気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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赤木しげるの娘

東西戦が終わり穏やかな日常が返って来た。

 

赤木さんは家でタバコ吸ってたりふらっと何処かへ出かけたりと相変わらず好き勝手生きている。私は2週間ぶりに学校に行き、そして皆に避けられるようになった。もう充実した中学生生活を送るのは無理かもしれない。青春生活は高校デビューで果たすとしよう。別にぼっちで泣いてなんかない、泣いてなんかないです。ぐすっ、

 

私は東西戦で大きく原作を変えてしまった。私という異分子がいながらひろさんが打っている時とほぼ変わらない展開になっちゃうのだからよっぽどのことがない限り原作変わらないと思ってはっちゃけたのだが、正直やり過ぎた感は否めない。なんか東西戦で優勝したの私みたいになっているんだよね。いやいやいや、これは東陣営皆で力を合わせた勝利です。お願いだから私のスタンドプレーでもぎ取ったみたいな雰囲気出すのはやめてください。裏社会にバリバリ関係しているこの戦いで優勝したとかどうみても裏プロ路線一直線だよ。私は平凡に生きたいんだって。

 

これで原作が変わったのかはわからない。東西戦の結末は変わったがあの夜が来なくなるという保障はどこにもないのだ。ただ、あの戦いが私の自己満足で終わってしまう可能性もある。それでも変わったこともあった。

 

あれ以来赤木さんと距離が近くなった気がする。よく話しかけて来るし時折私の頭をぐしゃぐしゃに撫でたりする。そんでもって前よりすごく我儘になった。

 

いっつも人が食べている焼きそばを強奪してくるから好物だと思って晩御飯に出したら『なんだよ、今日の飯は手抜きじゃねえか。違うのが食べてえ』とぶーぶー文句を言ってきた。はっ倒すぞこのジジイ。好物じゃないならなんで毎回人の晩飯盗っていくんだよ。嫌がらせ?嫌がらせなの?取り敢えず人が作った飯に文句言うんじゃねえと怒ったけど赤木さんは全く気にした様子もなく飄々としていた。

 

誰だよこのジジイをこんな我儘に育てたの。純度の高い才能があってもワガママなのはダメだと思います。しょうがないのでその時はオムそばにするってことで互いに合意したのだが、完成したオムそばを持ってきて『ケチャップで文字書くところまでがオムそばだろ?ほら、早く書いてくれよ』と言われた時は目眩がした。ここはメイド喫茶ではないんですよ?

 

 

【挿絵表示】

 

 

もう半ばヤケクソ気味にケチャップで『ジジイ』と書いてやると赤木さんはニヤニヤと笑いながら『なんだ、父さんじゃないのか?父さんって呼んでいいぞ?』と言ってきた。軽く殺意が湧いた。

 

絶対2度と父さんなんて呼んでやるものかと決意したが、その後嬉しそうにオムそば食べる赤木さんを見ると許したくなる。この人は本当にずるい。そんな姿を見るとやっぱり私は赤木さんのことが好きなんだと思ってしまう。

 

東西戦が終わってから天さんとは交流があるがひろさんには会っていない。やっぱりサラリーマンになったんだろうか。私はそれでいいと思うけどひろさんのことを考えるとそれは停滞しているってことになってしまうのかもしれない。原作と結末がかなり変わってしまったからHEROが生まれるかはわからないけどいつか連絡を取りたいと思う。優しくて強くていつも一生懸命なひろさんは麻雀を抜きにしても会いたい人だ。どうか元気に過ごしていてほしい。

 

逆に天さんとは時々会ったりしている。天さんがうちにくることもあるし私が天さんの家に遊びに行ったこともあった。天さん本当にお嫁さんがふたりいたよ。しかもどっちも美人!器の大きな男は惹かれる女性も魅力的なんだとすごく納得した。取り敢えず天さんはショートヘアが好きなのだと心のノートにメモしておこう。

 

大らかすぎる天さんは『俺の物はお前のもの、お前の物は皆の物』という博愛精神でなんでも持って行っちゃうから注意が必要なんだけど、こないだ家に遊びにきた時は言葉の爆弾まで落としていった。なんでも裏世界で私の名前が響き渡っているとのことらしい。いやいや、待て待て、どういうことだ。なんで裏世界で私の名前が売れているんだよ、おかしいです。

 

そう抗議するも『そりゃ、全国の博徒が注目する東西戦で優勝したんだから蓮が有名になるのも当然だろ?』と言われてしまう。いや、本当違います。チーム戦だったんだから個人の勝利とかないですから。お願いですから私個人の名前だけ取り上げるのやめて下さい。

 

だが天さんは『東西戦勝てたのは間違いなく蓮のおかげだぜ?謙遜することはないさ』っていってくる。謙遜じゃないです、拒否しているんです。いよいよ私の平穏な人生が終了する予感がしてきたと思ってきたらついに家にまでヤーさんがやってくるようになった。

 

なんか偉そうなおっさんが『これでどうかうちの代打ちを引き受けてくれませんか』とアタッシュケースに詰め込まれた万札見せてきた時は意識が飛ぶかと思った。平凡な女子中学生になんてこと頼むんだこのおっさん。やばい、これは断ったら誘拐されちゃう感じか?でも絶対に引き受けたくないぞ?

 

絶体絶命のピンチに駆けつけてきてくれたのが赤木さんだった。バンッとドアを蹴り飛ばし、『ふざけんなヤー公ども、俺の娘に手を出すんじゃねえ…ッ!』って言われた時は鉄仮面が剥がれ目が潤んだ。

 

感極まって思わず『父さん…ッ!』と叫びそうになったが次の瞬間『蓮は俺とマカオに新しくできたカジノに行くんだよ!お前らなんかに構っている暇はねえんだから帰れ!』と言う赤木さんに表情が死んだ。おいこらクソジジイ、私の感動返せ。全然私の為じゃないじゃん、思いっきりお前の私利私欲の為じゃねえか。もういい、絶対に父さんなんか呼ばないからな!お前なんてクソジジイなんかで充分だ。

 

しかし、このジジイやはり裏に影響力があるようでそれ以来パタリとヤクザが来なくなる。凄いとは思うけど感謝はしない。だってこのジジイ絶対に自分のためにやっているんだもん。そのうちハワイの時みたいにまた強引に捕まえられマカオに連れてかれるぞ?誰に助けを求めたらいいんだ?天さんか?でも天さんも喜んで普通について来そうな気がするぞ。どうしよう、救いが全くありません。

 

赤木さんとの賭けには勝ったけど代わりに私は平穏な日常を失ってしまったらしい。裏社会に引き込まれそうになったり赤木さんに振り回されたりと散々だ。でも赤木さんは毎日楽しそうにしている。

 

ご飯には文句いうし人の予定は無視するし裏社会に繋がりは多いし赤木さんはとんでもない人だ。おかげで私の日常は騒がしすぎる。

 

でも、そんな平凡とは程遠い日常を少しいいと思ってしまっている自分がいる。

 

だって、ご飯を作れば赤木さんは美味しそうに食べてくれるし私の予定を無視して強引に色んなところに連れ歩くの楽しそうだしギャンブルに勝つと喜んでくれる。

 

結局私は赤木さんのことが好きなのだ。この自分勝手で我儘でギャンブルが好きなどうしようもない人の側にいることに喜びを感じている。

 

初めはこの人を神様のような何かだと思っていた。天衣無縫で大胆で才気に溢れた奇跡のような人。神域という言葉はダテじゃなくて紙面越しに見てた時からどこか遠い世界の人だと思っていた。

 

でもこの世界に来て親子になってこの人が生きた人間だっていうことを酷く実感した。博打は神がかったように強いけど私生活ボロボロだし不良中年だしろくなもんじゃない。

 

もう私にとって赤木さんは神様ではない。どこか遠くの人ではなくすぐ側にいてくれて私を『蓮』と呼んでくれる家族なのだ。だから、この人の生き方に付き合ってあげよう。

 

だって私は赤木しげるの娘なのだから。

 

 

 

 


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