どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい   作:通りすがりの外典マン

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蟹とか最近食べてない気がする。

 

 

 

 

 

 やばい。あの二人ちょっとなめてたわ。

 

 惚れ惚れするような体捌きで先行するレーダス先生とフレイザーに必死でついていく。ここは未開の樹海だというのに、入り組んだ巨大樹の根や蔦などに引っ掛かるような素振りすらない。動作の一つをとっても洗練されている──勉強にはなるのだろうが、正直かなり辛い。比較的温暖な気候が仇となり、俺の全身は既に汗でずぶ濡れだ。

 

「どうした? 息が上がってるぞグレン」

「うっせえ! こちとら腹にでかいの食らったばっかなんだよ!」

 

......まあ、うん。仲が良さそうで何より。というかよく喋る余力があるものだ。

 何やらそのまま喋っていたようだが、ただでさえ体力を削られている俺としては身体強化を付与していても何とかついていくので精一杯である。

 

「はぁ......ふぅ......」

 

 そしてようやく樹海が尽き、少し開けた場所で湖に突き当たる。俺は息を整えながら樹に寄り掛かる。

 

「大丈夫か? 五分程度ならここで休息を取ってもいいが......」

「......大丈夫、です。それよりここに入るんですか?」

 

 レーダス先生にひらひらと手を振って尋ねる。すると、フレイザーが淡々と答えた。

 

「バークスの研究分野は特殊な環境を必要とする。その性質上研究室を設ける際には必ず地下水路が必要となり──」

 

「──大規模な水路を用意できる場所、土地の高低差、そして霊脈(レイライン)の条件から絞り込める......ってわけですか」

 

 確かに真正面から突っ込む必要性など何処にもない。俺は納得し、そして再び尋ねる。

 

「んで、どうやってこの湖に入るんです?」

「【エア・スクリーン】を使えばいいだろう」

「そうだな......って、お前まさか」

 

 真顔でサムズアップする。俺それ知らねーし使えねーもん。

 そうして結局アルベルト=フレイザーに頼ることとなり、俺は【エア・スクリーン】を付与して貰った後に湖に潜行するのだった。

 

 

 

 

 湖の底を探索し始めてから程なくして妙な流れの水流を発見し、出入口の横穴を三人で進んでいく。真っ暗闇の中を指先に灯す魔術の光を頼りに進んでいけば、やがて不自然に開けた場所に出た。

 四方には明らかに人工的に石垣を並べて作られた壁。頭上の揺らめく水面へと浮上し、二人の後を追って通路状の足場に飛び乗った。

 

「......ビンゴ、だな」

「ああ」

「見た限り貯水庫っぽいですね」

 

 そうして辺りを見回し──ふと嫌な感覚が背筋を上る。直感的に投影し、戦闘体勢へと移行する。

 

「......来る」

「え?」

 

 突然レーダス先生の目の前の水路から大量の水が巻き上げられ、盛大な水柱がそびえ立った。レーダス先生が驚きの声を上げながら身構え、フレイザーが素早い身のこなしでその場所から跳び下がる。

 水柱の中から現れる巨大なシルエット。それは人の倍以上の身の丈を持つ、冗談のように巨大な蟹で。

 

「ちッ......」

 

 直後、鈍い硬質の音が響き渡る。無論のこと、俺の投擲した双剣が弾かれた音である。

 

「あれ、かなり硬いみたいですよ。気をつけて下さい」

「いや、お前そんな簡単にぶん投げて......って、ええ?」

 

 即座に投影し直して見せれば、レーダス先生は目を丸くしてこちらを凝視していた。フレイザーも目を細め、しかしすぐに目の前の敵へと向き直る。

 

「《吠えよ炎獅子》!」

 

 一節詠唱が完了し、【ブレイズ・バースト】による火球が放たれるのとレーダス先生が咄嗟に飛び退いたのはほぼ同時だった。

 着弾すると同時に解放された熱量が業火として顕現し、炎が収まると共に姿を現したのは蟹の丸焼きである。実に美味そうだった。

 

「この距離でレーダス先生を巻き込まない......聞きしに勝る魔術制御精度っすね」

 

 純粋に感心する。姉から聞いてこそいたが、実際に見るのとはまた違う。自分とは別格の魔導士であることを痛感し、沸き上がる劣等感を抑え込んだ。

 

「にしても、こいつは一体、なんだ? 魔獣......にしちゃ、いくらなんでも生物構造を無視し過ぎだな......となると、やっぱり......」

「その昔、軍事用に研究されていた合成魔獣(キメラ)だろう。合成魔獣(キメラ)の兵器利用に関する研究は現在では凍結・禁止されているのだが......昔の研究成果が残っていたのか、或いはバークス=ブラウモンが禁じられた合成魔獣(キメラ)兵器の研究を続けていたのか......」

 

 フレイザーが何の感慨もない氷の瞳で、蟹の残骸を一瞥する。

 

「何れにせよ、どうやらこの区画、不要になった合成魔獣(キメラ)の廃棄場所なのだろう」

「つーことは、だ。バークスの野郎......予想以上にきな臭いやつだな」

 

「そりゃわかりきったことでしょうよ。ほら、団体様が来ますよ!」

 

 あちこちで水柱が上がる。這い上がってくる無数の異形を睨みながらレーダス先生は拳銃を抜き放ち、フレイザーは詠唱を開始する。勿論俺は既に双剣を構えていた。

 

「突破するぞ!」

「ったく、仕方ねぇなぁ! 遅れるなよ、シェロ!」

「はい......!」

 

 吹き飛ばされる合成魔獣(キメラ)の間を潜り抜け、時折こちらに牙を剥くそれらを切り捨てながら、俺は二人の背を追った。

 

 

 

 正直な話をしよう。あの二人やっぱり頭おかしい。

 

 まずはレーダス先生。あの照準の早さと抜き撃ちの速さは何なのだろうか。眼で追うことすら難しい速度の早撃ち(クイックドロウ)など見たことがない。加えてそれを呪文詠唱を重ねながら行うのだ。どれほどの鍛練を積んだのか想像もつかない。

 

 そして次はアルベルト=フレイザーだ。もうこちらは怪物としか言いようがない。軍用魔術を一節詠唱で発動している時点で普通なら優秀だと言われる範疇の筈なのだが、更に二反響唱(ダブルキャスト)まで重ねている。もうこの時点で頭おかしい。一応魔術をかじっている身としては本気でどういう頭の構造しているのか解剖してみたくなるほどだ。

......それだけではなく、よく見れば敵の位置などを緻密に調整してすらいるのだからお手上げだ。あらゆるステータスが超高水準で完成されている。

 これはもう言ってしまえばフィーベルの完全上位互換だ。天才が努力すればこんな領域にさえ至るというのだろうか。

 

「悪ぃシェロ! 一匹そっちに流れた!」

「ふん......鈍ったか?」

「言ってろ!」

 

 相変わらず仲が良いのか悪いのか。しかしその連携は完璧に近い。俺はたまに流れてくる敵を倒すだけだから楽と言えば楽なのだが──。

 

「《過密(オーバー)連刃(エッジ)》」

 

 基本骨子を限界まで拡張し、本来の用途を越えて注ぎ込まれた魔力が規格を越えた強度と大きさにまで双剣を強化する。そうして一時的に身の丈ほどとは言わずとも大剣の領域に踏み込んだ双剣を振るう。

 狩り殺すための剣技。獣の殺し方すらもこの剣には記録されている。自身のものへと最適化(フィッティング)出来たのは僅か一割二割に過ぎないが、幻獣級の怪物でもない限り遅れを取ることなど有り得ない。

 

「フッ──!」

 

 呼気を吐き出しながらの一閃。双剣は容易く表皮を食い破り、飛び掛かってきた合成魔獣(キメラ)を肉片へと還した。

 獣の血臭が撒き散らされる地下道は肉が焦げる臭いも混じって凄まじいものであり、もうこの制服着れないなぁと思いつつ投影を一旦解除する。

 

「......問題無さそうだな。先を急ぐぞ」

「了解です」

 

 首肯し、さらに地下道を進んでいく。道中でさらにブラウモンの手先であろう魔獣に襲われるが、危なげなく二人が蹴散らしていった──のだが。

 

 

「こ、こいつは......ちょっとヘヴィかなー?」

 

 思わずといった風にレーダス先生が頬をひきつらせる。通路を突破した先、大部屋に侵入した俺達を待ち構えていたのは──

 

「ゥォオオオオオオオオオン......」

 

 見上げるほど巨大な、大亀の怪物だった。その大部分が透き通る宝石のようなもので構成されている。

 

「宝石獣か。過去、帝国が密かに行っていた合成魔獣(キメラ)研究の最高傑作として、理論上の設計だけは為されていたとは聞いていたが......」

「こいつの性質は?」

「殆どの攻性呪文(アサルトスペル)が効かん。それに恐ろしく硬い」

「厄介の極みじゃねーか......!」

 

 そうレーダス先生が呻いた直後、大亀がその剛腕を振りかぶった。咄嗟に俺は後方へ、そして二人は左右へと散開する。そして直後に大亀の体に埋め込まれた宝石が帯電し始め──嫌な予感がした俺がフレイザーの元へと滑り込むと同時に、極大の雷撃か放たれた。

 

「《光の障壁よ》」

 

 一節詠唱。展開された六角形(ハニカム)が幾つも並んだような障壁が何とか雷撃を凌ぎきる。【ライトニング・ピアス】すら越える威力であろう攻撃を容易く防ぐ様は流石としか言えないが、それでも【フォース・シールド】は元から魔力を大量に食う。いくらフレイザーの内包魔力量が桁外れだとはいえ、そうそういつまでも防げるものではない。

 

「やれ、グレン」

「いや......わかっちゃいるが......」

 

 恐らく奥の手があるのだろう。だがレーダス先生は苦い顔で応じる。

 

「いや、大丈夫ですよ」

「何?」

「俺がやります」

 

 手元に投影したのは黒い大弓。消費魔力(コスト)は数倍嵩むが剣以外でもある程度ならば投影可能なのは確認済みだ。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 投影するのはゼーロスの細剣(レイピア)。この魔剣は世界最硬金属の一つと吟われる真銀(ミスリル)、それをどうやったのかは不明だが更に合金として加工した規格外の代物だ。

 

「《我が骨子は捻れ狂う》」

 

 新たな詠唱と共に基本骨子を改造。本質を変えることなくその外枠を大きく変更し、質量はそのままに貫通に特化した形──即ち矢として変形させる。元より細剣(レイピア)とは刺突に特化しているのだ、その特性を最大限に引き出したこの武器ならば──。

 

 

「【穿・白麗剣(オートクレールⅡ)】」

 

 

 龍だろうが亀だろうが容易く貫く。

 

 暫定的に付けた名前を言い放つと同時に放たれた矢は、宝石獣を真正面から削り穿つ。大気すら巻き込みながら突き進むそれは宝石獣を即死させ、加えてさらに勢いを止めることなく大部屋の壁へ極大の穴を作り上げた。

 我ながら規格外の威力だなぁ、と思い──膝をつく。

 

「な、ん......って、おい!?」

「や、大丈夫です。一気に魔力を消費して目眩がしただけなんで......」

 

 ここまでの大技は初めてだ。明らかに対人向けのものではない。

 ゆっくりと立ち上がり、急激に消費した魔力を補給するために魔石からある程度魔力を吸収する。

 

「......行きましょう。廃棄王女を助けるんでしょう?」

「あ、ああ......!」

 

 まだ大丈夫だ。問題は、何一つとしてない。そう自分に言い聞かせて足を進める。

 

「..................」

 

 静かに此方を観察するフレイザーの事に気付かず、俺は進むのだった。

 






戦闘挟むと話が進まない☆

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