まずい事になった、よりにもよって朝潮をマジギレさせてしまうなんて……。
まあ、気持ちはわかるわ、自分が仕事を終わらせようと一生懸命な時にそばでグースカ寝られたら腹が立つもんね。
私だったら蹴り起こしてるわ。
そうよ!起こせばよかったじゃない!なんで起こさなかったの!?
と、前を歩く朝潮に聞きたいところだけど……。
「あ、朝潮……?」
「なんですか?」
ひぃっ!
そ、そんな目で睨まないでよ!
ギロって言う効果音が聞こえて来そうじゃない!
とてもじゃないけど聞ける雰囲気じゃないわ!
って言うかそんな事聞いてもただの逆ギレになっちゃうものね、それはよくないわ。
寝ちゃった私たちが悪いのは確かなんだし……。
「ご、ごめん……なんでもない……です……。」
「……。」
怒りはまだ収まってないけど、とりあえず廊下で何かする気はないのね、また前を向いて歩き始めたわ。
「う……ん……。」
諸悪の根源の叢雲は、今も私の背中で気絶中だし。
そうよ、叢雲が悪いのよ。
無駄に肩揉むの上手いし、あんまり気持ちいいから寝落ちしちゃったじゃない。
なんで叢雲まで寝てたのかは知らないけど、揉み疲れて寝ちゃったのかしら。
って言うか大丈夫なのこの子、いくら怒った朝潮が怖いって言っても深海棲艦よりはマシなはずよ?
作戦中に気絶しなきゃいいけど……。
(アノ子怖イデス……。)
そんな事言わないであげてシュウちゃん、根は良い子なのよ?
怒る事の方が珍しいの。
変な暴走はよくするけど……。
「あ、朝潮ちゃん、遅かったね。もうみんな集まってるよ?」
「すみません大潮さん、お寝坊さん二人のせいで時間を食ってしまって。」
「お寝坊さん?」
見るな!
今の私をそんなつぶらな瞳で見つめないで大潮!
ええ私たちのせいです!
私たちが仕事中に寝ちゃったせいでこんな時間までかかっちゃったのよ、もう十分反省してるからこれ以上私を責めないで!
「ふ~ん、まあいいや。ちょっとそこで待っててね。」
なんだろう?大潮が食堂の扉に顔だけ突っ込んで中と何か話してる。
あ、そうだ、朝潮が入った瞬間にクラッカーを鳴らす手はずだったわね。
大潮はその合図をしに行ったんだわ。
「いいよ~!朝潮ちゃんこっち来て~!」
「あ、はい。」
大潮に呼ばれて朝潮が食堂の扉をくぐった瞬間。
パンパンパパン!
《朝潮、お誕生日おめでと~!》
と、ありきたりだけど、やられると結構嬉しいお祝いの声が食堂から聞こえて来た。
本当なら私と叢雲もあの中に混ざってる予定だったのよねぇ……。
「な、なになに!?敵襲!?」
お、クラッカーの音で起きたか、じゃあもう降ろしていいわね。
私より体大きいから重いのよアンタ。
「痛っ!何するのよ満潮!お尻打っちゃったじゃない!」
「目が覚めて丁度良かったでしょ?どこまで覚えてる?」
「どこまでって……あ……。」
記憶までは無くしてないようね、説明の手間が省けるから助かるわ。
「まだ……朝潮怒ってる?」
「取り付く島もない感じね。パーティーで機嫌が直ってくれるのを祈るだけだわ。」
「そ、そう……。」
顔真っ青じゃない、大丈夫?
養成所時代に朝潮を怒らせた事があるのかしら、それとも怒られる事に慣れてない?
「あ、そういえばアンタ、朝潮へのプレゼントは?部屋に置いてるの?」
「え?持ってるわよ?あの子の誕生日を聞いた頃には、もう私と辰見さんは忙しくなってたから大した物は用意できなかったけど……。」
「ちなみに何?」
「本人に渡す前にそれ聞く!?まあ、別にいいけど……。写真よ……。」
写真?養成所時代の写真かしら。
それとも……。
「自分のブロマイドとか?」
「私はそこまで自信過剰じゃない!ほら、あのモヒカン居るじゃない?司令官の私兵の。」
「モヒカンの写真?それ、ケンカ売ってるのと同じなんじゃない?」
司令官の写真ならまだしも、あんな世紀末に生息してそうな生き物の写真を送っても喜ぶとは思えないんだけど、私ならその場で破り捨てるわ。
「違うわよ!あの人が司令官の昔の写真持ってるの知ってたから、焼き増しと言うかコピーと言うか……とにかくしたの!」
「へぇ、それはあの子喜ぶわ。でもよく見つけられたわね、一人で倉庫街に行ったの?」
「行こうとしたら辰見さんが『じゃあダルシムまで持ってこさせましょ。』って電話で呼び出して受け取ったの、今月の初めくらいに。」
今月の初めにダルシムで?
まさか龍驤さんが着任した日じゃないわよね?
確かあの日、モヒカンがダルシムの近くで気絶してたって話は聞いた覚えがあるけど、叢雲との待ち合わせの帰りに龍驤さんと遭遇したのかしら。
「満潮は何をあげるの?」
「私も写真と言えば写真なんだけど……、司令官が私物を改造してロケットペンダントにしてね、私はその中にハメるフレームを用意したの。」
「ロケット?飛ぶの?」
「それはもういい!」
やめてよねホント、そのボケはすでに司令官が使用済みよ。
二度ネタ禁止!
何不思議そうな顔してるのよ、ダメなものはダメだからね!
「あ、じゃあロケットペンシルみたいに後ろから写真入れたら古い写真が飛び出すの?」
「ロケットペンシルってなに?」
この子何言ってるの?ペンシルって事は鉛筆か何か?
まさか飛ぶんじゃないでしょうね。
「知らない?ロケットペンシル。」
「知らないわよ、ロケットペンシル。」
『あっれ~?』とか言ってんじゃないわよ、それが最近流行りの文房具なの?
「辰見さんにそんなのがあるって聞いたのよ、古い芯をお尻から刺すと新しい芯が出てくるらしいわ。」
アンタも見たことないんじゃない!
って言うか鉛筆の芯をお尻に刺すの?どんな特殊プレイよ!その鉛筆って絶対大人のおもちゃでしょ!
「まあいっか、お腹空いたから私達も入りましょうよ。」
「今日の朝潮は怒ってるからご飯を『あ~ん』してくれないかもよ?」
「そこまでさせてないから!精々お風呂で体洗ってもらったりとか……その程度よ!」
どの程度だ!
完全に召使扱いしてたんじゃない!
え?まさかマジでイジメてたの?
これ、姉としてちょっと聞いとく必要があるわね。
「ねえ、なんでそんな事させてたの?朝潮は友達じゃないの?」
「友達……だと私は思ってるわ……。」
「じゃあなんで?」
そんなシュンとしないでよ、別に怒ってるわけじゃないんだから、アンタにそんな自信なさげな顔は似合わないわよ?
「私が入所した時ね、あの子一人だったのよ。」
「友達が居なかったって事?」
「うん、駆逐艦ってさ、他の艦種に比べて入れ替わりが激しいじゃない?」
そうね、紙装甲の割に血の気が多い子が大多数だから、無暗に突っ込んで戦死する事はよくあるわ。
そうじゃなくても、下手したら駆逐艦の砲撃でも当たり所が悪ければ一発で戦死するほど脆いものね……。
「だから、新しく入所して来ても、早い子は半年もせずに居なくなってたんだって。そのせいで、長く養成所に居たあの子には友達って呼べる子が一人も居なかったの。それだけじゃないわ、あの子は自分を能無しだと思い込んでたから、他人と関わるのを怖がってる節もあった。」
無能が移るとでも思ってたのかしら、それとも陰口でも言われてたのかな……。
今はだいぶマシだけど、着任したての頃は酷かったものね。
自分に自信がなく、自己評価は常に最低、強くなってからも、それはなかなか変わらなかった。
今でも自己評価が高いとは言えないわ。
「それで、無理矢理関わろうとした結果、召使にしちゃったわけ?」
「最初は、ウジウジしてるあの子が気に食わなかったから、宿題を代わりにさせたり、パシリみたいな事もさせたけど……あの子、それすら嬉しかったのか嬉々として言う事聞いてくれちゃってさ。」
イジメじみた事でも、自分と関わろうとしてくれた叢雲の行動が嬉しかったのね。
叢雲が居たから、あの子は姉さんの艤装と出会うまで養成所に居続けることが出来たんだわ。
「でも段々と、私もあの子の事が好きになっちゃって……友達としての好きよ!?」
「わかってるわよ、で?」
「最後の適合試験の前の日にあの子に言ったの、『もし試験に落ちたら提督を目指しなさい』って、そして私を初期艦に選んでって……。そうしたら、私が居なくなっても士官学校で頑張っていけるかなって思って……。杞憂だったけどね。」
あの子が提督にねぇ……養成所に居た頃ならまだしも、今のあの子が提督を目指すとは思えないわね。
すでに頭の中じゃ司令官と結婚してるんじゃないかしら。
そもそも妖精が見えるとは思えないし。
ねぇ?シュウちゃん。
(アイ!アノ子見エテナイデス!)
「ねえ……満潮?執務室のでも気になってたんだけど……右肩に何かいるの?」
「だから妖精さんって言ったじゃない、最近見えるようになったのよ。」
ん?なによその『うっそだ~。』って言いたげな顔は、信じてないわね。
(ヤッチマイマス?)
うん、やっちゃおうか。
「え!?なに!?頭の上に何かいる!ちょ!髪の毛が引っ張られる!何よコレ!」
「私の妖精さんが今アンタの頭の上で暴れてるの。」
「ホントに!?ちょっと痛い!やめさせてよ満潮!」
とりあえず信じる気になってくれたかしら。
「シュウちゃん、もういいわ。戻ってらっしゃい。」
(アイ!)
シュウちゃんが叢雲の頭の上から、私が差し出した手の平上に飛び移って来た。
こんな可愛い子が見えないなんて可哀そうね叢雲、同情するわ。
「その勝ち誇った顔が凄くムカつくんだけど……。まあ、妖精さんが見えてるってのは一応信じてあげる……頭が可哀そうな訳じゃなくてホッとしたし。」
ん?今なんて言った?
私の頭が可哀そう?
あ、そうか!他の人に見えないシュウちゃんに向かって話しかけたり、ニヤケたりしてたからそう思われたんだ!
司令官が気をつけろって言ってたのはこういう事だったのね……。
変な目で見られるどころか心配されちゃってたか。
「妖精さんが見えるって事は、満潮は提督を目指すの?」
「考え中よ、司令官には来年の任期更新の時に士官にならないかとは言われてるわ。」
「ふぅん、艦娘辞めちゃうんだ……。」
だからまだ考え中だっての、それとも私が艦娘辞めたら寂しいの?
そうよね、アンタ私と朝潮くらいしか友達いないもんね。
私?私は居るわよ?朝潮大潮荒潮にアンタでしょ?九駆の四人と霞と霰は……微妙か、他は……、アレ?大潮と荒潮分しか差がない……。
で、でも、アンタより二人も多いもんね!
「まあ、アンタの人生だしね、好きにすると良いわ……。」
とか言いつつ、スカートの裾持って涙ぐんでるじゃない。
素直じゃないなぁ、私も人の事言えないけど。
「別に艦娘辞めたって友達に変わりはないでしょ?それに、辞めると決めた訳でもないんだから。」
「ふ、ふん!アンタがそう言うなら、友達でいてあげる……。」
「あっそ、ありがと……叢雲。」
さぁって、友情を確かめ合ったところで、そろそろパーティー会場に行くとしますか、朝潮の機嫌が直っててくれればいいんだけどなぁ……。
「あらぁ、満潮ちゃんと叢雲ちゃん、やっと来たのねぇ。何してたのぉ?」
会場に入って最初に迎えてくれたのは荒潮だった、なんだか顔が赤いけど……まさかお酒飲んでるんじゃないでしょうね?
「叢雲がなかなか泣き止まないから慰めてたのよ。ね?叢雲。」
「は、はぁ!?別に泣いてないし!」
はいはい、そうですね~っと。
え~と、朝潮は……。
あ、居た、カウンターに座る司令官の隣でケーキ食べてるわね。
機嫌は……うん、一応怒りは収まってるみたい。
「ほら、行くわよ叢雲。プレゼント渡さなきゃ。」
「え、もう!?朝潮まだ怒ってるんじゃ……。」
「司令官が横に居るから大丈夫よ、きっと喜んでくれるから。」
「う、うん……。」
普段高飛車な癖に、なんでちょっと怒られただけでここまで萎縮しちゃうのかしらこの子、もしかして怒られる事にトラウマでもあるのかしら。
「お、やっと来たか満潮。叢雲も一緒だな。」
「こ、こんばんわ司令官……あのちょっと朝潮に用があるんだけど……。」
あれ?叢雲ってもしかして司令官が苦手?
司令官の態度は普通だけど……。
「私は外した方がいいか?」
「遠慮しなくていいわ、叢雲がプレゼント渡すだけだから。」
司令官が席を外すといった瞬間、朝潮が『え!?』って感じになったけど、とりあえずここで居眠りの事を怒るつもりはなさそうね。
「あ、朝潮……その……昼間はごめんね、私のせいで……その……。」
「それはもう怒っていませんよ。私も……少し言い過ぎました……。」
よし、怒りは収まってる、きっと司令官が朝潮の様子がおかしいのに気づいて機嫌でも取ったのね。
「一応、フォローはしといた。」
司令官が私の耳元でボソッとそう言ってきた。
やっぱり、さすが司令官だわ、いい仕事するじゃない♪
「で、プレゼントなんだけど……これ!これくらいしか用意できなくて申し訳ないけど……受け取ってくれる?」
「なになに?叢雲から朝潮への愛の告白ぅ?」
「辰見さん、少し黙ってて。」
でも辰見さんの言いたい事もわかるわ。
顔を赤らめてうつむきながら可愛らしい封筒に入れた写真を差し出す様は、『ずっと好きでした!』っていいながらラブレターを渡す女の子そのものだもの。
「ありがとうございます、開けても……いいですか?」
「え?あ……うん……。」
あれ?よく考えたら司令官の写真を、本人の許可なく勝手にあげてるのよね?
司令官は気にしないのかしら。
「これ……あの時モヒカンさんが持ってた写真……どうしたんですか?これ。」
「そのモヒカンから借りて、パソコンに取り込んで印刷したの……気に入らなかった?」
「そんな!すごく嬉しいです!ありがとうございます!」
どんな写真なんだろ?私も見ていいかな?
司令官も興味ありげに覗いてるし、私も便乗しちゃうか。
「懐かしいな、奇兵隊結成当時の写真じゃないか。アイツめ、まだこんな写真持ってたのか。」
あ、若い司令官だ、陸軍の軍服着てるのが違和感あるけど……あ、これがモヒカンと金髪かな?
モヒカンってこの頃はモヒカンじゃなかったんだ……。
「え?そんな頃の写真が出て来たの?」
「ああ、神風も見てみろ、これお前が撮った写真だろ。」
調理場の方から出て来た神風さんも興味深そうに写真を覗き込んだ。
だから神風さんが写ってないのか、この頃にはもう艦娘だったのかな?
「そうそう、私がカメラマンやって撮った奴だわ。あれ?この頃のモヒカンってモヒカンじゃなかったっけ?」
「そういやアイツ、なんでモヒカンにしたんだ?いつの間にかあの髪型になってただろ。」
ホント、何を思ってあの髪型にしたのか……。
普通の髪型してりゃ割と二枚目じゃない、隣に金髪が写ってなかったら絶対に気づかなかったわ。
「あ~思い出し……いや、やっぱり思い出せないわ。」
んん?何かを明らかに隠してるような感じね、もしかしてアイツがモヒカンになったのに神風さんが関係してるんじゃ……。
「あ!この写真を満潮さんからのプレゼントにハメてもらおうかしら。どう思います?満潮さん。」
「ん~、その写真はそのまま写真立てかアルバムにでも入れた方がいいんじゃない?司令官からのプレゼントはまだ貰ってないの?」
司令官が首を横に振ってる、まだ渡してなかったのか、さっさと渡しなさいよ。
じゃないとこの後の予定が立たないでしょうが。
「朝潮、私からもプレゼントを渡しておこう。」
「こ、光栄です!ありがたくちょ、頂戴いたしまするる。」
何をいまさら緊張してるのよ、セリフがバグってるわよ?
「あ、これ……ペンダント……ですか?」
「ああ、お古のシガレットケースをペンダントに改造した。ちょっと開けてみてくれるか?」
「中に羅針盤が、反対側は何も入って……。あ!満潮さんのプレゼントはそういう事ですか!」
へぇ、反対側は羅針盤にしたんだ。
でもなんで羅針盤?時計の方が便利良いんじゃない?
「これをこうして……やっぱり!ピッタリです!」
厳密にはまだだけど、とりあえず完成。
気に入ってくれたようで何よりだわ。
「でも提督、なんで羅針盤なんです?」
そうそう、それが私も気になってたのよ。
ナイスだわ辰見さん。
「それはな、どこに居ても、朝潮が迷わず私の元に戻ってこれるようにと願いを込めて羅針盤にしたんだ。針が黒と赤の二本あるだろ?赤い方が常に私のいる方を向くようになっている。」
クッサ!
普通こんな大勢人が居る場で言う!?
ほら、みんな鼻摘まんでるじゃない!
マジで臭って来そうなくらいクサいわ、感激してるのは朝潮だけよ!
って言うか自分の方に常に針を向けさせるってどんな技術よ、妖精さんってそんな事もできるの?
(余裕デス!)
あ、余裕なんだ……やっぱ妖精さんってマジパナイわ。
「司令官……はい!この朝潮、司令官がどこに居ようと、この羅針盤を使って必ず司令官の元に戻ります!」
「朝潮!」
「司令官!」
勝手にやってろ!
はぁ……なんだかムカムカしてきたわ……。
「このままキスでもしようものなら、即憲兵さんに通報ね。」
「あらぁ?満潮ちゃん妬いてるのぉ?」
なんで私がヤキモチ妬かなきゃいけないのよ荒潮、諸手を挙げて祝福してあげるわ。
「へぇ、満潮って先生の事好きだったの?」
「いや、ないから。絶対ないから。」
どうしてそうなるのかホント意味分かんない、そりゃあ嫌いではないわ、好きか嫌いかで言えば好きよ。
でもそれは上官としてとか保護者としてとか、そんな感じの好きよ、恋愛感情なんてないわ。
「神風こそどうなのよ、大好きなお父さんを取られちゃうわよ?」
「むしろ清々してるわよ辰見、これでようやく娘離れしてくれるわ。」
そんな事言っちゃって、今でも司令官と同じ部屋に住んでるんでしょ?
「作戦が終わったら部屋も出て行くしね、それが私から朝潮へのプレゼント。」
「え?一人で寝れるようになったの?」
「あ、当たり前でしょ!?私が何歳だと思ってるのよ!」
いや、一人で寝れなかったのかこの人、意外と可愛い一面があるじゃない。
でもそうすると……作戦が終わったら朝潮と司令官が同棲開始?
それは色々とまずいような……。
「ねえ満潮、先に写真撮っといた方がいいんじゃない?そろそろ朝潮ちゃんオネムの時間だよ?」
おっとそうだった、朝潮と司令官の問題ありまくりの同棲生活の心配してる場合じゃないわね。
大潮に言われなきゃ忘れてたわ。
「司令官、先に写真撮っときましょうよ、朝潮が眠くなる前に。」
「写真?みんなで集合写真でも撮るんですか?」
「アンタと司令官のツーショットよ、フレームの二枚目が空いてたでしょ?」
「なるほど、それのために空けてたんですね。」
そういう事、その写真をハメたら本当の意味で完成よ。
「朝潮、どこか撮りたい場所はあるか?」
「執務室がいいです!」
まあ妥当か、先に聞いといて、司令官に執務室まで来てもらってれば良かったわね。
そうすれば寝転けて朝潮を怒らすこともなかったでしょうし……。
「じゃあ行こっか、私のスマホで撮ったのでいいでしょ?」
そっちの方がデータをやり取りする手間も省けるから私の都合が良いわ。
「はい!お願いします!」
あ、そうだ、執務室に行く前に……。
「大潮、悪いんだけど私のご飯取っといてくれない?」
「いいよ、部屋で食べるの?」
「写真撮ったら戻ってくるわ。このままじゃ叢雲に全部食べられちゃいそうだから。」
これでもかって言うくらい口に詰め込んでるわね、ホッペタが膨らんでリスみたいだわ。
そんな叢雲がおもしろいのか、九駆の四人が叢雲の口の前にドンドン食べ物を差し出してるから、取っておいて貰わなきゃマジで全部食べられそう……。
「満潮さん!早く早く!」
「はいはい、わかったわよ。」
ここに来るまで、視線だけで深海棲艦を沈めそうなのほどだった雰囲気が嘘みたいね。
完全にキラ付け状態じゃない、今日は就寝時間を過ぎても寝そうにないわね。
あらま、司令官と手まで繋いじゃって、廊下を歩く二人の後ろ姿はまるで親子ね。
朝潮には申し訳ないけど、とても恋人同士には見えないわ。
せめて司令官が、叢雲が持ってきた写真の頃くらいの歳ならまぁ……。
それでも無理か、朝潮が幼すぎるのが悪いのか、司令官がオッサンすぎるのが悪いのか、姉さんの時も思ったけど歳の差がありすぎるのよねぇ……。
まあ姉さんの場合は、艦娘辞めたら年相応の身長にはなってたろうから、そこまで違和感は無かっただろうけど、三十過ぎのオッサンが16歳の少女と結婚……。
世の男どもが歯噛みしながら羨ましがりそうね。
私だったらどうなんだろ、艦娘辞めたらちゃんと身長は伸びてくれるのかな、司令官の隣に居ても違和感が無いくらいに……。
来年の三月には16だし、法的にも結婚は可能……自画自賛じゃないけど容姿も割と整ってるはず。
って!何考えてるのよわたしは!
これじゃ司令官の事を男として意識してるみたいじゃない!
「満潮、どうかしたのか?」
「な、なんでもない!」
これは何かの間違いよ、そう!
きっと二人の熱々っぷりに当てられたのよ!
そうに違いないわ!
じゃないと、こんな額が後退してるのを気にしてるオッサンが気になるなんてあり得ないもの!
「満潮さん?着きましたよ?」
「え?あ……うんごめん、ちょっと考え事してた……。」
「顔が赤いな、熱でもあるんじゃないか?」
私が司令官にお熱だって言いたいの?
自意識過剰もいい加減にしなさいよ?
司令官の事なんて別になんとも思ってないんだから!
「熱なんてないわよ、それよりどんな構図で撮るの?」
「そうだな……。朝潮、どんなポーズを取ればいい?」
「えっとですね……とりあえずここに……。」
朝潮が執務机の椅子を壁の前に移動させ、そこに司令官を座らせ、座った姿勢のまま日本刀を床に立て、柄に両の手の平を重ねて置いたポーズをとらせた。
その横に朝潮が陣取るのかしら?
「で、私がここに……。」
いや、どうしてそこに行く、せっかく司令官がいい感じに威厳のあるポーズをとってるのになぜ肩に乗ろうとするのか。
最初から肩車してもらえばいいじゃない!
「朝潮……。本当にそれでいいの?」
「え?ダメですか?」
「ダメとは言わない、アンタがそれが良いって言うならそれでいいわ。でも、それじゃ恋人同士にはとても見えないわよ?」
まともに撮っても見えやしないんだけどね、まあこれは言わないでおこう。
「そんな……一生懸命考えたのに……。」
そっかー、一生懸命考えた結果が肩車かぁ……。
別にションボリする必要はないわ朝潮、それはそれで微笑ましい光景だから。
司令官が士官服で決め顔してるせいでシュールに見えるけど。
「み、満潮さんが決めてもらえませんか?」
「私?私が決めていいの?」
「是非!」
そりゃ肩車よりマシな構図は思いつく自信はあるけど……。
はぁ……、あの朝潮の期待に満ちた瞳を見ちゃったら、断るなんてできないわね。
「わかったわ、とりあえず朝潮は司令官から降りなさい。司令官はそのポーズのまま体ごと少し横向いて。そう、その位。」
「それで私が司令官の腕の上に座るわけですね!」
なんでそうなる、司令官なら余裕で支えそうだけどしんどいでしょうが。
「アンタは司令官の横に立つ!そうその辺でいいわ。あとは敬礼でもしてなさい。」
「シンプルすぎませんか?」
アンタは笑いを求めて肩車なんか考えたの?
一応誕生日の記念なんだから慎ましい感じでいいのよ!
「シンプルイズベストよ、撮った写真を見ればアンタも気に入るわ。」
たぶん……。
「わかりました、お願いします!」
あ、結局敬礼する事にしたのね、そっちの方がアンタらしくていいけど。
「撮るわよー。ハイ、チーズ!」
パシャ!という音と共に撮られた写真には、若干緊張気味ながらも幸せそうな朝潮と決め顔の司令官がおさまっていた。
前言を撤回するわ朝潮、アンタたち二人はお似合いのカップルよ。
妬けちゃうくらいに……。
「わあ!満潮さんの言うとおりでした!凄く良い感じです♪」
「写真屋が撮ったような感じだな、やるじゃないか満潮。」
そりゃどうも、気に入ってもらって良かったわ。
「後でアンタのスマホにも送っておいてあげるからとりあえず返して、明日にはペンダントにハメれるようにした写真を渡してあげるか。」
「はい!よろしくお願いします♪」
さて、それじゃあ私はご飯を食べに戻りますか。
二人は……しばらくここで話でもしそうな感じね、一応釘だけ刺しとくか。
「じゃあ私は先に食堂に戻るけど……。二人っきりだからって変な事しちゃダメよ?」
「変な事?」
「安心しろ満潮、あと二年くらい我慢できる。」
我慢強くて大変よろしい。
あ、そうだ、戻る前に朝潮に一言言っておかなきゃ。
「朝潮。」
「なんですか?」
キョトンと仕草が可愛らしいわね。
アンタは強くて可愛い、私の自慢の妹よ。
だから心から祝福してあげる。
アンタの14歳の誕生日を。
「誕生日、おめでとう。」
「ありがとうございます、お姉ちゃん♪」
朝潮の輝くような笑顔に見送られながら、私は執務室を後にした。
映画館に見に行くことが出来なかったので尼さんに注文していた艦これ劇場版が今日届きました。
今から見てきます!