気付いたら赤木しげるの娘だったんですが、   作:空兎81

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~天和通りの快男児~
出会いは唐突に


 

「かっかっかっ、こりゃ間違いなく俺の娘だわ」

 

 

家に押し入ってきた3人の黒服を1人目はアッパーで顎を振り抜き2人目は回し蹴りで鼻頭引っ叩き3人目は膝で股の下蹴り抜いて泡吹かせて外に出ようとした瞬間ドアの前に立っていた白髪の男にそう言われた。

 

おそらくその男を振り払って外に逃げることはできただろうがその男の佇まいとその身に纏う神気のようなオーラを見て足が止まる。私にはその男が誰だかわかった。わかってしまった。

 

その男の名は赤木しげる。伝説の博徒だ。

 

 

話は変わって少し私の話をしよう。私はどこにでもいる普通の女子大生だった。過酷な受験戦争を勝ち抜き、最後のモラトリアム期間、花の女子大生生活を楽しむごくごく普通の女子大生だった。

 

しかし気付いたら昭和の香り漂うボロアパートで白髪の少女となり突っ立っていた。何いっているかわからんと思うが私もマジわけわからんかった。気付いたら手足縮んでいるし見たことない場所にいたんだぞ?なんだこのリアルコナンくんは。出歩く度に殺人現場に遭遇するデンジャラスな小学生生活は御免被りたいです。

 

しかしそう願うも私の置かれた環境はコナンくんが羨ましくなるくらい劣悪なものだった。

 

まず、母親が風俗嬢だった。そして父親はいない。

 

別に風俗嬢という職種を馬鹿にしたいわけではないがうちの母親は最悪だった。子育てはしない系女子なのか私のことは基本放置で時々机の上に万札を置く以外は何もしない。男も平気で連れ込んで、小学生くらいの娘の前で平気でおっ始める。これ、中の人がリアル小学生ならトラウマものだぞ?中身女子大生の私でも涙目だわ。そういうことには夢を抱いていたのに、ちくしょう。処女にはキツすぎる現場だったわ。

 

次に、この身体の持ち主は学校に行っていない。

 

ランドセルも教科書も筆記用具もこの家には何もない。学校に行ったことがないのはほぼ間違い無いだろう。このレベルだと出生届が出されているのかも不安になりますね。全くもって将来に希望を持てない身体だわ。

 

そして、最後にここは平成ではない。昭和時代だった。

 

平成っ子として生まれた私には衝撃の事実だった。私はいつタイムマシンに乗ったというのだろう。まさかの過去にタイムスリップしているという事態に絶望しかありません。これがもし強くてニューゲームって感じで純粋に小学生から人生やり直せるなら楽しかったかもしれないが前の生活から何1つ好転しているものがないのだ。こんなもんどうやって生きていけばいいんだよ。児童相談所に通報でもすればいいの?この時代にそんなもんあるのかな。

 

これからどうやって生きていけばいいんだろうと情報収集しながら悶々と考え込む日々を送っているとついに母親が帰ってこなくなった。いよいよ生命の危機を感じてきましたね。取り敢えず金がなくなる前に役所にでも飛び込むとしますか。

 

そう思って行動しようとした瞬間薄っぺらいドアが蹴り破られ黒いスーツにサングラスをかけた男たちが中に入ってきた。男たちは口々に『こいつか?』『ああ、連れて行こう』とか話していていた。

 

うん、めっちゃピンチですよコレ。きっとあのロクデナシのお母様が置き土産として何かして下さったのですね。どう見てもそっち系の人々ですし売られる予感しかしませんわ。

 

というわけで捕まったらただでさえ期待できない未来がより悲惨なものになりそうだったので全力で逃げることを選択する。小学生のガキということで向こうはこっちを舐めまくっていたのでまず先頭にいた黒服の顔面目掛けて拳を振り抜いた。

 

身長差がいい感じで働いて拳は黒服の顎を綺麗にかち上げた。子どもの力とはいえ急所に一発くらった黒服はよろめいて倒れた。そのまま驚いて固まっている2人目の黒服に回し蹴りを食らわす。今の私には力はないからね、堂々と急所を狙わないと。

 

私の蹴りは黒服の鼻にもろ直撃した。顔の中で鼻と目は急所だからよく効いたのだろう、黒服は鼻血を出して倒れた。ちなみにこの時の私はスカートを履いていたので回し蹴りした時にパンチラどころかモロパンしているわけだが、まさかこの黒服が鼻血を出したのは少女のパンツを見たからか?くっ、昭和にも変態はいるのだな。急いで逃げないと。

 

3人目の黒服は2人も倒された後なのでさすがに警戒していた。ふむ、ここから上半身を狙っていくのは難しそうだな。じゃあ男の最大の急所を潰しておきますか。

 

というわけで顔の前で腕を構えている黒服の股間を強打する。おそらくさっきのふたりが顔面やられていたから下半身に意識がいってなかったのだろうな。黒服はちょっと形容しがたい顔で倒れた。まあ美少女に蹴られんだからご褒美だろ。さっさと逃げよう。

 

そうして玄関から出ようとしたら白髪の男に上記のように言われた。その男を見て私は初めて気づいた。私はあのアカギの世界にいるのだと、そしてこの派手なシャツをきた白スーツの男の言葉を信じるなら私は赤木しげるの娘なんだと。

 

え、赤木しげるに娘っていたっけ?いやいや、最後に家族がどうたらいってたしいなかったはずだぞ?あれ、おかしくね?私が赤木しげるの娘っておかしくね?

 

いやまあそもそも私の存在自体がおかしいって言われたらそれまでなんだけどとあまりの事態にフリーズしていると赤木さんがスタスタ近づき私のことをヒョイっと抱きかかえ

 

 

「うちのお転婆娘がすまんかったな。お前さんら大丈夫か?」

 

 

そういって赤木さんが倒れた黒服たちに声をかける。少女の力など大したものではなかったらしく黒服たちはよろよろと立ち上がる。

 

そしてそのまま私は赤木さんに抱かれベンツに乗せられどこかに連れ去られた。

 

うん、びっくりして途中から抵抗するの忘れてたけどこれ普通にまずいよね?ヤーさんたちの車に拉致されているってことだもんね。赤木さんいるから酷いことされないと信じたいがこの人はこの人で頭のネジがぶっ飛んでいるから信用できない。

 

赤木しげるについて私が知っているのは漫画の中の知識だけだ。博打が恐ろしく強くて自分というものをしっかり持っていてそれに全てを賭けれる狂った人。

 

『アカギ』や『天』を読んだ時は赤木しげるという人物をかっこいいと思いその生き様に惚れ込んでいたが、現実世界にいるとなると話は別。負けたら腕一本だとかいいながら賭けに挑んでくる奴とお付き合いなどしたくないです。そんな狂気な世界に身を任せるのではなく普通に生きたいわ。

 

 

「まあ、驚いたよな。いきなり親父とかいわれてもよぉ」

 

 

「・・・」

 

 

「クックックッ、そういう可愛げのないところも昔の俺にそっくりだな。まあとって食いはしねえからそう殺気立つなよ」

 

 

赤木さんはタバコをふかしながら楽しげに笑う。え、全然殺気なんか出したつもりはないんだけど、というか知らなかったとはいえ黒服さんたちぶっ飛ばして報復されないかとガタガタ震えているんだけど赤木さんの目にはどう映っているんだ?あれか、目つきが悪いからガンくれているとでも思われたのか?つくづくアカギDNAは不運しか呼ばないな。

 

暫くすると和風の大きなお屋敷についた。広い庭に池まで付いている日本家屋に普段であれば感嘆の声も出ただろうが、あちこち見かける黒服に情けない悲鳴をあげそうになる。なんだよここ、あれですか、ヤクザの本家ですか?やっぱり黒服3人目をぶっ飛ばして皆様おこなの?スライディング土下座を決めるので許してくれませんかね。腕一本とか嫌です。

 

逃げ出したいけど赤木さんに抱きかかえられているから逃げることもできない。なんで抱きかかえられるんだと不思議に思ったがよくよく考えたら靴なんて履く暇がなかったから素足なんだよね私。ということでどうやら赤木さんは親切心で抱き上げてくれたっぽいけど地面に画鋲がまかれているのだとしても下ろしてほしい。すぐに逃げ出せない環境にある方がつらいわ。

 

そうして連れていかれた先は和室の一室で四角い木の机の上に緑のマットと黒い鞄が置かれている。何が始まるんだとビクビクしていると赤木さんは私を1番奥の机に下ろし自分はその対面に座った。

 

 

「まあ恐らくお前さんは俺の娘なんだろうけど俺は何にも背負い込みたくねぇんだよ。だから賭けをしねぇか?」

 

 

「賭け?」

 

 

「ああ、そうだ。お前さんが勝ったら俺の娘だ。だが、負けたら赤の他人だ。今後一切関わらねえ」

 

 

そういって赤木さんは黒い鞄を開けた。その中身を見た瞬間今から何が始まるのか悟った。黒い鞄の中に入っていたのは黒と白の長方形の駒とサイコロと細長い棒、赤木しげるの名を世に轟かせたゲーム、それは麻雀の牌だった。

 

 

「ルールは知っているか」

 

 

「知らない」

 

 

「そうか、じゃあ1から説明せにゃならんな」

 

 

そういって赤木さんは私に麻雀のルールを教え始めた。アカギも天も読んでいるからポンとかチーとかロンとかそういった言葉は知っているけど麻雀なんてやったことはない。一応ルールは教えてもらったけど複雑すぎて実際に使える気がしないぞコレ。というか今から麻雀する流れなんですか?え゛、神域赤木しげると麻雀をするだ、と?なんだこの無理ゲーは。ビルの上の鉄橋渡り切る方がまだ簡単な気がするぞ。

 

 

「そんじゃやるか。まあとはいえ初めてのお前さんが俺に勝ち切るのは難しいだろうからハンデをやるよ。半荘一回勝負で一度でも上がれたらお前の勝ちだ」

 

 

赤木さんがそういうとともに横の席に2人の黒服が座り牌を混ぜ始める。というわけで麻雀勝負が始まったわけなんだけど私未だに状況理解できていないぞ?えっと、この麻雀に勝つと私は赤木さんの娘で負けたら赤の他人か。え、これどっちも嬉しくない二択なんだけど、だって赤木さんの娘ってことはそっち系の道に引きずり込まれて赤の他人だと野垂れ死ぬ未来が見えてんだぞ?なんだこの地獄待ちは。私に全く得がないですよちくしょう。

 

取り敢えず赤木しげるなら本当に『赤の他人ならもう関係はないな。じゃあな』といって放り出してきそうだから勝ちにいかなければならない。でもそもそも麻雀で赤木さんに勝つのが至難の技という難易度ルナティックモード。なんかもう詰んだ気がするわ。

 

牌を積んでサイコロを振る。どうやら私が親らしい。言われるがままに牌を取って中を見る。もうこうなりゃヤケクソだしやるだけやろう。えっと、3つの固まりを4つと2つの固まりを1つ作ればいいんだから、…うん?

 

 

「よし、じゃあお前さんからだな。いらん牌を1枚切ってくれ」

 

 

「切る牌はない」

 

 

そういいつつ確認してもらうために手牌を倒す。私の手には四メンツに頭が1つ、すでに手牌が完成していたのだった。

 

 

 

※※※

 

 

手牌を倒した後赤木さんは一瞬目を丸くした後私の手の中を覗いてそして爆笑した。ハハッと赤木さんの笑い声が響く中両隣の黒服たちは唖然とした表情をしていた。

 

どうやら私が上がったのは天和という一生に一度上がれるかどうかのとんでもない役で麻雀で1番高い点数の役満だったらしい。赤木さんは『さすがは俺の娘だ』と機嫌良さげだった。なんだかよくわからんが取り敢えず賭けは私の勝ちでいいらしい。やったね!これで私は赤木さんの娘だね!全くもって嬉しくないけど。

 

赤木さんは機嫌良さげに『せっかく勝ったんだからお前さんのいうこと聞いてやるよ』といってきた。え、なんでも?本当になんでもいいの?腕一本といったらくれるんですか?

 

まあそんなこというとマジで切り落としそうだから言わないけどどうしようかな。欲しいものはたくさんあるけど、まあまずはこれかな。せっかくの権利を行使して『赤木の姓は名乗らない』と言ってみる。

 

不思議そうな顔で『なんでだ?』という赤木さんに『あんたの名を背負うのはごめんだ。私は私で生きていく』とさりげなく裏社会で生きることを拒否しておく。うん、この世界で赤木の名を名乗ったらもう絶対表世界に社会復帰できませんからね。こんな始まりだったけど私は普通に学校行ってサラリーマンになるという一般的な社会生活を送りたいんです。間違ってもどっかの組の代打ちとかしませんから。

 

そういうと赤木さんは『お前さんは野心家だな』と楽しそうに笑う。野心じゃなくて保身だよ。え、どういう受け取り方したらそんな発想になるの?いやもう深く考えないでおこう。私が麻雀に関わるのはこれっきりだ。

 

そう思うも赤木しげるの娘という立場で裏社会から逃げられるはずもなく様々な勝負に巻き込まれていくことをこの時の私は知らない。

 

今、私こと『伊藤 蓮』の物語が始まったのだった。

 

 

 


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