艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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朝潮決戦 2

 12月16日、今日は私の誕生日です。

 

 各鎮守府から出向して来た艦娘たちの編成も終わり、今は各艦隊に分かれて装備の選定や調整、連携の確認やワダツミからの発艦訓練などで、鎮守府内は戦場と同じくらい騒々しいです。

 

 そんな中私はと言いますと。

 司令官がお忙しい分、執務室で書類仕事に追われております。

 満潮さんが手伝ってくれてるとは言え、辰見さんがやらない分までこちらに回って来てるから大忙しです。

 まあ、他の皆さんに比べれば平和的な忙しさではあるんですが。

 

 「誕生日だと浮かれて良い雰囲気ではありませんね……。」

 

 「そうね、さすがに霞の時みたいに駆逐艦全員集めてパーティーって訳にはいかないわね。寂しい?」

 

 「いえ、そんな事はありません。」

 

 孤児になってから誕生日とは無縁の生活をしてましたし、養成所に居た頃も人の入れ替わりが激しくて、私の誕生日を知ってる人なんて教官くらいでしたから。

 

 「まあ、今年は私達だけのささやかなパーティで我慢しときなさい。食堂の使用許可ももらったし、鳳翔さんが料理作ってくれるって言ってたから。」

 

 「そうなんですか?いつの間にそんな打ち合わせを……。」

 

 「一昨日の晩よ、私が司令官とたまに飲んでるの知ってるでしょ?」

 

 そう言えばそんな羨ましい事をしてましたね、満潮さんもお酒飲んでるのかしら、まだ未成年ですよね?

 

 「言っとくけどお酒は飲んでないからね。ごく稀に飲ませてくれる事はあるけど、アンタが想像するような変な事はないから。」

 

 別に想像はしていませんよ?まだ。

 そう言われると想像しちゃうじゃないですか、満潮さんなら司令官とそういう関係になってもゆる……許せ……許してあげてもいいですけど……。

 

 「なんで悔し泣きしそうな顔してるのよ、私と司令官がそんな関係になるなんてありえないから安心しなさい。」

 

 「ホント?」

 

 「本当よ、司令官はアンタ一筋なんだから。浮気するような人じゃないのなんて、アンタが一番知ってるでしょ?」

 

 知ってますけど……やっぱり不安にはなります。

 だって満潮さんは同性の私から見てもとっても可愛いし、性格に難がなければ絶対モテる人ですから。

 

 「アンタ今、私の性格に難があるとか思わなかった?」

 

 おうふ……顔に出てましたか?

 そんなにこめかみをピクピクさせないでくださいよ。

 ちょっと、ほんのちょっぴりそう思っちゃっただけじゃないですか。

 あ、ごめんなさい、拳をポキポキ鳴らさないでください、謝りますから!

 

 「まったく……少しはポーカーフェイスってのを身につけなさいよ。将来が心配になるレベルでわかりやすいわ。」

 

 なんか大淀さんにも似たような事を言われた覚えがありますね。

 そんなにやばいんでしょうか……。

 わかりやすいのは良い事だと思うんですけど……。

 

 「あ、やっぱりシュウちゃんもそう思う?」

 

 「シュウちゃん?」

 

 誰でしょう?右肩の方を見ながら話してますね。

 そういえば、昨日あたりから何もない空間を見てニヤニヤしたり、話しかけたりしてましたが……。

 

 「満潮さん……まさか……。」

 

 「え?何か言った?」

 

 「いえ!何でもありません!」

 

 これはきっとアレです、大潮さんの愛読書に書いてあった『イマジナリーフレンド』ってやつに違いありません!

 あまりに友達が少ないから、とうとう空想のお友達を作っちゃったんですね……。

 お可哀そうに……。

 でも安心してください、私はそんな満潮さんを見捨てたりしません。

 妹として変わらず接します、生暖かく見守ってあげます。

 深海化した荒潮さんよりは数倍マシですから。

 

 「なんか、また失礼なこと考えてない?」

 

 「そんな事はありません。安心してください、私は何があっても満潮さんを見捨てたりしませんから。」

 

 「そ、そう?なんかよくわかんないけど……。」

 

 優しく見守るのよ朝潮、見えないお友達の事に触れてはダメ、これは満潮さんが自分で乗り越えて大人へと至る大事な儀式なんだから。

 

 「あ、そうだ。私達だけとは言ったけど、九駆の四人と神風さん、それと叢雲にも声かけといたから。あ、この書類そっちね。」

 

 「これは……司令官宛か。忙しい人たちばかりじゃないですか、大丈夫なんです?」

 

 「夜は平気よ、今は作戦に参加する子は哨戒任務から外されてるし。あ、これもそっちだわ。」

 

 叢雲さんも来てくれるんだ。

 養成所に居た時は、すぐお別れになると思って教えてなかったから嬉しいです♪

 

 「ちなみに、先月の終わり頃にアンタの誕生日教えたんだけど、叢雲がすっごい怒ってたわよ?『なんで私に誕生日教えてなかったのよ!』って。」

 

 やっぱり来ないでください、会った途端に殴られそうです。

 

 「それと、はいコレ。パーティーの時じゃ他のプレゼントとかさばるだろうから今渡しとくわ。」

 

 「わぁ!ありがとうございます!開けてもいいですか?」

 

 「いいわよ、と言うかむしろ開けなさい。」

 

 なんだろなんだろ、手の平くらいの小さな四角い箱、厚みはあまりないわね。

 

 「これ……あの時の写真ですか?」

 

 「そ、呉で朝潮型全員と司令官で撮った写真にちょっと細工した物よ。」

 

 細工?あ、金属製のフレームに小さくした写真をはめて、上からガラスのような物で保護してあるんだ。

 あれ?それが本みたいにめくれるようになってる、下の方のフレームには写真がはめられていませんね。

 

 「二枚目にはアンタの好きな写真をはめればいいわ、写真渡してくれればやってあげるから。」

 

 「はい!ありがとうございます!大事にします!」

 

 「それとソレ、ポケットに入れてパーティーに持って行くのよ。」

 

 「パーティーにですか?」

 

 30×60くらいの大きさだからポケットに楽に入りますが……部屋に置いといた方がいいのでは?

 

 「いいから言う通りにするの。司令官からのプレゼントを見れば意味がわかるわ。」

 

 「は、はあ……。」

 

 よくわかりませんが言われた通りにしておこう、もしかして司令官のプレゼントとセットなのかな?

 でも私が司令官にお願いしたのは御守りに出来そうな司令官の私物だし……。

 う~ん訳がわかりません。

 

 「それにしても量が多いわね……。辰見さんは何してるのかしら、少佐は普通に書類仕事してるんでしょ?」

 

 「艦隊の方は由良さんが見てるらしいですからね。辰見さんは……ほら、ながもんと武蔵さんがケンカしないように見張るのが忙しいらしくて……。」

 

 「っていう言い訳でしょ?叢雲は何してるのよ。」

 

 そういえばそうですね、叢雲さんは何してるんだろ。

 パーティーの時に聞いてみようかしら。

 

 「お邪魔するわよ~。」

 

 おっと、噂をすれば影ですね、執務室のドアをノックもせずに開けて叢雲さんが現れました。

 仲間になりたそうにこっちを見てます。

 

 「邪魔すんなら帰れ。」

 

 「そうもいかないわ、辰見さんに言われて来たんだから。」

 

 辰見さんに私達を手伝うように言われて来たのかしら。

 でも、ソファーに一直線って事は手伝う気ありませんよね?

 まさか満潮さんの一言で機嫌を損ねましたか?

 

 「朝潮、お茶。」

 

 「あ、はい。」

 

 いきなりくつろぐ気満々ですね。

 このやり取りも懐かしいです、養成所時代を思い出してしまいます。

 あの頃もよくこうやって顎で使われてました。

 あれ?私ってもしかしてパシリだったのかな?

 

 「いきなり邪魔してるじゃない!何しに来たのよアンタ!」

 

 「え?最初に言ったじゃない、『邪魔する』って。」

 

 あ、言葉通り邪魔しに来たんですか。

 そんな『何言ってんのアンタ』みたいな顔されても困りますよ。

 部屋にお邪魔するって言って入ってきて、ホントに邪魔する人は稀ですから。

 

 まあ、そろそろオヤツの時間でしたからお茶を淹れる事自体はいいんですが……もしかして狙ってこの時間に来ました?

 う~んお茶請けどうしよう、確かお饅頭があったと思うけど……。

 

 「まあまあ満潮さん、丁度良いから休憩にしましょう。」

 

 「アンタがそう言うんならいいけど……。アンタ慣れてるわね、もしかして養成所でもこんな扱いされてたの?」

 

 「そうですね、だいたいこんな感じでした。」

 

 宿題を代わりにやらされたり訓練終わりにマッサージさせられたり、私にお風呂で体を洗わせたり。

 まるでお嬢様と召使いみたいでした。

 

 あ、湯飲みどうしよう、満潮さんには私のを使ってもらって、叢雲さんはお客様用でいいか。

 そうすれば、私は司令官の湯飲みを自然と使う事ができる……完璧な作戦だわ!

 

 「ちょっと、それじゃ私が朝潮をイジメてたみたいじゃない。」

 

 ん~イジメとは少し違うような……?

 私が嫌がるような事はしませんでしたし。

 

 おっと、いつも通りの温度で淹れちゃったけど大丈夫かな、満潮さんって猫舌なのよね。

 たしか叢雲さんも……。

 まあいっか、私も司令官も猫舌じゃないし。

 

 「どちらかと言うと召使いって感じ?まさか着替えを手伝わせたりしてたんじゃないでしょうね。」

 

 あ、それもありました!

 満潮さん凄いですね、よくご存知で。

 

 え~と、お饅頭~、お饅頭はっと……。

 あった!霞がお土産に持ってきてくれた紅葉の形をしたお饅頭♪

 三つづつくらいでいいかな?

 

 「いや~、私って良い所のお嬢様だったからさ~。」

 

 「否定しなさいよ!着替えを人に手伝わせる程のお嬢様がなんで艦娘なんてやってんの!?」

 

 んん?叢雲さんって普通のご家庭の出じゃありませんでしたっけ?

 まあ、振る舞いとかは確かにお嬢様っぽかったですけど。

 

 「怖い物見たさって奴?スリルを求めて?」

 

 「冗談で言ってるんだろうけど。それ、大半の艦娘を敵に回すから二度と言わないようにしなさい。殺されたって文句言えないような事言ってるわよ。」

 

 殺されるは言い過ぎかもしれませんが、確かにやめた方がいいですね。

 生きるために仕方なくか、復讐のために艦娘になった子がほとんどですもの、叢雲さんの今のセリフに気を悪くする人も多いでしょう。

 

 「ごめん、今のは調子に乗りすぎたわ。反省する。」

 

 頭アレがしゅ~んと垂れ下がってるから本当に反省してるんですね。

 素直でよろしいです、頭を撫でてあげましょう。

 

 「ちょ、ちょっといきなり何!?」

 

 「え?頭を撫でてあげようと……。嫌ですか?」

 

 「い、嫌じゃない……けど……。いや、やっぱり嫌!」

 

 どっちですか、頭のアレを立てて『フシャー!』って言いそうな感じですが、暴れないでくださいよ?

 お盆の上のお茶がこぼれてしまいますから。

 

 「熱いから気をつけてくださいね叢雲さん。満潮さんもどうぞ。」

 

 「ありがと、って熱!ここまで熱くしなくてもいいじゃない……。ったく……。」

 

 「あら、叢雲も猫舌なの?」

 

 叢雲さんの右隣に、湯飲みを受け取りながら腰を下ろした満潮さんがそう聞いてきた。

 

 「ええ、辛い物も苦手です。満潮さんと好みが似てますよ?」

 

 それとお茶を冷ます仕草も、湯飲みを両手で持って身を縮めてフーフーしてる姿がそっくりです。

 

 「お二人は実の姉妹だったりしません?」

 

 「「ないない。」」

 

 おお!お二人のセリフと、湯飲みに口を半分つけながら右手首を振る動作が見事にシンクロしています!

 やはり姉妹なのでは?

 

 「休憩終わったらちゃん手伝ってよ?アンタらがやらない分がこっちに回ってきてるんだから。」

 

 「この叢雲に任せなさい。なぁに、お礼はいらないわ。でもどうしてもって言うなら仕方ない、貰ったげる。」

 

 「むしろこっちがお礼してもらう立場なんだけど!?」

 

 叢雲に満潮さん激しくツッコミを入れ、叢雲さんが涼しい顔でサラリと躱す。

 仲いいなぁ二人とも。

 

 「あ、そういえば今日のパーティーに辰見さんも来るって言ってたわ。」

 

 「辰見さんも?朝潮って辰見さんと仲良かったっけ?」

 

 「別に良くも悪くもありません、仕事上のお付き合い程度です。」

 

 叢雲さんが心配なんじゃないですか?

 叢雲さんは私と満潮さんくらいしかお友達居ませんから。

 

 「そうだ!なんで私に誕生日教えなかったのよ!先月の終わりに満潮に聞いてビックリしたわよ!」

 

 「む、叢雲さんが忘れてただけじゃないです……か?」

 

 誤魔化せないかなぁ……そもそも誕生日を教えてないだけで怒られるのも理不尽な気が……。

 私だって叢雲さんの誕生日を聞いたことありませんよ?

 

 「へぇ、そういう嘘つくのね、アンタって。」

 

 う、ダメか、叢雲の目が目が据わってるわ……殴られる覚悟をした方がいいのかしら……。

 

 「じ、時間なかったからプレゼント用意するのに凄く困ったんだから……。」

 

 おっと?殴られるかと思って身構えてたら叢雲さんがデレてそっぽを向いてしまいました。

 デレるなら最初から怒らないでくださいよ、心臓に悪いです。

 

 「素直じゃないわねぇ叢雲は、パーティーに呼んでもらって嬉しいなら嬉しいって言えばいいのに。」

 

 「別に嬉しくなんか……!って何してるの満潮。」

 

 聞いちゃダメです叢雲さん!そっとしておいてあげて!

 あの満潮さんが笑顔で、左手に小さく千切ったお饅頭を乗せて、右肩に差し出してる光景が不思議なのはわかります。

 きっとそこに、私達には見えないお友達がいるんです!

 

 「え?シュウちゃ……。妖精さんにオヤツあげてるだけだけど?」

 

 ついに妖精さんって言いだした!

 満潮さんの症状は私が思って以上に深刻なようです!

 

 「よ、妖精?そこに妖精さんがいるの?」

 

 「そうよ?可愛いでしょ♪」

 

 ええ可愛いです、素敵な笑顔ですよ満潮さん。

 でも両の手の平を突き出して、あたかもその上に妖精さんでも乗っているかのように振る舞う姿が痛々しすぎます。

 

 「あ、朝潮……これ……。」

 

 どう反応していいかわからのでしょうけど、私を見たって『触れちゃダメ』と伝わるようにゆっくりと首振る位しかできません。

 

 「あ、叢雲の頭のアレが気になってるみたいよ。」

 

 くっ……!

 泣いちゃダメよ朝潮、これもきっと戦争弊害、見えないお友達を作ってしまうくらい満潮さんの心は疲弊していたのよ!

 そんな満潮さんに気づいてあげれなかったなんて、私は妹失格だわ!

 

 「み、満潮……アナタ疲れてるのよ……。」

 

 「は?別に疲れてないけど?まあ、今日は書類仕事ばかりだから、肩は凝ってる気はするけど……。」

 

 「そ、そう……肩……揉んであげようか?いえ、揉んであげるわね……。」

 

 「いや、いいわよ。ちょっ!?叢雲!いいったら別に!」

 

 「これ位やらせて?友達でしょ?」

 

 「ア、アンタがそこまで言うならいいけど……。」

 

 叢雲さん……泣くのを耐えられなかったんですね、満潮さんの後ろに回って肩を揉みだした途端に涙を流し始めました。

 揉まれる満潮さんはよほど気持ちがいいのか、温泉にでも浸かってるかのように間の抜けた顔してますね。

 

 涙を流す叢雲さんに、間抜けな顔して肩を揉まれる満潮さん。

 変な光景ですね。

 

 「まあ、二人は放っておいて、仕事を再開しますか。パーティーまでに終わらせないと。」

 

 主役の私が遅れては元も子もないですからね。

 けど主役は遅れて登場するとも言うわね、どっちが正解なんでしょう?

 

 それから、叢雲さんのマッサージで寝落ちした満潮さんと、泣き疲れて寝てしまった叢雲さんをどうしてやろうかと考えながら仕事はなんとか終わらせたんですが……。

 

 「「すみませんでしたー!」」

 

 問題はこれですよ、私が仕事を終わらせるまで眠りこけてた二人をどうしてあげましょうか。

 お昼寝はさぞかし気持ち良かったのでしょうね、起きた途端に罪悪感を覚えるほどに。

 

 「お、怒ってる?」

 

 「いいえ?」

 

 なぜ満潮さんは私が怒っていると誤解したのでしょうか、確かに土下座する二人の前で腕組みして仁王立ちはしています。

 ですが表情をよく見てください、普通でしょ?

 

 「ま、真顔はやめて朝潮……アンタの真顔は怖いのよ……。」

 

 はははは、何を仰るんですか叢雲さん。

 真顔が怖い?

 怒りも憎しみも表に出してない真顔の何処が怖いんですか?

 

 「ね、寝ちゃったのは悪かったと思ってるわ!ね!叢雲!」

 

 「そそそそう!本当にごめんなさい!仕事も結局一人でやらせちゃって……。」

 

 「何を謝ることがあるんですか叢雲さん、貴女は最初に言ったじゃないですか、『邪魔しに』来たって。有言実行、その心意気は大変素晴らしいと思います。貴女は言葉通りの事を見事やり遂げたんですからもっと胸を張ってください、改二になって大きくなったその胸を。」

 

 おやおや?叢雲さん顔の下の床に水溜まりが出来てますよ?

 冷や汗ですか?それとも涙ですか?

 こんな状況で泣かれたら、まるで私がイジメてるように見えるじゃないですか。

 

 「もう許してあげて!それと真顔をやめて!どうしちゃったの?普段は心配になるくらい表情豊かじゃない!」

 

 「満潮さん、ご自分が仰ったことをもうお忘れですか?『少しはポーカーフェイスを身につけろ。』と仰ったじゃないですか。私はソレを実践してるだけですよ?」

 

 「ひぃっ!」

 

 ひぃ?

 なぜ怯えるんですか?

 少し笑って見せただけですよ?

 

 ああ、いけないわ私ったら。

 ポーカーフェイスのつもりがついつい表情を崩してしまった。

 

 「叢雲起きて!何一人だけ気絶してんのよ!」

 

 「おや、叢雲さんはまた寝てしまったんですね。」

 

 「ち、違うの!あまりの恐怖に気を失っただけだから!寝てるわけじゃないのぉ!」

 

 まったく反省の色が見えませんね、私がどんな気持ちで仕事をこなしたと思ってるんです?

 やってもやっても減らない書類の向こう側で、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る二人を見ていた私の気持ちがわかりますか?

 わからないでしょう!

 

 私だって一緒にお昼寝したかったですよ?

 でも私は秘書艦、司令官に任された仕事を放り出してお昼寝なんて出来ません!

 しかも今日はフタマルマルマルから私などのために、皆さんがお誕生日会を開いてくれるんです、時間に遅れる訳にはいかないでしょう?

 

 だから必死でやりましたよ!

 三人でやれば定時までに楽に終わるはずだったのに、一人でやったせいでお風呂に入る時間も無くなってしまいました!

 パーティーまであと二十分もありません!

 お風呂にも入らないまま司令官とお会いしなきゃいけないじゃないですか!

 

 「ほ、ほら、もうすぐパーティーの時間よ?もう向かった方が……。」

 

 「そうですね、遅れるわけにはいきません。」

 

 「そうよね!遅れちゃダメだものね!」

 

 「ええ、だから続きはパーティーの後にしましょう。」

 

 「え……。」

 

 そう続きはパーティー終わってから、そんなに絶望した顔をしないでください。

 大丈夫です、酷いことはしません。

 

 楽しい楽しい、素敵なお仕置き(パーティー)をしてあげますから。


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