どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい   作:通りすがりの外典マン

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これが昨今流行りのダイビングです。

 

 

 

 重い。一撃の重さが尋常ではない。

 

「ぐ──ッ」

 

 四肢を全て用いた、まるで獣のような独特な歩法。常人が相手ならば、そんな奇怪な移動法を用いたところでさして影響はない。しかしリィエル=レイフォードの全身に付与された身体強化術式がその真価を発揮させる。

 

「や、ぁああああ!」

 

 咆哮。まさに獣と化した【戦車】は最早目で追うことも出来はしない。縦横無尽、四肢の全てをバネのように利用した高速移動は上下左右あらゆる方向からの奇襲を可能としていた。

 

 重く速く、正道でありながら邪道の剣。人の身でありながら獣へと堕ちた剣とも呼べぬ剣技。言ってみればそれは、()()()()()()()()を可能とする、邪道極まりない暗殺剣──。

 

「......成る程。確かに強い」

 

 近接戦闘に心得のない魔術師であれば姿を見ることすら出来ず斬殺される。かといって半端に近接戦が可能であれば逆に術中に嵌まり(なます)斬りにされる。【戦車(ルーク)】の名が与えられたのも頷けた。これは文句なしに強い。

 

 だが。俺とて前回の敗北から何も学ばなかったわけではないのだ。

 

「──"心眼"」

「っ......!?」

 

 背後からの斬撃を回避し、反撃(カウンター)に剣を置く。驚愕に目を見開きながら猫のように身を屈めてそれを避けると、リィエル=レイフォードは警戒するように距離を取る。

 

「見えてる......?」

「どうだろうな」

 

 強がりをこめて薄く笑った。【双紫電】のゼーロス=ドラグハート、その技術の一片を習得したのが今の技である。呼吸を読む、等というまるで意味のわからない技術だが──なかなかどうして使えるものだ。馬鹿みたいな集中力を要するが、これを攻撃に転用すれば呼吸を盗み一方的に斬殺することが可能となる。

 

──まあまだ未完成ではあるが。何とか実戦レベルにはなった、程度のものだ。俺の身体能力(スペック)に合わせているためオリジナルと比べて大幅に劣化しているというのもある。

 

 それにしても、と手の中の剣へ目を落とした。今のところ数回あのウーツ鋼の大剣とかちあったが砕ける様子はなさそうだ。馬鹿みたいな硬度のウーツ鋼だが、この剣の素材もどうやら同等以上の硬度を誇っているらしい。

 

細剣(レイピア)じゃ扱い辛いからと基本骨子はそのままに弄くってみたが......やはりこの形が一番合っているか」

 

 ゼーロスの魔剣を改造し、最終的にこの二本の中華刀じみた武器になったわけだが──使いやすい。重ねればレイフォードの馬鹿力にも耐えきるし、やはりこれを選んで正解だったようだ。

 

「兄さんの......邪魔をするなぁぁあああ!」 

 

 数秒様子見するか迷ったようだったが、すぐに痺れを切らせて突っ込んでくる。まるで猪だなと思いつつ、双剣を用いて受け流す──なんてことはせずに全力で回避する。

 

「いやあぁぁぁあ!」

「チィッ......!」

 

 "心眼"を連続発動し、攻撃タイミングを察知することでどうにか回避する。しかし最後の一撃はどうしても間に合わないことを理解したため、受け流しながら防御する──しかし俺を襲ったのは、まるでダンプカーに撥ね飛ばされたかのような衝撃だった。

 

「ぐ、く──ッ」

 

 【フィジカル・ブースト】がなければ、受け流したとしても圧殺されていたかもしれない。吹き飛ばされながらも空中で姿勢を調え、剣を投擲して牽制する。化け物め、と胸中で呟いた。

 

「私は兄さんのために生きる......だから邪魔するなら斬る、殺す、兄さんのために......なのに、何で......!」

 

......何やら呟きながら虚ろな目で此方を睨んでくる。どうやら今は精神的に不安定らしい。だからこそ本来のスペックを引き出せていないのだろう。でなければ、俺がこうも呑気に立っていられるはずがない。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 投影するのは例の如く遠隔制御可能な剣である。あの動きを封殺するためだけに空中へと置き、あの奇妙な歩法を少しでも制限する。幸い今の俺の目標はレイフォードの殺害ではなく時間稼ぎだ、レーダス先生があちらを片付けてさえくれれば──。

 

......いや、妙に遅い。俺はそこではたと思い当たり、別の方向へと声を飛ばした。

 

「先生! 【愚者の世界】をッ!」

 

「なっ......いいのか!?」

「やって下さい! 俺のは──」

 

──異能だから関係ない。その言葉を飲み込み、剣をレイフォードへ殺到させようと僅かに逸らしていた視線を戻し、

 

「............!?」

 

 背後で膨れ上がる殺気に戦慄し、咄嗟に身体強化を最大にして跳躍する。寸前で回避したことで大剣は虚しくも砂浜を切り裂くのみで終わる。

 

──俺はそこで最悪の選択肢を選ばされたことを自覚した。

 

「が、ァ──」

 

 更に出力を上げたことで、レイフォードは僅かに目を離した一瞬で俺の背後に迫った。ならば、そんな怪物的な膂力で砂を叩けばどうなるか。

 

 単純な話だ。飛び散る砂の塊は、それだけでショットガン級の破壊力を撒き散らす。

 

 空中とは人間の動きがもっとも制限される領域である。全身を砂に強打され、受け身を取ることも出来ずに落下し、叩きつけられる。恐らくどの方向に回避したとしても爆発的な砂の散弾は回避できなかっただろうが、それにしても距離を取るためとはいえ空中を選択したのは悪手だった。

 己の戦闘経験の拙さを悔やみ痛みに呻きながらも最速で起き上がる。しかしそれすらレイフォードからすれば欠伸が出るほどに遅い。

 

「避けろ、シェロ──!」

 

 遠くでレーダス先生が叫ぶ。だが既に遅い。特大級の警鐘が脳の奥で鳴り響くが、既にリィエル=レイフォードの構えは完成している。

 それは斬撃ではなく刺突。【戦車】としての彼女の奥の手であり、必殺。如何に攻撃のタイミングがわかろうと回避は不可能。片手を弓を引き絞るが如くしならせ、全身の運動エネルギーを一点に集約したその一撃は──。

 

「────」

 

 不壊のはずの剣を容易く砕く。胸骨を砕き肺を引き裂きながら身体を貫き、衝撃がぼろ雑巾のように俺を吹き飛ばした。

 

......不味いな、と他人事のように思う。一瞬の浮遊感の後に叩きつけられたのは恐らく波打ち際だろう。空恐ろしくなるほどの血液が胸から流れ、呼吸はできず右腕は動かない。口を開けば、肺から逆流した血液がごぽりと吐き出される。

 

 ああ。これは死んだか。

 

「てめぇ......リィエルッ......!」

「兄さん。手助けはいる?」

 

 グレン=レーダスの声も、もはやレイフォードには届かない。蒼髪の青年が笑う声が響いた。

 

「は、はは! ああ、助けてくれリィエル! この男を──殺してくれ!」

「............わかった。それが兄さんの望みなら」

 

 は、と笑えば口から血が溢れ落ちる。既に視界も奇妙に掠れている。血が足りない。一部は壊れたように動かない。

 

 だが、傷口はギチギチと軋むような音を放っている。見下ろせば、忌々しい剣が傷口を塞いでいる。まるで吐き気がするような光景だが、今だけはそれが有り難い。

 

「おい」

 

 な、とレイフォードが息を飲んでこちらへと振り向く。完全に予想外だったのだろう。俺だってこの状態で動けることに驚いている。

 なけなしの魔力を振り絞り、身体強化を発動した状態で血を撒き散らしながら踏み込み──。

 

 血塗れの左拳が完璧な形でその頬に炸裂した。

 

「っ、ぐ......!?」

 

「ざまぁみやがれ、このブラコン野郎」

 

 傷口を塞ぐ剣の間から血がばしゃ、とかべしゃ、という音を立てながら砂浜を濡らしていく。一矢報いたという満足感こそあれ、体力的には色々とヤバい。せせら笑いながら中指を立ててやるが、その口元からも血が伝っている。

 

「......ご、ふ」

 

 殴った反動で死にかけてるなんて笑えない。ついに膝に力が入らなくなり、まるでガキのように呆けた顔をしているレイフォードを睨みながら膝をつく。

 

「な──何をしているリィエル! そいつを始末して、早く僕を助けろォ!」

「......はい、兄さん」

 

 既に指一本すら動かない。流石に無理をし過ぎた。五感は既に遠く、白い靄が意識にかかり始めている。

 だが、それでも。震える声は、確かに届いていた。

 

「さようなら」

 

 浮遊感。そして全身を包む冷たい感覚。そこでようやく俺はレイフォードに海へ投げられたのだということを理解した。

......身体から熱を奪う海水は、まるで死神の抱擁のようで。辞世の句を考える暇もなく、俺の意識はぶつりと途切れた。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「シェロ......くそ、俺は......ぐっ!?」

 

 脂汗を浮かべながら、グレンはざっくりと切り裂かれた腹を押さえる。シェロ=イグナイトが瀕死の重傷を負ったまま海へ棄てられた後に、グレンは一人であの二人と戦うこととなったのだ。そもそも【愚者の世界】とリィエルの能力は相性的に最悪、いかにグレンが卓越した技術を持っていようとろくに武器もない状態では勝てるはずもなかった。

 幸いにも向こうは何者からか指示を受けていたのか、時間切れだと言って撤退していった。無論のことリィエルを引き連れて、だ。何らかの目的があったのかもしれない。

 

──だが。それ以前に、グレンの精神は教え子を一人死なせてしまった事実に押し潰されかけていた。いや、まだ確定した訳ではない。しかしあの重傷でこれほどの長時間夜の海に沈んでいたのだ、生き残っている可能性などゼロに近い。

 

「ふ、ざけんな」

 

 だが認められない。理性がいかに無駄か囁いたとしても、グレン=レーダスはその死を肉眼で見るまでは認められない。こんな"裏側"の抗争で生徒を失ったなど認められるはずがない。

 それでも。絶望は確実に侵食していく。

 

「すまない......すまないシェロ、俺が、お前を」

 

 救えなかった。あろうことか死なせてしまった。そんな事実を受け入れかけ、黒くうねるような海を見た次の瞬間──。

 

「自分を責める暇があれば手伝え、グレン=レーダス。教え子を死なせたいのか?」

 

グレンはその目を大きく見開く。海水に全身を濡らして、アルベルト=フレイザーはそこに立っていた。

 

「な......ア、アルベルト!?」

「早くしろ。二度も言わせるな」

 

 そしてその背に背負われているのは、まさしく──。

 

「ッ、シェロ!」

「治癒魔術はもはや利かん。お前はさっさとその腹の傷を強引にでも塞いで、これを運べ」

 

 慌ててそのその身体を受け止めれば、ぞっとするような冷たさがグレンの手に伝わってくる。胸からは滴り落ちるほどの赤が広がっていた。

 

「手は尽くす。だが些か遅すぎたようだな──本当に死神に拐われる前に【リヴァイヴァー】を行使する必要があるぞ」

「【リヴァイヴァー】だと!?......いや、今はぐだぐだ言ってる場合じゃねぇか......!」

「その通りだ。無駄口を叩いている場合ではない」

 

 それに、と。アルベルトは呟いた。

 

「聞きたいことがある......山程な」

 

 その冷徹な目が見据える先には、傷口の間から覗く鋼が鈍く光を反射していた。

 

 

 





リィエル「牙突」
シェロ「男女平等パンチ!」

 というわけでサクッと戦闘回。当然のように主人公は敗北。そこそこ強くなってる癖にこいついっつも負けてんな......! そろそろ勝たせてあげたいけど格上相手しかいないからなぁ、うん。リベンジマッチを待て。

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