『朝潮型駆逐艦 二番艦大潮!アゲアゲで行きますよ!』
もう大丈夫ね、前の大潮に戻れたみたい。
姉さんが居た頃の大潮に。
今よりずっと強かった頃の大潮に。
「朝潮ちゃんは勝てるかしらぁ。今の大潮ちゃん、きっと神風さんより強いわよぉ?」
そうね、今の大潮は神風さんより強いでしょうね。
大潮の本来の戦い方は私達とは真逆、しいて言うなら荒潮に近いかしら。
荒潮との違いは『あそこを狙って撃とう』とか『こっちに回避しよう』とか、感覚だけで戦う荒潮でさえ考える事を一切考えない所かしら。
目で見た情報を、思考というクッションを挟まずに体が即座に、しかも最適に反応する。
戦闘に関する事なんか何も考えてないから思考を読んで裏をかくなんて事もできない。
それで正確に当て、飛んでくる砲弾も避けまくり、トビウオなんかの技まで使って来るんだから本当に
だけど、大丈夫。
「あの子は勝つわ。司令官はどう思う?」
無表情のまま、開始からずっと黙って様子を見てるだけだけど。
何かあるたびに手がピクピク動いてるのよね、朝潮が姉さんの事が大嫌いって言った時なんか、どう反応していいかわからないって感じで手を握りしめたり脱力したりしてたし。
「朝潮が勝つさ。あの子は私との約束を破らない。」
朝潮が姉さんの事を悪く言いだした時はヒヤヒヤしたけど、この様子なら大丈夫そうね。
あの子、通信がこっちにも繋がってるの絶対忘れてたでしょ、それともわざと?
いい機会だからって姉さんに宣戦布告したのかしら。
やりかねないわねあの子なら……。
若干ヤンデレ入ってない?
「二人とも酷すぎなぁい?大潮ちゃんも応援してあげてよぉ。」
「あら、アンタも大潮と同じ考えなわけ?」
荒潮がキョトンと首を傾げた。
いや、大潮が勝ったら朝潮が出撃できなくする条件は一応生きてるのよ?
「負けたって朝潮ちゃんは出撃しちゃうでしょぉ?」
うん、間違いなくすると思う。
艤装を隠しても内火艇ユニットで、それが無理なら手漕ぎボートで出撃しちゃうかもね。
司令官のためならそのくらい平気でやりそうだし。
「私ね、朝潮ちゃんに救われたわぁ。深海化の話をした時、あの子はそれでも私に甘えてくれるって言ってくれたもの。身も心も醜くなっちゃう私に甘えてくれるって言ってくれたの……。」
実際に目にした時ドン引きしてたけどね。
でも、あの子の荒潮に対する態度は変わっていない、むしろ前以上に甘えてるくらいだ。
もしかしたら、本当に深海化した荒潮にじゃれつくかもね。
「その時に決めたの。満潮ちゃんが後ろを守るなら、私はあの子の行く手を邪魔する奴を倒しちゃおうって。」
私が盾ならアンタは槍ってところかしら、投げ槍だけど……。
「だったら前はもう気にしなくていいわね。アンタが居るんだし。」
「そうよぉ、だから後ろは満潮ちゃんがしっかり守ってあげてねぇ。」
さて、なら後は勝負の行方を見守るだけね。
大潮がどんな答えを出したかはわからないけど、きっと大丈夫。
アンタを昔のアンタに戻してくれた朝潮なら、もうアンタを悲しませる事なんてしないはずよ。
私たち三人は、豆粒ほどにしか見えないくらい遠くで戦ってる二人を見守り続けた。
日が傾き、夜の帳が下り始めても飽きる事なく。
~~~~~~~~~
本気を出した大潮さんと戦い始めてどれくらい経ったろう。
西の空は夕焼け色、一時間もしない内に暗くなっちゃいそうね。
「く……!速い!」
仕切りなおす前とは明らかに
砲撃しようとした瞬間、私がトリガーを引くよりも速く回避し、私が移動しようと予備動作に入った途端に移動先へ砲を向ける。
私の動きを先読みしてる訳じゃない、見てから行動してるのは確かなのに判断と反応が速過ぎる。
感じ的には荒潮さんに似てるわね、もしかして何も考えてない?
思考を挟まずに体の反射だけで戦ってる?
そんな事出来るのかしら。
ドン!
おっと、今のは危なかった。
考え事をしてる余裕はないわね、仕切り直す前とは戦い方が完全に別人だわ。
さっきまではどこか型にハメたような戦い方だったからやり易かったけど、今は私の動きに合わせて後の先を突いて来る。
大潮さんは2番目って言ってたけど、もしかして神風さんより強いんじゃ……。
「どうしたの朝潮ちゃん、私にお仕置きするんじゃないの?」
大見得切った事を若干後悔してますよ、今のところ打つ手が思い浮かびません。
こんな隠し玉を持ってるとは思ってもいませんでした。
「ソレ、名前とかあるんですか?」
トビウオ、水切り、戦舞台、アマノジャク、刀、まともな艦娘がやらない技には名前がついてますもんね、大潮さんの戦い方に名前がついててもおかしくないわ。
「別に無いよ、なんなら名前つけてくれる?」
おっとそう来ましたか、別に名付け親になるつもりはなかったんですが……。
う~ん、何がいいかな。
今の大潮さんは見えない誰かに操られてるように見えるわ。
体の動きと意思が乖離してるように見るもの。
だったら。
「
実際に操り人形になってる訳じゃないんだろうけど、対峙した第一印象がソレだったんだもの。
『安直。』
『ネーミングセンスが司令官そっくりねぇ。』
『流石朝潮だ。』
お褒めにあずかり光栄です!
ん?褒められてますよね?
司令官そっくりとか、私にとっては最高の誉め言葉なのですが。
「ふふ、気に入ったよ朝潮ちゃん。じゃあ今度からコレを
採用されました!
どうですか満潮さん、例えネーミングが安直でも採用されちゃえばこっちのものです!
「で、その
それが困った事にまったく思い浮かびません、こうして話してる間にも攻防は続けていますが、攻略の糸口が見えてこない。
話をしていれば隙が出来るかなと思いましたがソレもない、完全に思考と行動を分けてるんですね。
頭で何を考えていようと、体はその思考と関係なしに戦い続ける。
弱点とかないかな……。
私たちが使う技には必ずデメリットがある、もっと言うなら弱点がある。
それはただでさえ低い駆逐艦のスペックで無理を通しているからだ。
問題は、大潮さんの
体が勝手に動いてるんだから、トビウオなどを上限以上に使っちゃうって事はあるかもしれないけど、そんな不確かな事に期待する訳にはいかない。
普通の状態と
大潮さんの行動に何か特徴はない?
技術が向上したわけじゃない、身体能力が上がった訳でもない、変わったのは反応速度だ。
目で見た瞬間、私がどう動こうと行動しきる前に、
大会で見た雪風さん並に反則なんじゃ……。
ん?目で見た瞬間?
「もしかして……。」
目で捉え続けないといけないんじゃない?
仕切り直してからずっと大潮さんは一瞬たりとも私から目を離していない、瞬きすら惜しんでる。
試してみるか……もうすぐ完全に日が暮れる。
夜の闇が訪れる。
完全に暗くなる前に確かめておこう、予想に確信が持てたら夜戦に持ち込む。
決着は夜戦でつけましょう!
私は魚雷発射管を前方に居る大潮さんの足元に向ける。
早いわね、大潮さんはすでに射線から離れてしまった。
まだ発射管を向けきってもいないのに。
バシュ!
私は大潮さんの行動に構わず、絶対に当たらない魚雷を一発発射。
別にいいんです、当てる気なんてないんですから。
ドン!
私は魚雷が海中に潜る前に魚雷を撃ち抜いた。
ドオォーン!
当然魚雷は私の目の前で爆発します。
前面に装甲を集中してると言ってもやっぱり熱いです、体も後ろに飛ばされそうになります。
ですがこれでいいんです、爆炎で姿を眩ますのが目的ですから。
「な!?何してるの!?」
まあそういう反応になりますよね、大潮さんから見ればただの自爆ですもの。
ドン!ドン!ドン!ドン!
私は、大潮さんの声がした方に砲を向けて適当に撃ちまくる。
「ぐぅ!」
着弾音が一回、適当に撃っても意外と当たるものですね。
運が良かっただけでしょうけど。
だけど予想通りだ。
わかりましたよ、
「バレちゃった……かな?」
煙が晴れ、私から見て10時の方向に大潮さんの姿を見つけた。
ええ、バレました。
「常に敵を捕捉し続けなければならない、それが
「うん、大正解。目が乾いて辛いんだよねコレ。ずっと見開いてるもんだから、昔は無駄に目が大きく見えるとか言われたよ。」
わかります、私なんて目を開いてなきゃって思っても一分すら我慢できません。
寮に戻ったら目薬を差し上げます。
「もうすぐ夜だね。夜闇に紛れれば捕捉されないとでも思ってる?」
「思ってません。ですが、夜戦で決着をつけるつもりです。」
大潮さんなら夜目くらい利くでしょう、利かないにしても
だけど、夜になれば
「そろそろ時間だね。じゃあ、決着をつけようか。」
夜の帳が下り、あたりを闇が支配し始める。
見えるのは星明りと鎮守の光だけ、今はまだ大潮さんの影くらいはみえるけど、一度見失ったら再捕捉は難しいわね。
「ええ、そうしましょう。今夜はハロウィンですし。」
大潮さんがゆっくりと私の左方向へ移動し始める、私は反対側へ、二人で円を描くように。
さあ、駆逐艦が最も力を発揮する夜戦の始まりだ。
「「我!夜戦に突入す!」」
二人同時に砲撃を開始、躱し、躱され徐々に円の半径を狭めて行く。
目が完全に闇に慣れるまで。
砲火がチラチラと闇に閃き、足元を魚雷が泳ぎまわる。
夜戦突入から10分くらい経ったでしょうか。
距離は10メートル以下まで近づいてる、もう使っても大丈夫かな。
私は前傾姿勢を取り、トビウオで一気に接近すると見せかけて水切りで一回飛んだ。
大潮さんは針路はそのままにトビウオで飛んだわね。
私は右手で自分の目を守りながら、大潮さんに向けて肩からぶら下がっている朝潮型改二専用の艤装、司令官が妖精さんに特注させた特殊装備、『探照灯兼用防犯ブザー』のスイッチを入れた。
常人が直視すれば失明の恐れもある光が大潮さんを照らし出す。
水切りでフェイントを入れて正解だったわね、移動先を見失う事なく探照灯で照らすことが出来ました。
「あうぅ!!目が!目がぁぁぁぁ!」
ごめんなさい大潮さん、闇に完全に慣れた目にこの光量はきつすぎるでしょう。
だからこれで決めます!
私は目が見えない大潮さんに砲撃を加えながら稲妻一回で大潮さんの数メートル手前まで一気に接近、魚雷の残弾全てを放って大潮さんをすり抜ける様に前方へトビウオで飛んだ。
ドドドーーン!
放った魚雷が全て直撃、大潮さんを爆炎が包む。
さすがに魚雷全部は多かったかしら、おーばーきるってやつかな?
私は砲を構えたままゆっくりと大潮さんに近づく、模擬弾とは言え熱いから火傷とかしちゃったかしら……。
「ケホッ!ケホッ!死ぬかと思った……。」
煙が晴れると、大潮さんがあちこち煤だらけになったまま海面にへたり込んでいた。
大きなケガはなさそうね、よかった。
「私の勝ちでよろしいですか?」
審判役をやっているはずの司令官たちは何も言ってこない、と言うか最初から審判なんてやってないんじゃ……。
「うん、いいよ。大潮の完敗。」
両手を上げて降参のポーズをする大潮さん。
潔いですね、審判が何も言ってこないからそのまま続行しようと思えば出来るのに。
「おめでとう朝潮ちゃん。たった今から、第八駆逐隊の旗艦は朝潮ちゃんだよ。」
ニッコリと笑いながら大潮さんが祝福してくれる。
正直言いますと、旗艦の座とかはあまり興味がないと言いますか……私にはまだ早いと言いますか……。
「朝潮ちゃん、大潮とも一つ約束して欲しいことがあるんだけど……。いいかな?」
一転して真剣な眼差しを向けてくる。
「はい、なんでしょう。」
私にできる事なら喜んで約束します、無茶をするなとかそんな感じの約束かしら。
「出撃する時は、絶対に
私を心配しての言葉じゃない。
ありがとうございます大潮さん、私の背中を押してくれてるんですね。
正直不安だったんです、私は言う事だけは大きいですから……。
だけど
こんな自分勝手な私を
「わかりました、お約束します。」
「うん。ならよし♪」
大潮さんはそう言うと、満足げに海面に大の字に寝転んでしまった。
スッキリした顔をしてますね、そんな表情の大潮さんを初めて見ました。
「強くなったね朝潮ちゃん、負けるなんて思ってなかったよ。」
「皆さんのご指導の賜物です。私だけじゃここまで強くなれませんでした……。」
私の中にみんなが居る、今の私を形作ってくれたのは皆さんです。
私はそれが本当に誇らしく、そして頼もしい。
一人で戦っていてもみんなと一緒に戦ってると思えるから。
「ふふ♪こんな時くらい勝ち誇ってもいいんだよ?」
「そんな事は出来ません。私が大潮さんに勝てたのは、大潮さん達のおかげなんですから。」
少しだけ呆気にとられたように私を見た後、大潮さんは『そっか♪』と言ってまた夜空を見上げ始めた。
「はぁう~♪やられた、やられたよぉ~♪」
ひと時の沈黙の後、まるでこの場に居ない誰かに報告でもするように、大潮さんが夜空に向かってそう言った。
悔しさなんて微塵も感じさせず。
ただただ嬉しそうに。
こんないい事があったんだよと、誰かに伝える様に……。
E4ボスが落とせない!
乙に落とそうか悩んでる今日この頃です……。。