歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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プロローグⅢ

全員唖然としている中、アラドは一夏を息子にする理由を述べ始めた。

 

「最初は家族の元に帰さないと。と思っていたが、自分の弟を蔑ろにする様な奴の所にお前を帰すわけにはいかん。なら俺が育てて、立派な男にした方がいいと思ってな」

 

アラドの提案に一夏も流石に驚いたが、向こうの世界でも姉の元からさっさと逃げ出し、仲のいい束の元に行こうと考えていたのだ。だったらこの人が自分の親になってもいいんじゃないかと考えていると

 

「ちょっと待った!!」

 

そう叫んだのはマキナだった。

 

「な、何が待ったなんだ?」

 

「いっちーは私たちと一緒に暮らした方がいい! だって歳の近い人と一緒にいた方がいっちーの心の傷を癒せるはずだもん!」

 

そうマキナが言っている隣で緑髪の少女も同意するように頷いていた。大人のアラドは女の子の家に男と一緒に暮らすのは世間的にまずいと言って反対するが、別にいっちーは誠実そうだから問題ないと言って反論するマキナ。そんな言い合いをミラージュやチャックは止めようとしている中、一夏はメッサーの所に避難する。

 

「あの、メッサーさん。質問があるんですが聞いてもいいですか?」

 

「うん? 別に構わないぞ」

 

「メッサーさん達デルタ小隊の皆さんの名前は聞いたんですが、ワルキューレって呼ばれている彼女たちって一体何者なんですか?」

 

一夏がそう聞くとメッサーはそんな事かという表情を浮かべ、ワルキューレについて説明する。

 

「ワルキューレって言うのは音楽ユニットの名前だ。メンバーはあそこにいる4人で、リーダーが朱色の髪の女性で名前がカナメ・バッカニアさんだ。それであそこで隊長と言い争っているピンク髪の女性はマキナ・中島だ。その隣の緑髪の女性はレイナ・プラウラーで、マキナとレイナは仲が良く一緒の家で暮らしているんだ。お前が異世界人だと見破った女性は、ワルキューレのエースボーカルの美雲・ギンヌメールだ。」

 

「へぇ~、そうなんですか。それじゃあ、あの赤紫色の髪の女性は?」

 

「あいつは俺たちと同じデルタ小隊に所属しているミラージュ・ファリーナ・ジーナスだ。」

 

「あ、あの人もデルタ小隊のメンバーだったんですか」

 

その後も一夏はメッサーにこの世界についての質問をしている中、マキナとアラドの言い合いは未だに終わりを見せてなかった。

 

「だから、女の子がそんな簡単に男子を家に住まわせると言っちゃいかんって言ってるじゃないか」

 

「家主が良いって言ってるから問題ないの! レイレイも良いって頷いてるから問題無しだもん!」

 

「ふ、2人とも落ち着いてください!」

 

「た、隊長。流石に店の中で口論はよしてください!」

 

2人が口論しているのを何とか止めようとするチャックとミラージュをあざ笑うかのように、突然美雲が特大爆弾を投下した。

 

「それだったら私の家に一夏を泊めようかしら」

 

美雲の突然の発言に口論していた2人と2人を止めようとしていた2人も驚いた表情を美雲へと向ける。

 

「な、何言ってるんですか、美雲さん?」

 

「あら? 私、可笑しい事言ったかしら? ただ住む場所がないなら私の家でもいいんじゃないのって言っただけよ?」

 

美雲は淡々とした表情で言うと、案の定アラドとマキナが反対した。

 

「だから、女の子の家に男子を簡単にあげちゃダメだって言ってるでしょうが!」

 

「漁夫の利を得ようなんてずるいぞ~、くもくも~!」

 

こうして口論はさらに激しくなり、結局3人でじゃんけんすることとなった。結果は一夏はアラドの元で一緒に暮らすことになり、マキナと美雲は何時でも家に来ていいからと言って、カナメと共にお店から出て行った。

 

 

それから数日となり、一夏は名前をイチカ・メルダースと変えた。イチカが名前を変えて更に数日後、イチカはアラド達デルタ小隊が利用しているハンガーに来ていた。その手には大きめの重箱を入れた袋を持って。

ハンガー内に入ると訓練を終えて戻ってきたのか、汗を拭きながら休憩室に入ってきたデルタ小隊にイチカは手をあげながら挨拶する。

 

「お疲れ様。はい、昼飯」

 

そう言って重箱を机の上に置き、広げる。重箱の段には色とりどりのおかずと、おにぎりが入っていた。

 

「お、旨そうだな」

 

「本当ですね」

 

「確かにな」

 

「料理店を営んでいる者としては、この腕を是非ともうちの店で活かしてほしいぜ」

 

デルタ小隊全員から高評価で褒められ、イチカは照れているとふとハンガーに置かれている大きめの機械に目が行く。

 

「父さん、あれは?」

 

イチカは父親となったアラドに機械のことを聞く。

 

「うん? あれか。あれはバルキリーの操縦シミュレーターだ」

 

「へぇ~」

 

「……やってみるか?」

 

アラドの問いにイチカは一瞬驚くも、バルキリーに興味を持ち始め、操縦方法を勉強していたからアラドに首を縦に頷く。

 

「よし、それじゃあ昼飯食ったらやるぞ」

 

そう言ってアラドは昼飯を食べ始め、他のメンバーも昼飯に手を付け始めた。それから数十分後、昼飯を終えたアラド達と共に、イチカはシミュレーターに向かう。イチカはシミュレーターの中に入ると、中はバルキリーと同じ様なコックピットの形となり、イチカは教本通りだなと思いながらコックピットに乗り込む。

 

「動かし方は大体分かるよな」

 

「うん」

 

「よし、まずは小手調べだ」

 

そう言ってアラドはシミュレーターのモニターにレベル1と打ち込み、スタートボタンを押す。

コックピットにいるイチカの周りは大空が広がっていた。

 

『レベル1、スタート』

 

機械音声が鳴ったと共にイチカは滑走路からスロットルを吹かし、出撃する。出撃して暫くして固定された的が出現した。イチカはその的を難なくバルカンで撃ち抜く。

 

『レベル2、スタート』

 

的を撃ち抜いていく毎に次々とレベルが上がって行くシステムの為、レベルが上がる毎に的は敵バルキリーとなり、反撃や回避行動をしてくるようになった。

 

「……あいつ本当に素人なのか?」

 

「もう38超えましたよ」

 

「まさか天性のパイロット気質があるのか?」

 

「……凄いな」

 

アラド達はイチカの腕に驚く。そうこうしている内にレベルは80を超えた。そこからは新統合軍にいた腕利きのパイロット達も出てくる為が、イチカは油断なく対処していく。背後から飛来するミサイルを超低空飛行で海面擦れ擦れで避け、ミサイルを海面にぶつけ落とす。

 

「……マジか」

 

「あんな高度な技が出来るって、本当に天性のパイロットじゃないのか?」

 

「……」

 

それから更に数十分後、レベルはいつの間にか120を超えていた。そこからは新統合軍、民間の傭兵機関などに所属しているネームドと呼ばれるエースパイロット達も出てくる。そこからは流石のイチカも苦戦し始めた。

 

「そろそろ限界そうだな」

 

「その様ですね。けどこのレベルまでこれたのはある意味凄いですよ」

 

「全くだ」

 

「……」

 

そして遂にイチカの機体ダメージが限界に到達し、ディスプレイに『Aircraft crash』と表示され、イチカはシミュレーターから出るとアラド達が盛大に褒めた。

 

「全く大した腕だな、イチカ」

 

「本当すげぇよ、イチカ!」

 

「全くです」

 

突然褒められた事にイチカは戸惑っていると、メッサーが近付いてきた。

 

「イチカ。お前、あれ程の技量を何処で身に付けたんだ?」

 

メッサーの質問にアラド達も疑問を持った。

 

「コックピットは父さんのお下がりの教本で分かってたけど、操縦方法は向こうの世界にあるゲーセンのリアル戦闘機ゲームでよく遊んでいたからそこで培ったと思う」

 

イチカの返答を聞いたメッサーはなるほどと呟き、アラドに体を向ける。

 

「隊長、イチカの腕を俺の手で育てたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「なに?」

 

メッサーの突然の願いにアラドは驚く。チャック達も珍しい物を見たと言わんばかりに驚く。

 

「イチカの腕を更に磨けば、良いパイロットに育つと思うんです」

 

「ふむ。……そいつは俺が決めることじゃない。本人が決めることだ」

 

そう言ってアラドは視線をイチカに向ける。イチカは答えは決まっていると言わんばかりの顔でメッサーに向ける。

 

「……この腕が誰かの役に立つのなら、俺はこれを活かしたい」

 

その答えを聞いたメッサーは明日から始めるから、遅れるなよと言ってハンガーから出て行った。こうしてイチカはメッサーの下で技量磨きが行われることとなった。

それから更に数日が経つとイチカはデルタ小隊に配属された。




次回予告
月日が経ち、多くの出来事が起きた。デルタ小隊に新たにやって来たハヤテ、そしてワルキューレに入ったフレイヤとの出会い。そしてウィンダミア王国との戦争、そしてイチカにとって兄貴的存在だったメッサーの死。そして惑星ラグナからの撤退。そんな不幸な出来事が続きながらもイチカやデルタ小隊メンバーは懸命に戦い、そして戦いを終局させた。全てが終わったイチカは自分の想いをぶつけに一人の女性に会いに行った。
次回赤い糸の先~君が好きだ~

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