どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい 作:通りすがりの外典マン
「あら、何処行ってたの? えらく遅かったけど......もう「変身」の競技も始まるわよ?」
「あ、ああ......悪い、少しな」
未だにギチギチと軋む音が幻聴のように聴こえてくる気すらする。まるでブリキ人形になってしまったようだと自嘲した。
──だが。このお人好しの少女の前で体調が悪いなどと言えば、どうせお節介を焼かれてしまう。だからこそ、俺は必死に笑みを取り繕った。
「全くもう......グレン先生とルミアは何処かにいって帰ってこないし」
「は? 帰って来てない?」
思わず目を丸くする。そして脳裏に過るのは先程の王室親衛隊の面々だ。......まさか、また面倒なことに巻き込まれているのだろうか。
「ああ、でも安心して。グレン先生の友人って人が来てくれたから」
「......おいおい、いいのか? それ」
「大丈夫よ。正式な許可証も持ってるみたいだし、それに......」
ちらりと。奥の方でリン=ティティスの肩を叩いている青年を見やり、ふっとフィーベルは笑った。
「今までずっと見てきたみたいに、私達のことをよく知ってるみたいだしね?」
「......はぁ、成る程ねぇ」
そのさらに奥で壁に寄りかかる無表情な少女を見つけ、俺は嘆息する。
大体の事情は飲み込めた。察知しているのは恐らく大天使ルミア様と家族同然に暮らしていたフィーベルくらいのものだろう。それとなく示唆されて何となく理解する。
「まぁいいさ。暫く空けてて悪かったな、ここからは仕事するわ」
「そうして頂戴。基礎魔術の成績はともかく、あんたのそういった能力はそれなりに役立ってるんだから」
本当に、素直じゃない奴だ。
競技場の中央に降臨する時の大天使ラ=ティリカの様子を見ながら、俺は小さく笑うのだった。
それから「使い魔操作」、「探査&解錠」の競技でどうにか盛り返し、どうにか二組は優勝射程圏内へと盛り返した。次は魔術師の伝統競技「グランツィア」。そうして始まった、言わば結界構築による陣取り合戦とも言うべきものを手に汗を握りながら眺める。
「そうだ......それでいい。下手に勝ちを拾いに行こうとすれば負けるぞ。狙うとすれば土壇場の大逆転だ」
「......? どういうこと?」
尋ねるフィーベルの向こう、同じようにグランツィアの様子を見守る黒髪の青年アルベルト──グレンの友人を名乗る彼へと視線を向ければ小さく頷かれる。もう盗聴などで作戦を悟られる心配もないのだろう。俺はフィーベルに説明してやることにした。
「一組と二組じゃまず根本からして地力が違う。これまでの競技と同じように真っ向勝負は狙わず、相手の結界構築の妨害に専念することで引き分けを俺達は狙っている──だなんて、向こうは思ってるんだろうな」
「え、違うの?」
「別に間違っちゃいないさ。別にそう転んだとしても構わない。だが見据えるのはあくまでも完全勝利だ」
刺されば勝ち。相手が堅実にくれば負ける危険な一手だが、頭に血が登りやすいハーレイ講師の性格、そして講師の言いなりになるいい子ちゃんの多い一組の傾向を加味すれば──決して分の悪い賭けじゃあ、ない。
「"サイレント・フィールド・カウンター"。お前なら分かるだろ?」
「──う、嘘!? まさか──っ!?」
数秒の間グランツィアのフィールドを見た後に、まるで信じられないアホでも見るかのような視線をフィーベルが向けてくる。いやこれ俺が考えたんじゃねーっての。大賛成はしたけど。
「......条件は一定領域におけるアブソリュート・フィールドの構築。そうよね?」
「正解だ、システィーナ=フィーベル君。グリフィンドールに20点あげよう」
「ぐりふぃんどーる......?」
しかし流石だ。この数秒で味方とはいえ意図を読み切るとは、純粋に頭の回転が早いのだろう。
「ハーレイ先生の性格ではまどろっこしい方法は好まないだろう。あのプライドの高さからして、正攻法から圧殺してくる可能性が非常に高い。だからこそ──」
構築されていたアブソリュート・フィールドの赤い光が砕け散る。俺とアルベルト(仮)は同時に笑った。
「──この作戦は刺さる。頭に血が登ったハゲの心理なんざ読みやすいことこの上ないわな」
講師としては優秀なのだろう。だが魔術師であって競技者ではない。それに比べ、軍人として合理性を突き詰めたレーダス先生の思考法には脱帽する他なかった。
「凄い、本当に勝っちゃった......」
唖然とするフィーベルの横で、アルベルトは僅かに眉をひそめた。
「十回やれば九回は負ける勝負だ。残り一回を最初に引いただけだがな」
「だとしても、アルベルトさんって本当に凄いんですねー」
その黒い瞳を見やり、俺は薄く笑う。
「うちの選手に対する細かなサインによる指示出し。完璧でしたよ? 恐らく時間きっちりの正確無比な采配だ。......だよな? フィーベル」
「え、えぇ。測ってはいたけど......」
見せてくれたそれに書いてあるのは試合の推移だ。見れば見るほどアルベルトの指示が完璧であることがよくわかる。
まるで今まで何度も練習してきたかのように、だ。
「カウンターが決まったのも貴方のお陰だ、アルベルトさん」
「違うな。......カウンターを成立させるために、お前達のクラスは一丸となって協力して、選手達が少しでも使いやすいように結界構築の術式を調整したらしいな」
「ん? んんん? あっれー? 何でそれ知ってるんですかねー?」
一瞬だが、アルベルト(仮)の顔に浮かんだ「しまった」という顔を視界の端に捉える。この表情、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!
「..................グレンの奴から聞いた。とにかく、お前達の勝利はお前達だけのものだ。俺は、ほんの少し後押ししただけに過ぎん」
「ほーん......ま、そう言うことにしときますかね」
フィーベルと顔を見合わせて笑う。グレン=レーダスという男に腹芸は出来ないらしい。
「さて、競技祭もいよいよ大詰め! 次は注目の『決闘戦』、私の出番ね!」
自分を奮い立たせるようにそう言うフィーベルに、アルベルトを名乗る青年はふっと笑った。
「そうか......期待しているぞ」
「......っ! はい、期待しててください」
一瞬きょとんとした後に、フィーベルは不敵に笑った。そしてこちらを一瞥する。
「征ってくるわ」
「おう、勝つべくして勝ってこい」
随分と男らしい勝利宣言に、俺は笑って返した。
まあ結論から言えば、決闘戦は危なげなく勝ち上がった一組と二組の最終決戦へと突入した。先鋒のカッシュは惜しくも敗れ、しかし見事にその敗北をギイブルが取り返し差し引きゼロ。そして決着は大将同士の激突に委ねられたのだが──。
「《雷精の紫電よ》ッ!」
「《災禍霧散せり》!」
最速の一節詠唱の【ショックボルト】。一組のハインケルのスペックは情報通りフィーベルのそれに匹敵する──が、すかさず唱えられた【トライ・バニッシュ】により打ち消される。両者は一定距離を保って円を描くように横へ駆け出す──。
「《大いなる風よ》──ッ!」
「《大気の壁よ》──ッ!」
フィーベルが最も得意とする突風呪文【ゲイル・ブロウ】。それに対し即座に障壁を形成するハインケル。成る程、初手は互角だ。
「《紅蓮の炎陣よ》──ッ!」
「《守り人の加護あれ》──」
放射状に広がる炎の壁は【トライ・レジスト】で凌ぐ。舌打ち混じりにハインケルは【ディスペル・フォース】の起動詠唱へ突入し。
「《力よ無に──」
「《光あれ》!」
【フラッシュ・ライト】の閃光がその一歩先をいく。炎嵐をいなしきったフィーベルが笑う。
「《白き冬の嵐よ》」
「《大いなる風よ》──ッ!」
しかし【ホワイト・アウト】は【ゲイル・ブロウ】によって迎撃され、体勢が傾いたフィーベルは慌てて【グラビティ・コントロール】により自身の体を大地へと縫い止める。
そして即座に逆襲の牙を剥いた。
「《雷精の紫電よ》!」
「《災禍霧散せり》......!」
......何とも魔術師らしく。そして凄まじい勝負だ。攻守立ち回りの上手さは既にどちらも学生の領域ではない。
「《来たれ・翼持つ炎の下僕・契約を果たせ》」
「《還れ・在るべき場所へ・契約は棄却されたし》」
使い魔召喚が即座に却下され、霧散する魔力が僅かな光を放つ。魔術師らしく、そして幻想的な光景だ。
──そしておよそ二十五分。互いの顔色からしてどちらも魔力が尽きかけている状況で、ついにフィーベルの
「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》──ッ!」
「改変呪文、だと......?」
俺は思わず驚きに目を見開く。
魔術師というものは魔術を行使すれば、例外なく多少なりともマナ・バイオリズム──言わば魔力平衡状態が崩れる。恐らくそのタイミングを完璧に見切ったのだろう、わかっていても魔術行使不可能な間隙をついて放たれた改変呪文はハインケルを焦らせるには十分だった。
「な──なんだこの呪文はッ!?」
焦るハインケルは咄嗟に【エア・スクリーン】を張るが、それは悪手だと言わざるをえない。詠唱からもわかるようにこの改変呪文は攻撃ではなく妨害、敵に纏わりつき突風による空圧の檻によって封殺することを目的とした呪文だ。
名付けるならば──黒魔改【ストーム・ウォール】。時間稼ぎを目的としたその呪文は見事にその役割を果たした。
「そこッ!《大いなる風よ》──ッ!」
そこへ放たれる十八番の【ゲイル・ブロウ】。先程の【ストーム・ウォール】による風すら取り込みながら暴風は【エア・スクリーン】を砕き、ハインケルを場外へ吹き飛ばした。
......一瞬の静寂。そして──。
『き、決まった──ッ!? 場外だぁあああああああはああ──ッ! なんと、なんとぉおおおお──ッ!? 二組が、あの二組が優勝だぁああああああ──ッ!』
次の瞬間、会場は総立ちで拍手と大歓声を送っていた。
もはや敵も味方も、勝者も敗者も、学年次の違いすらない。凄まじい決闘を演じた両者に対する純粋な賛美の嵐だった。
その最中、当の本人は疲労からか膝をついて呆然としている。しかしようやく自分が勝ったのだということを実感として受け止めたのだろうか──此方へと親指を立てて笑った。
そしてそれと同時に、二組の生徒達が観客席から飛び出した。
「やったぁあああああ──!」
「え!? その、きゃあッ!?」
そのまま即座に胴上げへ移行する辺りが何故か手慣れている。俺は苦笑混じりにその様子を眺め、そして横の青年へと視線を移した。
「......よくやった」
「ええ、本当によくやったもんですよ。まさかマジで優勝するなんて」
「お前は行かないのか?」
指す先にあるのは揉みくちゃにされるフィーベルの姿。俺はかぶりを振った。
「流石にあの中に突っ込んでく勇気はありませんよ。それより、先に店の予約でもしておきましょうかね?」
「......それでは閉会式を欠席することになるぞ」
「構いませんよ。どうせ毎年恒例のもんだ。......まぁ、今年は少々勝手が違うかもしれませんけど」
そう言って肩を竦めてみせれば、青年は「そうだな」と小さく笑う。その姿に満足した俺はくるりと背を向けて呟いた。
「じゃ、後は頼みましたよ──先生?」
「......!? な、お前......!」
むしろバレていないと思っていた方が驚きだ。
俺は笑いながら学生街へと繰り出すのだった──。
「────────っ、あ」
「おやぁ? 意識が戻りましたか」
記憶が飛んでいる。目を開けば、そこにあるのは此方を見下す女の瞳であり。
「まぁ念のため、もう一度聞いておきましょうか。大丈夫ですわ、手の二本や三本なくなり半身不随になる程度──どうとでもなります」
首が締まる。何処か腐臭のするその女はくつくつと笑った。
「私と共に来て下さらない? 我らが主は貴方の力に興味がおありだそうでしてよ」
嗚呼、どうしてこうなったのだろうか。
人払いの結界によって誰もいない路地裏で、骨が砕ける音が響いた。
無難に終わると思った? 残念!みんな大好きゾンビ系外道万能美少女ヒロイン★エレノアちゃんがいました!
次回、イグナイト死す(大嘘)。デュエルスタンバイ!