序章は一応、次で終了の予定。
はじめ見た時は取るに足らない存在に思えた。
なにせ、小さく豆鉄砲のような砲しか持たぬ駆逐艦。
期待外れもいいところだ、あの施設にはろくな艦娘がいないらしい。
わざわざ艦隊から孤立して見せ、索敵機も見逃した。
こちらから迫ってみてやっと出てきたのが駆逐艦とは……本当にがっかりだ。
もうあの施設は潰してしまおう、『混沌』の言いなりになるのは癪に障るが少しは気が晴れるだろう。
まずは、手始めにこちらに向かってきている駆逐艦から沈めるとしよう。
私は、奴を一撃で沈めるつもりだった。
駆逐艦の装甲など私の砲の前では無いのと同じなのだから。
ドン!!
完璧な一撃だ、我ながら惚れ惚れする。
距離、速度、風向き、全ての要因を考慮して放った一撃。
数秒後にはあの駆逐艦は木っ端みじんになっているだろう。
バシャアァァァァン!!
大きな水柱が上がる、
さて、あの駆逐艦はどうなった?欠片も残さず吹き飛んだか?
ん?水柱の横に人影?
まさか避けたのか!?
バカな!いや、まて、弾道計算が狂っていたのかもしれない。
いかんいかん、駆逐艦と思って侮っていたようだ。
私としたことが慢心とは……。
ふむ、今のでこちらを見つけたな、馬鹿正直に突っ込んでくる。
ドン!!ドン!!
さあ、今度こそ終わりだ。
之字運動すら取らず、猪のように突進する命知らずめ。
当ててくれと言ってるようなものだぞ?
バカな!また避けただと!?
進路もほとんど変えずに!?
ドン!ドン!
奴の砲撃!だがそんな豆鉄砲など、
ガイン!ガイン!
それ見た事か、駆逐艦の砲などで私の装甲が貫けるものか。
砲が効かないのだ、奴は絶対に近距離での雷撃を狙ってくる。
魚雷を喰らえばさすがの私でも、ただでは済まんな。
ならば好みではないが。
ドン!ドン!ドン!ドン!
私は砲撃を副砲に切り替え奴を撃つ、威力より連射重視、副砲でも相手が駆逐艦なら十分すぎる火力だ。
さあ、避けれるものなら避けてみろ!
バシャアアアアアアン!バシャアアアアアアン!!
奴の周りに何本も水柱が立ち上がる。
これも……避けるのか?
何だ?何なのだ?奴はホントに駆逐艦か?
今までこんなことは一度もなかった、
私の砲は相手が戦艦だろうが重巡だろうがすべて屠ってきた!
その私の砲がこの駆逐艦にはカスリもしない!?
「ハ……ハハハ……」
笑っている?私が?
「ハハハ、楽しい……」
そう、楽しい!こんな気分は初めてだ!
私の自慢の砲が通用しない!
すべて躱される!
ああ、駆逐艦と侮ったことを詫びねば。
もっと!もっとだ!
もっと撃ち合おう!!
私はもっとお前と戦いたい!!
ん?速度を上げた?どうした、何をそんなに急いている。
私はもっとお前と踊りたいのに、お前はそうではないのか?
そうか……残念だ。
私は主砲を奴に向ける、さすがに距離が近すぎて私も被害を受けかねないが。
この距離なら例えお前でも躱せまい?
ドン!
奴が砲撃?どこを撃った?
ドオォォォン!!
私の主砲の砲身!?私が主砲で応戦するのを読んでいた!?
奴がさらに距離を詰める、まずい!
この距離で魚雷を撃たれればさすがに躱せない。
「一発必中!肉薄するわ!!」
奴が魚雷を撃とうとしている、嫌だ、まだ満足していない!まだお前と戦っていたい!
その時、私の視界に何か映った、なんだ?
重巡?私が連れてきた艦隊の?
なんでこんなところにいる、敵の艦隊と遊んでいろと言ったはずだ。
私を追ってきたのか?
おい、待て、貴様は何をしようとしている、何を砲撃しようとしている?
ズドオオォォォォン!!
重巡が砲撃し、私に迫っていた駆逐艦の右腕に命中した。
奴が吹き飛び海面を転がっていく。
ああ、なんてことを……
奴の流す血で海面が赤く染まっていく。
すまない、こんな事になるなんて。
痛いか?痛いだろうな、腕が吹き飛んだのだからな……。
よくも邪魔を!
私と奴との戦いに水を差すなど万死に値する!
私は追ってきた重巡を睨む、なんだ?その態度は?
何か悪いことをしたのかといった感じだな。
まあいい、貴様の処分は後だ。
「腕が……私の右手……ああ……ああああぁぁぁぁぁっぁぁ!」
奴が苦しんでいる、無念だろうな、こんな形での決着など。
「う……ううぅぅぅぅ……」
グイ
「あうっ!!」
私は奴を目の前まで持ち上げた、これは……助からないな……
「すまなかったな、こんな形での決着は望んでなかった。」
本当にすまない、私はもっとお前と……
「散々誘って出てきたのが駆逐艦だったときはガッカリしたが、貴様は駆逐艦にしておくのが惜しいほど強かったぞ」
私の正直な気持ちだ、もっとお前と戦っていたかった。
「ふ……ざける……な!」
どうした?
なぜ怒っている?
何か気に障ることを言ったか?
「ふざけてなどいない、私は貴様のような強者と戦うことが何より好きだ。」
お前は強い、私が戦ってきたどの戦艦や重巡などより、何が気に食わない?
「う……うう……」
何をしている?魚雷?ああそうか、お前はまだ私と戦ってくれる気なのだな。
だが、
「諦めろ、勝負はついた、横槍でだがな。」
重巡を今一度睨む。
相変わらず、なぜ睨まれているかわかってないようだ。
「もう貴様には自爆するくらいしか手段はないだろう?」
それはやめてくれ、私をここまで追い詰めたお前が吹き飛ぶところなど見たくない。
「だけ……ど、お前はこの後鎮守府を襲うので……しょう……?」
鎮守府?ああ、私が向かっていた施設の名か?
「私たちにとって目障りなのは確かだからな。そもそも『渾沌』の奴からあの施設を潰せと言われている。」
私にとってはどうでもいいことだが。
ん?どうした?何を不思議がっている?
私の名を聞きたいのか?
「ああ、名乗っていなかったな、私は『窮奇』。貴様らが私をどう呼んでいるかは知らんが」
『渾沌』奴につけられた名だがお前のような強者に覚えてもらえるなら光栄だ。
「お前の名前なんかどうでも……いい!鎮守府は……あの人はやらせない!」
違うのか?押し付けられた名だが「どうでもいい」と言われると少し傷つくな。
「あの人?ではどうする?魚雷は無事みたいだが、撃たせると思うか?」
あの人が誰の事かは知らぬが、貴様が吹き飛ぶところは見たくない、そのまま安らかに眠ってくれ。
「お前に向けて撃たなくたっていい!」
何!?何をする気だ!やめろ!
「この海域から!出ていけぇぇぇぇ!!」
ズドオオオオォォォォン!!!!
奴が魚雷を自分の体に向けて発射した。
なんてことを……粉々になってしまった……
私を追い詰めたお前にそんな死に方はしてほしくなかったのに……
「キュ、窮奇サマ……」
ん?ああ、そうだお前の処分がまだだったな。
なんだ?私の体に何かついているのか?
いや、違う。
ついてないのか、今の爆発で左腕を持っていかれたようだ……。
「早ク手当ヲ」
痛い……痛いな……お前はこんな痛みに耐えていたのか……
ふふ、なんだろうなこの感情は。
うれしい?
そう、うれしいだ。
お前と同じ痛みを味わうことが私はうれしい。
「フフフフフ……」
「窮奇サマ?」
大破寸前の中破と言ったところか……。
この気分を台無しにしたくない……。
「引き上げるぞ、艦隊にもそう伝えろ。」
「ヨ、ヨロシイノデスカ?」
「かまわん、奴へのせめてもの手向けだ。」
お前はあの施設を攻撃してほしくなかったのだろう?
勝負に横槍を入れてしまったせめてもの償いだ。
ああ、また退屈な日々が始まる……。
『混沌』の奴にいいように使われる日々が……。
そういえば、奴の名前は聞けなかったな……。
ん?あそこに浮いているのは奴の背負っていた艤装か?
波間に艤装らしきものが漂っている、横に書いてあるのは……名前?
『アサシオ』
アサシオ?それが奴の名か?
アサシオ……
アサシオ……
覚えたよアサシオ、私はお前の名をけして忘れることはないだろう。