艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 満潮と時雨

 誰でも一人か二人くらいは苦手な相手がいると思うんだけど。

 

 今私の目の前にいる時雨は、私にとってもっとも苦手な相手だ。

 

 服装は紺に白のラインが入ったセーラー服、瞳の色はスカイブルー。セミロングの黒髪を後ろで一つ三つ編みにし、先っぽを赤いリボンで括っている。

 

 大潮たちと朝潮を迎えに行こうと八駆の部屋を出た途端、私はコイツに捕まった。

 

 「久しぶりだね満潮。少し背伸びた?」

 

 1ミリも伸びてませんが?私と違ってアンタは印象が変わったわね、なによその犬の耳みたいなクセッ毛、それに髪飾りまでつけちゃって。

 

 「それは改二改装受けれない私への嫌味?」

 

 「そんなつもりはないよ。久しぶりに会った同期にそんな言い方はないんじゃないかな?」

 

 無駄にニコニコして小首を傾げる仕草がわざとらしいんだけど?

 

 養成所に居た頃から変わらないわね、いつもニコやかな天然タラシの養成所のアイドルだった頃と。

 

 「体はもう大丈夫なの?窮奇にやられたって聞いてたけど。」

 

 「キュウキ?ああ、あの戦艦棲姫の事か。もう半年近く前だよ?さすがに治ってるさ。何?僕の事心配してくれてたの?嬉しいなぁ♪」

 

 社交辞令って知ってる?まあ、まったく心配しなかった訳じゃないけど。

 

 「嬉しがるのはいいけど抱き着こうとしてくるのやめてくれない?私がそうゆうの嫌いなの知ってるでしょ?」

 

 「しばらく会ってなかったから満潮の匂いを忘れちゃってさ。覚えなおしておこうかと。」

 

 犬か!アンタ抱き着くだけならいいけど体撫でまわすから嫌なのよ!そっちの気があるんじゃない!?

 

 「今年も佐世保はアンタ達なのね、組み合わせはもう決まってるの?」

 

 「決まってるよ。僕たちは十八駆と満潮たちは三十一駆とだね。」

 

 三十一駆はたしか夕雲型で編成されてたわね、会ったことはないけど。

 

 「大湊は?今回は不参加?」

 

 「みたいだね、提督は見に来るみたいだけど。」

 

 「大会が聞いてあきれるわね、参加する駆逐隊がたった4つだなんて。」

 

 「まあいいじゃないか、この組み合わせなら決勝で満潮たちとやれそうだし。」

 

 勝つ気満々ね、まあ時雨達ならホントに勝っちゃいそうだけど。

 

 「満潮たちも負けないでよ?相手は最新鋭の夕雲型四人だから手強いよきっと。」

 

 十八駆だって陽炎型が二人いるでしょうが、それに残りの二人も朝潮型。

 

 性能だけならアンタ達より上なのよ?

 

 「横須賀最強の第八駆逐隊を舐めないでよね。夕雲型なんかに負けたりしないわ。アンタ達こそ大丈夫なの?」

 

 「大丈夫さ、霞たちとは何度もやり合ってるし手の内も知ってる。」

 

 それは霞たちも一緒でしょ?言うまでもないでしょうけど。

 

 「そう、ならいいわ。久しぶりにアンタの『波乗り』が見れるのを期待してる。」

 

 「ん~演習場で『波乗り』なんてできるかな……。」

 

 してくれるのを期待してるんだけどね、アレは朝潮に見せておきたいし。

 

 「誰かに見せたいの?見ただけでマネできるようなものじゃないよ?」

 

 それが見ただけで出来ちゃう子なのよねぇ、いまだにその自覚が皆無だけど。

 

 「鋭いわね、その通りよ。」

 

 時雨が目を細める、堂々と技を盗ませてくれって言えばコイツでも気を悪くするか。

 

 「もちろんタダで見せろとは言わないわ、私にできる事なら何でもしてあげる。」

 

 時雨の『波乗り』を朝潮に見せるためと言えば間宮羊羹くらいなら司令官に頼めばどうにかなる。

 

 でもコイツ物欲なさそうだしなぁ……。

 

 「いいよ。見せてあげる。報酬はそうだな……今晩、僕と一緒に寝てよ♪」

 

 うん、前言を撤回しよう。

 

 何でもは言い過ぎた、コイツやっぱりそっちの気があるわ。

 

 「ちょっとまっ……。」

 

 「それ以外の報酬じゃ見せない。」

 

 なんでよ!私と寝て何が楽しいの!?と言うか何をする気よ!目のハイライトがオフになってるじゃない!それレイプ目って奴じゃないの!?

 

 「部屋はどうしよう……白露達には大潮達と一緒の部屋で寝てもらおうか。二人きりの方がいいよね♪」

 

 よくないです!アンタヤル気満々じゃない!

 

 よし、波乗りは諦めよう、朝潮にとって有益な技だけど私のリスクが高すぎる。

 

 「じゃあ私はこれで、朝潮を迎えに行かなきゃ。」

 

 ガシ!

 

 時雨から逃げようと背負向けた途端、右手を掴まれた。

 

 ねえ時雨?なんで手が汗ばんでるの?確かに今日は暑いけどそこまで手の平に汗をかくってちょっと異常よ?

 

 「逃がさないよ満潮♪」

 

 いや逃がしてください、声は楽しそうだけど顔がマジじゃない。

 

 「ごめん時雨、私ノーマルなの。女に興味ないの。だから手を離して。」

 

 「大丈夫だよ満潮。そうゆうの慣れてるから♪」

 

 全然大丈夫じゃない!なによ慣れてるって!アンタまさか、無理矢理艦娘を手籠めにしてるんじゃないでしょうね!

 

 「さあ行こうか、まずは白露達を部屋から追い出して……。いやその前にお風呂かな、お風呂行こうか♪」

 

 無理無理無理無理!長門さんに追い掛け回される朝潮の気持ちがわかったわ!コイツと風呂なんか入ったら何されるかわかったもんじゃない!

 

 「あれ?満潮まだこんなところに居たの?話なら部屋の中ですればいいのに。」

 

 大潮!いいタイミングで戻ってきてくれたわ!荒潮と朝潮も居るわね、神風さんが不機嫌そうなのが気になるけど大方霞とケンカでもしたんでしょう。

 

 「やあ大潮、いい所に戻って来てくれたね。実は相談があるんだけど。」

 

 まずい!コイツ私が助けを求める前に部屋の交渉をする気だ!

 

 「へぇ、満潮ちゃんと時雨ちゃんってそうゆう仲だったのねぇ……。」

 

 何言ってるの荒潮、そうゆう仲ってどうゆう仲?私と時雨が手を繋いでるから誤解した?これは繋いでるんじゃなくて捕まってるだけよ?

 

 いや、これは状況を察した上で言ってるわね。

 

 察したんなら助けなさいよ!

 

 「あー!そうゆう事か!」

 

 そうゆう事じゃない!大潮、アンタは絶対勘違いしてる!この二人はダメだわ、朝潮か神風さんに……。

 

 「そうゆう事?」

 

 朝潮もダメだ、この子はそもそも状況が理解できてない。

 

 残るは神風さんだけど……。

 

 ああ……、終わった。

 

 ニヤァって聞こえて来そうなくらいの満面の笑みだわ。

 

 さっきまでの不機嫌はどこに行ったの?

 

 「じゃあ大潮、いいかな?」

 

 「いいよ、大潮たちが白露達の部屋に行けばいいのかな?」

 

 なんでそれでわかるのよ!察しがいいのか悪いのかわかんないわよ大潮!

 

 「え?え?ここで寝るんじゃないんですか?」

 

 そうよ朝潮!ここで寝ていいの!出て行かないでお願いだから!

 

 「朝潮ちゃん、満潮ちゃんと時雨ちゃんはね。ほら、ああゆう仲なのよ。だから察してあげて?」

 

 「満潮さんと時雨さんの仲?……手を繋いでるのが何か……。」

 

 「ちっがーーーう!朝潮に変な事吹き込むんじゃないわよ荒潮!アンタわかっててやってるでしょ!」

 

 「バレちゃったぁ?テヘッ♪」

 

 テヘッ♪じゃない!わざとらしいにも程があるでしょ!

 

 「満潮が言い出したんだよ?今さら無しは酷いよ。」

 

 体を差し出すなんて一言も言ってないわよ!この変態!

 

 変態?そうだ、これなら朝潮でも一発で気づくはず!

 

 「朝潮、よく聞きなさい。要はね、時雨は長門さんと一緒なの!」

 

 「え?時雨さんは駆逐艦ですよね?」

 

 艦種じゃない!頭働かせなくてもわかるでしょ?アンタだって嫌な思いしたじゃない!

 

 「朝潮、貴女だって先生と居る時は二人っきりの方がいいでしょ?満潮と時雨は恋人同士なの。普段は離ればなれなんだからこうゆう時くらい二人にしてあげましょ。」

 

 「で、でも時雨さんは女性ですよね?え?女性同士で?」

 

 「平気で嘘吹き込むのやめてよ!この子バカなんだから信じちゃうでしょ!」

 

 「いいじゃない一晩くらい。減るもんでもないでしょ?」

 

 減る気がするのよ!何がとまでは言わないけど減る気がするの!

 

 「時雨さんはながもんと同じで、恋人同士は嘘?あ!つまり時雨さんは変態なんですね!」

 

 その通りよ朝潮!よく気づいたわ、気づいたなら早く助けて!

 

 「違うよ朝潮、誘ってきたのは満潮なんだ。それと初めましてだね。僕は白露型二番艦の時雨。これからよろしくね。」

 

 「あ、こちらこそ初めまして。朝潮です。挨拶が遅れて申し訳ありません。」

 

 呑気に自己紹介し合ってんじゃないわよ!サラッと私が誘った風にして!

 

 「さあ満潮、そろそろ行こうか。白露達にも説明しないといけないし。」

 

 「しなくていいから!手離してよ!ちょ……引っ張るな!」

 

 「満潮さーん、お土産は残しておきますからー!」

 

 土産なんかどうでもいいから助けなさいよ!

 

 「今夜は寝かさないよ。」

 

 寝かせなさいよ!明日は大会なのよ!?あとその無駄なイケメンスマイルやめなさい!

 

 それから、お風呂に入るのは阻止できなかったものの、時雨の性癖を知っていた白露に助けられて私は事なきをえた。

 

 「酷いよ白露!僕と満潮の仲を引き裂くなんて!」

 

 「はいはい、わかったから。ごめんね満潮。時雨は朝まで縛っとくから安心してね。」

 

 ありがとう白露、アンタがまともでホント助かったわ……。

 

 だけどこのまま何も言わず部屋に戻るのは癪に触る。

 

 私は白露に羽交い締めにされた時雨を指さして半泣きでこう言った。

 

 「アンタ覚えてなさいよ!決勝で当たったら絶対ボコボコにしてやるんだから!」

 


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