どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい   作:通りすがりの外典マン

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あの......感想たくさん来るのは嬉しい......嬉しいんだけど......1話で九ページぶん来るのは辛い......返信できないけど許して下さい(瀕死)







Nameless

 

 フェジテ東地区の一部及び西地区は一時的に封鎖され、あの凄惨な事件から二週間が経った。だが重症を負ったグレンは未だ復帰できず、生徒たちは無事に帰ってきたことに胸を撫で下ろしながらもその帰還を待ちわびていた。

 

 いたのだが──。

 

 

「......シェロ、来ないね」

 

 いつも通りの無表情で窓の外をリィエルは見やる。だがその表情の裏で渦巻いている感情の大きさは、数ヵ月とは言え一緒に過ごしてきたシスティーナとルミアには理解できた。

 リィエルにとってシェロは友であり、そして唯一の弟子とも言える存在だ。そんな独特な立ち位置にある彼がいない日常は酷くつまらなくて。

 

「あの、馬鹿......」

 

 それはシスティーナにとっても同じだった。あの後、シェロを中心に放たれた膨大な魔力──無差別に暴れ狂う焔の如き魔力は衝撃という現象として自動的に具現化され、グレンとシスティーナは揃って気を失ってしまっていたのだ。気付けば既に全ては終わっており、シェロもジャティスも忽然と姿を消してしまっていた、というのが真相だ。

 

 だからこそ、システィーナはシェロが一体どうなったのかを知らない。彼の末路を知らない。

 

「さっさと、帰ってきなさいよ」

 

 幸か不幸か。彼女は、シェロと呼ばれた少年の末路をまだ知らなかったのだ──。

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ......説明しろ、アルベルトォ!」

 

 胸ぐらを掴み上げ、壁に叩きつける。偽りなど許さない。そんな思いを込めて至近距離で睨み上げるグレンを見下ろし、アルベルトは言葉を紡ぐ。

 

「......シェロ=イグナイトは死んだ、とされている。公的にもほぼそれで確定した。厳密には行方不明という扱いだが、あの負傷では死んでいる可能性の方が高いだろう」

 

「そんな......嘘だ、あいつはッ!」

 

「宮廷魔導士団としての見解は、死亡。だが行方不明になる直前、戦闘したと思われるジャティスの死体もなかったことから何らかの関連性があるのではないかと疑われてはいるな。現にあの場には、お前達以外が争った形跡が何処にもない」

 

「んな、馬鹿な......ッ!?」

 

 その瞬間、はっとグレンは息を飲んだ。

 

「まさか、お前ら......シェロが天の智慧研究会だと......」

「さて、な。そういった嫌疑がかけられていることは否定しない」

「っ、有り得ねぇ。あいつが天の智慧研究会の一員だなんて──!」

 

 口元を戦慄かせながらそう溢す。気付けば胸元から手を放しており、アルベルトは無表情でそれを見つめていた。

 

「......あくまで行方不明だ。一応、捜索はしている」

「ぐっ......俺も捜す! 行方不明だなんて、俺は──」

 

「勘違いするなよ、グレン=レーダス」

 

 かちゃり、と。本来グレンの武器である銃、"ペネトレイター"をそのこめかみへと突き付けた。無論、ただの脅しなのだろう。だが頭に上りかけていた血は逆流し、瞠目するグレンの瞳に映るアルベルト=フレイザーは能面を張り付けたかのように無表情だった。

 

「今のお前は軍属ではない。教師だ。領分を履き違えれば、如何にお前と言えど加減は出来ん」

「......、クソッ!」

 

 どうすることもできず、力無くグレンはベッドサイドに腰を落とした。打つ手はない。それに今のグレンが捜索に加わったところで何か進展があるとも思えない。

 

「......頼む、アルベルト。あいつを見付けてくれ」

「手は尽くそう。だが、あまり過度な期待はするな」

 

 それがアルベルトに出来る最大限の譲歩なのだろう。グレンは黙って頷き、アルベルトは背を向けて病室を出る。

 

「............すまない、グレン。だが今のお前では──」

 

 

 続きの言葉を飲み込む。そして僅かに唇を噛み、振り返ることなくアルベルトは廊下を進んだ。

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

 無言。

 ただ無言で男は其処に立っている。

 

 見下ろす先にあるのは無数の花が咲き誇る花壇だ。丁寧に手入れされているのだと言うことは容易に察せられる。

 男はそれを眺めていた。理由などない。黒い外套(コート)を揺らし、感情の読み取れない瞳でただ見下ろす。

 

「あら、気に入ったのかしら?」

「............ああ」

 

 いつの間にか男の背後に立っていた女が尋ね、男は頷いた。何故か目が離せない花だった。

 

「何処が気に入ったの?」

「わからない」

 

 あら、と女は目を見開く。

 

「珍しいこともあるものね。貴方らしくもない──貴方の言葉を使えば『合理的ではない』理由ね」

「......確かにな。オレらしくもない」

 

 冷笑。或いはシニカル、と形容されるべき笑みを浮かべる。打算と合理性で動くその男らしくもない理由だ。だが僅かなその人間らしさとも言うべきものの発露は、女としては好意的に受け取れるものであったらしい。

 

「らしくはない──でも、私はそう言うのって好きよ?」

「そうか」

「つれないわねぇ」

 

 ならば手折っていくか、と女が問う。しかし男はそれに否定の意を返した。

 

「一輪くらいなら構わないのだけれど」

「別段そこまでの価値を見出だしているわけでもない。時間が押しているのだろう? 貴様はそこまで暇でもない筈だ」

「......気にするような事でもないのに。まあ貴方がそう言うのなら、それでいいわ」

 

 それにしても、と。女は既に背を向けて歩き始めた男から視線を外し、花壇に目を落として呟く。

 

「彼岸花に惹かれるなんて......相変わらず、妙な人」

 

 燃えるように鮮やかな真紅。それを眺めながら、紅蓮の魔女はくすりと笑った。

 

 

 

 

「さて。此所に集まって貰ったのは他でもありません。ある人を紹介するためです」

 

「ある人......とうとう嬢ちゃんにも春が来たってことかのう?」

「焼かれたいのならそう言ったらどうかしら、バーナード?」

 

 怖い怖い、とバーナードは肩を竦めた。彼女が誇る眷属秘呪(シークレット)、【第七圈】で焼かれてはたまらない。傍らにいるクリストフは呆れた顔をしている。いつも通りのやり取りであった。

 

 だがこうも改まって特務分室のメンバーを召集するなどそうないことだ。

 今や五人......全盛期ならば二十一人いたはずの特務分室だったが、一年余前にその大半が当時のジャティス=ロウファンに虐殺され、影響は未だに残っている。加えて数少ない生き残りである【愚者】のグレン=レーダスはセラの死亡と共に行方をくらまし、同じように【世界】のセリカ=アルフォネアも去った。

 

......人員の不足による戦力低下は否めない。しかし特務分室に要求されるのは尖って余りあるが故に放逐されるような、ある種怪物的才能を誇る異端者のような者だ。求められるのはただ能力のみ。単騎にて一騎当千、英雄級に踏み込んだ存在のみがこの特務分室に所属することを許される。

 

 とは言え、そんな簡単に天賦の才を持つものが見つかるはずもなく。結局特務分室は現状五人で回っており、うち一人である【戦車】のリィエル=レイフォードは"廃棄王女"ルミア=ティンジェルの護衛を担当していることから、この部屋に集まっているのは四人のみであった。

 

「......あの、結局これはどういう集まりで?」

 

 そんなクリストフの問いに対してアルベルトは無言で視線を落とし、バーナードは首を傾げ、そして──【魔術師】のイヴ=()()()()()は毒々しく微笑んだ。

 

 

「言ったでしょう? 人物紹介よ」

「いや、ですからそれがどんな人なのかと──」

 

 少年がそう疑問を呈したその瞬間、扉が軋みながら開かれた。部屋の中にいた全員の視線が殺到し、うち二人が驚いたように瞠目する。

......残る二人の反応は全くの別物。一人は諦めたように瞳を暗くし、もう一人は唇を尖らせる。

 

「ちょっと、まだ呼んでないのだけれど?」

「貴様の話が悠長に過ぎるだけのことだ。一応は同僚ということになるのだろう? 自己紹介など後で組むときにでもすればいい」

「......本当、せっかちな男ね」

 

 紅蓮、というよりは茶に近い赤毛の短髪。それは一瞬イヴを連想させるが、それはすぐに髪の一部の強烈な印象によって霧散する。

 それは、白髪だった。

 脱色してしまったように左前髪が白く......まるで燃え尽きた後の灰のような白に染まり、加えて左右非対称(アシンメトリー)を演出するかのごとくその部分のみ後ろへ撫で付けてある。そうして次に目に止まるのは、その上げられた前髪の下。

 

──目の上を走り抜けるようにして首筋にまで届く、傷跡のような褐色。それはさながらスカーフェイスのようで。

 

 

「今日を以て帝国宮廷魔導士団特務分室に配属される。支給されるコードネームは......【正義】」

 

 【正義】──執行官ナンバー11。

 

 その言葉に、かつてのジャティス=ロウファンを想起させられたバーナードが僅かに眉をひそめる。それを知ってか知らずか、まるで鋼のような瞳をした男はくつくつと笑い声を溢す。

 

「名前は......ああ、そうだな。何でもいいが、あえて言うのなら」

 

 

 

「"()()"。オレの事はそう呼んでくれ、先輩方」

 

 

 新たに【正義】を背負う男は、そう言ってシニカルな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 深淵の底。黒い粒子を体中から撒き散らしながら、それは叫んだ。

 

「あ、ああ......許さない、許さない許さない許さない許さない許さないッ、シェロ=イグナイトォォォォオオオ!!!」

 

 まるで不定形。一度死んだ男は──いや、()()死んだ男は呻きながら怨唆の声を上げる。己の信じる正義を否定され、真正面から叩き潰された事実は想像以上にこの男にダメージを与えていたらしい。

 そんな墨をぶちまけたような黒の横で、エレノア=シャーレットはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「全く、一度ならず二度までも......大導師様のお手を煩わせるなど、羞恥の心を持ち合わせてはいらっしゃらないのですか?」

 

「黙れッ! この屑がァ......! お前らはただ利用しているだけだ、この僕が禁忌教典(アカシックレコード)手にした暁には、まずお前らから消去して──」

 

 ぶつぶつとただ狂人の戯れ言を吐くだけとなった物体を侮蔑混じりに見下ろし、エレノアはふと天を見上げた。

 

「......よろしいので? この男は大導師様に協力する気など欠片も存在しないように見受けられるのですが」

 

『良いよ。その男は何も出来ない......かつてはそこまで歪んでなかったようだけど、禁忌教典(アカシックレコード)に触れただけでああなるような程度の存在だ』

 

 何も出来はしない。狂人を甦らせた──黄泉帰らせた其は嗤う。

 

『反魂法で魂をサルベージするのは少しばかり骨が折れるから、そうそうする気はないんだけどね。虚数領域に沈んだ魂を穢土へ帰還させるのは──ああ、話が逸れたか』

 

 苦笑する。厳密には雰囲気のみしかエレノアにはわからなかったが。

 

『ま、そんな苦労をしてもいい程度には彼はいい仕事をしたということだ。ボクはこれでも信賞必罰はきっちりとするタイプでね。彼の情報はそれほどまでに価値があった』

 

「......と、言われますと」

 

『君が執着している"彼".....どうやら第八界の使徒らしくてね。ははは......奴等はようやくボクの存在を危険視し始めたらしい』

 

 第八界。言ってしまえばそれはヒトの世界。人類種による第八無意識。

 

──曰く、【阿頼耶識】。死後の精神が流転し、収束され、人類の庇護を成すにまで至った異形のシステム。いっそ神とすら呼称してもいいかもしれない、輪廻の歯車にして世界維持の根幹を成すモノ。

 

『驚いたよ。あれは異能ですらない。あれは王の因子にすら匹敵する──世界を隷属させる何かだ。第八界と繋がっているが故に彼は心象世界すら顕現させることが出来る。まさかあんな切り札を切ってくるとは......』

 

 愉しげに其は呟いた。

 

『造られた英雄とは恐れ入った。だが忘れないで欲しいな──今のボクの手には、過去の英雄の全てが収まっていることを』

 

 

 深淵の底。其処には無数のチューブが連結された、黒い棺がエレノアを囲むようにずらりと並べられている。

 

 そしてその中の一つには、【Redolph=Fievel】と刻まれていた。

 

 

 




オリジナル設定突っ込んであるので、原作の展開によれば改稿する可能性があるためご了承下さい。結局禁忌教典ってなんだよ......!

これにて第一部完(仮)。本当好き放題書きなぐった作品ですが、まさかここまでお気に入り等が伸びるとは思っていませんでした。全ての読者様に改めて感謝を。

ちなみに作品を通してのテーマ曲的なのは岸田教団の「nameless survivor」だったり。

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