プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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大変お待たせしました。
色々お仕事で疲れまして執筆時間が削られておりました。

あとアガルタの女を実装から数時間でクリアしますた。
色々考えさせられるお話で面白かったです。
ガチャは引きましたが、ドリカムおじさんだけいないのを何とかしたいですね。



デンジャラスリターンズ

 未だに爆破の名残があるカルデアの医務室にて。

 帰還して僅かな時間も経たない間にブラックアウトしていた意識を取り戻した私は、いつの間にか運び込まれていたベッドから、通勤時間に合わせて起きるよう鍛えられたサラリーマンの如き勢いで上半身を起こしていた。

 慣れた動作ですぐさま体調を確認したが違和感は特にない。服装は上着だけが脱がされているだけで、一番の懸念である手袋が外された痕跡はなかった。傍に点滴の為の管が伸びていることもなく、ただ寝かされていただけだと安堵する。

 ……と、そこでようやく自分以外の誰かが複数いることに私は気がついた。

 

「Zzz……」

 

 一人は看病している途中で寝てしまった様子のシルバであり、呑気に涎を垂らしてニヤニヤと夢の中を満喫している様子だった。起こすのも可哀想なので、スルーを決め込み放置をしておくことにする。

 二人目……じゃない二匹目は、マシュに懐いている不思議生物のフォウ。特異点Fでも一応は一緒だったのだが、構っていられる状況でないことを察してくれたようで鳴くのを抑えていた賢い子だ。こちらも過酷な環境の空気に当てられ続けて疲れたのか、猫のように丸くなって眠ってしまっている。毛並みが良さそうなのを見ていたら撫でたい衝動に駆られたが、シルバ同様そっとしておいてやろう。

 

 ――そして、三人目であるが、こちらはちゃんとした人であり……別に眠ってはいなくて起きているのだが、一度もカルデア内で顔を合わせたことのない人物だった。体付きからして女性のように思えるが、何となくそうだと言い切れない何かを私は感じ取った。あと、心なしか何かに似ているような気がしないでもないが、はっきりと言葉には出てこなかった。

 女性はこちらの視線に気づき、少し驚いたような表情を取ると屈託のない笑顔で微笑みかけてくる。

 

「おや、早いお目覚めだね。もっと休んでいても良いと思うんだけれど」

 

「そうも言ってられないだろうに……現在の状況は?」

 

 身を清める余裕もなく汗だくの髪を荒々しく掻き、まあ多分ロマニの知り合いだろうとされる人物にカルデアの今の動向を問う。

 ぱっと思いつく限りでは、管制室周りの修復が最優先で行われる方針だろうが、それ以外にも山ほど問題が積み重なっているはずだ。

 

「聞いていた通り、踏んできた場数が違うようだね……うん、実に頼もしい限りだ。――っと、紹介が遅れてしまったね。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ、カルデアで事前に召喚されていた英霊の第三号であり、平たく言えば協力者さ。気軽に『ダヴィンチちゃん』と呼んでくれたまえ」

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ、ねぇ……知る人ぞ知る世紀の天才の名前じゃないですか。普通に教科書にも載るぐらいで、歴史探求系の番組でも偶に特集されているのを見たことがある。

 ……でも確か、そのどれもこれもで男性と紹介されていたような……肖像画だって間違いなく髭まで付いて描かれていたと思う。

 もしかしてあれか、アーサー王みたいに実は女性で訳あって男性のふりをしていたとか? ……だとしたら大発見であり衝撃の事実だが、流石にそれはないですよね……よね?

 

「ん? 私の身体が気になるのかい? ――もっと見とれても良いんだぜ。何せ、自分の作品そのモノに身体を丸ごと作り変えたんだからね。絶世の美女と謳われたように美しいだろう?」

 

 アッハイ、美しいですね。まさにモナリザって感じですよ、スゴイなー(棒)。

 ……というか、まさかの自己性転換かよ。男性はよく女の子になりたいっていう願望を持つと聞くけどさ、時代は違えど万国共通だったとは思わなかったわ。しかも、あの天才がここまでやらかすだなんて一体誰が予想しただろうか。――否、誰も予想なんて出来るはずもない。出来たとしたらマジ尊敬モノである。

 

 変態も天才もそんなに変わらないものだという諦めにも似た実感を抱き、再度状況について自称ダヴィンチちゃんに問う。

 すると、経験則から危惧していた通りの問題がやはり浮上していることがわかり、特異点F以外の新たな特異点を発見したところで修復作戦を発動するわけにはいかない状況にあることが明らかとなった。

 

「爆破された施設部分の修復に加えて、スタッフの人員不足、残された面々の精神や体調のケア、指揮命令系統の再編、生活用品や食料のチェック、防衛力の強化……等など、やることは盛り沢山だよ」

 

 正直、作業量だけ考えたら逃げ出したくなるレベルだが、関わってしまった手前というか逃げる場所もとうに失われているので解決する以外に道は残されていない。……そもそも無関係を貫いたら、これ確実に誰か過労死するレベルじゃないですかね。裁判沙汰とか嫌だよ私そういうの。

 

「……スタッフのメンタルは今のところどうなの?」

 

「良くもなく悪くもなくと言ったところ、らしいね。爆破直後は皆、命を狙われたという恐怖に耐えかねるのを必死に押し殺していたそうだよ。……ま、それも君が特異点Fの異常を解決して戻ってきたことと、その手のプロだったことが明らかになったおかげで多少は落ち着いたようだけどね」

 

「そいつは重畳、と言いたいところだけどまだ油断は出来ないな……」

 

 あくまで全体的な評価ではそのように見えたとのことだが、中には隠れた情緒不安定の人間もいるかもしれない。放置しておけば、現在よりも状態が悪化して末期の癌の如く手遅れな事に成りかねないだろう。

 ……体制を整える一環として、カウンセリング以外にも交流会みたいなことは実施したほうが良いのかもしれない。野郎共はロマニに任せるとして、私は女子会でも開いてみようかね。

 

「女子会かい? いいねぇ、是非とも参加―――」

 

 させねーよ、アンタ見た目は美女でも中身はおっさんだろう。参加するならもっと女子力を磨いてこいや。

 

「えー」

 

「えー、じゃないっての。それで、メンタル云々は地道に何とかしていくとして、生きていく為に必要な食料の問題はどうなのさ」

 

 この場所の標高は確か6000mだったか、その高さから考えて物資は頻繁には運び込むことは出来ないだろう。だとすれば、一度に必要なものはまとめて確保し貯蓄するのが当たり前となるが……食料は何時まで持つぐらいにあるのか。

 事によっては、作戦に並行して節約生活を送る事態になるやもしれない。レイシフト先で食料調達なども出来るのであれば念頭に入れておかなければ。

 

「元々、危篤状態にあるマスター候補達を含めた人数で生活する予定だったんだ。年単位の活動を見越してそれなりのストックはあると思うよ。――レイシフト先で増やすという手も理論上は可能さ。現に君が冬木で手に入れた飲料品は、問題なくこちらへ幾つか持って来れているのを確認している」

 

 切り詰める必要があまりないのならそれでいいか。

 しかし、今回のように時代の近い特異点で手に入れたものが、この先も手に入るとは思わないほうがいいだろう。時代を遡れば遡るだけ加工された食品というものは減っていく。

 ……そうなると、加工される前の鮮度が命のものばかりを定期的に確保してはカルデアに送ることになるかと思われる。クーラーボックス担いで世界を救うとか何様なんだよ私。

 

「あれだよ、食べられそうなものが見つかり次第こちらからボックスを送って、詰めて貰ってから送り返せばいいんじゃないかな」

 

 宅配便の集荷か何かかよ。……ま、それが最適解なんだろうけどさ。

 とりあえず、食料問わず使えるものがあればカルデアに転送するということでこの話は取り纏まった。

 あとは防衛力の強化についてであるが、これは純粋に私がサーヴァントを召喚すれば自動的に強化されることだ、そこまで気に病むことじゃないと言える。

 指揮の問題についても同様で、臨時の司令塔に就いたロマニが継続で行えば立て直しはこのままスムーズに行えるだろう。無論、彼一人だけに押し付けるのは酷なので多少はフォローするが。

 

「そういえば、国連経由で届けられた物資の整理がまだだとか聞いたよ。如何せん数が多い上に、昨日の今日だから―――」

 

「成程、召喚したサーヴァントに協力してもらって中身の確認をしてほしいというわけか」

 

 スキャニング等は解析が得意なエミヤに任せれば安全面にまず問題が生じることはない。その上で手分けをして片っ端から中身を開封していけば、何が足りていて何が足りないのかもおのずとわかるはずだろう。

 ……方針としてはこのぐらいか。最終的な決定は皆と相談してからにするとして、そろそろ身嗜みを整えたくなってきた。汗に混じってさっきから焦げた臭いが鼻を突いて辛い。

 

「じゃあ、その後で管制室に集まるとしよう。ロマニには伝えておくよ」

 

 ほーい、と小さく返事をしてボロボロになった上着を雑に回収しベッドから降りた私は、シルバとフォウを起こさないように放置し部屋の扉口に立った。

 ――っと、いけないいけない。頼みたいことが一つだけあったのだった。協力して貰えるかは別として言っておかないと後々取り返しがつかなくなってしまう。

 

「おや、何か忘れ物……というわけではなさそうだね」

 

 ……流石天才、察してもらえて何よりだ。おかげで話が進めやすい。

 私は自分がやってしまった行為―――罪を清算したいが為に、ダヴィンチに対してあるモノを用意してもらえないかと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 医務室を後にし、自室を経由してからシャワールームに向かった私は、どうも慣れないカルデアの制服から好んで着ている灰色のシャツに黒のスーツを着込み、ドライヤーで乾かしたての髪をうなじ辺りで適当に束ねていた。

 ……気になっていたしつこい臭いはとうに消え、代わりに清涼感を感じさせるシャンプーの香りが鼻孔を擽る。やや疲れている感は抜けないものの肌の張りは回復し、申し分がない領域まで戻っていると言えよう。

 左腕による侵食の影響もなくなっており、片目だけ充血しているという不気味で気持ちの悪い表情は洗面の鏡に映った姿からはもう消え失せていた。

 

「ふう……」

 

 戻ってこれたという実感を噛み締め、軽いジャブといった運動を試みるがこれといって不調はなし。

 むしろ本調子なのは、スカートではなくズボンだからだろうか。ニーソにスカートという格好ではどうもスースーするし、瘡蓋が剥がれてもなお残る傷が見え隠れしてしまったりする。

 タイツやストッキングで隠せと言われても、無駄に太ももがデカイのでね……変な視線で見られたくないのがまあ最大の理由だよ。ムチムチなんだよ。

 ……ちょっとしたコンプレックスを抱きながら私は、身嗜みをしっかり整えてからそそくさと閑散とした廊下に出る。

 すると、向かおうとしていた管制室への進路上に、あの冬木で散々見慣れた頼れる後輩の背中を確認した。軽く声をかけて近づくと、彼女は驚いた後に気にかけるような目を向けて見つめてくる。

 

「先輩っ、もう出歩かれて大丈夫なんですか?」

 

 うん、大丈夫じゃなかったら今頃は点滴込みで死んだようにくたばっているだろうね。つまりは無問題というわけさ。

 ……それよりも、マシュも大丈夫そうということで管制室にいるであろう生き残りの皆と合流するという感じでいいのかな?

 

「……あっ、はい。戻ってくるまでに判明したこともあるそうなので、その情報共有をするのだと窺っています」

 

 ――ふむ、特異点Fよりも過去の特異点の有無について続報が入っていることに期待したいが、あれから時間もそんなに経過していないし望み薄かなぁ。

 まあ、方針を話し合うこと自体が重要なので細かいことは気にしないけれど、出来れば士気の上がる良い知らせがあるといいなとは思う。暗いニュースばかりじゃ何でもかんでもネガティブに物事が進んじゃうからね。

 

 途中、やっと目を覚ました様子のシルバ達と合流し、一度は全力疾走で駆け抜けた道をゆっくりと辿った私達は、閉じ込められたがために破壊してしまったゲートの成れの果てを潜り抜け、管制室の内部へと再び足を踏み入れる。相変わらず、酷い光景が視界に飛び込んでいくるが、少しはエミヤが片付けてくれたのか奥の方へと進みやすくなっているようだった。

 一頻り辺りを眺めていると、入ってすぐの横倒しになった瓦礫の上に腰掛けているロマニとエミヤの二人の姿が見え、片方がこちらに気づいたのを機に二人とも立ち上がった。

 ……はてさて、主だった全員は揃ったことだし、体調云々の確認は最小限に押し留めて、最新の状況を把握するためにさっさと本題へ入ってしまおうか。

 

 駆け寄った中心に立ったロマニが進行役となって、デブリーフィングを兼ねた帰還して初めてのブリーフィングが始まった。

 

「――まずは、あの危機的状況をよく乗り越えてくれたことに最大の敬意と感謝を。君達のおかげで僕らは首の皮一枚だけれど生きていることが出来ている」

 

 いやまあ、カルデア内部のサポートもあってこその結果だと思いますけどね。これでもしカルデア自体滅んで帰るべきところを失っていたとしたら、世紀末並みに酷いあの土地で呆然となって最後の時を待っていたことだろう。

 反射的に謙遜し、スタッフの方も十分労ってくれと答えると、見過ごせないほどに疲労したスタッフが事実出始めていると告げて、話が終わり次第何事もなければ休ませると彼は約束する。

 そうして、現段階の調査で明らかになっていることの解説へと移り、わかりやすく要点が纏められた薄っぺらいA4サイズの報告書が手渡されると、私は説明の声に耳を傾けつつそれを軽く流し読みした。

 

「……あー、うん」

 

 書かれていたのは、レフの顔をした変態が偉そうに述べていたことが真実であることの裏付けであり、カルデアから逃げようとしても無駄だぞという宣告でもあった。

 ……磁場がどうとか奴は言っていた気がするが、それが辛うじてこの施設を守るバリアの役割を果たしていると同時に、一歩たりとも外に出ることを許さない檻として機能しているようである。仮に無理矢理出ようとしたらどうなるのか確認してみると、問答無用で即座にその場でお陀仏になるそうだ。

 まるでハザード系の映画かゲームみたいな状況だなと感想を漏らすも、描写されていたようなことが現実として起こり得るなら悠長に笑っている場合ではない。一刻も早く対策と予防をしておかねければ、被害を被り嫌な思いをして傷つくのは自分自身になる。

 

「ダイナミック自殺……BBAインパクト、……うっ、頭が―――」

 

「嫌な、事件だったよな……あのシリーズまだ続いてんだろう?」

 

「……また何の話をしているんだ君達は」

 

 なに、人間は極限状態に置かれると馬鹿なことやらかしかねないってことさ。

 特に自己中心的な奴は、制止を聞かずに突っ走って迷惑なことばかり引き起こすから面倒なんだ。落ち着かせるのにも時間を割くし、何か対処するにしても要らぬ労力を必要する……相手をして良い事なんかまるで無いんだよなぁ。

 

「一人の狂気が大勢の運命を狂わせるか……あって欲しくないものだな」

 

「……そうだね」

 

 なので、カウンセリングによる抑止を徹底し、尚且つ全ての元凶たる黒幕をぶん殴って終わらせるまで物理的溶接と魔術による結界を張って通れないようにしたいと思う。異議はないっすかね?

 

「今はやり過ぎぐらいがちょうど良いかもしれないしね」

 

 おーけー、機材があるなら後で私がやっておくで。そのぐらいの技術は会得しとるからな。お姉さん頑張っちゃうぞー。

 

「女の子が溶接って……」

 

「悪いが籠城は初めてじゃないんだ、悲しいことにな」

 

 あれはキミタケさん経由での調査の依頼を受けた時だったか……食屍鬼の一部がとある離島へ向けて何故か一斉に移動を開始したという情報を受けて現地に赴いたわけだが、住民が多数巻き込まれてしまって暫く旅館に立て籠もることになったのだった。

 その時に、倉庫にあった溶接用の機材をプロの指導に従って触り、外敵からの防御を固めたのであるが……あの時の敵は一筋縄ではいかず、まんまとバリケード等が崩されてしまったのだっけ。

 最終的に侵入してきた食屍鬼ではない敵は片っ端から倒したけれど、中途半端な覚悟で籠城なんてするものではないと悟ったな。やるからには本気で行くのが大事だと気付かされたよ。

 

 ――で、カルデア内部の事情は大体把握できたわけだけど、次は特異点に関しての続報でいいんだよね? 報告書には一気に7ヶ所も増えたと書かれているようだが、具体的な地域と年代はどうなっているのか詳しく知りたい。

 

「地域自体は現代の地理に当てはめて呼ぶことは出来るけど、年代が絡んでくるからね。その時の呼称に準じていた方が今後の為にもいいはずだ……とまあ、建前はいいとして、今の段階では比較的人類史に与える揺らぎが小さいとされる第一特異点についての、大雑把な情報しか手元にないんだ」

 

「大雑把というとどの程度ですか?」

 

「1430年頃のフランスであることぐらいかな……公に知られている歴史で説明すると、百年戦争の後期と言った方がわかりやすいだろう」

 

 百年戦争と聞いてすぐに思い当たるのは、その時に活躍していたとして有名な聖処女ジャンヌ・ダルクだろう。――となると、特異点発生の原因はかのジャンヌ絡みであると見ていいのだろうか。否、そう考えるのは流石に早計すぎるか。

 

「こればっかりはレイシフトしてみないとわからないんだ。……早い話、その時代にいる人間から情報を引き出すのがベストだろうね」

 

 一番最初に出会う相手が敵であるかもしれないという多少のリスクを背負うことになるが、返り討ちにして縛り上げれば問題ないな、うん。

 我ながら脳筋思考だが、世の中情報を制するものが世界を制すのだ。出遅れた状態から毎度始まるのだから手段は選んでなどいられない。とにかくその場の現状把握が先決である。

 

「覚えておいて欲しいのは、特異点の発生は聖杯によるものだということ。……即ち、聖杯は歪みの原因となる人物が所有している可能性が非常に高い。加えて、冬木を例に挙げると聖杯が在るところにどんな形であれ聖杯戦争は起こり得る」

 

「しかし、単純にその時代で記録に残っていない聖杯戦争をしているわけではあるまい。……あの男が絡んでいるとすると恐らく、歪みをより強固にするための守りとしてサーヴァントを一ヶ所に纏め上げているとも考えられる」

 

「えっ」

 

 そんな事が可能なのか、という私の問いかけにエミヤは確固たる自信を持って肯定の頷きを返した。

 

「――少し話は逸れるが、私が平行世界の聖杯戦争における参加者だという話は少し前にしたな? その聖杯戦争ではある理由から聖杯は汚染されていて、どんな願いも歪んだ形で叶えられてしまう状態にあったんだ」

 

 例えば、干上がった大地に雨を降らせてくれと願えば、延々と降り続けて逆に太陽が一生昇らなくなるみたいな事になるのかね。

 

「ああ、その解釈で問題ない。もっとも、重要なのはその事ではないがな……」

 

「というと?」

 

「当時の私はその真実を知って、聖杯戦争を終わらせようと必然的に聖杯を破壊しようと模索し……達成した。――が、破壊したのは『小聖杯』と呼ばれる一時的な器であり、真に破壊すべき『大聖杯』はその時点で破壊することは出来ていなかった」

 

 その時点ではってことは、追々破壊することが出来たって認識でいいんだよな……それとも、聖杯戦争またしても勃発した感じですか。

 

「いや、その後に聖杯戦争は起こらなかったさ……私が参加した聖杯戦争から10年ほど年月を要してしまったがね。無事、破壊……もとい解体されたさ」

 

「解体……ああ、爆弾をご丁寧に解除したわけね」

 

「そういうわけだ。それで、此処からが本題なんだが、解体にあたり聖杯戦争を主催していた御三家、遠坂・間桐・アインツベルンの聖杯に関する書物を漁った記憶があるのだが、そこに気になる記述があったのを思い出したんだ」

 

 その記述の内容によれば、聖杯戦争において七騎全ての英霊が一つの陣営に集まってしまった場合に発動可能な、追加で七騎を呼べる予備システムが実は存在していたらしい。

 要するになんだ、敵が徒党を組んでるならこちらも徒党を組んで対応すればよいわけ? 或いは既に敵の敵は味方と呼べる勢力か、倒さなければならない第三勢力が生まれているかもしれないのかな?

 

「あくまで私の知る冬木の聖杯がそうであるだけで、あの男が所持している聖杯にも同様のシステムが組み込まれているかは不明だ。現にこの世界では聖杯戦争は一度しか起きていないようだからな、通常とは勝手が違うかもしれない。……まあ、結論から言いたいのは、これから君が挑むのは人類史すべてを巻き込んだ聖杯戦争……敵味方入り乱れる大きな戦だということだ」

 

 差し詰め、聖杯大戦と言ったところか。

 ……いいぜ、やってやろうじゃないの。何度も救ってきた世界が敵に回るというのなら、何度目かの正直ってやつで今度こそ完璧に救ってやるよ。

 サムズアップによりやる気をアピールすると、ロマニはそれが所長への手向けになるだろうと微笑んで言った。……あっ。

 

 ――途端、特異点Fにおける最後の記憶がその場に居合わせた人間の脳裏を過ぎり、折角活気が満ちていた空間は静寂に包まれ凍り付く。

 当然ながら視線は私に集中し、どう声をかけたらいいのかわからないという思いが周りから突き刺さってくる。

 

「……マスター」

 

「わかってるよ……」

 

 実は学園に立ち入った直後、私は探索を行う中で所長が既に死んでいる状態にあることを本人へと告げていた。

 レフ犯人説を唱えたときと同じくそんな馬鹿なと最初は突きっ返されたが、エミヤの解析結果とカルデアから所長へ向けて通信が飛ばせない事を無理矢理わからせると、彼女は何で何でと子供のように泣き喚いてから――宥めに宥めてやっとその事実を受け入れた。

 ……んでもって、エミヤから聖杯を入手すれば生き返れる可能性がワンチャンあるでと言われ、じゃあそのプランで行こうと納得して大空洞に乗り込んだわけだが、結果は回収を躊躇したせいであのザマである。期待させるだけさせておいて何たる失態だと過去の自分を殴ってやりたい気分だ。

 

「ロマニ、所長のことだけど――」

 

「彼から詳しく聞いているよ。……だからといって君が無理に気負う必要はない」

 

「……」

 

 そんな事はわかってる。彼女を殺したのはレフの野郎だし、私は彼女の尊厳を守ろうとしただけってのは頭でも理解はしているんだ。でもな、責任ってものはどうしても感じてしまうんだ。それ故に―――

 

 

 

「――どうしたんだい、揃いも揃ってお葬式ムードで。情報共有してるんじゃなかったのかい?」

 

『……辛気臭いったらありゃしないわね、シャキッとしなさいよあんた達』

 

「あ、レオナルド………ん?」

 

 

 

 特に呼び寄せたわけでもない天才の介入に反応の薄いリアクションをとると、幾人かの頭に何故かクエッションマークが浮かんだ。

――はい、ここで問題です。ダウィンチちゃんの声に混じって聞こえたのは誰の声でしょーか。早押し問題です、どうぞ。

 

「えっ、今――いやそんなはず……」

 

「おい……これは一体どういうことだ」

 

「というか何処から聞こえて――あっ、もしかしてそれ……」

 

 ロマニが指差した先には、モナリザの肖像画のポーズをキメて楽しんでいるダウィンチちゃんが持つタブレット端末があり、液晶画面が意図的に見えないように隠されていた。

 ……まあ、シルバはもう分かるよな。耳打ちしてみろ――はい正解。よしよし、ご褒美に後でビーフジャーキーをやろう。

 

『馬鹿なことやってないで、話を進めなさいよ……まったく』

 

「また喋った!?」

 

 正解者が出たというか出したので液晶画面が見えるように公開してもらうと、一度『NowLoading…』と表示されてから声の主が自室のような空間でくつろいだ姿で現れた。

 

 その姿は紛れもなく――――死んで消滅したはずの所長、オルガマリー・アニムスフィアその人だった。

 

 なんかロリっぽくなってるけど気にしてはいけない。(多分、容量の問題か……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死人であるはずの存在が、さも生きているように振る舞っているのを目撃してしまったロマニ達は阿鼻叫喚の渦中にいた。

 

「――うえぇえええええええええええええっ!!!? しょ、所長っ!!? ……ななな、何で!?」

 

「い、生きて……いえ、生きているんですかこれは!?」

 

 一応生きていると定義されるはずだけどね。いやー、土壇場の発想だけど上手くいってよかったわ、わっはっはっ!

 してやったぜとふんぞり返っていると、エミヤに肩を強引に掴まれギロリと閃光のように輝いた目で睨まれる。キャー怖い(棒)。

 

「まるで聞かされてないのだが……何が一体どうなっている?」

 

「フン……考えるな、感じろ」

 

「……真面目に聞いてるんだが」

 

 へいへい、わかったよ。皆にわかるように解説すりゃあええんでしょ。

 前提としてそうだなぁ、特異点Fにおいて所長がどのような状態にあったかについてから解説するとしよう。

 伊達メガネを取り出し、説明するスタイルになった私は『教えて! 藤丸先生のコーナー』を即興で開催し皆の注目を集めてから言った。

 

「簡潔に言うと、所長はあの時精神だけで生きている存在――言わば、精神生命体とも言うべき状態にありましたとさ。……でも、それだけ説明したって今の状況はわかりませんよね」

 

「さっぱりわかりません……」

 

 そこで私のワックワクドッキドキなアイテムのご登場ですよ。はい、こちらは所長を撃った電気銃です。

 ……なんとこれ、HPL案件で手に入れたアイテムなんですよエミヤさん!!

 

「そうだろうなとは思っていた……で、この銃で出来ることは?」

 

「電撃の塊をバンバン撃つことと、それから――精神の出し入れ」

 

「は?」

 

 精神の出し入れですってば、奥さん。

 入手経緯について簡単に説明すると、イス人……生物と精神を交換して知識の探求をしている精神生命体が関わったというか巻き込まれ利用されたHPL案件があったのだ。守護者が関わるレベルで相当にヤバイやつがな。

 その際に入手したのがこの電気銃だったわけだが、事件当時はまだ射撃能力しか持ち合わせておらず非常に壊れやすくて扱いには困ったものだった。

 ――で、事件後、報告書を作成する最中で処分はどうするか判断に迷ったのであるが、事件の反省を踏まえた結果……イス人側に危機管理意識が足りていなかったという結論に至り、保管をするとともに別の機能を持たせてみたらどうかという提案を私は彼らに行った。それが精神の出し入れ機能であり、言い換えればイス人の脱出経路の中間地点とも言うべき機能でもあった。

 つまるところ、カルデアスにダイブしそうになっていた所長をイス人に見立てて撃ったわけである。

 

「仕組みとしては、一度精神のみを電気銃の中へ格納し仮初の……意思疎通さえ出来れば問題ない器に移す感じなんだけど」

 

「わかりやすく言うなら、ペットボトルに入った液体から特定の成分……精神に該当する部分のみを抽出してグラスに注ぎ、それをまた別の保存容器に移すということだね」

 

 ここで言う別の保存容器に当てはまるのが今回のタブレット端末ということになるが、移動するにあたっての措置であるので本来はダヴィンチちゃんに頼んで用意してもらった高スペックパソコンに所長は入っていたりする。

 どうやってパソコンの中に移したかについては、USBの差し込み口が銃に内蔵されているので割とシンプルである。ケーブル繋いでちょちょいのちょいだ。

 

『出来るなら本当はまともに生き返りたかったけど、またレフに命を狙われるかもしれないことを考えれば今の状態も悪くないわね。……それと、オブジェクトをもっと増やしてもらえない? 部屋をもっとアレンジしたいんだけど足りなさ過ぎよ』

 

「あいよ、後で追加しておくわ」

 

「……えらく順応していますね」

 

 一度死んで吹っ切れたんでしょ。それに準備さえ整えば生き返れる状態にあるわけだし……それが当分先になることは既に本人も承諾済みである。

 ……彼女は指揮権限をロマニに仮ではなく正式に譲渡すると通達し、自分はこんな成りだからと言ってバックアップに回ると述べると、やや真面目に顔つきを変えてから私に対して確かめるように問う。

 

『――知っての通り、貴女以外に特異点に赴ける人間は他にいないわ。即ち、貴女の行動が私達のように残された人間の行く末を左右する……それはわかっているわよね?』

 

 運命共同体ってやつだろ。私が無事なら皆が安心するし、私が死ねば皆死ぬ。そのぐらいは重々理解しているさ、経験者だもの。

 幾つもの戦いで行動を共にした人々の顔が思い浮かび、心に小さな火を灯して希望という名の大きな炎を作った。

 

『なら結構よ、思う存分貴女がやりたいように振る舞いなさい』

 

 そして所長は、責任者であった立場から未来を私に委ねると言い、予定通りとはもはや言えなくなった人理継続の尊命を全うする為の旅の始まりを合図する。

 

 

『人類最後のマスター、藤丸立香。――世界を、頼んだわよ』

 

 

 全てはここから始まり、混沌とした戦いの果てを占う賽は今投げられた。




オルガマリィ!ナゼキミガァ(ry

というわけで、所長は精神生命体というか電子生命体にチェンジしました。ある意味ニチアサの某神ィ状態ですが、別に飛び出してきたりはしません(

わかる人にはわかると思いますが、正確にはや◯男状態です。


そんなわけで次回はようやく怒涛の召喚回です。



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