気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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銀と金編ではないのでご注意を


~ひろ~
運命の分岐点


東西戦から2年が経ち、私は相変わらず赤木さんに振り回される日常を送っている。

 

あの東西戦で赤木さんの運命を変えるために私は自分の理を賭けそして勝ち切った。これで赤木さんの運命が変わるかどうかはわからない。原作とは違う世界になったけれどそれが赤木さんの生死にどれほど影響を与えられるのかはわからなかった。

 

蝉の声が止み始めるこの時期は不安になる。木の葉が色づき秋が近づいてくるとあの日を思い出すからだ。

 

1999年9月26日、秋の中ごろ、赤木さんは自ら命を断って死んでしまう。

 

赤木さんが死んでしまうのはアルツハイマー型認知症にかかり赤木しげるとしての自分が消える前に自らの手でけじめを付けたかったからだ。

 

病に侵されなかったら赤木さんは死なずに済むかもしれない。そのため私は赤木さんの生活態度を直そうとしたり病院の定期検診につれていこうとするのだが、うん。あのおっさん全く病院に行きやがらねえ。

 

いわく、『あんなところいって身体弄りまわされるのは性に合わねえ。ま、病気になっちまったらそれはそれでしょうがあんめぇ』といいやがる。いやお前病気になったら死ぬほど周りに迷惑かけながら自殺するじゃん。何もしょうがなくないので病気になる前にきちんと予防してください。

 

なんとか病院に連れていこうとすると『なら、俺に賭けで勝ったら行ってやってもいいぜ』といいやがるので『だまれ、晩飯素うどんにするぞ』と言って撃退する。なんで自分の身体のことなのに条件出してくるんだよ。なんかもう赤木さんのわがまま度がどんどんアップしてくるんだけどこの人本当に7年後死ぬの?

 

未だに引退したっていったくせに面白そうなギャンブルがあるとほいほい挑んじゃうし私のご飯を誉めたりケチつけたり楽しそうだしどう見てもあと50年は生きるだろ。下手したら私より長生きしそうだわ。

 

赤木さんのやんちゃぶりは落ち着かない。おかげで今も『わりぃが財布忘れたから小春って店にまで持ってきてくれ』って呼び出されてしまった。

 

ただいまの時刻は夜の12時を回っているのだが青少年保護育成条例はご存知ないのでしょうか?未成年は午後10時以降で歩いてはいけないんですよ?いやもうそれ以前にどこの世界に15歳の娘に深夜飲み屋に来いという親がいるんだよ。まあここにいるんだけど。うちの親が色々規格外でつらい。

 

そんなわけでネオンの光に照らされる繁華街を赤木さんの財布持ってひとりで歩く。この人って財布まで虎柄なんだな。なんでこんなチンピラっぽい柄を好むんだろう。それはそれで似合ってしまっているのがなんとも言えないところなんだけど。

 

周りを酔っ払いのサラリーマンや明らかにカタギでない男たちが通り過ぎていく。

 

内心絡まれやしないかドキドキきていたがそんなことはなかった。だけれども平均的な女子中学生が夜の繁華街歩いていて声をかけられないのはそれはそれでどうだろう。私ってちゃんと一般的な女子中学生でいられているのだろうかめっちゃ不安になります。

 

あたりには酒の匂いが立ち込めている。そんな中路端に酔っ払いがひとり倒れていても誰も気に留めないだろう。

 

だけれども私は思わず足を止めてしまう。ネオンの光と光の間、暗闇の中に倒れるその男の顔が不意に視界に入った瞬間私は立ち止まらずにはいられなかった。

 

黒縁のメガネにまだらに生えた濃い髭、疲れ果てた顔で項垂れているのはあの東西戦で共に戦った“天”の登場人物のひとり、ひろさんだった。

 

…え、本当にひろさん?あのピュアっピュアっだったひろさんがたった2年で寂れたサラリーマンみたいになっているんだけど何があったし。現代のサラリーマン業は2年でこうなっちゃうくらい大変なの?なにそれ怖い。

 

取り敢えず放っておくわけにも行かないので側にいき声をかけることにする。なんて話かけたらいいんだろうね。やっほー!ひろさん元気ー?とかか?どう見ても元気じゃないよね。もう普通に声かけよう。

 

 

「ひろさん…、」

 

 

ゆっくりそう名前を呼ぶとゆるゆると顔を起こしひろさんが私の方を見る。そして目が合った瞬間信じられないとばかりに目が開かれる。

 

 

「蓮?なんで、蓮がここに…」

 

 

「ひろさん、何しているの?」

 

 

ひろさんは立ち上がろうとしてでも力が入らないのか失敗する。辛うじて上体を起こし壁に背をつけることはできたがそれ以上は身体を動かすことができないようだ。

 

瞬間ひろさんが自嘲気味に笑う。片手で顔を抑え皮肉を込めた顔でこちらを見上げる。

 

 

「何しているかって?見ての通りだよ蓮。もう、僕は麻雀は辞めたんだ。君や赤木さんに追いつけない苦しみを味わうより逃げることを選んだんだ」

 

 

そうしてひろさんはハハッと空笑いした。それは何もかもを諦めたような笑みだった。

 

いやホントどうしちゃったんだひろさん。天のヒロインとまで言われた可愛さが全くなくなっちゃっているよ。あまりの変わりっぷりに内心ちょっとビビっている。

 

でも確か原作でもこうだった。天さんや赤木さんの麻雀を見たひろさんは自信を失い代打ちとして生きていくのではなく会社員となった。でもそれはひろさんが望んだ生き方ではなく薄く死んでいくような日々を送ることになる。

 

この世界の展開は原作とは違うが同じようにひろさんは天才たちの幻影に苦しめられ麻雀の道から退いたのだろう。原作では東西戦から9年後、赤木さんの通夜をきっかけに覚醒してHEROとなるが今はただのひげゆきさんなのだ。残念ながら今のひろさんはただの酔っ払いでなんの覇気もない。

 

 

「幻滅しただろ?君に期待をかけられながら僕は何も応えることができなかった。僕は何の取り柄もない凡人だったのさ」

 

 

何もかも投げやりな態度でひろさんがそういう。片手で顔を押さえているから表情はよく見えないが口元は寂しげに笑っている。病んでいるなひろさん。お仕事そんなにつらいのかな。あんまりにも辛い仕事なら転職を考えるのもひとつの手だと思うよ。この時代ってハローワークとかあるのかな。

 

にしてもひろさんはおかしなことをいう。幻滅する?え、ひろさんに幻滅するところあったっけ?

 

 

「何に幻滅するんだ?」

 

 

「何って、僕は麻雀から逃げたんだよ。君に必要だっていわれたのに、」

 

 

「ひろさんはまだ始まっていないんだよ。それなのに私は貴方の何に幻滅すればいいんだ」

 

 

そういった瞬間ひろさんがえ?といって顔をあげる。そんな驚かれた顔されたってひろさんが活躍するのはこれからHEROになってからなのだ。まだ物語すら始まっていないのに幻滅しただろっといわれても答えるところがないですよ。

 

 

「貴方はHEROになるんだよ」

 

 

「蓮、君はなにをいって・・・」

 

 

「お、いたな蓮。あんまりにも来るのが遅いから迎えにきてやったぜ」

 

 

ひろさんが何か言おうとした途端それを遮り軽快な声が私の名前を呼ぶ。視線をやると白いスーツに虎柄の男が手をあげながらこちらに近づいてきていた。

 

その見覚えのありすぎる風体に頭を抱えそうになる。うん、財布なかったんじゃなかったのかよクソジジイ。何故ここにいるんだし。

 

 

 

 


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