どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい   作:通りすがりの外典マン

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評価バーが赤くなってわーい!って顔をしてたら速攻でオレンジに戻ったでござる。くっ、この読者に弄ばれてるような感覚......嫌いじゃないわっ!(京水ボイス)

あ、でも高評価くれると嬉しいからバシバシいれてね?ね?(露骨なステマ)





それは残像だ……いやそれも残像だ。

 

 

 

 基本的に、魔術を導入した戦術・戦法は、魔術が導入される以前の兵法の常識が全く通用しない。

 

 これは言ってしまえば銃や大砲という概念が存在しなかった中世と近代の格差のようなものだ。だが実際にはそれ以上のものだろう。

 適当に火や雷の呪文を使うだけで馬は恐れおののき、騎兵は全く機能しなくなる。隊伍を組んでの弓兵、銃兵の一斉掃射もごく簡単な対抗呪文(カウンタースペル)一つで防がれる。重装歩兵を並べて密集陣形でも組めば、広範囲破壊呪文を打ち込まれて呆気なく全滅する。

 

 そう。魔導兵とそうでない兵士との格差はここだ。今や一般兵は敵掃討後の拠点制圧、兵站活動や後方支援くらいにしか役に立たないのである。......まあたまに意味不明な跳躍進化を遂げた人外が魔導兵を切り捨てて回ったりしているが、あれは稀というか一般人でなく逸般人なので気にしたら負けだ。やはりYAMA育ちなのだろうか。

 

 まあそれはともかく。

 近代戦争においてもっとも重要な戦力兵種とはつまり『魔導兵』に他ならず、今回の演習において学ばされるのもその戦い方である。魔導兵は個としての能力が突出しているため従来のような歩幅を合わせての戦闘には余り向いてはいない。かといって単身で敵に突っ込むのもアレなため、基本的な運用は三人セットでのごく小規模な単位を用いたものである。

 

......また本来そうした戦術単位(ユニット)による魔術戦は目視可能範囲で撃ち合う『近距離戦』、また数キロ規模の超長距離射程魔術による『遠距離戦』に大別されるのだが──今回は『近距離戦』オンリーなため気にする必要性はない。

 

「『魔導戦力の比較優位性』、か」

 

 授業の内容を思い出しながら呟く。

 

 こと『近距離戦』において一戦術単位(ワンユニット)三人一組(スリーマンセル)が基本であり、攻撃前衛、防御前衛、支援後衛と三つのポジションがある。それぞれのポジションには役割が決まっており、攻撃前衛は攻性呪文(アサルト・スペル)による攻撃を担当し、防御前衛は対抗呪文(カウンター・スペル)による防御を担当し、支援後衛は状況に応じた呪文を行使して前衛二人の補佐を担当する。

 この三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)としてより集め、部隊を構成していく......現代の魔導兵戦術と部隊編成法の基礎がこれである。

 

 またこれは決して机上の空論というわけではなく、戦場における生存率、撃破数その他もろもろのデータで統計的に証明されている事実だ。これこそが『魔導戦力の比較優位性』という確立された法則だった。

 

 だからこそこの説明を聞いた当初、皆が三人一組(スリーマンセル)を組んで戦うのかと考えたのだが......よく考えれば、これには大きな欠点がある。

 それはあくまで理論的な欠点ではなく、それを体現する側──つまり俺達の側の問題であり、至極当然の話だった。

 

 

「な、なんで当たらないっ......!?」

 

「そりゃまあ、こんな短期間で三人の呼吸が合うようになれば現役の軍人も苦労しないわな」

 

 故に数日しか猶予のなかったこの演習においては三人一組(スリーマンセル)ではなく二人ー組(エレメント)が優位に立つ。丘の上からは他の場所での戦況が見えるが決して悪くはない。戦力比にして1.5倍の敵を中央の平原地帯で食い止めているカッシュ達は十二分に奮闘していると言っていい。

 

──まあこっちの場合、人数比だと六倍でも足りないけどな!

 

「くそ、ちょこまかと動きやがって......!?」

「《我に力を》」

 

 放たれる無数の【ショック・ボルト】を身体強化による高速移動で撹乱しながら回避し、時折同士討ちをするように誘導しながら立ち回る。正直なところ滅茶苦茶キツいが、ふともう一人へ目を向けて苦笑いした。

 うちのクラスは生徒を二人ー組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)で編成し、理論的な強さより実戦での連携を重視した。だが、こと俺と俺の相方においてはそんな連携は存在しない。

 

 下された命令はたった一つ。攻撃をすることなく、敵を撹乱しろというだけの話なのだから。

 

「ん。疲れた?」

「まだまだ」

 

 口数少なく言葉を交わす。一瞬で掻き消え、そして違う地点に亡霊の如く現れる──リィエル曰く"縮地"と呼ばれるこの歩法は近接戦闘において大きなアドバンテージになることは間違いない。原理としてはこれ以上ないほどに単純であり、ただ身体強化を用いて地を蹴って移動するだけだが......これが凄まじく難しい。

 

「あ、当たらねえ......!」

 

 敵の声は震えている。それもそうだろう、視認不可能な速度で攻性呪文を回避されているのだ。これは恐い。俺でも恐い。残像を【ショック・ボルト】が貫いたと思ったら何故か側に立っているのだから訳がわからないだろう。

 

 【フィジカル・ブースト】により何倍にも増幅された身体能力を用いて、一瞬で最高速に達して移動する。ただそれだけだというのに、それが果てしなく難しい。

 

「......違う。もっとこう、ばーんって感じで」

「成る程、全くわからん」

 

 わからないが、これは良い訓練になる。目の前にお手本があり、実戦に近い状況下で練習できるのだ──これ以上の環境はない。

 

「一切の攻撃をせず、同士討ちを狙って敵を倒せ......ね。ハードモード過ぎるんじゃねぇの?」

 

 まるで弾幕ゲーだな、と思いつつ──俺は数人からの集中砲火から逃れるべくステップを刻んだ。

 

 

 

「んで? あっちは尻尾巻いて退散したみたいですけど?」

『おー、よくやった。つってもまあお前はそこから動かなくていいけどな』

「あー......やっぱり?」

 

 同士討ちで三人ほど始末は出来たが、そう損耗させられた訳でもない。ここで俺とリィエルがこの丘を離れてしまえばすぐに此処は占拠されてしまうだろう。そうなれば本来個々の能力で負けているうちのクラスとしては敗北は必至だ。

 

『しょうがねーだろ。ま、こっちが片付くまでリィエルと二人でゆっくりデートしといてくれ』

「はいはい......どうせ森にも何か仕掛けてんでしょう?」

『ん、んんー!? ちょっとボク何言ってんのかわかんないなー!』

 

 直後に通信を切られ、俺は何とも言えない顔で敵の目前へ走っていくレーダス先生の姿を眺める。まあ卑怯も汚いもあったもんじゃないと理解はしているが、本当に何か仕掛けているのだろうか。

......うん、まあ。勝てばいいんじゃね? 絶対各方面から文句が飛んできそうだけど。主にフィーベルとかから。

 

「でーと、って何?」

「色々知ってるくせして常識はやっぱりないんだなぁ、お前......」

 

 もうちょっと教えるべきことがあったんじゃないか姉貴、と思いながら俺は暫くリィエルに常識をいくつか叩き込むのだった。

 

 

 

 

「んで、結局引き分けだと」

「はっはー。やっぱ強ぇわアイツ!」

 

 何となく腹パンを叩き込み、崩れ落ちるレーダス先生を前にして溜め息を吐く。

 

「......ま、大金星でしょうね。本来負けて当然の勝負を何とか引き分けに持ち込み、ついでにフィーベルはどちらとも結婚しない。みんな幸せ、ハッピーエンドで大満足っすよ」

「ちょ、じゃあ今なんで殴ったの......」

「日頃の恨みとか?」

 

 いぇーい、とピースしてみせれば恨めしげに睨まれる。割りといい所に入ってしまったらしい──ざまあ。内角低めのレバーブローは成功だったようだ。

......最近自分の性格が悪くなってる気がするが恐らく気のせいだろう。

 

「んで、どうします? 多分やっこさん諦める気がないと思うんですけど」

「......やっぱり? 俺もそう思う」

 

 真顔で顔を見合わせる。向こうから聞こえてくるのはらしくもないクライトスの怒号であり──まあ自分の得意分野で負け同然の試合を展開したのだから当然なのかもしれないが──うちのクラスの生徒まで所在なさげな顔をしている。

 

「あの無様な戦いはなんですか!? 貴方達が、もっと私の指示にきちんと従い、作戦行動を遂行していれば──」

 

「なんか......感じ悪ぃやつだな」

 

 ぼそり、とカッシュが呟く。だがそれはここにいる生徒の代弁でもあった。

 

「非の打ち所のない、完璧超人だと思ってたんだけど......どうも何か違うような」

「......ま、いるわけないわな。そんなヤツ」

 

 そう呟く。そしてひとしきり自分達の生徒を怒鳴りつけ終えたレオス=クライトスは肩を怒らせて、こちらへとやって来た。

 応じるようにレーダス先生は立ち上がり、呆れたような顔をして言う。

 

「おい、筋が違うんじゃねーか? 兵隊の失態は指揮官の責だろ?」

「うるさい、貴方ごときが私に意見するなッ!」

「それに、アンタ......よく見れば、随分と顔色が悪いな? ......風邪か? さっさと帰って寝た方がいいんじゃね?」

 

 確かに。クライトス講師の顔色は異常なまでに悪い。病気としか思えないほどの土気色であり──。

 

「誰のせいだと思っているんですか!? そんなことはどうでもいいんです! それよりも貴方、勝負はまだ付いていませんよ!?」

「いや......勝負が付いてねぇって、アンタ......もう引き分けたろ。これはシェロもアンタも白猫から身を引くってことでいいんじゃねーか? ほら、白猫もどうやらまだ結婚する気はねーみてーだし」

 

 その瞬間、クライトス講師が投げつけた手袋が、レーダス先生の胸を容赦なく叩いた。

 

「再戦ですッ! 今度は、私が貴方に決闘を申し込むッ!」

「お前、まだ白猫を諦めねぇのか......?」

「当然です! システィーナに魔導考古学を諦めさせ、私の妻とするまでは──」

 

「レオス! 先生! もう、やめてッ! いい加減にしてよッ!」

 

 悲鳴のような声が割り込んだ。

 そうして更にフィーベル本人まで交えてついに三人で論争し始めたのを尻目に、俺はふと違和感を覚えてある人物を探す。そして少し離れた辺りで眉を潜めているその少女の肩を叩いた。

 

「な、何ですの?」

「悪ぃな、ナーブレス。だが後で少し聞きたいことがあるんだ、時間はいいか?」

「え、ええ。別に構いませんけれど......」

 

 ついに売り言葉に買い言葉で一対一の決闘が約束される様を見ながら、俺は目を細める。

 

 レオス=クライトス。彼は少しおかしい気がする。

 

 

 

 

「ええ。確かにフィーベル家は我がナーブレスとも並ぶ上級貴族ですわ。流石にイグナイト家には及びませんが......」

「だからこそ、個人間の決闘でやり取り出来るほどその結婚は軽くない。下手をすれば政府すら介入してくる......そうだな?」

「その通りです。......妙ですわね。いくら許嫁同士とはいえ、決闘でいざこざを解消するとは些か短絡的に過ぎるような......」

「やっぱりそうか」

 

 腕を組み、階段の壁に寄りかかりながらウェンディ=ナーブレスは息を吐く。その栗色のツインテールを眺めつつ、しかしこれでは決定打には欠けるな、と思考する。

 

「短絡的ではあるが......恋は盲目、という言葉で片付けられる範疇なのか。俺の考えすぎかね」

「いえ。確かに貴方の言う通り、あの場でのレオス先生は正常とは言えないものでしたわ。疑ってしまうのも無理はないですもの」

「......かといって精神疾患を被っていると考えるのは些か大袈裟過ぎたか」

「まあ、それは......明日のレオス先生の様子にもよりますわね」

 

 実際にはレオス=クライトスは何らかの精神誘導を受けているのではないか──というのが俺の本音だったのだが、あまりにも突飛に過ぎるため一笑に付されて終わりだろう。しかし何となく嫌な予感がしたのだ。

 そう、ただの直感だ──。

 

「ま、ありがとな。貴族っぽいのは伊達じゃなかったみたいで安心したわ」

「ちょっと、その言い方は何ですの!?」

 

 くっくっと笑って見せれば、仏頂面でナーブレスがそっぽを向く。だが彼女はふと疑問を口にする。

 

「でも貴方、一応はイグナイト家の出身でしょう? こういった事は貴方もよく知っているのでは?」

「......いや、家とは昔から交流がなくてね。貴族のこととかすっかり忘れてたし、何か覚え違いがないかとも思ってな」

「そうなのですか......」

 

 少し同情的な目をしているナーブレスに改めて礼を言い、背を向けて階段を降りていく。心臓がばくばくと鳴っているのを感じていた。

 

──危なかった。前の俺は、こういったことも知っていたのだろうか。

 

「......ままならないもんだな」

 

 嘆息し、黄昏の空を見上げる。美しいそれは何故か不吉に見えて。

 

 

 

 

 翌日、レーダス先生は学校に来なかった。

 その翌日も。そしてその翌日も──。

 

 決闘の場にすら現れず。フィーベルが婚約を受け入れたという事実だけ残して、グレン=レーダスは失踪した。

 

 

 

 


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