マキナとレイナに連れられイチカの新しい機体と言って見せたのはメッサーの機体だった。
「な、なんでメッサーの機体を俺に? それにメッサーの機体は、オーバードライブで解体されたはずじゃあ」
「一度はそうなった。けど、アラアラが何時かイチカに必要になる機体かもしれないって言って解体されたのを再度組み直したの。無論、使えないパーツやシステムを全部取り換えてね」
マキナの説明にイチカは茫然と言った表情でメッサーの機体を見上げた。白と黒でカラーリングされたもので、イチカにとって兄貴分だったメッサーの機体。極限まで機動性などを上げた制宇宙支配戦闘機。
「だが、俺に乗りこなせるとは思えないぞ」
「それは大丈夫」
そう言いレイナは空中ディスプレイを立ち上げあるデータを見せた。
「これはメッサーの生前の戦闘データをグラフ化したやつ。そしてこれがイチカの戦闘データ」
そう言われイチカと美雲は見比べると、2人のデータはほぼ近いグラフ数値が表示されていた。
「これ、メッサーとほぼ同じ数値ね」
「そう。今のイチカの技量は生前のメッサーとほぼ同等を有してる。だからこの機体に乗り込んで操縦しても問題無し」
データ的に問題無しと説明するレイナ。
イチカは2人の説明を受けながらメッサーの機体に触れる。自身の様々な思いが巡る。だがはっきりとした思いだけはあった。
【覚悟は決まったか、イチカ?】
【あぁ、メッサー。決まったよ】
ISから問うメッサーにイチカは自身の思いを告げる。顔こそ見えないが、フッと笑みを浮かべているだろうと思いイチカも笑みを浮かべる。
「マキナ、レイナ。整備班の皆にありがとうって伝えておいてくれないか?」
「…うん、分かったよ!」
「ちゃんと伝えておく」
「ありがとう。二人もこいつを飛べる様にしてくれてありがとうな」
心の底からくる感謝を伝えると、マキナとレイナは頬を赤く染めながらどういたしまして。と返した。
その頃、エリシオンの医務室では負傷したマドカがベッドで寝ていた。
「いっつぅうう。……此処って?」
そう零しながらマドカは目を覚まし辺りを見渡す。薬品の匂い、真っ白な部屋にマドカはすぐに何処か分かった。そして何故自分が此処に居るのかも。
「そうか、此処ってエリシオンの医務室か。それじゃあ私はやられたのか」
そう呟き自身の体を見る。腕や見えないが感覚からして足とかにも包帯が巻かれているのであろう、体中が痛む状態であった。
「お、目を覚ましたかマドカ」
安堵したような声で、声を掛けてきたのはアラドだった。
「お父さん、私…」
「あぁ、あの白騎士に撃墜されたんだ。だが運よくミサイルの当たり所が良かったんだろう、大きな爆発も無く小惑星に不時着したんだ。その怪我は不時着した際の衝撃で受けたやつだ」
そう言われ納得した表情を浮かべるマドカ。そしてハッと顔を変えアラドに顔を向ける。
「お父さん、兄さんは? 兄さんは無事なんですか?」
「……イチカは無事だ。だが、お前と同じく機体を破壊された」
そう言われマドカは驚愕の表情を浮かべる。
「そ、そんな。わ、私の所為で「いや、お前の所為じゃない」けど、私がもっと強かったら!」
そう言い興奮するマドカ。するとお腹に痛みを感じ抑えた。
「おいおい、興奮するな。さっきも言ったがお前の所為じゃない。お前はまだ入って日が浅いんだ。倒せるような相手じゃない」
そう言われるが、マドカの表情は優れなかった。
「それに安心しろ。こんな事もあろうとイチカの代わりの機体はある。今頃受領しているはずだ」
そう言われマドカはそっか。と少し和らいだ感じを出すがまだ責任を感じている様子だった。アラドはその表情に少し躊躇いの表情を浮かべるも、直ぐに意を決した表情を浮かべる。
「…マドカ、少し酷なことを言うぞ」
「……なにお父さん?」
「医者が言うには、今のお前の状態じゃあ次の戦闘には出撃させられないとのことだ。それにお前用の機体も今無い状態なんだ」
そう言われマドカはアラドが言いたいことが直ぐに分かった。
「……ISの出撃もか?」
「あぁ、スコールが出撃禁止を言い渡した。お前に死んでほしくないって言ってな」
「そうか」
マドカは悲しい表情を浮かべ天井を見上げる。
「……足手まといにはなりたくなかったのに」
「マドカ……」
アラドは娘となったマドカに何と言って慰めてやればいいのか分からず暫し黙っていると。
『アラド隊長、至急ブリッジにお越しください。繰り返します、アラド隊長、至急ブリッジにお越しください』
そうアナウンスが鳴り響き、アラドは後ろ髪を引かれる思いをしつつ席を立つ。
「ちょっと行ってくる。後で何か飲み物を持ってくるからな」
「……うん」
アラドは医務室から出て行くと、マドカは一人ぼぉーと天井を見上げていた。
【何を考えている、マドカ?】
【……こんな状態じゃあ皆、そして兄さんの足手まといだなと思っただけだ】
【ふん、仕方ないだろう。今のお前の状態じゃあ足手まといだ。だが】
【だが?】
【足手まといと言うのは本当に何も出来ない状態の奴のことを言う。出撃が出来ないなら他の事であいつ等の力になってやれ】
キースの助言にマドカは今自分のできることは何だと考え始めた。暫く考え込みそして
「これしか、無いか」
【ほう、何か思いついたのか?】
【あぁ、この手しか無い。だが、これにはお前の承諾も必要だ】
【俺の承諾だと? まぁいい、話してみろ】
そう言われマドカは自分が思いついた方法をキースに伝える。
【なるほど、いい案だ。だがいいのか? 単なる気休め位しかならないし、お前の身はどうやって守る?】
【自分の身くらい、何とかなる。それでどうなんだ?】
【ふん、良いだろう。お前の案に乗ってやろう。だがどうやって実行する?】
【出来るさ、アイツならな】
そう言いマドカは机の近くにあったスマホを手に取り、ある人物を呼び出した。
暫くして医務室の扉が開き一人の人物が入って来た。
「やっほ~、マーちゃん。どんな御用かなぁ?」
そう言いながら束はマドカの傍に向かう。
「実は頼みがある」
「頼み? 一応先に言うけど、戦闘に参加できるようにして欲しいは無しだからね。スーちゃんにダメって言われているから」
「安心しろ、そんな事は言わん」
そう言い束を呼び出した理由を伝えた。マドカの頼みに束は驚愕の表情を浮かべ、しばし目が点となっていた。
「――と言う訳だ。頼めるか?」
「ちょ、ちょっと待って。まさか、そんな、本当なの?」
「あぁ、本当だ。それでどうなんだ、出来るのか?」
「そ、そりゃあ出来るけど、いいの?」
「あぁ、やってくれ」
そう言われ束は決心したような表情を浮かべ頷いた。
「分かった。出来るだけ早く仕上げるよ」
そう言いマドカのIS、サイレント・グリフォンを受け取り部屋から出て行った。
「頼んだぞ、キース」
そう言いマドカは目を閉じ眠りについた。
次回予告
メッサーの機体を受領し、何時でも戦闘に参加できるように準備をするイチカ。そしてブリッジでは先の戦闘での会議が開かれていた。
次回
近付く決戦