ワンダユウは、大使としてトリステインとマール星を行き来し、
チンプイは、ルイズの使い魔兼お世話役として、トリステインに残った。
ワンダユウ「チンプ~イ!頼んだぞ~!」
アルビオン編、ニューカッスルの決戦完結です。
※多忙のため、毎日少しずつ書いたので、かなり亀更新になってしまいました。今後も亀更新になると思いますので、ご了承下さい。
ワルドがルイズを連れ去ったことを知らないチンプイは、城のバルコニーで黄昏た空を見つめ、ひとり物思いにふけていた。
「浮かねえ顔して、どうしたんだ? 相棒」
沈んだ表情を浮かべているチンプイに、デルフが声をかけた。
「ワンダユウじいさんがいなくなって、ルイズちゃん大丈夫かなあと思って」
「なら、今からそばに行ってやれよ。あの娘っ子も不安だろうし、喜ぶぜ。素直にそう言わねえだろうがな」
「うん・・。そうなんだけど、ぼく、ワルドを押さえられる自信が無くて・・」
「あいつはどうせ攻撃できねえんだろ? それに、姐さんと犬の旦那は、万が一何かがあっても、お前が付いていれば大丈夫だと思ってここを離れたんじゃねえのか? 最悪、バンバン『科法』とやらを使えば何とかなんだろ」
「う~ん。ぼくのスタミナじゃ、大した科法は使えないんだよね。『ガンダールヴ』の力で科法が強化されたのに、それでもワルドとの決闘で負けちゃったし・・」
「それだ。相棒」
「何?」
「相棒、『ガンダールヴ』なんだよな?」
「うん。伝説の使い魔だってね。ま、伝説が聞いて呆れる弱さだけど・・それがどうしたの?」
「んなことねえよ。この前は相手が悪かったし、科法を大っぴらに使わないで戦ったんだしよ。
ああ、その名前なんだが・・随分昔のことでな・・、なんかこう、頭の隅に引っかかってるんだが・・、なかなか思い出せねぇ」
デルフリンガーは、金具をカチカチと動かして、ふむ、とかああ、とか何度も呟いた。
「なんだ。そんなの簡単だよ。思い出させてあげようか?」
「そ、そんなのって、おめえ・・。俺に思い出させるなんて出来るのか?そんな魔法、聞いたことねえぞ」
驚くデルフリンガーにチンプイは笑って答えた。
「魔法じゃなくて、科法だよ。 じゃあ、いくよ。 科法『思い出ひき出し』、チンプイ!」
「ん? おおおっ!!すげえ!本当に思い出したぜ!便利だな、科法って。 ありがとな、相棒!」
「どういたしまして。 で、『ガンダールヴ』のこと何か思い出した?」
「ああ。実はな、俺は昔お前に握られてたぜ。ガンダールヴ。でも、すっかり忘れてた。何せ、今から六千年も昔の話だからな。懐かしいねえ。泣けるねえ。そうかぁ、いやぁ、なんか懐かしい気がしてた」
「え? どういうこと? 前の『ガンダールヴ』の話?」
「そうさ!嬉しいねえ! そうこなくっちゃいけねえ! 俺もこんな格好してる場合じゃねえ!」
叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が突然輝き出し、今まさに研がれたかのようになった。
チンプイは呆気に取られてデルフリンガーを見つめる。
「デルフ?」
「これがほんとの俺の姿さ! 相棒! いやぁ、てんで忘れてた! そういや、飽き飽きしてた時に、テメェの体を変えたんだった! なにせ、面白い事はありゃしねえし、つまらん連中ばっかだったからな!
それより、相棒!おめえの科法と俺の能力を合わせれば、ワルドの野郎にも勝てるぜ」
「そうなの?」
チンプイは怪訝な顔をして尋ねた。
「ああ。俺は攻撃魔法を吸収できんだ。ワルドのスクエア級の魔法でも問題ねえよ。
それから、『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まるんだ。怒り、悲しみ、愛、喜び・・なんだっていい。ただ、無茶をすればそれだけ『ガンダールヴ』として動ける時間は減るぜ。なにせ、お前さんは主人の呪文詠唱を守るためだけに生み出された使い魔だからな」
デルフリンガーが説明した。
「そうなんだ・・あれを吸収できるんなら、勝てるかもね。でも、心を震わせるタイミングを考えなくちゃいけないってこと? まだ必要ない時にどうしても心が震えたらどうするの?」
チンプイが尋ねた。
「そん時は、深呼吸して心を落ち着かせるか、俺から手を放すんだな」
「科法は?」
デルフリンガーはしばらく考え込んだ後、言った。
「そん時に決めたらいいんじゃねーの? 使わなきゃ反応しねーだろうし」
「そうだね」
笑ってそう答えたチンプイは、いつもの明るさを取り戻していた。
その頃、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂でウェールズ皇太子は新郎と神父の登場を待っていた皆、戦の準備で忙しいらしく、周りに他の人間は一人もいない。ウェールズも、すぐに式を終わらせて戦の準備に駆けつけるつもりであった。
ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた。明るい紫のマントは王族の象徴、そしてかぶった帽子はアルビオン王家の象徴である七色の羽がついている。
扉が開き、ルイズとワルドが現れた。ルイズは何故か呆然と突っ立っている。ワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄った。
『アンドバリ』の指輪で操られたルイズは、わずかに意識はあったものの行動に移すことは出来ず・・言われるがままに、半分眠ったような頭でここまでやってきた。
ワルドは、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭にのせた。新婦の冠は魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚なつくりをしていた。
そしてワルドはルイズの黒いマントを外し、やはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。新婦しか身に着ける事を許されない乙女のマントである。
始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの前で、ルイズと並んでワルドは一礼した。ワルドの格好は、いつもの魔法衛士隊の制服である。
「では、式を始める」
王子の声がルイズの耳に届く。しかしどこか遠くで鳴り響く鐘のように、心もとない響きだった。ルイズの心には、深い霧のような雲がかかったままだ。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」
ワルドは重々しく頷くと、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移す。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。
今が、結婚式の最中だという事に、ルイズはようやく気付いた。相手は祖国を裏切ろうとしている、かつて憧れていたワルド。二人の父が交わした、結婚の約束。幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。婚約破棄を言い渡した母。
今、ルイズはワルドに怪しげな指輪で操られている危機的状況ではあるが、それよりも、ルイズは先程からずっと気になっていることがあった。ウェールズの顔を見る度に、胸がチクリと痛くなるのである。ウェールズ皇太子は、姫さまの思い人なだけあって、成程、確かにかっこいい。しかし、これほどまでにウェールズのことを意識していなかったはずだ。
でも、それならばどうしてこんなにせつないのだろう。
どうして、こんなに気持ちが沈むのだろう。
滅び行く王国を、目にしたから?
愛する者を捨て、望んで死に向かう王子を目の当たりにしたから?
違う。悲しい出来事は、心を傷つけはするけれど、このような雲をかからせはしない。
ルイズは不意に、初めてウェールズに会って驚いた時のことと、ワンダユウが『フリッグの舞踏会』の前にエレオノールに言った言葉を思い出した。
もしかして・・
その理由に気づいて、ルイズは顔を赤らめた。
でも、それはほんとの気持ちだろうか?
わからない。でも、確かめる価値はあるんじゃないだろうか?
ルイズは、自分でも抑えることのできない今までに感じたことのない感情により、自力で『アンドバリ』の指輪の呪縛を解こうとしていた。
「新婦?」
ウェールズがこっちを見ている。ルイズは慌てて顔を上げた。
式は自分の与り知らぬ所で続いている。ルイズは戸惑った。どうすれば良いんだろうか。こんな時は、一体どうすれば良いのだろうか。誰も教えてくれない。いつも自分を立ててくれるワンダユウも、いつも自分を正しく導いてくれるエレオノールも、この場を離れている。こんな我儘な自分の使い魔になってくれたチンプイは、異変に気が付いたら、必死になって自分を探してくれているに違いない。
「緊張しているのかい? 仕方がない。初めての時は、ことがなんであれ、緊張するものだからね」
にっこりと笑って、ウェールズは続けた。その笑顔がルイズの胸にチクリと刺さる。
「まぁ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と・・」
ルイズは深呼吸して、決心した。
ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を横に振った。
「新婦?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。ルイズは、ウェールズに正面から向き直った。悲しい表情を浮かべて、再び首を横に振る。
「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「そう・・じゃない。た、たす、助けて・・ください。殿下。わたし・・ワルドに変な魔法かけられて・・無理矢理結婚させられそうなんです」
そう言うと、ルイズはヴェールズの胸にに勢いよく飛び込んだ。
予想もしてなかった展開に、ウェールズは目を大きく見開いたが、ウェールズは優しくルイズの頭を撫でて言った。
「なんと・・君がそんな目に遭っていたのに、気付いてあげられなくてすまなかった・・。もう大丈夫だ。よく頑張ったね、ル・・ラ・ヴァリエール嬢。君は、この結婚を望まないんだね?」
「はい、その通りでございます」
ルイズは、ウェールズに優しく頭を撫でられて、すっかり正気を取り戻していた。
それを見たワルドの顔に、さっと朱が差した。ウェールズは困ったように、首を傾げると残念そうにワルドに告げた。
「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」
だが、ワルドは、ウェールズの言葉を無視して、ウェールズの胸にうずくまるルイズに呼びかけた。
「・・緊張しているんだ。そうだろ、ルイズ。君が、僕との結婚を拒むわけがない」
「ごめんなさい、ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」
すると、ワルドの表情が、どこか冷たい、トカゲか何かを連想させるものに変わった。
熱っぽい口調で、ワルドが叫ぶ。
「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」
豹変したワルドに怯えながらも、ルイズは再び首を横に振った。
「・・わたし、世界なんかいらないもの」
ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。
「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」
ワルドの剣幕に、ルイズは恐れをなした。何が彼を、こんな物言いをする人物に変えたのだろう?
城のバルコニーで、チンプイは目をこすった。
「何だよ相棒」
「左目に何かこことは別の景色が見えるんだけど・・」
果たしてそれは、誰かの視界だった。
左目と右目が、別々の物を見ているようにチンプイは感じていた。
「なら、貴族の娘っ子の視界なんじゃねーの?」
デルフの言葉でチンプイは、いつだったか、ルイズが言っていた事を思い出した。
『使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ』
だが、ルイズちゃんは自分の見ているものがまったく見えないと言っていたけど・・、逆の場合もあるという事だろうか?
しかし、どうして、突然ルイズちゃんの視界が見えるようになったのだろうか?もしかして、ルイズちゃんのピンチ?
チンプイはそこまで考えると、バルコニーを飛び出した。
「ど、どうしたんだよ相棒! 何が見えたんだ!?」
「話はあと!ルイズちゃん・・お願い、無事でいて! 科法『探知スター』、チンプイ!」
チンプイは、ルイズの居場所を科法で突き止めると、なぜかルイズとワルドの結婚式が開かれている礼拝堂へと急いだ。
ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、ルイズを守るようにギュッと抱きしめた。
「子爵・・君はフラれたのだ。いさぎよく・・」
「黙っておれ! ルイズ・・そいつから離れるんだ。君は、そいつの恋人でも何でもないだろう?」
ワルドの威圧するような低い声にルイズは、怯みそうになったが、ウェールズをさらに強く抱きしめて、ルイズは言った。
「違うわ!この方は・・」
そこまで言いかけて、ルイズはウェールズの顔を見ると、胸が高鳴り、恥ずかしくなってその先を続けられなくなってしまった。
「そいつが?なんだって?・・まあいい。 取り敢えず、離れろ!」
科法で余計な詮索が出来ないワルドは、ウェールズの暗殺を実行しようと頭を切り換えた。しかし、ルイズが邪魔で攻撃が出来ない。ルイズを手に入れられないのなら、ウェールズごと消しても問題ないはずなのに、それをしようとするとすさまじい痛みがワルドを襲い、ワルドは蹲った。
それでも、ワルドは痛みに耐えて立ち上がり、言った。
「ぐっ・・こうなっては仕方ない。ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
ルイズは思わず首を傾げた。どういうつもりなのだろうか。
ワルドは唇の端を吊り上げると、禍々しい笑みを浮かべた。
「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、良しとしなければな」
「達成? 二つ? どういう事?」
ルイズは不安におののきながら、尋ねた。科法による制約で、ルイズにワルドは攻撃できないはずであるが、心の中で、考えたくない想像が急激に膨れ上がる。この場に、ワンダユウとエレオノールとチンプイがいないことが、ルイズにはとても心細く感じられた。
ワルドは右手を掲げると、人差し指を立ててみせた。
「まず一つは君だ、ルイズ。君を手に入れる事だ。しかし、これは果たせないようだ」
「当たり前じゃないの!」
次にワルドは、中指を立てた。
「二つ目の目的は、ルイズ。君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
ルイズはその言葉で、はっとした表情を浮かべた。
「ワルド、あなた・・」
「そして、三つ目・・」
ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズは、ルイズを守るように抱きかかえながら、杖を構えて詠唱を開始する。しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜くと、瞬時に”エア・ニードル”の呪文の詠唱を完成させた。ワルドは風のように身を翻らせ、ウェールズの背後に回り込むと、青白く光るその杖でウェールズを貫こうとした・・。
その時!
ゴォオオオオオオオオオオオッ!
突如、巨大な竜巻がウェールズの背後に現れ、ワルドは壁に叩き付けられた。
「がはっ! い・・一体、何が起こったというのだ」
「『三つ目・・、貴様の命だ。ウェールズ』ですか? 『レコン・キスタ』のワルド子爵?」
その言葉に驚いたワルドが、ウェールズの方を向くと、そこには、いつの間にか、幻獣マンティコアの大きな刺繍が縫い込まれた黒いマントを羽織った騎士が、ウェールズとルイズを守るように立っていた。おまけに、隊長職を意味する羽飾りのついた帽子を被っている。騎士の羽飾りの下の顔は、下半分が鉄の仮面に覆われている。
「貴様!何者だ! その帽子とマント・・マンティコア隊の隊長のものだな?ド・ゼッサールか?」
ワルドは、騎士を睨みつけながら言った。しかし、ド・ゼッサールにしては、体が細い。何者なのだろうか?
「母さま!」
ルイズは、一瞬でその騎士の正体を見破った。ワルドは、ルイズの言葉に驚き、目を見開いて、騎士をもう一度見つめる。なるほど、そのマントはよく見ればずいぶんと色あせ、年月を経たものであった。しかし、手入れがいいのか、綻びや破れは見当たらない。
ワルドは、正体が分かると、不敵な笑みを浮かべて、騎士と対峙した。
「これはこれは、ラ・ヴァリエール公爵夫人・・おっと、今はルイズとエレオノール殿も公爵夫人ですから、混同してしまいますね。 カリーヌ殿、ルイズの母君であるあなたが、どのようなご用向きで、そのような格好でこちらへ?」
「本来ならば、裏切り者に、答える義理はありませんが・・いいでしょう。冥土の土産によく聞きなさい。今日のわたくしは、公爵夫人カリーヌ・デジレではありません。鋼鉄の規律を尊ぶ、先代マンティコア隊隊長カリンですわ。祖国を裏切り、国法を破りし娘の元婚約者のワルドを拘束し、もって当家のトリステインへの忠義の証とさせて頂くわ」
カリーヌの鋭い眼光に気圧されそうになりながら、ワルドは呪詛の言葉を吐き出すような声で冷たい声で言った。
「!・・まさか、貴様が、あの”烈風”カリンだったとは・・。あの行かず後家・・エレオノールが、ルイズから離れたのはそういうことか。 確かに、音に聞く『烈風』ならば、僕に後れを取ることはないと思ったのだろうが・・その名声はもはや過去の話だ。雅な社交界で戦場の垢や埃もすっかり抜け落ちてしまった貴様が今更そんな恰好をしたところで、現役バリバリの魔法騎士隊隊長である僕に勝てる訳がない! もうとっくにご存知のようだが・・そうとも!いかにも僕はアルビオンの貴族派、『レコン・キスタ』の一員さ。ウェールズと貴様ら親子共々葬り去ってくれる!」
「どうして! トリステインの貴族であるあなたがどうして!?」
ルイズは、わななきながら、怒鳴った。ワルドが裏切り者であることは知っていたが、どうしてワルドが祖国を裏切ったのか、ルイズには理解できなかったのだった。
「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない」
そう言うと、ワルドは杖を掲げた。
「ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
「昔は、昔はそんな風じゃなかったわ。何があなたを変えたの? ワルド・・」
「月日と、数奇な運命の巡り合わせだ。それが君の知る僕を変えたが、今ここで語る気にはならぬ。話せば長くなるからな」
ワルドは思い出したように杖を握ると、カリーヌめがけて”ウィンド・ブレイク”を放った。しかし、カリーヌは瞬時に反応し、”エア・ハンマー”を放つ。ワルドの魔法はあっさりと押し負けて、ワルドはなんなく弾き飛ばされ、床に転がった。
カリーヌは、そんなワルドをつまらならなさそうに見て言った。
「今の魔法騎士隊隊長って、この程度なの?」
「ぐっ! い、今のは少し油断しただけだ!」
全身に走る激痛に耐えながら、ワルドは立ち上がり、カリーヌを睨み付ける。
「さて、ではこちらも本気を出そう。風の魔法で最強の使い手が、誰なのか教えてやる」
そう言うと、ワルドは呪文を唱え始めた。
「ユビキタス・デル・ウィンデ・・」
呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。
分身した数は、四つ。本体と合わせて、五人のワルドがカリーヌ達を取り囲んだ。
ワルドの分身は、すっと懐から真っ白の仮面を取り出すと顔に付けた。それを見たルイズは、怒りと恐怖で、体が震えた。桟橋で自分を連れ去ろうとした男は、ワルドだったのだ。
「!・・桟橋であたしを攫おうとしたあのお年を召した仮面のメイジは、ワルド・・、貴方だったのね!」
「だから! お年を召してない! 正体が分かってまだ言うか、小娘!・・まあいい、どうせここで、死ぬんだ。教えてやる。あの行かず後家は、気付いていたようだぞ?」
ワルドは、顔を真っ赤にして怒った後、顔を歪めて笑いながら言った。
「!・・エレ姉さまの悪口は許さないわ。ワルド!」
ルイズは、ワルドを睨み付けた。その鳶色の瞳から涙がこぼれる。ワルドを倒す力が自分に無いことが、悔しいのだ。
「下がっていなさい、ルイズ」
カリーヌは、ルイズにそう言うと、ワルドに向き直り呪文を唱えた。
巨大な竜巻がカリーヌの背後に現れる。
「”カッター・トルネード”!」
「な、なんだあれは!」
ワルドが唖然とした次の瞬間・・、竜巻は大きく膨れ上がり、ワルドを”偏在”もろとも絡めとる。逃げる間もなく、ワルドはまるで、巨人の手に掴まれたかのように空中で翻弄された。ワルドと”偏在”たちは、まるでシェーカーに入れられたカクテルだった。
「あいだッ!」
「でッ!」
「なんなのだこれはああああ!」
「ぐうぅぅぅぅッ!」
「うわぁあああああ!」
五人は悲鳴を上げ続ける。こうなってしまっては、”偏在”も形無しだ。
竜巻が唐突に止み、空中から地面へと落下すると、”偏在”は全て消え去っていた。
地面に叩きつけられ、ワルドはうめきをあげた。
「くそ・・化け物め!」
と、ワルドは心の中でひとりごちた。数多の修羅場を潜ってきた若き天才のワルドは、生まれて初めて恐怖を覚えた。というのも、そこに立っていたのは、今まで潜ってきた修羅場が生温いと感じるほど”厳しい”という言葉をよくこねて、鋳型に納め、”恐怖”という炎で焼き固めた騎士人形であったからだ。
しかし、『レコン・キスタ』の一員としてここで諦める訳にはいかない。
「”ミスト”」
水と風の合成魔法。風2つと水1つによる、霧で相手の視界を奪うトライアングルスペルである。百戦錬磨のカリーヌであるが、一線を退いて久しいカリーヌは、最近編み出された魔法に一瞬面食らった。
この隙に、ワルドは礼拝堂の開いている窓へと急いだ。
”烈風”カリンが王国始まって以来の風の使い手という噂は、伊達ではなかった。正面からではとても敵わないと悟ったワルドは、一度撤退し、作戦を考えることにしたのだ。
だが・・。
礼拝堂の窓から飛び込んできた烈風にワルドは弾き飛ばされた。
ワルドが窓から逃げようとした刹那、飛び込んできたチンプイが、デルフリンガーでワルドの体を弾き飛ばしたのだ。
「なぜにここが分かった? ガンダールヴ」
ワルドはチンプイを睨み付けて、内心で舌打ちをした。
「・・ルイズちゃんの視界が、見えた」
「そうか、なるほど、主人の危機が目に映ったか。しかし、君を相手している暇はない。僕は失礼するよ」
「ここは通さないよ。ぼくが、相手だ!」
チンプイは、科法『バリヤー』を身に纏うと、デルフリンガーを引き抜いて切りかかった。
「ふん、雑魚が。身の程を知れ! うぉおおおお!!”ウィンド・ブレイク”!」
ワルドはそう言うと、科法によりチンプイを攻撃できないはずであるが、激しい痛みを強い精神力で我慢して、無理を押して”ウィンド・ブレイク”をチンプイに放った。
猛る風がチンプイを襲う。
「相棒! 俺をかざせ!」
チンプイは、言われた通りに飛んで来る魔法にデルフをかざした。
「無駄だ! 剣では魔法を防ぐ事などできん!」
しかし・・・。
チンプイを吹き飛ばすかのように思えた風が、デルフリンガーの刀身に吸い込まれた。
「なんだと!」
驚くワルドに、チンプイは科法で攻撃をした。
「科法『パーソナル人工降雨』、チンプイ!」
突如、ワルドの頭上にだけ滝のような雨が叩きつける。
「急に雨が!」
ワルドが驚いていると、その後ろで巨大な暴風が吹き荒れた。
ワルドの”ミスト”を、カリーヌが”カッター・トルネード”で吹き飛ばしたのだ。
「く・・くそっ!」
ワルドは、顔を歪めてうめいた。もう逃げ場がない。
火のような怒りを含んだ目で、カリーヌはギロリとワルドを睨み付けた。眼光で殺すかのような勢いだ。
「ひっ・・!」
睨み付けられたワルドは、狂ったように呪文を詠唱した。
「”ライトニング(稲妻)”」
タバサがフェイクで、練兵場で精神力を込めずに呟いていた魔法だ。杖の先から猛烈な閃光と共に稲妻を放つ魔法で、高位の風呪文だが、どこに飛んでいくかわからないので使いづらく、魔法を撃った本人に飛んでくる場合もある。ゆえに、通常は”ライトニング・クラウド”を使う。
だが、追い詰められたワルドは、この高位の風呪文でこの状況を一か八か何とかしようとしたのだった。
「ぎゃぁあああああ!」
しかし、魔法が杖から放たれる前にワルドは自らの魔法で失神した。チンプイの科法『パーソナル人工降雨』により全身がびしょ濡れだったワルドは感電してしまったのだ。
その時、失神したワルドのポケットから『アンドバリ』の指輪が地面に落ちたのだが、誰も気が付くことはなかった。
「チンプイ!」
ルイズが、チンプイの元へと駆け寄り、チンプイをギュッと抱きしめた。
「・・ 終わりましたね。チンプイ君、ワルドを倒してくれてありがとう」
カリーヌは、優しい笑みを浮かべてチンプイにお礼を言うと、呪文を唱えて風のロープでワルドを拘束した。
「いや、これはワルドが自滅しただけだよ。カリーヌさんがいなかったら、何もできなかったし・・」
「そんなことはありません。わたくしが逃がしてしまったワルドを、たった一人で止めて、どんな形であれ、ワルドを倒したのは・・チンプイ君、貴方よ。もっと自信を持ちなさい」
「そうよ、チンプイ!本当にありがとう。あんたは、わたしの最高の使い魔で、友達よ!」
「友達・・。うん!そうだよね。ありがとう!」
「なんで、あんたがお礼を言っているのよ」
「えへへ。なんとなく」
ルイズとチンプイは、笑いあった。先程まで激しい戦闘があったとは思えない、和やかな雰囲気に包まれた。
「水を差すようで申し訳ないが・・どうやら、おしゃべりをしていられる時間はあまりないようだ」
ウェールズが申し訳なさそうに言った。
確かに、外から大砲の音や火の魔法が爆発する音が、遠くから聞こえてくる。
「戦場を嘗めてたわ。手紙を届けるだけだと思ってたのに・・。チンプイ、母さま、ごめんなさい」
ルイズは、俯いて謝った。そのとき・・。
ぼこっと、地面が盛り上がり、床石が割れ、茶色の生き物が顔を出した。続いて、ギーシュ達も顔を出す。
「ぷはっ!」
「なに?・・きゃっ!」
茶色の生き物は、ルイズを見つけると、モグモグと嬉しそうにその体をまさぐった。
「ギーシュの使い魔のジャイアントモール!? ・・って、あんた、誰?」
ルイズはギーシュの使い魔『ウェルダンデ』の突然の登場に驚いたが・・それ以上に、その横に二本足で立っているアルマジロのような生き物に驚いた。なんと、サングラスをかけて、葉巻を吸っているのだ。
「ふーっ。お初にお目にかかります、ルイズさま。おれは、マール星秘密情報局〇〇一三号、マジローです。ワンダユウ氏に依頼されて、カリーヌさまとともに、ルイズさま御一行にもしものことがあった時に動けるように陰ながら待機させて頂いておりました。
ワルドに怪しげな魔法をかけられてルイズさまが連れ去られ、キュルケ達が部屋に戻ったのを見たので、カリーヌさまにご報告して、ルイズさまの方はカリーヌさまに追って頂き、おれは科法『お目覚め光線』でキュルケ達の正気を取り戻させて頂きました」
「その通りよ。ルイズ」
ルイズがカリーヌの方を向くと、カリーヌは澄ました顔でそう答えた。
「ウェルダンデに、水のルビーの匂いを追って穴を掘ってもらったんだよ」
フガフガとルイズの指に光る『水のルビー』に鼻を押しつけているのを、満足そうに眺めながら、ギーシュはそう言った。
「そう・・。ところで、チンプイ、母さま・・」
ルイズは恥ずかしそうにウェールズの方を見ながら、チンプイとカリーヌに目配せをして言った。
「分かった。皆、先に行こう。マジローさんも」
「なんでだ?・・ああ、成程。了解した」
ウェールズの方を見て、全てを察した腕利きの工作員のマジローは、ウェルダンテを引き剝がし、逃走の準備を始めた。
「フル・ソル・ウィンデ。 さあ、皆も早く。今は、ルイズと殿下を二人にさせてあげて」
「分かりました」
「分かったわ」
「・・・」
ワルドを”レビテーション(浮遊)”で運ぶカリーヌに促されて、ギーシュ達も納得いかない顔だったが、その場を離れ、マジローと逃走の計画の打ち合わせを始めた。
二人きりになったルイズとウェールズの間に、しばし沈黙の時間が流れた。
「何から話せばいいかな・・」
ウェールズが頭を掻きながらそう言うと、
「・・まずは、あなたがルルロフ殿下だって言えばいいんじゃないですか?」
と、ルイズが答えた。
「どうして・・」
ウェールズ改めルルロフ殿下は、大きく目を見開いた。
その様子に、ルイズは悪戯っぽく笑みを浮かべて答えた。
「あんまり、女の勘を甘く見ない方がいいですよ、殿下。 改めて、はじめまして、ルルロフ殿下。わたしは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。 まさか、婚約するより前に殿下にお会いできるとは思いませんでした。お会いできて嬉しいです」
ルイズは頬を赤らめながら、マール星の王族に則った見事な一礼をした。
「ルイズさん、それは・・」
「はい。エレ姉さまに習って、密かに一生懸命練習しておりました、殿下」
「そうですか。ありがとうございます。・・でも、どうして、ぼくがルルロフだと分かったんですか?ルイズさん」
「はい。ワンダユウが、以前、『縁結びのお手伝いさせて頂いた王族の方々は、一目見て運命を感じるほどの出会いを皆感じておいでです』と言っているのを思い出したんです。 初めてウェールズ皇太子にお会いした時は何も感じなかったのに・・わたし、あなたを礼拝堂で一目見て、ドキドキしたんです。同時に、ワルドに無理矢理結婚させられそうになっているところをあなたに見られるのがイヤで、胸がチクッとしたんです。
・・ところで、王室典範で『婚約前に王族はお顔を見せることが出来ない』決まりになってるんでしょう? ・・その、わたしが、殿下のお顔を拝見して・・大丈夫なのですか?」
「正直、ルイズさんとワルドの婚姻の媒酌をするのは・・とても辛かったよ。でも、事情があって、ワルドに手出しできずにいました。ごめんなさい。
・・あと、王室典範の件ですね。はい。実は、ワンダユウとチンプイが、ぼくとそっくりなウェールズさんの写真をルイズさんに見せたことが、王室で問題になって・・」
「えっ!、ワンダユウとチンプイ、何か罰を受けるのですか?」
ルイズが驚いて、不安そうに尋ねた。
「いいえ。王室典範に瓜二つの人の写真を見せてはいけないという規定はなかったし、ぼくとルイズさんの縁談を円滑に進めようと考えたためということで、今回はお咎めなしとなりました」
「そう。それを聞いて安心しました。それで、何か新たな規定が王室典範に加わったのですか?」
ルイズは、安堵の吐息を漏らした。
「はい。王族と瓜二つのその土地の人と婚約者候補に知り合いになってもらったら、予告なしで、お忍びで婚約者候補の元を訪れて・・正体を見抜かれたら、顔を見せても良いということになりました。
元々、『婚約前に王族は顔を婚約者候補に見せることが出来ない』っていう決まりは、レピトルボルグ一世が、結婚の約束をしたまだ見ぬ婚約者と初めて会った時に、運命的な出会いを感じたのが始まりなんです」
「そうなんですね。・・でも、王室典範を変えても大丈夫なのですか?」
ルイズが上目遣いで尋ねると、ルルロフは笑って答えた。
「問題ないと思いますよ。例えば、『七日走りの儀』も、息が切れるまで全力疾走するのではなく、かつては本当に七日七晩を走り通さなければいけなかったそうです。でも、あまりにも大変だから、改訂されたそうです。大切なのは、昔の王室典範通りに行うことではなくて、王室典範で大切にしていることの真意を汲んで、敬意を払うことだと思いますよ」
「そうですね。そのお陰で、殿下にお会いできて本当に良かったです。
こんな我儘なわたしを好きだと言ってくれて、決して婚約を無理強いしないでくれる殿下は、どのような方なのか・・ずっと・・ずっと、気になっておりました。出来る事なら、是非、直接お会いして、お話をしたいと思っておりました。
殿下。わたしから、婚約に関して提案があるんですけど・・」
「はい。なんでしょう?」
婚約と聞いて、ルルロフは緊張した面持ちで襟を正して、ルイズの言葉を待った。
「殿下・・。わたしも、一目お会いして、運命の出会いを感じました。殿下のことが、わたしも好きなんだと思います。でも・・婚約する前にもっと殿下のことを知りたいのです。
それと、今、同じ学び舎で学んでいる学友を見て羨ましく思ったことがあるのです。
殿下・・婚約する前に、わたしの恋人になって頂けませんか?」
ルルロフは、ルイズの突然の告白に驚いたが、にっこりと笑って答えた。
「はい、喜んで。ぼくもルイズさんのことをもっとよく知りたいな。これからよろしくお願いします。 ぼくのことは、ルルロフでいいですよ」
「こちらこそよろしくお願いします。・・その・・ル、ルルロフ、もう少し砕けた話し方にしてもいい?」
「勿論だよ」
「そう・・。わたしのことも、ルイズでいいわ。ねえ?ルルロフ」
「なんだい?ルイ・・んむっ」
ルルロフの言葉は、途中で一瞬ルイズの唇に塞がれた。突然のことで、ルルロフはきょとんとした顔で、ルイズを見つめた。
「えへへ// 結婚前にはしたないかもしれないけど、恋人ならキス位するでしょう?・・ダメ?」
頬を赤く染め、上目遣いでルルロフを見つめながら、ルイズは悪戯っぽく笑って言った。
「そんなことないよ// ルイズ」
「じゃあ、ルルロフもわたしにキスして//」
「分かった//」
ルルロフの顔が近づき、ルルロフの唇が、ルイズのそれと重なった。ルイズの心の中は温かい気持ちでいっぱいになり、先程のワルドの一件で傷ついた自分の心が癒されていくのを、ルイズは感じた。
「ぷはっ。えへへ// わたし、今、すごく幸せよ// ルルロフ」
「ぼくもだよ// ルイズ」
ルイズは、ルルロフの胸にしばらく顔をうずめていたが、ウェールズがどうなったか気になり、ルルロフに尋ねた。
「ねえ?ルルロフ。ウェールズ皇太子達はどうしたの?」
ルルロフは、微笑んで言った。
「大丈夫、心配ないよ。昨夜、ウェールズ皇太子を説得してきたんだ。ワルドが『レコン・キスタ』で、恐らく、ウェールズ皇太子の命とアンリエッタ姫の手紙を狙っているであろうことを教えたんだよ。説得には苦労したけど、ウェールズ皇太子が生き残っていれば、アルビオン王政府を再建する機会は必ず訪れるであろうこと、トリステインに迷惑をかけずに亡命する方法があることを教えたんだ」
「そんな方法あるの?」
「うん。ゲルマニアに亡命することだよ。勿論こっそりだけど。そうすれば、トリステインとゲルマニアの同盟を拒む理由も生まれないしね。アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』は、ゲルマニアと一戦することにしたとしても、今すぐ戦えば間違いなく『レコン・キスタ』は負ける。そう簡単に、ウェールズ皇太子達に手出しができないはずだ」
ルイズは、ルルロフの言葉にパッと顔を輝かせた。
「じゃあ!ウェールズ皇太子達は!」
「うん。今頃、ゲルマニアの郊外に着いたんじゃないのかな?ウェールズ皇太子は王党派の家臣と共に『イーグル』号の中さ。非戦闘員に加えて乗り込むには手狭だったから、科法『スケールアップ』でさり気なく、『イーグル』号を大きくして、バレないように科法『シースルーシール』で、『レコン・キスタ』の連中にだけ見えないようにしておいたから安心だしね。
ただ一点だけ・・、ワルドがルイズとの結婚式の媒酌を頼んで、事情を知らないウェールズ皇太子が引き受けてしまったから、ウェールズ達が無事に逃げ果せるまで、ウェールズのふりをぼくがして、時間を稼いでいたのさ。下手にワルドを刺激して、『レコン・キスタ』の仲間に知らされては厄介だからね」
「そうだったの・・。良かった!ありがとう。ルルロフ」
「どういたしまして。ルイズ」
ルイズとルルロフが話をしていると、ギーシュがそんな二人を呼んだ。
「おーい!そろそろ行かないと、マズいよ!早くしたまえ!」
「じゃあ、そろそろ行こうか。ウェールズ皇太子は生死不明の方が、何かと都合がいいから、アンリエッタ姫には悪いけど、生きているとだけ伝えて、公にはそう発表するように言ってくれないか?ルイズ」
「分かったわ。ルルロフ、あなたはどうするの?」
「ぼくは、アンリエッタ姫には会わずにマール星に帰るよ。ぼくのことは、アンリエッタ姫には伏せておいてくれないか? ハルケギニアの情勢にマール星が関わるのはあまり良くないし・・実際、ぼくは表立って活躍はしてないしね」
そう言って、ルルロフは悪戯っぽく笑った。
「そうね。あとで、ギーシュ達にも口止めしておくわ。じゃあ、行きましょう」
ルイズとルルロフが穴に潜った瞬間、礼拝堂にウェールズ達王党派を探しに貴族派の兵士やメイジが飛び込んできた。
ウェルダンデが掘った穴は、アルビオン大陸の真下に通じていた。
ルイズ達が穴から出ると、すでにそこは雲の中である。待ち構えていたシルフィードが、ルイズ・チンプイ・カリーヌ・ギーシュ・キュルケ・タバサを背に乗せ、ワルドを前足で暴れないようにしっかりと抱えて、ウェルダンデは口にくわえられた。
ジャイアントモールは風竜の口にくわえられたので、抗議の声を上げた。
「我慢しておくれ、可愛いウェルダンデ。トリステインに降りるまでの辛抱だからね」
ルルロフとマジローは、マジローが用意した王室御用達の宇宙船に乗り込む。
「ルルロフ・・また、会えるわよね?」
「勿論だよ、ルイズ。時々会いに行くし、これからは、科法『遠隔通信』でお話もしよう」
「嬉しいわ// ええ、勿論よ。ねえ?ルルロフ。わたしもマール星に行ってみたいんだけど・・いい?」
「勿論、大歓迎だよ// じゃあ、またね!ルイズ」
「またね!ルルロフ」
ルイズとルルロフは、お互いに別れを惜しむようにキスをして、各々、トリステインとマール星へと向かった。
そんな二人の会話を見ていたチンプイ達は、ウェールズが実はルルロフであったことにも驚いたが、なにより、頑なにルルロフを拒んでいたルイズのあまりの変わりように呆気にとられていた。
「何やってるのよ?皆。ほら、行くわよ」
「う、うん。ルイズちゃん、随分、殿下と打ち解けたんだね。殿下と婚約したの?」
チンプイがそう言うと、ルイズは胸を張って答えた。
「まだよ。 取り敢えず、ルルロフと恋人になったわ」
「・・まあ、手順をちゃんと踏むならそうよね。それにしても、悔しいわね。ルイズの恋人があんな超イイ男だなんて。初めて、先を越されたわ」
キュルケは困ったように、お手上げのポーズをした。
「婚約する前に、まずは恋人・・いいわね。わたくしも青春を思い出すわ」
そんなルイズ達の様子を見て、カリーヌは昔を思い出しながら、ひとりごちた。
大変お待たせ致しました。原作2巻分終わりました。
ウェールズが助かっている時点で、大きく展開が変わってきていますが・・なるべく、原作リスペクトでいきたいと思っています。この後、どうなるのか、ご期待ください。
次回は、外伝としてエレオノールの結婚相手に関するお話を入れようと考えております。