突然イチカが言った簪の事で一言で生徒会室内は一気に気温が低くなったと感じる雰囲気となっていた。
「……何故突然簪ちゃんの事を聞くのかしら?」
「御二人の仲がなぜ悪いのか、ちょっと気になったもんですからね」
そう言いイチカは手を組み目線を楯無に向ける。
「貴方には関係ない事だと思うんだけど」
「えぇ、確かに関係ありません。しかし、昔の塞ぎ込んでいた頃から変わろうとしている彼女に友達として手を貸したい。そう思ったからです」
楯無からの鋭い視線を受けながらも、イチカは訳を言う。しばしの沈黙が流れた後楯無がそっと口を開く。
「そう。……良いわ、話してあげる。私と簪ちゃんに何があったのか」
そう言い楯無は思い出すように顔を伏せながら語り出した。
「昔は私と簪ちゃんは仲が良かったわ。けど、時が経つにつれて私達の仲は拗れてきたの。その原因が周りの大人達。勝手に評価して比べたりしていたのよ。無論私は特に意識したことが無い。けど、内気だった簪ちゃんにとってそれが苦痛だったのよ。なんとか簪ちゃんにそんな事を言われないようにする為に私は必死になった。誰も簪ちゃんの陰口なんて叩かせない。叩く奴は例え誰であろうと潰す。手を汚す事だって厭わない。そんな思いで修行も勉学もやってきて遂に私は当主になったの。けど、私はその時簪ちゃんの思いを踏みにじることを口にしてしまったの」
「……何て言ったんです?」
楯無は俯き口を開こうとしなかった。すると傍に居た虚が口を開く。
「その時お嬢様は『簪ちゃんは無能のままで居なさい。私が絶対に守ってあげるから』そう言ってしまわれたのです」
「……なるほど。それは確かに彼女にとって屈辱的な発言でしょうね」
「はい。元々簪お嬢様は少し負けず嫌いな性格でしたので、お嬢様の発言で自身がやってきたことなどはすべて無意味だと捉えられてしまったのです」
虚の説明にイチカは何とも言えない表情を浮かべ、楯無は机の上で結んでいた手を強く握りしめていた。
「……悪い事はしたって思っている。けど、彼女に何て言って謝ればいいのか分からず、ずっとズルズル引き摺って今の状態よ」
自虐的な笑みで楯無は零すが、目には悲しみの感情が浮かんでいた。
「楯無さん、一度簪さんとお話しされてはどうですか?」
「……さっき言ったわよね? どうやって謝ればいいのか分からないって」
イチカの提案に疑問の声をあげながらジト目で見つめる楯無。
「……楯無さん、少し難しく考えていませんか?」
「え?」
「何て言って謝れば赦してもらえるだろう。昔みたいに仲良くなれるだろう。そんなこと考えても相手はこう言えば赦してもらえるだろうと考えます。恐らく簪さんだったらそう考えると思いますよ」
「確かに、簪お嬢様だったらお考えになるかもしれませんね」
「自分が悪い事をした、そしてまた仲良くなりたい。謝りたいと言う気持ちがあるなら簪さんに直接会って謝るのが一番良いと思います」
イチカの提案に楯無は俯き口を閉ざしてしまった。
「……それじゃあ自分はそろそろ行きます」
そう言いイチカが立ち上がり扉に手を掛けた所
「……ありがとう」
そう呟く声が聞こえ後ろを振り向く。
「…すこし考え過ぎだったわ。明日素直に、そして心の底から謝罪して来るわ」
ぎこちない笑みではあるが、それでも何か憑き物が取れた様な顔付きであった。
「上手くいくことを願ってます」
そう言ってイチカは生徒会室から出て行った。
次回予告
突如姉楯無に呼ばれた簪。生徒会室に着いた彼女は恨んでいた姉と対峙することに。
一方楯無は4年の擦れ違いを解消すべく意を決して簪と対峙する。
次回
絡まった紐を解きほぐす~本当に、ごめんなさい!~