プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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ただの風邪かと思ったら、喉が炎症起こして敏感になってるとか診断されてつらい作者です。咳き込む度に気持ち悪くなって夜中に起きてしまう始末です。

まあ、そのせいで起きている時間も増え執筆時間も増えましたが休むに休めてないです、はい。

そんなわけで、撤退戦(?)です。どうぞ


女の子は皆キラキラしてる(物理)

「――兄貴、任せたっ!」

 

「おうよッ!!」

 

 瓦礫だらけの町の地にムーンビーストの槍を深々と突き立てた私は、それを支えにして新体操の鉄棒よろしく大回転を行うと途中からポールダンスのようなスタイルとなって片手を手放し、待ち構えていたクーフーリンの兄貴を手に取った。

 そうして、そのまま加速のエネルギーを譲渡しワイバーンが翼はためかせる空へ加減なしに投擲すると、彼は自分自身がゲイボルグであると主張し叫び……群がる無数の敵をたった一突きで殲滅してみせる。

 ……一方で、地上ではアストルフォが以前の戦法を有効活用してクトゥルヒを駆け抜けついでにすっ転ばせて行き、その脅威度を一時的に下げると――チャンスをモノにしたマシュとジャンヌの同時攻撃が炸裂する。

 

「ジャンヌさん!」

 

「……はいっ!」

 

 およそ盾と旗によるものとは思えない衝撃音が波となって周囲に響く。

 ……英霊と融合しているマシュはともかく、ジャンヌはあの振るうのに苦労しそうな重たい旗でよく攻撃出来てるなぁと思う。……実は脱いだら胸だけじゃなく、筋肉も凄かったりするんですかね。

 私も結構鍛えているけれど、どれほどのものなのか気になりますわ。

 

「――オキタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「唐突にどうしました信長さん!? ――って、炎を纏って分裂したーっ!?」

 

「あーあ、本当にやりやがったよ……この魔王様」

 

 少し目を離していた横で突然絶叫が聞こえたかと思えば、見上げた先にはマシュが述べた通りにノッブが空中で大回転を決めて、謎の分身を行いながら別の転んでいるクトゥルヒへと鋭い蹴りをお見舞していた。

 ……えっ、その前に長ったらしい回想をガン=カタ(?)中にブツブツ呟いていただって? ごめん、全く聞き取ってなかったけど捏造に捏造を重ねてこの場にいない沖田さんを殺すのは止めましょうね。ニコルの悲劇は繰り返しちゃいけないんだ。

 

「上に居た連中は始末し終わったが、そっちはどうだ」

 

「こっちも片付け終わったよ。……ただまあ、来る前以上に酷い惨状だよ」

 

 一ヶ所に集った皆が見回す町はもはや町とは呼べないものになっており、都市開発のために盛大に既存の建築物を吹き飛ばしたかのような被害状況が至る所で広がっていた。

 ……もっとわかりやすく言うのなら、単身で娘を救いに来た元コマンドーの筋肉モリモリのマッチョマンの変態が、駆け抜けついでにドンパチやらかした爪跡にそっくりだと言った方が正しいかもしれない。

 論より証拠で、構造物は数えるほどしか残ってはなく……その下には、つい数時間前までは命だったものが辺り一面に無残にも転がっていた。中には奴らによって食されてしまっている存在も多くいる。

 凝視し続けていれば慣れている私はともかくマシュの精神が持たなくなると思われるので、アイコンタクトで見えないように彼女以外にお願いして囲ってやると、落ち着きようがない現場で無理に落ち着こうと深い溜息を吐いた。

 

「……ここまでするってことは、それだけ憎悪を抱いて……いや、抱かされているんだろうかね」

 

「自分の意志でこうしているんじゃないってか?」

 

「半分そうであって半分そうでないような予想を今立ててる。こっちのジャンヌを見てて思うけど、反転してるからって竜や得体の知れない生物引っさげて『フランスを蹂躙しよう!』なんて考え、真っ先に思い浮かべるか普通?」

 

 憎いという感情自体は抱こうが別に構わない。しかし、ジャンヌ・オルタは私から見ると復讐を幇助する存在によって武器を渡されて、好き勝手に暴れている人間にしか見えないのであった。

 

「幇助している側にとっても、フランスは憎むべき相手ということですか、先輩?」

 

「要するにいけ好かねえ奴が、自分の憎悪をジャンヌの奴に転写して利用してるって事だよな」

 

「……だろうなぁと私は思うよ。『フランスに裏切られた果てに蘇ったジャンヌ』はこうでなければならないって感情が蠢いているようで……非常に気持ちが悪い」

 

 虫の居所が悪いとはこの事かと解釈し、喫煙者の如くエア煙草を踏み潰し続ける。

 段々と勝手な同情の思いが湧き上がってくるが、それとこれとは別問題と考えて更なる暴挙はなんとしても阻止していかねばならない。戦ってでも止めるとはまさにこういうことだ。

 憐れむというある種の驕りを捨て、最終的には正々堂々完膚なきまでに叩き伏せてやると気持ちを新たにすると、フラグという名のゴングが既に鳴っていたことが通信により明らかになる。

 

『――藤丸君、休憩中のところすまないが……悪い知らせだ』

 

『別方向へ侵攻していたと思われる大きな魔力反応の塊が、そちらに向けて反転してきているわ!! ライダークラス以上に恐ろしい機動力よ!!』

 

『こちらでも確認したがマスター……狙いは君達だ』

 

「わかってるよ」

 

 このまま素直にラ・シャリテから進めるとは端から思っていなかった私は、エミヤにシルバをこちらに呼び寄せるようにだけ指示を飛ばして、今いる全員に臨戦態勢を取るように伝えた。

 ……状況的にジャンヌ・オルタかその操り主が出てこようと、この場で特異点における決着をつけることは無理ゲーだろう。当然護衛は幾人か付いとるじゃろうし。仮にやれたとしてもハイリスクハイリターン過ぎて、誰がリスクを背負うことになるかわかったもんじゃない。こちとら帰還はみんな一緒にがモットーなんじゃ。

 出来るのは戦力の把握と、場を引っ掻き回して逃げるタイミングを作り出すぐらいだと今は高を括り、念話で予め行動方針を共有すると相手が現れ覆い尽くすであろう空を鋭く睨む。

 ――やがて、予期していた通りに先程までに倒した数ほどではないがワイバーンの群れが再びこの地に現れ、乗せていた脅威を私達の目の前に投下する。――数にして、五つ。

 いずれも自らが引き連れているサーヴァントと同等の存在であり、常人が見たら失禁して失神しそうな尋常ではない威圧感を狂気と一緒に放出していた。……こりゃあ、普通のサーヴァントと思わんほうがいいな。明らかにドーピングめいたものキメとる感あるよ。

 並び構える皆もそれは十分感じ取ったようで、相手側からもはや聖杯戦争は破綻していたとわかった。例えるなら、これからチャンバラ勝負しようってのに釘バット肩に担いで参加してきた的なヤバさだ。

 

「……っ!!」

 

 ……そして、一際目を引く存在がジャンヌの身体を驚愕で震わせる。待望の、と言うのには些か間が悪い――彼女とほぼ瓜二つの容姿を持った"黒"の存在が、金色の瞳を滾らせて立っていたのだ。

 成程、コイツは如何にもと決められたベクトルへ感情が向かうのを制し、私はギリギリの冷静さを保つように頭を働かせる。……その間に、こちらのジャンヌを視界に収めた竜の魔女は、ありえないものを見るモーションを取って笑いながらクールさを捨てていた。

 

「――なんて、こと。まさか、まさか……こんなことが起きるなんて」

 

「あ、ああ……」

 

「ねえ、お願い。誰か私の頭に冷たい水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの――本気でおかしくなりそうなのッ!!」

 

 ジャンヌが怯えるのとは正反対に狂喜している様子で一人勝手にテンションをアゲアゲにしているオルタは、そうでもしてくれないと滑稽で笑い死んでしまうと言ってのける。

 また、事もあろうに舞い上がったはずみで自ら背後にいる存在が『ジル』と呼ぼれていることをほのめかし、連れてきて居るメンバーの中には該当者がいないと彼女ははっきり明言した。

 ……いや、うん。こうもペラペラ喋ってくれるとは思わなんだ。真剣に悩んでいた時間にまったく釣り合わないぜ。

 

「あ、貴女は――貴女は、誰ですか!?」

 

 質問を投げかけるだけの勇気は取り戻したジャンヌが、戸惑いの入り混じった問いかけを口に出す。

 まあどうせ、自分こそが真のジャンヌだと言い宣うのは目に見えているよね。したがって、さっき彼女が付けた注文を思い出して、私は空気も読まずその要求に応えてあげることにした。

 ……悦べ、堕ちた聖女よ。君の望みは――少し遅れたが叶う。

 

「それはこちらの台詞ですが、いいでしょう……上に立つ者として答えてあげましょう。私は―――」

 

(――やれ、シルバ!!)

 

 面倒臭そうに名乗り口上を述べようとしたタイミングで、残存する構造物に潜んでいたシルバに私は鋭い指示を飛ばす。

 ――直後、どこからともなく放物線を描いて何かが入ったポリタンク状の容器が飛来し、オルタに目掛けて襲来を開始した。

 

「……む?」

 

 勿論、彼女の周囲に居るサーヴァントが気づくことも計算のうちに入っている。

 ……現に、長髪のイケオジ系ランサーが我先に気づき、脅威にも成りえないと一瞬にして呆れ果てていた。だが処理しないことには直撃コースにあると認めると、事務的に取り除こうとして雑に槍を振るった。

 それこそが真の狙い目で、落とし穴だったとはまるで理解せずに。

 

「ジャン――」

 

 予定調和な流れでオルタが俺はお前でお前は俺だと伝えようとしたその時、私が思い描いていた悲劇は此処に完成をする。

 

「ぬだる……ぶほぇ!?」

 

『え』

 

 ――何ということでしょう。殺伐としていた重苦しい空気は謎の超局地的豪雨(?)によって洗い流されてしまいました。

 これにはやり取りを見守っていた面々も口をポカーンと思わず開けてしまいます。大丈夫ですかー、黒いジャンヌさーん。随分とぬるぬるテカテカしてますがエロいですね。

 

「なに、よっ……これは!!」

 

「私に聞かれても……」

 

「水ゥ……じゃないですかね?」

 

「これのどこが水なのよ!? ああもう、ベトベトして気持ちが悪いったらありゃしない!!」

 

 じゃあ、水じゃないと言い張るなら何だというのか答えてごらんよ。誰かの知恵を借りるとかはナシだぜ。

 ……ああでも、一つだけ許可しようか。君がジャンヌ・ダルクだというのなら主の啓示とやらが聞こえるはずだろう。もしも聞こえないって言うのなら、落ちぶれて愛想を尽かされたか君が自分で聞こえないように耳を塞いでいるか、あるいは……

 

「ジャンヌという役割(ロール)を演じるようにさせられた赤の他人という事になるが、真相はどうなんだい?」

 

「……アンタは、一体」

 

 動揺の色は見えない。本命の予想が図星ではなかったということは、最初の方のシャットダウンしている対応の方が正しかったのだろうか。

 されど、そうに見えても私的には彼女がジャンヌであってジャンヌではないとする考えが根強かった。その理由は、騎士王が反転しようと王たらんとすることを止めなかったように、国を救おうと駆け抜けた人間がそう安々と反転して生涯を否定し切るような暴挙に出るとは思えなかったからである。道は違えても最終的にやることは結局変わらないのではないだろうか。

 ……そういった意味合いでも、何でもかんでも気に入らないモノは滅ぼしに掛かるという行動に出ているオルタは、純粋な聖女ジャンヌの反転とは言い辛い。まだ親交のあった友人が顔を変えているだとか、世界には3人いるというそっくりさんが演じているという方が信じられる。

 

「ん、私か……私は、神だァ(ねっとり」

 

『――ちょっと藤丸君っ!?』

 

 いいからいいから。一度言ってみたかったんだよ、この自己顕示欲にまみれたクソみたいな台詞。大抵マジで言ってるとまず一番に殺されたりするよねー。

 

「……神、ですって? 冗談はよしなさいな」

 

「ところがどっこい、あながち間違ってないんじゃよなこれがな。主にアウター的な意味で!」

 

「もれなく信仰すると狂気と混沌の世界へご招待だ。いあいあ、くとぅるふふたぐんってな!」

 

「おいやめろ」

 

 安心しろ、私だってまともに詠唱する気はねえよ。もしも唱えてる時があるのなら、その時は正気失ってやべーことをしている現れになる。殴ってでも止めろ。最悪殺せ。

 

「え、じゃあジルもまともじゃないってこと……? いえ、元からまともじゃなかったけれどもっ!」

 

「……あっ察し」

 

 ご愁傷様ですね。貴女のおうちのジルさんとやらはどうやら深淵に首を突っ込んでしまったお方のようだ。……ははーん、クトゥルヒが召喚されているカラクリも段々と読めてきたぞ。

 

「その辺にしておくべきだ。……相手のペースに乗せられて些か喋りすぎではないかね、マスターよ」

 

「――ッ、そうね……少々喋りすぎたわ」

 

 と、ここでイケオジサーヴァントの助言が飛び、これ以上の情報の引き出しはこの場においては不可能となってしまった。今まで空気を読んでくれていてありがとうよ。

 私としても頃合いと思っていたので潔く引き下がると、置いてきぼりであった連中は改めて戦う構えを見せた。正直、コミュニケーションが成立しないまでに狂っていると思っていたが、手綱を握れるだけの理性は残してあるようだ。

 

「おっ、殺る気かい? ローション塗れのくせして威勢はいいな、聖女様は」

 

「ろ、ローション? ……って、やっぱりアンタ達の仕業だったのねッ! 許さないわッ!!」

 

「そういう発言は本気で犯人だと疑ってから言おうね。……まあいいさ、蹂躙されるのが果たしてどちらなのか存分に確かめ合おうじゃないか」

 

 一触即発のそれらしい空気となった戦場で、視線と視線とが衝突し合い火花が大量に散らされる。

 本場の聖杯戦争の空気とはこういうものなのかと痛いぐらいに肌で実感するも、悪いが長く付き合っているつもりは毛頭ないんだ。こちらが弱くて瞬殺されるだとかそういう訳ではなくて―――

 

「――では、血を戴こう」

 

「臓をぶち撒けなさい……血を啜り切ってあげるわ」

 

 そもそも戦うつもりはこれっぽっちも私達にはないのであった。……少なくとも私達には。

 即ち、戦う存在は別にいるというわけであり、ローション入りのポリタンクから間を置いて今度は広範囲で煌めく何かが空の気候に関係なく降り注いだ。

 

「くっ……!!」

 

「なによこれは……!!」

 

「――水晶? いえ、硝子の薔薇……?」

 

 夥しい数の光を反射し輝く薔薇は的確にオルタ達の動きを封じ、一歩たりとも動けない世界を瞬く間に創造した。

 そこに、愛らしくも美しい声による歌が音楽に乗せて流れ、一輪の花が堂々と大きく咲き誇る。

 

「違うわ――それは私の抱いた"夢"のカタチ。またの名を―――『()』と呼ぶわ」

 

「誰っ!?」

 

「あれは――」

 

 伝説の戦士……戦うプリンセス、プリキュアだ!!

 見ろよあの身のこなし……スケートリンクでダンス踊るみてえにアクセル決めて薔薇を自分からプレゼントしているぞ。えっ、そこで逆立ちして横回転しながらまた配布するの? どんだけアグレッシブなお姫様なんだ……。

 

「……ふむ、曲を何となく湧き上がる感じにしてみたけど、よもや彼女が此処まで過激に動くとはね」

 

「歌って踊れるアイドルは貴重だよ。……どう、彼女にシンデレラなガールズになってもらって皆を笑顔にしてみない? あっこれ名刺ね」

 

「ははっ、面白いことを言うね。けれど勧誘はもうちょっと落ち着ける場所でしてもらおうか。此処はちょっと、話を聞くには雑音が多すぎる」

 

 故あって乱入してきた一人に気さくに話しかけてみると、意外と乗り気なご様子だ。では、ご注文通りに動かさせていただきましょうかね……スタッフゥー援護をよろしくゥ!

 手を遠くからでも見えるようにして合図を送り、花の弾幕の間に的確に剣の弾幕を割り込ませて芸術品のような檻を一つ一つ丁寧に形成する。見栄えだけが良いように思えるが、薔薇の棘のように下手に触れてどうにかしようとすると痛い目にあう。

 

「うああっ!!」

 

「くそっ、爆発した!」

 

 抵抗して脱出しようとした者は感圧式スイッチに触れて自爆させられる悲劇に見舞われ、他の者の心配をする心の余裕は削がれていく。

 やがて、ジャンヌ・オルタの直衛に着こうとする存在が波状攻撃により見事に捌けたところで、私は最後の仕上げに取り掛かりに動くべく単身で戦場の中央を忍者気味に駆けた。炎が妨害として飛んでくるが如何せん遅すぎる。

 

「どいつもこいつも何やってるのよ!? ……攻撃の一つや二つこんだけ数いて凌げないのッ!!」

 

「凌げるかは結局、リード握ってるお前の采配次第だよ。今回ばかりは狂犬に噛みつかれるのが怖いんでね、暴れられる前に檻に閉じ込めさせてもらった」

 

「ちょこまかとッ……この化け物が―――」

 

「………」

 

 ああ、そうだよ。お前の認識は寸分の狂いもなく正しい。

 その証明として、正解者にはちょっとした恐怖を体験させてあげるよ。

 

「――ローションでヌルヌルとくれば、あとはド定番のこれだな」

 

「なによそれ!?」

 

 左腕の拘束を解き左腕に見せかけていたモノを本当のカタチに戻した私は、指に位置していた触手の先を地を這うように進ませて防御がお留守な彼女の片足に絡みつかせた。なお、地面は浴びせ掛けられた余波で滑りやすくなっているので、バランスを崩させれば……ほれ、この通りすってんころりん。

 無様にもオルタは受け身を取る暇も与えられずに背中と頭を強打し、苦痛な表情に顔を大きく歪ませた。……で、これで終わり? いやいやそんな訳がないでしょう。

 チベットスナギツネ並の無表情をつくり、見下ろしながら静かに語りかける。

 

「ひっ……!!」

 

「お前が何者であれ、やらかした事に対する報いはきっちり受けてもらう……忠告だが口を閉じてないと舌を噛むか歯を折るぞ」

 

「――は? えっ、えっ?」

 

 そう言って、よりヌルヌルとして滑りやすい身体に雁字搦めに巻き付いてやると野球の投手が肩に力を入れて投げるように姿勢を作り、拘束を緩めぬまま宙へと彼女を浮かせる。

 

「いや、止めてそんなっ……痛いから止めて!! お願い!!」

 

「さっきまでの威勢はどうしたよ。というか、お前がこうする立場だった時に中断はしたか? ――してないよなぁ!?」

 

「うがっ!?」

 

 真っ直ぐでなく初めから下に叩きつける気満々で挑んだ一撃を喰らった彼女は、思い切り足で踏まれた以上の打撃を受けて白目を剥くほどの反応を見せる。

 ……その痛々しい光景に敵味方問わず目を背けるような反応が見られるがお構いなしだ。むしろ、よく見ておけ聞いておけと言いたいぐらいである。

 

「……コイツにホイホイ従ってるお前らもお前らだよ。こちとらな、未来で何もかも奪われて家族から友人、知り合いから何から何に至るまで詳細不明な企みの材料にされてんだ。嫌々だか何だか知らないが、本当に狂いたいのはこっちだよバカヤロウ!!」

 

「うわぁ、もう一発やっちゃったよ」

 

「ここぞとばかりに恨みつらみを晴らしとるな」

 

「何処までが本気で何処までがお巫山戯なのか、もうわけわかんねえな」

 

 同情を捨てた故の好感度マイナス振り切り対応だから。半分半分ってところだよ。

 ……さて、うんともすんとも言わなくなったな。消滅するほどの致命傷は負わせられなかったが、気絶ぐらいなら片腕一つで状態として陥らせることが出来るようだ。ちい、覚えたよ。

 私は自身の服に被害が及ばないように乱暴にタオルで彼女を簀巻にすると、此処にはもう用がないと踵を返して立ち去ろうと率先して動き始めた。

 

「――何処へ行く!?」

 

 男装なのか女装なのかどちらでもないのかはっきりしない装いの騎士が、病院行けとマッハで言いたくなるような傷だらけの姿で勇敢にも叫ぶ。この期に及んで私の手の内に在るオルタが心配だとは、騎士道精神がそうさせたか。

 

「決まっているだろう……人気のない場所で洗いざらい情報を吐いてもらった後、所有しているであろう聖杯を回収してこの特異点ともおさらばだ。次の特異点が私を待っている。それに―――」

 

「……それに?」

 

「これから跡形もなく盛大に吹き飛ぶ場所に長居は無用だろ。ついでに言っておくと、あと5分以内に爆発して君達はジ・エンドだ」

 

「――たかが、爆破物程度でサーヴァントを倒せるとでも思っているの!?」

 

 思わんだろうな。言ってる私も自分に対して何言ってんだお前って叫びたいぐらいだよ。けれどもな、虚仮威しとされるクサい台詞を頭ごなしに否定して侮っていると気がつけば後の祭りなんだぜ。

 車をすぐにでも走らせられるように急かし荷台に飛び乗った私は、荷物から厳重注意と油性ペンで書かれた紙袋の中身からホールケーキ程のサイズの何かを取り出して残された連中の中央に転がるように投げつけた。

 同時に、車を出すように騎乗スキル持ちのアストルフォにお願いし、晴れて人理修復戦隊ゴーカルデアスwithキュアヴィヴラフランスはラ・シャリテの地から逃れる運びとなった。

 

「はい、そんなわけで」

 

「ボーナスタイムだ」

 

「えっ、金属バットと……それはもしかしてグレネードですかっ!?」

 

「Exactly、その通りでございます。そーれ、投げとくれっと……たーまやー!!」

 

 捕手の練習に付き合う監督らしくサイドから安全ピンを抜いた多種多様のグレネードをシルバに投げてもらい、カキンと心地よい音が何処までも反響する。

 グレネードの種類はええと、対サーヴァントにカスタマイズした魔力の霧によるチャフとルーンを付与したスタングレネード、それに純粋な起爆剤のグレネードだったか。

 

「後5分で爆発すると言ったが、何も時限式だとは言っていない。――後5分したら、"私"が爆発しにかかるという意味だったのだ。ウェヒヒヒ」

 

「ええ……」

 

「総員、耐ショックー」

 

 既に計算上では影響外に逃れたが、稀に何かが飛んで来るとも限らないので姿勢を低くして伏せておくよう促した。……いつぞやは焼死体が降ってきたこともありましたが、その時に巻き込まれた連中は全員元気です(人理焼却前調べ)。

 鳴り止まないフィリピン爆竹とその他諸々の爆発音のする背景を後ろにフォードは、リヨンとマルセイユがある方向の途中にあるこれまでより巨大な森林地帯へ身を隠すべくタイヤを只管に止めることなく回転させ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、派手にやらかしたね」

 

 今日も今日とて野宿を敢行することが決まった私達は、色々吹っ切れた頭でセーフティポイントを手際よく確保し早速疲れを癒やそうと各々休んでいた。

 そこへ、半ば強引に合流してもらい尚且つ協力してもらった二人組が加わり、約束通りにビジネスの話が今にも持ち上がろうとしていた。

 

「派手と言うが、また振り出しに戻ったよ戦局は。誰一人として撃破したわけじゃない」

 

「……すると、あの爆発はまさしくはったりだったと言うわけか」

 

「そういうこと。はったりは本当のように見せかけてこそなんぼだから。――それよりも、二人はかの天才と王妃ということでいいんだよな」

 

 シルバがこちらにローションを投げに向かう合間に遭遇したというはぐれのサーヴァントである彼等は、こちらが初めから撤退を最優先に動いていることを理解し親切にも作戦を成功させるべく協力を申し出てくれていた。

 その際に真名を自分から大胆にも暴露したのには割りと衝撃を受けたが、音楽家と王族が前線に出て堂々と戦う姿はそれ以上にインパクトがデカかった。私が伸びる触手で叩きつけを繰り返していたのが霞んでしまうぐらいだよ。

 

「彼女の痛々しい姿を見るのはアレだったが、どうも件の黒いジャンヌはおいたをしたらどうなるか考えたことがなかったようだね」

 

「まるで良し悪しがわからない生まれたての子供のよう……悪い言い方になってしまうけれど、あのジャンヌからは見かけに応じた知識があるように感じられないの」

 

「そうですよね……何というか『極端すぎる(・・・・・)』と私自身も彼女と直接会ってみて思いました」

 

 メンタルが低ければ今の言葉に、対象は違えど傷ついていてもおかしくなかったこちらのジャンヌが会話に加わり、いよいよオルタは真っ当なオルタではない疑惑が真実味を帯びてきた。真っ当なオルタの定義とは一体……アホ毛がない? エミヤは黙ってて。

 

「彼女は自身をこの私だと言おうとしてましたが、完全に違うと捉えると何が例えとしてしっくり来るんでしょう……」

 

 うーんと、強いて言うなら一つのことに熱中しすぎなポンコツな妹? それも勉強を疎かにしていてその熱中していたことに関連したことしか頭にないみたいな。

 

「妹……確かにしっくりしますね。実際にはいた事はありませんが、もし居たのなら場合によってああ成り果ててしまったかもしれません」

 

「姉の威光と名誉を取り戻す的な? 本当に居たら危うく騙されていただろうなぁ……」

 

 もっともその可能性はなく、真実はいつも冷徹に残酷であった。

 多分というか恐らくだが、竜の魔女の成り立ちにはジャンヌを信じ続けてきたある人物が一枚噛んでいると見て確定だろう。手に入った情報と『今の状況(・・・・)』がどうしてもそれを物語ってしまっていた。

 

「背中に令呪が在るのと、聖杯を所持していないのがわかった途端に強制転移で拘束から抜け出させるとは、あちらさん隠すつもりはないみたいだな」

 

「しかしどうしてジルが……」

 

 そりゃ、推しや身近な人が死ねば暴走したくもなるからに決まってんじゃん。私にもそういう時期があったからわからなくもないけれども、だからってやべーアイテムに手を出して僕が考えた理想のジャンヌをクリエイトしちゃうのはノーグッドだ。欲望のままに手を出していたら尚更アウトである。

 

「どうせキチるのなら、自分の体をジャンヌのボディにしてくれぐらいすればいいのに。俺自身がジャンヌになることだ――ってね」

 

「それは……全力でお断りしたいですね」

 

 だとよ、ジル・ド・レェ。何にせよ、てめえの好き勝手な都合でまったく自己のない伽藍堂な存在を生み出したりするな。これでジャンヌが死んだらまた代わりのジャンヌが居るとぬかしたら、そのとっくに振り切れてる正気度ごと精神破壊してやる。

 冗談抜きでのムーンビーストの槍の解放も辞さないとする私は、もう一つの懸念に対しても注意を張り巡らせて伸びてきた親指の爪を何度も口に含んで噛みしめる。

 

「……話は変わるがジャンヌ、生きていた頃のジル・ド・レェは魔術を噛じっていた節はあったか?」

 

「いえ、ないとは……思います。客観的に見て至って普通の、腕の立つ同僚の兵士というのが彼だったかと」

 

「であれば概ね史実通りか。そこに加えてこちら寄りになっているとすると、あの話は現実味を帯びるか……」

 

『――あの話というのは?』

 

 カルデアからの通信も加わり、あまり知られているかもわからないマイナーな話題を聞いている全員に振る。

 

「……フランソワ・プレラーティって錬金術師がいるんだけどさ、そいつは魔術世界だとどういう認識?」

 

『確かこちらでも錬金術師もしくは魔術師として知られているね。……青髭のパトロンとの話もあるがそれに関係する話かな?』

 

 そんなところだよ。……つまりは、親しい仲だったというのが重要なポイントだ。個人の間柄なら金銭以外にも物の貸し借りがあったと見るのが定石だろう。故に、今回の話はそれに帰結する。

 

「神話生物が召喚されている上に、オルタが口走った青髭の奇行。そしてHPLではフランソワ・プレラーティは、『ルルイエ異本』を部分的に訳したとして軽く名前が上がる」

 

『……ルルイエ異本?』

 

『私みたいな邪神やリツカ、余程の物好きか追い詰められた人間にしか読解できない、地球外の言語で書かれた魔導書よ。何故か翻訳されたりしていることもあるけど、脅威度はそのまんまで専門機関で主に厳重に管理されているわ』

 

 いつの間にか管制室に居たマイ子が丁寧にも解説を入れてくれ、読むべきではない書物ということで認識される。ゲシュタルトが崩壊しそうだ。

 

「たまにPDF化して持ち歩いてるアホもおるけどね。私も送りつけられてちゃっかり持ってます」

 

「……捨てないんだね」

 

 捨ててもどうせ何処かで拾うから最初から持っていて防御しているだけだよ。……で、その『ルルイエ異本』の劣化コピー本が現実にあり、今こうしてフランスが神話生物の脅威に晒されているという事は、死ぬまでの凶行を含めて考えて青髭に手に写本が収まったと思っていいだろう。

 或いは、フランソワ・プレラーティがジャンヌが死んで間もないこの時期からジル・ド・レェを唆して暗躍していたと見るべきか。後者なら、狂人が増えてイカレ具合も倍増で特異点の修復完了もかなり遠のくに違いない。

 

「初回なのに痺れを切らさせるだけの刺激は与えちゃったからな。次は確実に蛮行に及んでくる」

 

「具体的には?」

 

「食料の足しにしかならないただのワイバーンやクトゥルヒ以上の存在を急ごしらえに用意してくるとかだろうな。それも今の戦力じゃ束になって立ち向かっても勝てないぐらいのとびきりのやつを……」

 

 それが何であるかまでは見当もつかないが、お遊びはこれまでだというメッセージ性は出してくる事は揺るがない。

 対策を取られる前にこちらで先行して対策を講じられるよう動ければいいんだがな、未来予知でもしない限り無理な話か。

 

「地道に星を集めるといい。こうして出会えたんだ、流れは今のところ君に傾いていると言っていい」

 

「そうよ。でなけれれば私もアマデウスに再びこうして会えなかったもの」

 

「……そうだといいんだけれどな」

 

 励ましの言葉に痛み入りつつ薪に火を起こすと、プチ歓迎会と称したただの食事会の準備に私は取り掛かった。メインディッシュは例の如くワイバーンの肉であるが、これ王族の人に食べさせてもいいんじゃろうかと不安で一杯だ。

 今後の戦闘よりもどうでもいい事に焦りを覚えたこちらの心情を余所に、肉の焼ける匂いが周囲を包み込むように立ち込めたのであった。




この王妃様、SAKIMORIインストールされてね?(

そして容赦ない触手拘束からの連続回転叩きつけノックアウト。
青髭、ちょいと戦いの様子覗いてみたら既に拉致られてる場面で発狂。怒りの聖杯による回収です。お疲れ様でした。

んでもって、Fakeのあの人の名前が出てくる始末。
つまりは何だ、大惨事クトゥルフ大戦だ(確定。


次回もお楽しみに。

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