どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい 作:通りすがりの外典マン
ちなみに主人公の見た目は思いっきり士郎です。赤っぽい茶髪な感じの。しかし段々と白髪が増えてきて......?
「《
たった一節。それだけで脳裏に三次元的理解を越えた完全なる設計図が描き出され、異能として備わった異形の結界から抽出された"剣の要素"──それと魔力を取り込みながら一振りの剣が錬成......否、投影される。通常の錬成とはまるでかけ離れた生成過程は異質の一言に尽きるが、しかしそれはただ異能であると断定するには魔術的要素が多すぎる。
言ってしまえばそれは俺の
......話が逸れたか。それで結局、こうして久々に投影してみた結論なのだが──。
「明らかに精度が上がっている、か」
解析能力も向上している。今までは剣の基本骨子ら構成材質を見抜くのが手一杯だったのが、魔剣の類に付与された術式まで解析可能となっている。下手をすれば成長経験、即ち使い手の技量すらも保存してしまうレベルであり、ある程度のスペックまでならば投影も可能だ。
「......これ以上"深化"させたら不味いな」
ただ投影するだけならば恐らく問題はない。だが身の程を越えた投影を──現時点での限界を越える投影に手をかけた瞬間、あの心象は内側から俺を喰らい始める。始めに記憶を。次に人格を。喰らい尽くされたが最後、そこに立っているのはシェロ=イグナイトではなく無銘の正義の成れの果てだ。
「使わなければいいんだ。使いさえしなければ......」
投影した剣を消失させ、そろそろ寝るかと思い窓の外を見る。
──朝日が見えた。
「マジかぁー......」
一瞬で死んだ目になる。どうやら投影を色々試している間に数時間も経過していたらしい。ふぁっきゅー太陽。
「おっす、元気......じゃないみたいだな」
「眠い......マジで眠い......医務室でサボりたい......」
「セシリア先生に叱られるぞ」
「あの人に怒られるならありかもしれない」
わかるわー、とカッシュが頷く。あの儚げな美人に説教されるならそれはそれでありだ。しかし儚げ......とは言ったが、あの人実際半端じゃないレベルで病弱だったりする。風邪で吐血するとか割りと洒落にならない。あれ本人が治癒魔術に特化してなかったら今頃ぽっくり死んでいたのではなかろうか。
「やっぱ美人はいいよなぁ......大天使ルミア様もいいけど、やっぱり大人のお姉さんは外せない」
「フィーベルはどうなんだ?」
「あ? あんなちんちくりんはどうでもいいんだよ」
「お、おう」
わかってねぇな、と俺は肩を竦めて見せる。
「顔が良ければいいとか、そう言う問題じゃあないんだぜカッシュ。これはな──男のロマンだ」
「ロマン......」
「ロマン、或いは夢と言い換えてもいい。わかるか? フィーベルはその点で大天使に大敗を喫している。つまり奴は負け犬、いや負け猫なんだ。ぷぎゃーワロス」
「ここまで扱き下ろされるとフィーベルがちょっと可哀想になってくるぞ」
何か微妙な顔をしていたカッシュだったが、突如としてその表情が凍る。......表情筋でも吊ったのだろうか。
「確かに、一定の層には需要があるのかもしれん──だがな、やはり夢も希望も大きい方がいいんだ。そして奴には可能性という名の希望もないんだ......絶壁、いや絶望という言葉が相応しい」
「へぇー、そうなの」
背筋が凍った。見ればカッシュの顔は真っ青になっており、恐らく俺も同じような顔をしていることだろう。
「......結論を言うとだな。自分マジ調子こいてました許して下さい」
「永眠させて上げるからそこに直りなさい?」
こういう話は教室でするべきではなかったと思いました、まる。てかあいつチョークスリーパー何であんなに上手いの?
「飛行競争に出たい人ー。......じゃあ、変身の種目に出たい人は?」
はっとして目覚めれば、既にもう授業──ではなくホームルームが始まった後だった。ふぅむ、これが本当のキングクリムゾンか......最後に覚えてるのが後頭部に感じるやわこい感触だったのが謎だが、まあそんなことはどうでもいい。
肝心なのはこれが恐らく魔術競技祭の種目決めであり、そして去年も丸々サボった良イベだということだ。やったぜ今年も一日ダラダラできる。
「困ったなぁ......来週には競技祭なのに......」
「思いきってみんなで頑張ってみようよ」
困った顔の大天使ルミア様もまた麗しい。だが俺は頑張らない。というか出来ることが何一つとしてない。
──しかし運が悪いことに、見事フィーベルと目が合ってしまった。ガッデム。
「あんた、飛行競争に出なさいよ」
「いや何いきなり無茶ぶりしてくれてんの? ひょっとして墜落死させたいの?」
数メートル浮く程度なら出来るが、競技場を周回するとか夢のまた夢だ。あまり俺の雑魚っぷりを舐めない方がいい。投影にあらゆるリソースが奪われているため他はすっからかんなのだ。
「はぁ......じゃあどれなら出れるのよ」
「はい先生、何もやりたくないです」
「また締めるわよ?」
怖い......にっこり笑顔で締め落とす宣言するフィーベルさんマジ怖い......。
「いや、でも真面目に考えてみ? 俺みたいなのが出たところでボッコボコにされて終わりだろ?」
「そこの落ちこぼれの言う通りだな」
その言葉にぴくり、とフィーベルの眉が跳ねる。そのよく通る声に振り向けば、案の定ギイブルだった。
「女王陛下がご来賓されるのにわざわざ不様を晒す必要はないだろう。お情けで全員に出番を与えようとするからこうなるんだ」
「なっ......!?」
鼻で笑いながら締めくくり、ついでにギイブルは眼鏡をクイッと上げる。ふむ......この煽り力、十点満点で八点か。流石本体が眼鏡なだけはある。
「あなた......本気で言ってるの?」
「勿論」
再度眼鏡クイッを披露するギイブル。この殴りたくてたまらない仕草は本当に煽り力が高くて憧れるのだが、伊達眼鏡とかないのだろうか? 俺も煽りたい。煽り愛宇宙......!
そうして僅かな憧れと共に彼を見上げる。と同時にばぁんっ!と、派手に音を立てて教室前方の扉が開かれた。
「話は聞いたッ! ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな──ッ!」
......うん、まぁ。知ってたけど。
人差し指を前に突き出し、不自然なほど胸を反らして、全身をねじり、流し目で見得を切る謎のポーズ──そう、全く以て謎である。気づけば漂っていた不穏な空気は欠片も残さず霧散し、誰もが何なんだコイツ的な目線をくれていた。
「......ややこしいのが来た」
「わー、レーダス先生マジかっこいいー」
フィーベルは頭を抱えて溜め息を吐き、俺はぱちぱちと適当に拍手する。で、俺は寝ていいんすかね?
「まぁ、何だ。なかなか種目決めに難航してるようだな? おい白猫、リストよこせ」
「え、ちょ──というか猫扱いはしないで言ってるのに」
今年の種目一覧の書かれたプリント──何とも面倒な話だが、一部の種目を覗いて毎年競技は適当に変更されているのだ──を引ったくり、ふんふんとレーダス先生が目を通す。そして数十秒後、珍しく真面目な顔をした黒髪の男はとうとう参加メンバーを発表した。
「心して聞けよ、お前ら──」
そうして次々と連ねられていく名前とそれらが参加する競技名、そしてその根拠となった彼等の長所と短所。異論反論には正論で返し、得手不得手を適切に判別していく様はまるでまともな教師のようだ。否、一人一人の生徒の得意分野を逐一精確に把握しているなど、いくら担任講師とは言えこの学校の中で一握りいるかどうかだろう。
......おかしい。普段あのセリカ=アルフォネア教授に土下座して食費を捻出して貰おうとしているダメ人間とはとても思えない。給料日になればカジノに駆け込んでいく男にはとても見えない。
だが、ふとその目を見て気付いた。
あれは本気の目だと。遊びなど欠片もなく、本気で勝利を求めている者の目だ。昔見たことのある、あの目は──!
「餓死寸前の状態で、目の前に骨をちらつかされた野良犬の目......!」
崖っぷち寸前の目だった。もう嫌な予感しかしない。
「──異論はないな! じゃあこれで決まりだ!」
ギラついた目で教室中をグレンが見回す。しかしそんな餓えた野良犬めいた男に、唯一人反論する者がおた。
そう、我等が煽り眼鏡ことギイブル君である。
「やれやれ......先生、いい加減にしてくださいませんかね? 何が全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないじゃないですか」
「む......? ギイブル、ということはお前、俺が考えた以上に勝てる編成が出来るのか? よし、言ってみてくれ」
「......あの、先生、本気でそれ言ってるんですか?」
苛立ち混じりにギイブルが言い放った。
「そんなの決まってるじゃないですか! 成績上位者だけで全種目固めるんですよ! それが毎年の恒例で、他の全クラスがやってることじゃないですか!」
「..............................え?」
──あ、こいつ知らなかったな。
何故かは知らないが、最早勝ち筋を選んでなどいられないのだろう。重々しく頷いた。
「うむ......そうだな、そういうことなら......」
「何を言ってるの、ギイブル! せっかく先生が考えてくれた編成にケチつける気!?」
えっ、という顔をしてレーダス先生が振り返ってフィーベルの顔を見る。二度見する。
そして始まるフィーベル得意の説教──もとい演説だ。何だかんだ言ってこのクラスでの成績最上位者、面倒見もいい──というか良すぎるあまり説教魔と化しているフィーベルにギイブルまでもが、冷笑を浮かべながらも矛を納めた。
ちなみにレーダス先生は「期待しててね、先生!」と満面の笑みで振り向くフィーベルに対して、ひきつった顔で「お、おぅ」と返していた。声震えてんぞ。
「あ、でも先生。シェロの名前が入ってませんでしたよ?」
何で気付いてんのこの猫娘。わざわざ空気に徹していたというのに。
「あー、そういやそうだったなぁ......」
どうする?と言いたげにレーダス先生は此方へと視線をやる。それに対し、俺はかぶりを振って応じた。
「俺はいいっすよ。あらゆる魔術の成績が並み以下な俺じゃどう考えても敗北は必至だ。勝ちに行くんでしょう?」
「......そりゃそうだけどなぁ」
後ろのフィーベルの顔を見て、全力でやめろと目線で訴える俺を見て。最終的に結論が出たのか、大きく頷いた。
「よし! んじゃシェロ、お前はマネージャーな! 実際競技に参加するわけじゃないが、陰からクラスをサポートするのも立派な仕事だ。......やってくれるな?」
「マジっすか」
全員に参加して貰いたい、というフィーベルの要望と働きたくないでござる、という俺の切望を折半したような内容だ。まあ実際競技に出るよりは幾分かマシだ──俺は渋々ながらも首肯する。
「わかりましたよ......マネージャーつっても、ちょっと練習時間調整するくらいのもんでしょう?」
「んー......後はそうだな、各自の進捗状況とか勝てる見込みとか、まあそんな感じのもんをてきとーに報告してくれたらそれでいいよ。俺は明日の食糧をかき集めるのに忙しいんでな」
早速困窮してんのかこのロクでなし講師。生徒より金欠ってどういうこと?
余りにも哀れすぎたため少しくらいなら融通してやってもいいかなぁ、とか思ったのだが当の本人が「あでゅー!つーか腹減って死ぬ......!」とか言いながら超スピードで去っていったため諦めた。もうちょっと未来のこと考えて金は使おうぜレーダス先生。少々刹那的に過ぎやしないだろうか。
「......じゃ、と言うわけで。俺も帰っていい?」
「帰らせると思う?」
超笑顔でこちらを見るフィーベルに思わず頬をひきつらせる。ようしぼくがんばっちゃうぞー!だから一節詠唱でフィジカルブースト発動させてこっち見るのはやめて欲しいの。
「とりあえず、あんたは誰がどの競技に出るかまず覚えること。それに練習場所の確保、後は......他のクラスの情報収集?」
「Oh......」
どうやら今年の俺は忙しいらしい。それが良い変化なのか悪い変化なのかはわからないが、敢えて言おう──働いたら負けだ。
つまり俺はこの瞬間から敗北してしまったのである。......おうちかえりたい。
まあ投影しか出来ない無能が出場しても普通惨敗するよね、って感じでマネージャー扱いに。
ちなみに異能者だとバレたら教会の代行者ぽいのが殺しにくるらしい。恐ろしい世界やで......。