どうやら俺はテンプレ能力を持って転生したらしい 作:通りすがりの外典マン
リィエル=レイフォードがこの学院に来て一週間が経った。
その間何のトラブルもなかったと言えば嘘になるが、しかしあの常識の無さからすれば驚くほどまともな学校生活を彼女は送っている。それもこれもフィーベルと大天使ルミア様のサポートがあってのことなのだろうが──正直に言おう。レイフォードの存在による弊害を最も被っているのは俺だ。
何しろレイフォードに対する心配が度を越しているレーダス先生に毎日毎日拉致られては尾行紛いの行動に同行させられているのだ。もうやだあのロクでなし講師。お前だけで行けよ俺連れてくなよ。もし交換条件に単位と昼食代がなかったらとっくにアルフォネア教授に報告してんぞ。
まぁそんなわけで激動の──主に物理的な意味で──一週間だった。お陰で俺の眠気がマッハ。最近あまり夜更かししてないのにどゆことなの......?
「とまあ、そういうわけで......」
放課後のホームルーム。さも面倒臭そうに、レーダス先生は教壇で告げた。
「これから、お前らが受講する『遠征学修』についてのガイダンスをするわけだが......ったく、なーにが『遠征学修』だよ?......どう考えてもこれ、クラスの皆で一緒に遊びに行く『お出かけ旅行』だろ......」
「もう、先生ったら! 真面目にやってください!」
『遠征学修』──前世で言えば修学旅行ほどではないにしても、林間学校とかそんな感じに近いイベントだ。ちょっと遠出して施設とか見学して遊んで終わり、みたいなもんである......のだが。
「だいたい、『遠征学修』は遊びでも旅行でもありません! アルザーノ帝国が運営する各地の魔導研究所に赴き、研究所見学と最新の魔術研究に関する講義を受講することを目的とした、れっきとした必修講座の一つな訳で──」
「はいはい、そうでしたそうでした。ご丁寧な解説ありがとうございます」
うんざりしたようにレーダス先生は頭を掻く。今日もブレることのないフィーベルの様子に欠伸が洩れた。寝ていいっすか。どうせ班決めやら馬車のメンバーもカッシュ及びいつもの四人組で組むのだから、考える必要もない。
「先方も忙しいところを私達のために予定を開けてくれるんですから、先生も私達の引率者としての自覚をきちんと持ってですね──」
「はいはいはいはい、わかりました、わかりました! もう勘弁してくれ!?」
説教を受けるレーダス先生の様子に若干溜飲が下がる。それをぼけっと眺めつつ、うつらうつらとし始めたところで肩を叩かれた。
「よっす。それで、シェロはどうするんだ?」
「あん? どーするって、そりゃ......」
話の流れが読めない。なので適当に答えることにした。
「釣り道具でも持っていくんじゃねーの?」
「いや、そういう事じゃなくてだな......ってか、釣り?」
カッシュは驚きに目を丸くした。俺は欠伸混じりに説明する。
「今回行くあれ......そう、十八禁魔導何とか」
「いや、白金魔導研究所でしょ!?」
「そうそう、それそれ」
セシルのツッコミに満足しつつ話を続ける。
「白金だか黄金だか知らんが、そこって確か海に面してたろ? だから釣りでもできそうかと思ってな」
基本的にフィジテから離れる機会のない以上、釣りをすることもそうそうない。海と言えば釣り、釣りと言えば海──希少な機会なのだ、これを利用しない手はない。
「ほー、だから釣りって事か......実際にやったことないけどどうなんだろうな──」
「甘いッ! 甘いなぁシェロ=イグナイトッ!」
なんだこのうざったい生き物。
カッシュを押し退けて乱入してきたレーダス先生を見て顔をしかめる。というか後ろでまだフィーベルがなんか言ってんぞ。いいのかあれ。
「白金魔導研究所は地脈の関係上サイネリア島に位置している。そしてサイネリア島はリゾートビーチとして有名──だが、何故そこで釣りの発想しか出てこない!」
「ま、まさか......!」
押し退けられて画面外に退場したカッシュが復帰し、何かもう作画が違う感じの顔になる。そしてそれは、セシルやギイブルを除いた男子も同様だった。怖ぇよ。
「ふっ......ようやく気付いたか、お前達。そして、この『遠征学修』は自由時間が結構、多めに取られており、まだ少々シーズンには早いが、サイネリア島周辺は
こちらも作画が何か違う──というか何でジョ○ョ立ちしてんだこいつ。
「さらに、うちのクラスには、性格はともかく......そう、性格はともかァく! やたら! レベルの高い美少女が多いッ!」
「何故そこを強調した」
背後でフィーベルが何か凄い顔になってたけど見なかったことにする。レーダス先生......あんた死ぬのか......?
「あとは、わかるな?」
「「「せ、先生......ッ!」」」
「みなまで言うな。黙って俺についてこい!」
「「「はい!」」」
奇妙な共感と友情によって、教師と生徒が強固な絆で結ばれた瞬間であった。ちなみにその数秒後、レーダス先生は更なる説教祭りによって死んだ顔になっていたという。ざまぁ。
そんなこんなで二日経ち、『遠征学修』当日となった。その間にカッシュがため込んでいた金を
「おいカッシュ、お前寝不足だろ」
「あー......わかるか?」
「誰でもわかるわ。テンションは高いけど死ぬほど眠そうだぞ」
はぁ、と大袈裟に溜め息を吐いてみせる。駅馬車を待つ生徒達が諸々雑談する中で見回してみせれば、カッシュと同じような様子の生徒が幾人か見られる。
「ったく......旅行が楽しみで寝られないとかガキかっての」
「イグナイト君も相当楽しみにしてるように見えるけどね......」
当然だろ、と俺はセシルに向かって頷いた。
「この日の為にちょっと奮発したんだよ。製作費だけで貯金の三分の一が消し飛んだからな」
「え、それ作ったの!?」
投影とかも利用して大人げなく魔改造した釣竿である。本来この世界に存在しないリールも装備させた完全非合法なものだ。知識チートという程でもないがちょっとだけ見せられないよ!というものになっている。
「どうりでお前の荷物がやたら多いと思ったよ......俺も同じだけどな!」
うぇーい、と馬鹿二人でハイタッチ。最早完全に修学旅行のノリである。
「......ふん。君達は本当に相変わらずだね。僕達は遊びに行くわけではないのだけれど?」
いつも通りに少し離れた場所で冷笑を浮かべるギイブル。それに対して食ってかかろうとするカッシュを抑え、俺は口笛を吹いてみせる。
「ほーお? ギイブルくんは負けるのが怖いのかね?」
「......なに? どういう意味だ、それは」
「いやいや別にー? 今回カッシュが持ってきてるボードゲームの中に"ショーギ"っていう東方由来の対戦形式のやつがあるんだけどさぁ......勝ち抜き戦でもやろうかと思ってたんだけど、この調子じゃあギイブルは不戦敗かなぁと思ってね」
その言葉にぴくり、とギイブルの眉が跳ね上がる。
「いやだがまあ仕方ない! 別に! ギイブルくんはカッシュに頭の回転で劣るということを実証されるのが怖くて! 勝負を避けている──なんて訳じゃないのは俺がよく知ってるから、な?」
口の端がぷるぷると震えている。あと一押し。何やらセシルがうわぁ、みたいな顔をしているが気にしない気にしない。
「だから君は安心して不戦敗扱いされるといい! そう! 不戦敗ィ──!」
「ぐ、この......! 実に安くて陳腐な挑発だが乗ってやろうじゃあないか......!」
流石にこうも煽られたら引っ込みがつかないのだろう。こめかみに青筋を立てながら睨んでくるギイブルににっこり微笑み、俺はカッシュの肩に手を置いた。
「じゃ、あとはよろしく☆」
「よろしくじゃねぇぇぇえ! あれマジモードじゃねぇか!」
「ちなみにセシルも参加確定だから」
「僕もなの!?」
当たり前だ。逃げられると思うなよ?とその肩に手を置く。
「三人揃えばなんとやら。俺達三人であのギイブルで勝つぞ! ぶっちゃけ惨敗する未来しか見えないけど!」
「何でお前煽ったの!?」
がっくんがっくんと揺さぶられながらHAHAHA☆と笑い声を洩らす。何でってそりゃあ、ノリに決まってんだろカッシュくん。
......と。そんないつもの感じで騒いでるところに、全く以てやる気のなさそうなレーダス先生の声が届いた。
「全員、いるかー? いるなー? じゃ、出発するぞー」
その後、担任講師であるレーダス先生の引率の下、俺達は手配されていた駅馬車──都市間移動用の大型コーチ馬車数台に、いくつかの班に分かれて乗り、フェジテを出発した。フェジテの西市壁門から出発した駅馬車は、その南西に延びる街道を下っていく。行く手に広がるのはのほほんとした牧草地帯であり、羊がめーめー鳴いて犬がわんわん追いかけ回す様はなんとも牧歌的で───やたらと眠気を誘う。ボードゲームやカードに興じていた俺とカッシュ、そしてセシルとギイブルだったがいつの間にか睡魔に捕まってしまっていた。
......いたのだが。
「なぁ、まだ着かねぇの? そろそろケツ痛くなりそうだわ」
「しょうがないよ、それなりに遠出するんだし」
早朝から出発し、昼も夜もカッポカッポ進み続けてなお着かない。今ほど自動車という存在がないことを恨んだことはなかった。
「このままだとケツが二つに割れちまう」
「その古典的なネタには突っ込んだ方がいいのか?」
「やだ......ケツに突っ込むとかカッシュくん不潔......!」
頭をひっぱたいてくる手を回避し、死ぬほど下らない話をしながらげらげら笑う。しかしそれでも暇なためやはりボードゲームなどを利用して暇を潰し──。
「あれがシーホーク、か」
正午になり、ようやく俺達はフェジテ南西に位置する港町"シーホーク"に到着した。しかしまだ目的地ではないというのだからげんなりとしてしまう。
その後馬車の停車駅でいったん解散し、再びカッシュ達と共に近くで食事休憩をかねて自由時間を取り、船着場へ集合。そうして一人遅れているレーダス先生を待っている間にフィーベルやルミア様がナンパされる等のアクシンデントこそあったが、何の問題もなく出港したのだった。
そんなわけで、俺達はサイネリア島に到着した。しかし既に太陽は沈みかけている。燃え上がるような太陽が水平線で輝く様は、いっそのこと背を向けて逆光になりながらフハハハハァー!とか言いたくなるほどであった。
「船に乗ってから数時間かかるとか......これ帰る時も同じくらいかかると思うとほんと鬱になるんだけど」
近くにあった岩に腰掛け、ぬぼーっとしながら黄昏時の陽光に照らされる白いビーチラインを眺める。空から響くウミネコの声。うみねこの鳴く頃に......。
「......あれは嫌な事件だったな、うん」
一瞬死んだ目になる。エンディングは読者が考えろってどゆことやねん。許さんぞ竜騎士......まあひぐらしが名作だから許すけど。赤坂はロリコンの鑑。
「大体な! 生来、人は大地と共に生きる生物なんだ! 人は大地の子なんだ! 大いなる大地から離れては人は生きていけないんだッ!...........あ、やべ。叫んだら気持ち悪くなってきた」
謎の叫び声におんやぁ?と振り向いてみれば、そこには顔を青くして両脇を美少女に支えられる我等が担任講師の姿があった。爆ぜろや。
「先生......そんなに船がお辛いのでしたら、遠征学修先は別の場所にすればよかったんじゃ......例えば、イテリアの軍事魔導研究所なら、移動は全部馬車でしたのに」
ロクでなしの心配をするルミア様マジ天使。見ろよ、カッシュなんてうっとりしながら見てるぞ。気持ち悪ィなおい。
「美少女達の水着姿はあらゆるものに優先する。決まっているだろう?」
こっちも負けじと気持ち悪かった。だが恐ろしく真剣な顔であり、ついでに周囲の男子から感嘆の声が上がるあたりが実にアホっぽいクラスだなぁと思わせる。
──まあ俺もそのアホの一人だけど。是非もないよネ!
「たとえ、ここが三国間紛争の最前線だったとしても......俺はここを選んださ」
「せ、先生......アンタ、
「俺、先生に一生ついていきます......ッ!」
感極まった様子で一部の生徒が熱い涙をはらはらと流す。いや泣くなよカッシュ、率直に言ってめちゃんこ気持ち悪いぞ。
しかしもう馴れたもの、フィーベルはそんな様子に呆れて嘆息しつつも適当にあしらうように言った。
「ほら、先生! 馬鹿なこと言ってないで、さっさと宿泊予定の旅籠へ行きますよ!」
すたすた、とフィーベル及び生徒達が移動し始める。ここから宿泊予定の旅籠まで海岸沿いを道なりに一直線だ。迷う余地もない。
「おいおい、お前ら歩くの早ぇーよ。こっちは半死人なんだぞ、手加減してくれ......」
そう愚痴を溢すレーダス先生を大天使ルミア様が支えながら歩き出す。俺も今日昨日と押し込められていたことによる疲れをほぐすように首を回し、欠伸混じりに歩を進め──前方のカッシュと目があった。
......僅かだが、同時に浅く頷く。交錯は一瞬、しかし考えは通じていた。他の班にも別動隊は待機している。何も問題はない。
決行は
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抜け出し☆鉄平