気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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運命

 

寝て起きて広間に戻ると銀さんが牌の交換すると言ってきた。眠くて原作情報ポロポロ漏らしちゃったけどこうなるなら結果オーライかな?これで銀さんがいきなり飛ぶ未来は消えるだろうし、よかったよ。

 

というわけで後半戦が始まる前に原田さんに牌の交換を願い出ると驚いた顔で『本当に牌を交換していいのか?』と聞いてきた。うん、交換していいんです。ガンがバレた牌なんて敵に情報与えるだけだししかもこの牌には原田さんの仕掛けもされちゃっていたはずだ。そんなもんを使うなんて真っ平ごめんである。

 

確か原田さんは凹凸を作るためにお寿司のお米を使ったはず、『米粒のついた牌は使いたくないから』というと顔色を悪くして牌を変えてくれた。これで勝負の準備は整いました。後はみなさんがんばってください。

 

と思ったが流れは意外と東に来なかった。ガン牌について何か思うことがあるのか原田さんは鬼気迫る勢いで強打してくる。

 

原田さんのガン牌の仕掛けを無効にしたから勝てると思ったけどそうでもないらしい。取り敢えず西は銀さんのガン牌に振り回されるのはごめんのようで銀さんをはっきり狙い撃っていた。

 

そして原田さんの執念が実ってしまい銀さんから直撃を取り飛ばした。1番点棒を持っていた銀さんが最初の脱落者となってしまい、東に嫌な雰囲気が漂う。

 

だが、私はそれとは別の空気を感じでいた。この場の勝つ負けるというだけの話ではない。運命とでも言われてしまいそうなもっとどうしようもない流れを。

 

銀さんが最初に飛ばされた。これは原作通りの話だ。

 

この東西戦に参加したのはひろさんではなく私なのに今ほぼひろさんと同じ立場を味わっている。少ない点棒、最初の脱落者が銀さん、全員の点棒や切り筋など違っていることもあるが大筋は何も変わっていない。

 

思ったことがある。私という余分な存在があってもこの世界の流れは変わらないんじゃないのか。“原作”というのは変えられないんじゃないかと。

 

東西戦がどうなろうと私には関係ない。縁がある天さんに勝ってほしいとは思うけれど東西戦自体は今の私には大したことではないのだ。

 

そんなことよりも、ずっとずっと、大切なことがある。

 

この東西戦が終われば原作は9年後に移行する。そこが『天 天和通りの快男児』の終着点、この世界を名作と呼ぶのに相応しい作品に仕上げた最終章、

 

赤木しげるの“通夜編”だ。

 

若年性アルツハイマーになった赤木しげるは自殺する。誰の言葉にも意思を曲げず挑まれた勝負にも勝ちきり自分というものを持ったまま逝ってしまうのだ。

 

その最後をどう思うかは人それぞれだろう。私がその話を読んだ時は、心が震えた。

 

赤木しげるの言葉のひとつひとつに意味があり重みがあり信念があった。

 

紙越しの世界なのにそこにははっきりと生きた鼓動があり赤木しげるの生を実感した。死んで欲しくないと思いながらもその生き様を賞賛し尊敬した。

 

『天 天和通りの快男児』と作品ならそれでいいと思う。皆に惜しまれ愛され死んで逝く。そんな伝説を作り上げればいい。

 

でも今はダメだ。赤木さんが死ぬのはダメだ。

 

もうここは紙とインクで描かれた世界ではない。感じた鼓動は心臓が脈打たせ燃え上がる熱は体温によって生まれる。

 

赤木しげるは生きているのだ。この世界ではひとりの生身の人間として生きているのだ。遠い、遠い、交わりのない人ではなく同じ物を食べ同じ屋根の下で眠り、人の頭をよくぐしゃぐしゃにしてくれる生きた人間なのだ。

 

この人をあの夜のように死なせてしまうのは嫌だ。伝説の人なんかじゃなくていい、ただ赤木さんとして生きて欲しい。

 

だがそれが難しいと気付いてしまった。私という大きな異分子があるのにこの世界は原作通りの道筋を辿ろうとしている。このままではきっとあの夜が来る。

 

今、場にいるのは私と赤木さんだ。赤木さんが何かしているのは後ろの銀さんたちの雰囲気でなんとなく悟った。

 

そして10巡たち赤木さんから天さんへと順番が変わる。私も赤木さんと席を代わるから立ち上がり天さんの後ろに行くとそこには1と9を役に絡ますように作られた2つの一盃口、純ちゃん二盃口が出来ていた。

 

この形は見覚えがある。確か西の2人を討ち取ったふたりのドラゴン、役満四暗刻への布石だ。

 

やっぱり私という要因はそれほど世界に影響を与えていないらしい。天さんは結局そのドラゴンを育て上げて地を割らせた。飛龍地斬、役満の完成だ。

 

いよいよ本格的に流れを変えられない気がしてきた。でももし原作通りになるというならば赤木さんはきっと死んでしまうだろう。

 

どうすればいいのかなんて見当もつかない。でもこのままではダメだというなら何かしら変えないといけないだろう。

 

見事役満を和了りきった天さんと赤木さんが顔を見合わせ笑っている。だけども私は2人と笑い合うこともできず腹の底が冷え切っていた。

 

確か赤木さんはこの東西戦が最後の勝負だといっていた。おそらくこの戦いが最後のチャンスなのだろう。この先の展開を変える可能性のある最後のチャンス。

 

勝負事が好きなわけではない。裏の世界に足を踏み入れるのは真っ平ごめんだと思っている。それでも赤木さんに死んで欲しくないんだ。

 

たばこをふかし穏やかに笑っている赤木さんを見て私は密やかに決意した。

 

 

 


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