艦隊これくしょん ~いつかまた、この場所で~   作:哀餓え男

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幕間 提督と辰見

 「って感じで、鎮守府に着くまで散々いじられましたよ。」

 

 「こっちは警察に手を回したり大変だったがな。」

 

 「楽しかったですよ?気づいたらパトカーが十数台も後ろにいて♪」

 

 そりゃお前達は楽しかったろうさ。

 

 信号無視とスピード違反は当たり前、歩道は乗り越えるわパトカーはクラッシュさせるわのやりたい放題だったものな。

 

 こっちは揉み消すのに苦労しすぎて胃が痛くなったぞ。

 

 おまけに朝潮に変なトラウマを植え付けおって……、あの二人は今度しばき倒してやる。

 

 「それにしてもすごい部屋ですねここ、壁とか何センチあるんですか?」

 

 ここは鎮守府の外にあるとある居酒屋。

 

 私がスポンサーになり、私の元部下がやっている店で内装は和風で落ち着きがあり、防音処理された私専用の個室もある。

 

 「そこまでは知らん、だが防音対策は万全だ。秘密の話をするにはもってこいだろう?」

 

 「年頃の娘をこんなところに連れ込んで何をする気ですか?私こう見えて身持ちが堅いんですよ?」

 

 お前からそんな冗談が聞けるとは夢にも思わなかったな、艦娘だった頃は中二病の俺様キャラだったではないか。

 

 「何もせんよ、お前に手を出したら後が恐ろしい。」

 

 「あら残念、提督なら喜んでお相手いたしましたのに。」

 

 いつからそんな妖艶な顔ができるようになったんだお前は、元が天龍だと知っていなければコロッといっていたもしれん。

 

 「冗談はよせ、それよりお前は何のために配属された?提督補佐は建前だろう。」

 

 私を嫌っている大本営の参謀将校どもが素直に補佐など寄越すものか。

 

 「お察しの通り、提督の暗殺が目的です。もっともその気はありませんが。まだ死にたくありませんし。」

 

 あの愚物共め、まだ諦めていなかったのか。

 

 「選りによって寄越したのがお前とはな、他の人選なら可能性もあっただろうに。」

 

 「あの人たちなりに策謀を巡らせたつもりじゃないんですか?私は提督と知り合いですし取り入りやすいと思ったんでしょ。」

 

 「浅はかな、本当に転覆させてやろうか。」

 

 「やめてください、食い扶持がなくなってしまいます。それに、元帥殿を困らせるのは提督の望むところではないでしょう?」

 

 まあな、参謀共は愚物そのものだが元帥殿はひとかどの人物だ、色々便宜も図ってもらっている。

 

 朝潮の適合者が現れた場合の横須賀への配属の優先、私の私兵の駐屯等々、数え上げればきりがない。

 

 「元帥殿はお前の配属理由を知っているのか?」

 

 「知らされてはいないでしょうが察しはついてると思います。私にこんな物を預けてきましたし。」

 

 そう言って辰見が差し出してきたのは封印されたB5サイズの茶封筒、元帥殿が持っていたくらいだ、中身はとんでもない物だろうな。

 

 「中身は?」

 

 「私は何も。ただ提督が喜ぶ物とだけうかがっています。」

 

 ほう、私が喜ぶものとはどんなものだろうか。

 

 「ご覧になりますか?」

 

 「もちろんだ。」

 

 私は封印を切って中身を取り出し目を通す、書類と写真が数枚づつ。

 

 なるほど、たしかにコレは私が切望していたものだ。

 

 「どんな事が書いてあるんですか?」

 

 「気になるか?一方はともかく、もう片方はお前からすれば大した物ではないぞ。」

 

 私は書類と写真を辰見に手渡す、読み進める辰見が怪訝そうな表情に変わる。

 

 元艦娘のお前からしたら仕方のない事だな。

 

 「コレ……何の役に立つんですか?艦娘がいる以上あまり実用性があるとは思えないんですけど。でもこっちは使えるか……。」

 

 「この度の大規模作戦で北方を攻めるのは聞いているな?」

 

 「ええ、正直言って北方など攻めてどうするのかと思っていますが。」

 

 辰見の言う通り、北方を取り戻したところでメリットは知れている。

 

 逆に防衛しなければならない範囲が増えるだけだ。

 

 「ここ数年で行われた大規模作戦の攻略目標は覚えているか?」

 

 「ええ、ここ数年で行われた作戦だと3年前のグアムを皮切りに、北マリアナ諸島、カロリン諸島、ウェーク島、マーシャル諸島でしたか。太平洋側で棲地として確認されている所を全てですね。」

 

 「そうだ、そして今回、アリューシャン列島の敵棲地を攻める。」

 

 「提督、本命は何処ですか?」

 

 「察しが良いな、近年行われた大規模作戦及び今回の作戦はすべて本命のための布石だ。」

 

 棲地として敵の手に落ちていた各海域を取り戻すことはたしかに必要な事だ、だが敵は再び取り戻そうと艦隊を送ってくる。

 

 今はまだ維持できているが、防衛するために数が限られている艦娘を割かなければならない我が国はその内じり貧になるだろう。

 

 なにせ相手の総戦力は底が知れないのだから。

 

 「つまり本命は敵の太平洋側の中枢、ハワイ島……、敵太平洋艦隊の親玉、中枢棲姫と言うわけですね。」

 

 「そうだ、調査の結果日本近海及び米国西海岸に出現する敵の一部はその中枢棲姫を母体として生み出されていることがわかった。」

 

 母体を叩かねば鼬ごっこの繰り返しだ、近年の大規模作戦はすべてハワイ島攻略のための前段作戦。

 

 敵が棲地を取り戻そうとハワイから艦隊を送ってくれば少しづつではあるが、敵戦力を削る事ができる。

 

 作戦遂行中、最低限の防衛戦力を残し敵艦隊を分断でき、こちらが確保しているのだから棲地からハワイへ横槍を入れられることも当然無くなる。

 

 「ですが中枢棲姫は島全体を覆うほどの装甲で守られていると聞きます、そんな奴をどうやって倒すんです?」

 

 「中枢棲姫の装甲は自身が発しているものではなく、ミッドウェー、ジョンスン両島に居る飛行場姫、ハワイ東側に展開している敵主力艦隊の旗艦、そして島の中心に居る中枢棲姫の南側、マウナロア山中腹の四カ所から発していることがわかっている。マウナロア山では装甲を維持していると思われる個体も発見した。私はこの装甲……いや規模的には『結界』と言った方がいいか。の発生源を仮に『ギミック』と呼称することにした。」

 

 「ギミックですか……、日本の戦力では西側を相手取るので精一杯ですよね……、では東側のギミックはもしかして米国が?」

 

 「そうだこの戦争初の日米合同作戦、米国は東側ギミックを解除後、ハワイ島東側から包囲、掃討戦を行いながらミッドウェーとジョンスンを背後から攻撃する。日本艦隊と挟撃する形に出来れば最高だ。日本は作戦開始と同時に他の通常作戦を全て中止。防衛に専念し全艦娘の三分の一をハワイ攻略に投入。西側のギミック及び中枢棲姫を叩く。」

 

 「山の中腹のギミックはどうするおつもりで?上陸は可能なんですか?」

 

 「奴の結界は海岸線の沖合10メートルほどに沿って張られているが水中までは張られていない。島内のギミックの場所も潜水具を担いで海中から潜入して調べさせたんだ。」

 

 「なるほど、ギミックの解除は潜水艦隊で?」

 

 「いや、彼女たちは水中での戦いには慣れているが陸戦は素人だ。結界手前まで揚陸艇で接近し、そこから海中を潜水させて『奇兵隊』を送り込む。持ち込める弾薬が限られるのが悩みだな。」

 

 「奇兵隊まで投入しますか……、そのためにコレが必要なんですね、効果は期待出来るんですか?」

 

 「調査の結果、島内のギミックの装甲は陸上に居るときの軽巡洋艦と同程度とのことだ。恐らく結界の維持に力を割いているせいだろう。理論上はその『弾頭』一発で貫けるはずだ。」

 

 「えらくすんなりと島内を調査できましたね。妨害はされなかったんですか?」

 

 「妨害?もちろんされたさ、奴らは陸上でも十分すぎるほど脅威だからな。南側ギミックはどうも産卵場も兼ねていたみたいで警備も厳重だったという話だ。深海棲艦の幼体と思われるものがウジャウジャ湧いていたそうだ。」

 

 「調査を行った人たちは……。」

 

 「生きて戻ってきたのは10人にも満たなかった……。」

 

 「そうですか、報いねばなりませんね。」

 

 「ああ、失敗すれば日本も米国も再び陸に押し込まれかねない……。」

 

 だが中枢棲姫を倒すことができれば深海棲艦の脅威は激減する、ハイリスクだがリターンも大きい。

 

 「失敗するわけにはいかん、そのために数年がかりで準備を進めて来たんだからな。」

 

 「はぁ、厄介なところに配属されちゃったなぁ……。この作戦の発案者は提督ですか?」

 

 「いや、元帥殿だ。参謀共は知らんはずだぞ。」

 

 「その割には最近の作戦について誇らしげに語られましたけど?何度殺してやろうかと思ったことか……。」

 

 なんだ殺らなかったのか、昔のお前なら自慢話ばかりしてくるオッサンなど速攻で斬り捨てていただろうに。

 

 「大規模作戦自体は参謀共の発案だからな。もっとも、元帥殿がそれとなく誘導していたのだろうが。」

 

 「元帥殿はなぜあんな人たちを参謀に置いてるんです?他にいくらでも優秀な人はいるでしょうに。」

 

 「残念ながら優秀な人材は殺されるか左遷されるかしているよ、自分たちの地位を守るためならなんでもする連中だからな。そのせいで人材が枯渇している。」

 

 「と、言うことは私も殺されるの前提で暗殺を指示されたんですか?」

 

 自分は優秀な人材と暗に言いたいのか?自信満々だな、まあ優秀なのは確かだろうが。

 

 「おそらくな、私を暗殺できれば上々、できなくても自分たちの地位を脅かす存在が減る。一石二鳥だ、前提が破綻しているがな。」

 

 こいつが暗殺を指示されて素直に従うわけがない、こいつはああいった老害を一番嫌うし暗殺という行為を毛嫌いしている。

 

 「ムカついて来た、クーデター起こしません?」

 

 さらっととんでもない事を言うんじゃない、賛同する者は多いだろうが今は時期が悪い。

 

 「今は辞めておけ、そうだな……せめてハワイの作戦が終わってからにしろ。」

 

 「りょーかい、ところで私は鎮守府で何をすればいいですか?提督の書類の手伝い?」

 

 嫌そうな顔で言うな、お前が書類仕事が苦手なのは知っている。まったくやらせないわけではないが。

 

 「しばらく、お前には水上打撃部隊の指揮を任せようと思っている。」

 

 「私は水雷屋ですよ?元ですけど。」

 

 「そっちは少佐と由良に見てもらっている。勉強と思ってしばらくやってみろ。叢雲だったか?お前の初期艦、彼女を秘書艦として好きにしていい。」

 

 「了解、なんとかやってみますよ。それで?本命の作戦の決行は?」

 

 「今の予定では今年の末だ、それに載っている『ワダツミ』の試験運転が終わり次第決行する。」

 

 「年度末か……、新年が迎えれる事を祈ってます。」

 

 「ああ、私もだ。」

 




 軍事は一切しらない素人考えの作戦ですがまあ、大目に見てやってください。
 
 

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