歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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31話

「さて、会合はこれで終わりですね。自分はこれで」

 

そう言いイチカは立ち上がり生徒会室を後にしようと考えていると

 

「あ、ちょっと待ってくれない」

 

楯無にそう声を掛けられ、怪訝そうな顔を浮かべソファーに座り直した。

 

「何です?」

 

「実はお願いがあるのよ」

 

「お願い? 何ですか?」

 

楯無は座っていたソファーから立ち上がり机の引き出しから紙の束を取り出し、イチカの前に差し出した。

イチカは紙の束を受け取ると、それは『要望書』と書かれていた。イチカはその内容を見ると其処には

 

『イチカ・メルダース君を我がプラモ部に!』

 

『イチカ君を漫画部に入部させてください!』

 

『メルダース君をサッカー部に!』

 

『イチカ君をロボ研部に入部させる許可をください!』

 

などなど、紙の束を捲ってもどの内容もイチカを我が部に入部させて欲しいと言う物だった。

 

「何ですかこれ?」

 

「この学園にある部から、貴方を入部させて欲しいという要望書よ。何処の部も貴方にお近づきになりたいからこうして要望書に書いて送ってくるのよ。勿論生徒会としてはそんな本人の意思を無視して入部させるわけにいかない。そう言って断って来たけど日に日にこの要望書の量が増え始めてきたのよ。で、考えたのが」

 

区切った楯無は持っていた扇子を開くと其処には『生徒会』と書かれていた。

 

「生徒会に入れよう、そう考えたの。無論そちらが学園から依頼されている仕事の内容は理解しているわ。だから名ばかりの入部で構わないし。どう?」

 

「なるほど、まぁそれでそちらの仕事が減るなら構いませんよ。その代わり名ばかりの入部は気が引けるので、妹と共に仕事はやらせてもらいます」

 

「そぉう? だったら歓迎するわ♪」

 

笑みを浮かべながら扇子に『歓迎』と見せる楯無。

 

「それじゃあ明日から「あ、あともう一ついいですか?」何かしら?」

 

明日からお願いと言おうとした楯無を遮る様にイチカは少し真剣そうな顔付を浮かべていた。

 

「貴女の妹さん、簪さんの事です」

 

そう言うと楯無の顔から笑顔が消え、若干鋭い目つきに変わった。

 

 

 

 

―――IS学園・廊下

イチカが生徒会で会合を行っている頃、マドカは一人買い物を済ませ帰ろうとした。だが突然千冬が現れ着いて来いと言われ、人気のない廊下へと来ていたのだ。

 

「で、一体何の用なんです?」

 

マドカは()()教師だからと心の中で納得させながら用件を聞く。

 

「お前は一体、何者なんだ?」

 

鋭い視線をマドカに向けながら千冬が問う。

 

「何者? 私は私だが?」

 

「……質問の言い方を変えよう。お前は一体何なんだ?」

 

そう千冬が問うた。学園に二人の書類が届いたとき彼女の顔を何処かで見たことがある。何処で見た? 何時見た?と考えを巡らせていた。そして夏休み、寮の部屋で偶々見つけた昔の写真、其処で思い出した。アイツは昔の自分だと。だが何故私そっくりなんだ? そう考えこんでいた時、目の前にマドカが居た為に問いただすべく呼んだのだ。

 

「なんだ? まるで私が人ならざる者のような言い方だな?」

 

マドカは笑いながらそう返す。千冬は何も言わずただ黙ったまま視線を送り続けていた。するとひとしきり笑ったマドカは不敵な笑みを浮かべた。

 

「あぁ、お前の言う通り私は純粋な人じゃない」

 

「っ! ……やはりか」

 

マドカの口から出た言葉に千冬は一瞬驚く顔を浮かべ、睨むような眼を向ける。

 

「お前の事だ。私はお前のクローンか何かだと思っているだろ? そうさ、私はお前だよ織斑千冬」

 

マドカは向けられる視線を流しながら、語り続けた。

 

「昔、お前みたいに強い女性を創ろうとお前のDNAを何処からか入手し其処から私が生まれた。その後お前の様に強くなるべく色んな戦闘技術を叩き込まれた。CQC(クローズ・クウォーター・コンバット)、システマ、空手の他にも武器を使った訓練もな。だが、アイツらは未だに織斑千冬ではない、なぜ出来ないと結果ばかりを見てきた。そんな小言を毎日聞いて、私は思った。こいつらが言う織斑千冬を殺せば、私がオリジナルじゃないのかってな」

 

そう言うとマドカは拡張領域からナイフを取り出す。

 

「何時か何時かと、チャンスを伺っていた。兄さんの傍に居れば何時かチャンスが来るって。そして今、ようやくその時が来た」

 

マドカは狂気じみた笑顔で千冬へと向けると、千冬は臨戦態勢に入る。お互い暫し無言のまま睨みあっていると

 

「ぷっ! プっハハハハハ!!」

 

突然マドカが笑い出し、そしてナイフを拡張領域に仕舞った。

 

「ま、まさか即興で作った設定を信じるとか、お前騙されやすい性格じゃないのか? アッハッハッハ!」

 

マドカが笑いながら先ほどの話を嘘だと告げると、千冬は構えた状態のまま茫然としていた。

 

「私は正真正銘母親のおなかの中から生まれた。今どきクローンで人を創ろうなんざ、SF小説家でももっとましな設定を考えるぞ」

 

「だ、だったら何故お前の顔が昔の私にそっくりなんだ!」

 

「この世には同じような顔を持つ奴がごまんといる。お前の幼少の頃が私そっくりだとしても、何ら不思議でもない。それにお前と私は別人だと言う証拠はこの学園に入ってきた時から証明されているだろうが」

 

そう言われ証明されているだと?と、千冬は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「憶えてないのか? 入学する生徒全員は、血液検査などを行い持病や本人の気付いていない病気などが無いか検査が行われているはずだ。もし私がお前のクローンなら、検査時にお前の情報が該当するはずだ」

 

マドカが言っているのは、入学時にもしマドカが自分のクローンなら既に入学時に発覚している。だが、それは無かった。つまりマドカは自分のクローンなんかではないという事であった。

 

「それに、兄さんもこのDNA検査でお前とは姉弟では無いと言う証拠になっているはずだ」

 

そう言われ千冬は驚愕な表情を浮かべる。

 

「だってそうだろう。私がお前のクローンでないなら、私と兄さんは血の繋がりはない。だが、私と兄さんにはDNAで兄妹だと示されている。なら、お前と兄さんには血の繋がりはない結果だろ」

 

マドカの言葉に千冬は言葉が出なかった。そんな訳ない。アイツは自分の弟だとそう自分に言い聞かせる。だが、マドカの言葉がずっと頭に残る。

 

「な、何かしたんだろ? た、束辺りに何かを!」

 

「一体何をしたと言うんだ? データでも改竄したとでも言うのか? それこそ無理があるだろ。 採取されたDNAのデータを改竄するなどどうやっても出来んだろう」

 

そう言われ千冬はぐぅの音も出なかった。マドカの言う通り、DNAを変換することなど不可能に近い。恐らく束でもそれは出来ない。そう考えに至った。だが、それでも

 

「あ、あいつは私の、私の弟だ!」

 

「そうやって死んだ弟を、赤の他人に重ねるの止めたらだうだ? そんな事やったってもう弟は帰ってこないぞ」

 

マドカはそう言い帰ろうと振り返ると、千冬は拳を震わせ一歩足を踏み出すと

 

「あ、いたいた。此処に居たのね、マドカ」

 

「あ、エリシア先生」

 

千冬の背後から現れたエリシアがマドカに声を掛けながら現れた。突然現れたエリシアに千冬は奥歯を噛み締めその場から去って行った。千冬が去って行くのを2人は姿が見えなくなるまで見送った後同じく千冬とは反対の方へと向かって歩き出した。暫く歩いているとエリシアが口を開いた。

 

「何でまた彼女にあんな事言ったのよ?」

 

「ん? あぁ、聞いていたのか」

 

エリシアの問いにマドカはフッと笑みを浮かべる。

 

「なぁに、昔思っていた事を私が考えて設定した風に言ったらどんな表情を浮かべるかなと思ってな。クックックッ、今思い出しても笑えるな、アイツに嘘だと言った時の表情」

 

悪戯が成功した様な愉快そうな笑みを浮かべるマドカに、呆れた様な表情を浮かべるエリシア。

 

「はぁ~、急にあなたが自分の出生を話し出した時は少し胆が冷えたわよ。それと、DNAの事も」

 

マドカの危なすぎる行動に、エリシアは呆れる様なため息を出す。

 

 

それは入学数日前、束はある項目に口をとがらせていた。束がにらめっこをしていた項目、それは入学前の健康診断に書かれている血液検査だった。

 

「う~~~~~~~~~~ん、この血液検査どうやってパスしよっかなぁ~~~。ナノマシンとかは使えないし、織斑の時のいっくんのDNAデータは出ない様に細工したけど、マーちゃんの奴だけはアイツのが出るかもしれないから無理だろうし、本当にどうしよっかなぁ~」

 

そう言いながら座っている椅子をクルクルと回転させながら考える束。同じく部屋にいたクロエは、束の状態に暫く呼ばれることは無いだろうと思い本を読んでいた。暫し椅子が回転する音が鳴り響く部屋。すると束は回転しているにも拘らずクロエが読んでいる本のタイトルに目が行く。

 

「[世界の事件簿part4~医師編~]って、なんか凄い本読んでるねクーちゃん」

 

「えっ? いえ、偶々電子書籍されていない本を読んでみるのも悪くないと思い、探していたらこの本のシリーズを見つけたんです。サスペンス物とかですとありきたりでしたが、この本のシリーズは実際にあった事件を読者にもわかりやすく書かれているものでしたので、面白みが有ったものでしたから」

 

「へぇ~、まぁ人が考えた物語より実際にあった事件の方が、実際に何故そうした事件を起こしたのか。犯人の心理とか読み解けるからねぇ。その本を読んで気になったりとかした事件とかあった?」

 

「そうですねぇ、この○○外科医保険金殺人事件とかは少し興味が惹かれました」

 

そう言いクロエは本のページを束へと見せた。

 

「ほぉ~。どういう事件だったの?」

 

束はその事件に少しだけ興味を抱き内容を聴けるよう椅子をクロエの近くに寄せる。

 

とある国の街にある外科医の夫とその妻が暮らしておりました。そんなある日、妻が自宅で遺体となって発見され、警察は部屋にあったタンスなどが荒らされている事から物取りが家に侵入、そして偶々犯人と遭遇してしまい殺されたと考えた。警察が現場を検証した所、犯人の血痕を見つけ後は犯人を絞り込むだけと考えていました。

すると聞き込みで夫と妻がしばしば口論しているのをよく聞いたと近隣住民からもたらされた。警察は早速夫に話を聞こうと病院に行き、当日の行動などを聞こうとしたが手術が入っている為暫く待って欲しいと言われ警察は手術が終わるまで待つことに。

そして手術が終わり、夫に話を聞く警察。事件当日、夫は病院に居てお昼時に一時的に外の店には行ったが家には帰っていないと証言した。警察は夫の行動を証明してくれる人物が居ない事から血液の提出を申し出ると、夫は抵抗することなくナースを呼び、ナースの補助を受けながら血液を採取し警察に提出した。血液を持ち帰った警察は早速検査するが、DNAは不一致。捜査は暗礁に乗り上げてしまった。

事件から数ヵ月が経ったある日、一人の男が警察に逮捕された。男は酒に酔った勢いで見知らぬ人を殴り殺してしまったのだ。警察は過去にも何かしていないかと調べると、男のDNAが数ヵ月前起きた外科医の妻殺害の容疑者に一時浮上した夫と一致したのだ。

警察は何故全くの別人から夫のDNAが出たのか不思議で仕方がなかったが、男の過去を調べてその訳が判明した。

男は数ヵ月前、殺人事件が起こる数日前に夫が勤めている病院に健康診断の為訪れていたのだ。しかも男の血液型はA型。夫も同じA型だった為、警察は何らかのトリックを使い男のDNAの入った血液を警察に提出したとして、夫に再度DNAを採取すべく今度は令状と警察が用意した科学捜査班を連れ夫の元に行き、血液以外にも髪の毛、唾液を採取。結果、現場にあった血痕は採取した髪の毛などのDNAと一致した。こうして警察は夫を逮捕した。

警察は夫にどうやって血液をすり替えたか問いただすと、夫は

 

「事件後、アンタ達が此処に来ることは予想できた。だから細いゴムチューブに俺と同じ血液型の血を詰めて腕の中に埋め込んでいたのさ。だが、医療関係者とかが血液を採取しようとした時に腕の違和感に気付かれる恐れがあったから愛人に採取してくれるよう頼んだんだよ」

 

夫はそう自白した。その後、犯人を匿った罪として愛人のナースも逮捕された。

 

 

「―――これがこの事件の結末です」

 

「ほぉ~~、医療関係者は人体とか色々詳しいからね。よくやるよと言うか何と言うか」

 

そう言いながら束は良い事を思いついたと声をあげた。

 

「そうだ。この事件のトリックを使えばいいじゃん。スーちゃんに早速頼まないと!」

 

そう言って束は部屋から飛び出していった。

 

 

 

「あの時は博士が開発した道具と人工血液で貴方達二人が本当の兄妹で、織斑千冬とは別人と言う事で通せたけど、何処でばれるか分からないからもう言うんじゃないわよ」

 

「分かっている、もう言わん」

 

エリシアの注意に小言が多い奴だなぁと思いながら頷くマドカ。




次回予告
突如簪の事で話があると告げるイチカ。険悪な雰囲気を出しながらも、二人が仲が悪くなった訳を聞く。そしてイチカは2人で本気で話し合いをすれば良いと提案した。
次回
擦れ違った4年~あの子を守るためなら、私は手を汚す事に厭わないわ~

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