どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい 作:通りすがりの外典マン
中庭の隅。そこで俺は紙束を片手にカッシュと顔を突き合わせていた。目を落とす先にあるのはあのロクでなし講師が徹夜で考えた戦略等である。
「えーっと......カッシュ、言っちゃ悪いがお前は俺よかマシとは言え、そこの
「お、おう......それで?」
若干呆れた風ながらもカッシュは続きを促す。
「だから基本的な戦術は"敵を倒すこと"ではなく"倒されないこと"。先天的な身体能力の高さと格闘センスを活かすことを考えれば、カッシュに最適なのは"耐えて近付いてぶん殴る"戦術だわな」
とは言え。
「いくら頑丈つっても、生身で耐えれるのは恐らく一発程度。常に【トライレジスト】を貼り続けるのにも限界があるし、回避を念頭に練習するべきだろうな」
「回避......回避かぁ」
「まあ相手だってそんなことは百も承知だろうし、だからこそ決闘戦はセオリー的にショックボルト、或いは面制圧型の魔術を選択してくることが多い」
当然と言えば当然の話だ。ショックボルトは魔力によって擬似質量が付与されているとはいえ、その速度は基礎的な魔術の中でも最速に近い。見てから反応することはほぼ不可能であり──故に安易に選択してしまうその心理を逆に突く。
「だからカッシュに必要な練習は二つ。一つ目は単純な魔法の回避。そして二つ目は対ショックボルト用の防御だ」
「ショックボルトの対策ねぇ......でもどうするつもりなんだ?」
「別に奇抜なことでも何でもないさ。雷速に対応しきれないならそれまでにトライレジストを展開すればいい。一節詠唱なら、展開されるのを見た瞬間に此方も一節詠唱で対抗すればいいだけだ」
うへぇ、とカッシュが顔を歪める。うん、そう反応するだろうと思った。
「要するに徹底的な反射訓練だよ。ぶっちゃけ今の時期から新しい呪文覚えようとしても無駄に近いし、それなら戦法を絞って基礎反復した方がいいだろ?」
俺は自信満々に頷く。そう、名付けて──。
「『魔術に耐えて物理で殴れ』。実に
「全く魔術師っぽくないような気がして微妙な気分なんだが」
「何言ってんだ、トライレジストだって立派な魔術だろうが」
わかるか?と羽ペンをくるくると回しながら言う。
「錬金術で武器を錬成して殴ってもそれは魔術だし、フィジカルブーストを
「いくら何でも脳筋過ぎだろ!?」
だって俺魔術ろくに使えないし。必然的に近接戦に特化してしまうのはしょうがあるまい。是非もないよネ!
「敵なんざ倒しちまえば脳筋もへったくれもねーんだよ。つまりカッシュ、お前の筋肉が勝敗を左右するんだ」
「ぐっ......まぁ、それしか勝つ方法なさそうだしなぁ」
「格上相手に引き分けに持ち込めるだけでも上出来、勝てて御の字だろうさ」
本来の実力差を鑑みればそのレベルだ。俺は頷き、言うべきことは粗方言い終えたか、とレーダス先生の予想やら何やらが書き込まれた紙を一瞥する。
「こんなところかな。んじゃ、そう言うわけで。練習頑張れよ」
「おう。またアドバイスよろしくな」
「それはレーダス先生に言ってくれ」
俺はメッセンジャーに過ぎない。激励の意味を込めてカッシュの肩を叩き、中庭から去る──ことが出来なかった。
「......何か用か?」
「ちょっと。私には何かないわけ?」
ぐい、と制服を掴む先にいるのは不満そうに此方を睨む銀髪の少女だ。その言葉に僅かに眉をひそめる。
「ない」
「何よそれ、私には興味もないってこと?」
「いや、そうじゃなくてだな」
先程シロッテの枝をくわえたままのレーダス先生とした会話を思い出し、そしてグレン=レーダス直筆アドバイス集へと視線を落とす。しかしそこにはシスティーナ=フィーベルへの助言は欠片も存在しなかった。
だがそれはフィーベルに対してグレン=レーダスが関心がない、ということでは決してない。
「だってお前、口出しするようなこと何もねーんだもん」
「......え?」
端的に言って、システィーナ=フィーベルは完成され過ぎているのだ。
学生用の魔術のほぼ全てを網羅している彼女はあらゆる魔術に対策でき、加えてレーダス先生によって魔術に対する根幹的理解を深めていることから即興の改変魔術まで行使可能だ。単純な手の読み合いに関しても、フィーベルに追随できる二年次生など片手の指で十二分に事足りるだろう。
グレン=レーダスのような突出した技能があるわけでもなく、俺のように何かに振り切れたピーキーな性能であるわけでもない。オーソドックスに満遍なくあらゆる技能が高水準で完成してしまっているフィーベルは、もうどうしようと勝てるんじゃね?という領域にある。二年次生トップに君臨する秀才は伊達ではない。
「敢えて言うなら......そうだな、精神鍛練でもしたらどうよ? 滝に打たれてきたら?」
「......本当に何もしなくていいの? 色々と不安が残るんだけど」
......やはり唯一の弱点は精神面か。そこは一朝一夕ではどうにもならないな、と思うも一応心の中でメモしておく。
「まぁ大丈夫だろ。いつも通りに、冷静になって戦えばフィーベルが負けるなんてことは有り得ない」
「そ、そう」
そう断言する。というかお前が負けたらレーダス先生マジで餓死するぞ。愚痴を聞いてみれば完全に自業自得だし売り言葉に買い言葉で給料三ヶ月分勝手に賭け出すし、もうこいつ死ねばいいんじゃないかなとは思ったがあれでも優秀なのは優秀なのだ。流石に野垂れ死ぬのは可哀想である。
というかその賭博癖をどうにかしろよ。ちなみに以前アルフォネア教授と廊下ですれ違った際にそれとなく『どうにかしろ』と言っておいたのだが、返答は死んだ目だった。第七階梯の人外魔術師が匙を投げるってどういうことなの......?
「ともかく、そんな感じで頑張ってくれ。期待してるぞ」
「え、あ......うん!」
監督が選手に向かって言う風な感じで適当に応援しておく。ついでに木陰で本を読んでいるギイブルへと目を向けるが──一瞥し、鼻で笑われた。まあギイブルに関しては心配する必要はないだろう。いつも通りに冷笑を浮かべながら勝利してくれる筈だ。
「あー、次は飛行競争の奴等だっけ? 要はマラソンと同じようなもんか」
そう独りごちながら、俺は飛行訓練場へと歩を進めるのだった。
「疲れた......おうちかえりたい......」
「腹減った......シロッテの枝飽きた......」
歩き回って棒になった足を揉んでいると、横でぎゅるるる、と情けない音が鳴る。シロッテの枝と水以外何も摂取していない状態に突入してこれで三日目、運命の日まで残り四日である。
......流石に少しやつれてきたが、果たして生き残ることはできるのだろうか。まあ自業自得なんだけど。
「ま、これで勝てなかったらどうしようもないっすね。後は運を天に任せるしかない」
「あいつらも必死にやってるんだ、きっと勝てる......いや優勝してくれないと俺がマジで死ぬ。三ヶ月シロッテの枝は流石に死ぬ」
まあ本当にそんな状態になったら何処かの大天使がせっせと養ってくれることだろう。その罪悪感に押し潰されて死ぬがよい。
「......なぁ、シェロ。言った俺がなんだが、良かったのか?」
「? ......ああ、そう言うことですか。別に構いませんよ、元から俺やる気ないですし」
渡り廊下から中庭を眺めるレーダス先生の目には何処か郷愁が浮かんでいるように見える。確かここの卒業生だった筈だ。
「俺の頃から『クラスの成績上位者のみ魔術競技祭に出場させる』って傾向はあってなぁ......競技"祭"だってのに、辛気くせー空気が漂ってたもんだよ」
「ははは......先生もそのクチっすか?」
「ま、否定はせんよ」
ろくな思い出がなかったのだろうか。一瞬昏い瞳になった男の背を見て、俺は苦笑する。
「心配ないですよ。俺は楽しくやってる奴等を見て内心妬んでる──何て、ありきたりな根暗ぼっちじゃない。周りが楽しけりゃそれでいい、どうせ俺は"無能"ですし」
「それは──」
「違う、ですかね? 普段ロクでなしなくせして、妙に熱血な人だ」
劣等感がない、とは言わない。とは言え友人を持ち、気軽に絡めるクラスメイトもいるのだ、これ以上何を望むと言うのか。
「俺は"無能"でいい。むしろそうでなければ俺じゃないんですよ」
俺は肩を竦めて
"無能"である現状が最善なのだ。何もかも出来ない俺こそが最も俺らしい。
──力を求めれば、
「お前、は」
気付けば、レーダス先生は此方を見て絶句していた。何かおかしかっただろうか、と俺は首を傾げる。
「まあ魔術が全てってわけでもないですし、卒業しても食いっぱぐれるわけじゃあない。こんな俺でもどうにかなるでしょうよ」
じゃ、と言ってその場を離れる。そろそろ下校時刻も近い──下の連中に言っとかないとな、と考えながら俺は階段を降りていった。
「......それは達観じゃない。諦感だぜ、シェロ」
笑うと言うよりは嗤う、という方が正鵠を射ている笑み。それがかつての上司である紅蓮の少女の嗤い方と重なり、グレンは何とも言えない心地で夕空を見上げる。
そして。
とある悪意が帝国の頂点へ牙を剥く──魔術競技祭の日が、ついにやってくる。
短ァい!
何か上手いこと切れなかったので中途半端ですが投稿。やったぜ魔術競技祭が来る!原作リィエルアホ可愛い!そして強化される主人公!砕かれるメンタル!
おっと心は硝子だぞ(テンプレ)。