機体を乗り捨て、ISを身に纏ったイチカは炎から現れた同じくドラケンのISを身に纏ったロイドが剣を振り下ろしてくるもイチカは躱しつつ応戦した。
「クソッタレがぁ!」
「いい加減に落ちよ!」
バルカンやミサイル、剣やナイフのぶつかり合いが続く。
「クソォ、出力的に向こうが上か」
【仕方あるまい、向こうは擬似コアだ。だが、向こうが力で増しているなら、此方は技術で押し返すしかあるまい】
「分かっている、メッサー!」
メッサーからの助言を受けつつイチカは残りの残弾などを確認する。
(バルカンはそろそろ尽きるし、ミサイルは残弾切れ。残るはアサルトナイフとビームポッドか。ビームポッドに関してはSEを消費するから使用できないと考えると、残りはアサルトナイフのみか)
内心舌打ちをしつつも、対策を考える。その間にもロイドは剣技を繰り出したりミサイルを撃ってくる。
「ふん、先程から避けてばかりではないか。そろそろ矢玉尽き始めたか?」
「……矢玉尽きたって言うのは、手も足も出ないと同じ意味だ。俺はまだ尽き果ててねぇ!」
そう叫び、イチカは残ったバルカンで撃ちながら距離をとる。
「ふん、いい加減に楽になればいいものを!」
そう言いロイドはミサイルを3発放つ。だがそのミサイルは弾頭が他とは違う物だった。
(俺の記憶に間違いが無ければ、あれは巡航クラスの爆風のミサイル。だったら!)
【白騎士! お前に積んでるSEを機体全体を包むほどの高密度のシールドを展開しろ!】
【何? ……いいだろう、やってやる!】
キースにシールドを高密度にするように頼んだイチカはロイドが放ったミサイルに向け残りのバルカンを放った。
数発が2発のミサイルに当たり爆発が起きる。
「今だ!」
そう叫びイチカは炎に突っ込む。そしてブースター全開で炎を掻き分けその先に居たロイドにアサルトナイフを展開しロイドに斬りかかる。
「無駄な足掻きを!」
ロイドはそう叫びイチカのアサルトナイフを剣で受け止める。
「貴様の機体如きに、この私が開発した機体に勝てるはずが無かろうが!」
「力で駄目なら、技術で補うまでだよぉ!」
そう叫びイチカはロイドの機体に掴みかかった。
「ッ!? 貴様何を!」
「てめぇを墜とす作戦だぁ!」
ニッと笑うイチカにロイドは戦慄を浮かべると、アラート音が鳴り響く。それはイチカの背後から迫ってくる、
「貴様、道連れにするつもりかぁ!」
「悪いが、墜ちるのはてめぇ一人だぁ!」
逃げようともがくロイドをイチカは必死に抑え込む。そしてミサイルは時限信管が発動し爆発した。爆風が起きる中、イチカは黒煙の中から勢いよく出てきて地面に叩きつけられる。
「ガハッ!? ……いっつぅう。やったか?」
黒煙が上がる方に目を向けつつイチカはメッサーに語り掛けた。
【メッサー、大丈夫か?】
【俺の事より自分の心配をしろ。無茶な方法をとりやがって】
【わりぃ。ワンオフ使おうと思ったんだが、それじゃあ決定打に欠けると思ってな。あぁするしか方法が無かった】
【全く。機体の方だが、ほとんどボロボロだ。残りのSEも乏しいが脱出するには十分だ。で、お前の状態だが左腕と右足が折れているが、神経は傷付いていない。おい、白騎士。お前の方は?】
【こっちもボロボロだ。スラスターの一部が破損している】
【そうか。イチカ、機体はこっちで操縦する。お前は休んで【悪い、そうもいかねぇかも】ッ!?】
メッサーの言葉を遮る様にイチカは悔しそうな表情で睨む先には、仮面が割れ素顔を見せるロイドが足を引き摺りながらイチカに近付いていた。
ロイドの体は、腕がもげ肉ではなく細いチューブや金属パーツが見えており顔も若干だが皮膚が剥がれ金属の様な物が見えていた。
「わ、私は、まだ、負けて……ない!」
「しつこすぎるぞ!」
イチカはISを身に纏おうとするも、腕や脚の骨折の痛みで身に纏えなかった。
「……くそぉ、このままじゃあ」
イチカは腰に付けている拳銃を取り出すと、ロイドに向け撃つも止まる気配はなかった。
そして拳銃は弾切れを起こし、イチカはそれを放り捨てナイフを取り出すも対抗できる想像が出来なかった。
【……致し方ない。おい、白騎士】
【なんだ?】
【再び死ぬ覚悟はあるか?】
【……愚問だな。私は当の昔に死んでいる。今更死ぬのに恐怖などしない】
そうか。とメッサーは返す。
すると突然イチカの目の前にISが現れた。それはイチカの専用機であるイーグルクロウだった。
「……メッサー?」
【イチカ、お前は生きろ】
そう言うとイーグルクロウは突然無人のままロイドに向かってブースターを吹かしロイドに掴むとそのままどこかに飛んで行く。
「なっ!? メッサー!」
【イチカ。デルタを、そしてワルキューレの皆を任せるぞ!】
【ふ、ふざけんな! 俺はまだお前の事みんなに話していないんだぞ! そいつを放り捨てて戻って来いよ!】
【そうはいかん。俺達は既に死んだ人間だ。そんな者がこの場に残っている訳には行かん】
【白騎士! お前も何とか【悪いが、俺も死神に同意見だ。コアとして生きているとはいえ、俺達は既に死人だ。何時までも残っている訳には行かん】なんで、何でだよ!】
兄貴的存在だったメッサー、そしてその仇である白騎士事キースに言われ涙を零しつつ叫ぶイチカ。
【死人だからって何だよ! 別に、そんなの問題なんかじゃないだろ!】
【いや、これは俺の、俺達の我儘だ。許せ、イチカ。そしてこんな俺を、兄貴のように慕ってくれありがとう】
そうメッサーが伝えたと同時に声は聞こえなくなった。
「メッサー‼‼」
――エリシオン・医務室
戦闘が繰り広げられている中、マドカは医務室で動けずにおりただ無事にこの戦争に勝てることを祈っていた。すると
【聞こえるか、マドカ?】
【キース? どうしたんだ? まさか兄さんに何かあったのか!?】
【それは問題ない。ただこれでお前とは最後の会話になるだけだ】
【最後、だと? どう言う事だ?】
マドカに問われたキースは自身が何をしようとしているか、それを説明した。それを聞いたマドカは目に若干の涙を浮かべた。
【……そうか。それがお前と、そしてメッサーという人の意思なら止めない。けど兄さんは?】
【それは問題ない。既に救援信号を出しておいた。俺達が事を終えた頃にはアイツは救助されている】
【……そうか。……キース、短い間だったが、お前と共に話せた事、そしてともに飛べたことは誇らしい事だった。ありがとう】
【こちらこそ、共に飛べたことに感謝する。それじゃあさらばだ。マドカ・メルダース】
そう言葉を掛けられた後、声は聞こえなくなった。マドカは小さく、こちらこそありがとう。と零し一人涙を流した。
【別れの挨拶は済んだのか?】
【あぁ。そっちもか、死神?】
【ふん、泣き虫ではあるがアイツは強いから、大丈夫だ】
二人はそう話し合っていると、満身創痍のロイドが叫んでいた。
「な、何故だ! 何故人が乗っていないのにも関わらず動ける!? こ、こんな事可能なわけが」
【可能さ、ロイド】
「ッ!? キース、なのか?」
突然自身の頭に響くようにキースの声が聞こえ、ロイドは驚愕の顔に染まる。死んだと思っていた親友が目の前のISから聞こえたのだ。
「ま、まさかアイツが乗っていたISの【残念だが、それは俺の方だ。白騎士は後から載せられた拡張パーツのコアさ】だ、誰だ!?」
【死神とだけ言っておこう】
メッサーはそう言いながら機体を更にスピードを上げ向かった先は格納庫だった。そしてメッサーはある物を探していると、目的の物を見つけたのか其処に向かってブースターを吹かしロイドを抑えつけた。
「な、何をする気だ!」
【俺達は既に死人だ。死人が何時までも生者のお節介を焼く訳には行かんだろ】
【その通り。安心しろ、ロイド。地獄には一人で行く訳でない。我らも共に行く】
「は、放せ! わ、私はまだ終えていない! この世界を統一し、あの世界で出来なかった野望がまだ!」
ロイドの叫びを無視するように、メッサーは機体に残っているアサルトナイフを取り出すと、抑えつけていたロイドの背後にあった大型ミサイルに向け振り下ろす。
【これで、終わりだ】
ナイフがミサイルに刺さったと同時に大爆発が起き、連鎖するように他のミサイルや機体にも爆発が連鎖し、格納庫を吹き飛ばした。
その頃、イチカは痛む体に鞭を打ちつつ立ち上がり脱出口に向け体を引き摺っていた。
涙を流しながらだが、イチカはメッサーに託された事を全うするべく。
『イチカ、無事かぁ!』
そう叫ぶ声が聞こえると、イチカの前にハヤテのVF-31J改が現れた。
「ハヤテ……」
『救援信号が出た後に、お前の反応が消えたからびっくりしたが無事だったようだな。急いで乗れ。自爆シーケンスが発動しているみたいだ』
そう言われイチカはガウォーク形態から差し出された手に乗り込みそのままコックピットの後部座席に座った。
「よし、急いで脱出するぞ!」
「……あぁ」
イチカの返答を聞きハヤテはガウォークからファイターに変形させ要塞内部から脱出を始めた。
要塞が爆発していく中、指令所には多くのスタッフ達が残っていた。一同が顔を向けていたのはジェフにであり、司令室に居たジェフは指令所に居た者達一同の顔を見て目を瞑った。
「どうやら、我々の革命は失敗に終わったようだ」
その言葉に大勢のスタッフ達は涙を流した。嗚呼と声を上げる者が居れば静かに涙を零す者も。
「だが、我々の様に行動を起こす者が居るという事を世界に示すことが出来ただけでも儲けものだ。後は、地上に居る我らと同じ志を持った者達が動いてくれることを切に願うだけだ。諸君、脱出は自由だ。生きたいものは、行け。生きることは恥ではない。だが、志だけは捨てぬように。以上だ」
そう言い司令室の奥へと踵を返すジェフ。彼の言葉を聞いたスタッフ達はそれぞれ歩き出すも、誰一人脱出艇へと向かわなかった。それぞれ己の部屋へと入りそっと家族写真を抱く者が居れば、愛する者と抱き合いながら静かに終わりを迎えようとする者達がほとんどだった。
そして奥へと向かったジェフも自身の部屋に入ると、机の上に置かれている写真立てを手に取る。其処には美しい黒髪の女性と、子供、そしてジェフが写っていた。
ジェフは2人を優しく指で触りながら、椅子に深々と座り目を瞑る。
「済まない、2人とも。私は、お前達の仇をとれなかった」
そう呟き、閉じた目から涙を零すと何処からともなく
【おとうしゃ~ん!】
【あなたぁ~】
と自身を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。そして目を開けると其処には亡くした二人の姿が目の前に居た。
「お、お前達」
【おとうしゃ~ん、早くあっちで遊ぼうよぉ】
そう言いながら子供はジェフの手を引っ張る。そして黒髪の女性は近付き、ジェフの開いている手をそっと握りしめた。
【あなた、もういいのです。もう無理しなくてもいいのですよ】
「…アーヴィン、アルベド。……そうだな、仕事は終わった。一緒にあっちで遊ぼうか」
そう涙を零しながら笑みを浮かべジェフは子供の手を握りしめ、アルベドと3人で歩き出す。それと同時に司令室の天井が崩れ瓦礫に埋もれた。
爆発が起きる要塞を眺める連合軍。既に戦闘は止んでおり、洗脳されていたパイロット達も元に戻っている中先に脱出したアラド、ミラージュ、チャックは燃え盛る要塞を心配そうに見つめていた。
「くそ、ハヤテの奴。遅すぎるぞ」
「隊長、救助に行かせてください!」
「ダメだ。今向かって行った所で危険すぎる。今は待つしか『こちらエリシオン! ハヤテ中尉の機体を確認! そちらに向かっています!』 本当か!」
エリシオンからの通信を聞いたアラドは燃え盛る要塞の方を目を凝らしながら見ていると炎の中から1機のヴァルキリーが飛び出してきた。
『こちらデルタ5、イチカ共々健在だ!』
そう無線で報告すると、連合軍の多くからよっしゃぁー!と大声で歓声が上がった。
そして生き残った連合軍機は残ったトロイへと帰還した。デルタ、アルファ、ガンマ部隊もエリシオンに帰還し格納庫でそれぞれ労いの言葉をかけあっていた。
ただ一人、イチカは若干悲しい表情を浮かべながら燃え盛る要塞を見つめていた。
「どうした、イチカ?」
アラドはイチカの表情に心配そうに近づく。
「いや、ちょっとな」
そう言葉を濁すイチカ。すると松葉杖を使いながらイチカの元に向かうマドカが居た。
「兄さん」
「マドカ。……その「いいんだ、アイツも覚悟を決めていたんだ。私よりも兄さんの方が辛くないのか?」……まぁ、そうだな」
「ん? どう言う事だ。二人共、一体何の話をしているんだ?」
そう問われ、イチカ、そしてマドカは話し始めた。自分達のISに乗った仲間、そして白騎士の事を。
2人の説明に最初は驚いていたが、最後の方は涙を流す者で溢れかえった。
また、自分の命と引き換えに仲間を守りやがって。と零すハヤテ。そして涙を零しながら、メッサー君。と零すカナメ。それぞれメッサー、そして白騎士の行動に涙を零したのだ。
そしてイチカは体の向きを変え燃え盛る要塞に向け一呼吸入れる。
「この戦いを終わらせるために共に戦ったメッサー中尉、そして白騎士に、哀悼と敬意を表して、敬礼!」
そう叫んで敬礼すると、マドカも敬礼をした。その姿にハヤテも同じく敬礼するとアラドやミラージュ達も続けて敬礼を行った。
次回予告
戦いは終わり、平和が訪れた。そして月日は流れ各々自分達の道を歩み始めた。
次回
エピローグ~さぁ、帰るか~