作では誰が何をしようが赤木さんの意思を覆すことはできなかった。赤木さんの運命を変えることはそれだけ重く難しい。私という異分子がいても原作通り動こうとする世界なのだから何をしようが未来は変わらないのかもしれない。1999年9月26日、赤木さんは自殺してしまうのだ。

 

いや、弱気になるのはやめよう!今めっちゃ原作変わっているし赤木の未来が変わる可能性も全然あるよね?取り敢えずご飯はちゃんと食べてもらってたばことお酒は少し控えさせて規則正しい生活を送ってもらおう!健康なら赤木さん死ななくて済むし。

 

ああ、後は定期的に健康診断も受けてもらわないと。病気になったとしても早く見つかれば手遅れにならないかもしれないからね。

 

でもそのためにはあの赤木さんとギャンブルをして勝たないといけないのか。あのジジイ病院嫌いなのか自分からは行ってくれないし強制的に行かせようと思ったらギャンブルで勝って言うことを聞かせるしかない。

 

なんか2人で出来て勝てそうなゲームとかないかな。うーん、チンチロとかどうだ?よし、まずは四五六賽を作ってくれる人を探しに行きましょう。

 

 

「おーい、蓮。保険証ってどこだ?」

 

 

「どうしたジジイ。身分証が必要なのか?」

 

 

「ちげえよ。病院に行くのには保険証がいるんだろ?」

 

 

え、病院?

 

 

赤木さんの言葉に鍋をかき回していた手を止め振り返る。え、病院に行くってどういうこと?まさか怪我でもしたんですか?もういいお年なんだしヤクザの賭場に行って『ねじ曲げられねえんだっ・・・!自分が死ぬことと・・・博打の出た目はよ・・・!』とか言って刀傷作ってくるのはやめてもらえませんか?取り敢えず怪我したならリアルにやばいし手当が必要だな。

 

 

「何処か怪我したってこと?」

 

 

「ん?明日健康診断に申し込んだって言ってなかったか?病院には保険証が必要なんだろ?」

 

 

きょとんとした顔でそう言う赤木さんに思わず持っていたおたまを落とす。ぽちゃんと鍋の底におたまが沈んでいくが拾うこともできずただ赤木さんを凝視する。うん、今なんていった?

 

健康診断にいくだと?え、私まだ赤木さんとチンチロしてないしなんのギャンブルもしてないぞ?赤木さんが素直に病院に行くなんて…、何が狙いだ。私の常識を超えていてまったく想像つかないぞ。

 

鍋の火を止めて深呼吸。ふーっ、よし、わからないことは赤木さんに聞こう。

 

 

「どういうことだ。ジジイが病院に行くなんて頭でも打ったのか?」

 

 

「別に大したことじゃねえよ。ただ、まあもう少し生きてえと思っただけさ。お前にとんでもねえもん見せられたからよう、」

 

 

そういって赤木さんが照れくさそうにタバコに火をつける。煙が縦に上りふーと赤木さんが息を吐く。

 

たぶんそれは赤木さんにとって何気ない一言だったんだと思う。確固たる意志を持ったわけではない、ちょっと思い付いた程度の特に意味のない言葉。

 

 

だけども、私は、…泣きそうだった。

 

 

鼻の奥がツーンと痛く目が潤んでいくのがわかる。その言葉をどれ程望んでいたのかこの人は知らない。

 

誰がどんな勝負を挑んでもこの人が心底望んだことを変えることはできないのだ。死を望んだ赤木さんを変えることができるのは赤木さんだけなのだ。

 

それを今この人は生きたいと言ってくれた。私の活躍を見ていたいからまだ生きていたいとそういってくれたのだ。それはとんでもなく大きな変化だった。

 

泣きそうなのがバレたくなくて赤木さんに背を向ける。涙は溢れない、ああ、鉄仮面で本当に良かった。赤木さんに泣きそうなのは知られたくない。

 

だが勘のいい赤木さんは気付いてしまったようだ。『蓮?』といって近づいてくる。まずい、さすがに顔を見られれば赤木さんにバレてしまうかもしれない。顔がバレない方法、よしこれしかない!

 

近づいてきた赤木さんに勢いよく抱きつく。赤木さんが衝撃に『ぐっ』と唸り声をあげたが知ったことかとしがみつく。顔をスーツに押し付けるとタバコ臭かった。そろそろクリーニングに出さないといけないのかもしれない。

 

スーツをくしゃくしゃにして抱きついているというのに赤木さんからリアクションはない。ちょっと不安になってきたので離れようと思って力を抜くとポンと頭に手を置かれた。思わず顔を上げる。

 

 

「蓮、俺は家族ってもんがよくわからねえしお前が何考えているかもわからねえ。だけどお前が飯を作ってくれて帰ってきたらおかえりっていってくれる生活は悪くねえって思っている。俺はお前と家族をやれてよかったよ」

 

 

そういって赤木さんが照れくさそうに笑う。本当に嬉しそうな幸せそうな笑み。ああ、もう!

 

赤木さんは私を泣かせにかかっているのだろうか?上を向いてられなくてまた赤木さんのスーツに顔を押し付ける。どうせクリーニングに出すし汚してもいいだろう。

 

赤木さんが好きだよ、大好きだよ。この自分勝手に生きる神様がとんでもなく好きなのだ。平凡な人生でよかった。でも赤木さんの娘でよかったとも思っている。

 

一分一秒長く生きて欲しい。9月26日なんて永遠に来なければいい。

 

神様なんかならなくていいからずっと一緒にいてよ。ねえ、父さん。

 

あなたがどうしようもなく好きなんだ。

 

ギュッと抱きしめた身体からは鼓動が伝わってくる。ずっと、こんな日々が続けばいいと思った。

 

 


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