歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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26話

バカンスに行って数日後、イチカは機体格納庫で自身の機体をチェックしていた。その近くにはウッドボックスを椅子代わりに座りながら本を読む美雲と、機体チェックを手伝うマキナとレイナ。

 

「よし、システムはこれで良いが問題は無いか?」

 

「うん、ばっちぐぅ~」

 

レイナはそう言いながらサムズアップをし、イチカに見せる。

 

「こっちも機体チェック終わったよぉ。オイルもギアも何も問題なかったぁ」

 

マキナは汚れた顔をイチカに見せながらそう報告する。

 

「あぁ、ありがとう。ほれ、顔汚れているぞ」

 

そう言いながらイチカはマキナにタオルを差し出すと、マキナはありがとうと照れた顔を浮かべながら受け取り顔を拭く。

機体から降りたイチカは美雲の元に行き傍に置かれているミネラルウォーターを口にする。

するとポケットに入れているスマホが鳴り響いた。

 

「ん? 鈴からか。…もしもし」

 

『あ、イチカ? 今いい?』

 

「別に良いが、何の用だ?」

 

『うん、実はアンタんとこのエンシェントセキュリティー社に職場見学に行きたいのよ』

 

「はぁ?」

 

突然の職場見学にエンシェントセキュリティー社に行きたいと言い出した鈴に、イチカは困惑の声を漏らす。

 

「職場見学って、なんでわざわざ俺の所なんだ? 代表候補生なんだろ? 国家代表になればそれなりに給料は貰えるだろ」

 

『そうなんだけさぁ。けど、国家代表に実際になれる可能性って結構低いのよ。で、万が一国家代表になれなかった場合に備えて、就職先を下調べしようと思ってたら、アンタの所が先に目についたって言う訳』

 

「なるほどな。まぁ俺自身の意思じゃあ決まらねえ。司令官にいいかどうか聞いてくるから、また後で連絡するわ」

 

『分かったわ。それじゃあまた後で』

 

そう言い電話が切れると、イチカはスマホを仕舞う。

 

「鈴さんって、確かイチカの幼馴染だったかしら」

 

「あぁ。何か職場見学させて欲しいんだと。ちょっとスコールさんの所に行ってくるわ」

 

そう言いイチカは着ていた作業着を脱ぎに更衣室へと向かった。

 

服を着替え終えたイチカは地下の指令室へと赴くと、スコールは何時もと変わらず各地に出撃しているオペレーター達に指示を出していた。

 

「スコールさん、少しいいですか?」

 

「あら、イチカ君。えぇ構わないけど、何か用?」

 

「実はIS学園に通っている友人から、此処に職場見学をしに伺いたいと頼まれたんです」

 

「此処に? PMCに職場見学しに伺いたいって珍しいわね」

 

「えぇ、そうですね」

 

イチカは苦笑いを浮かべる中、スコールは考え込み笑みを浮かべた。

 

「まぁ良いわよ。その代わり案内はイチカ君に任せるわよ」

 

「分かりました。日取りは?」

 

「そうね、来週の○月×日くらいでいいでしょうね。その時ならバタバタしてないはずだし」

 

「分かりました、では許可が下りたって伝えておきます」

 

そう言いイチカは指令室から退室して行く。

 

 

 

それから数日後、エンシェントセキュリティー社の滑走路に一機のプライベートジェット機が着陸し、タラップから鈴が降りてきた。降りるとすぐにイチカが出迎えていた。

 

「よぉ、鈴」

 

「やっほぉ。今日はありがとうね」

 

「いいよ。荷物は?」

 

「このボストンバックに入ってるだけ」

 

そう言いながら鈴はボストンバックを見せる。それを見たイチカは鈴を連れ荷物検査室へと案内する。

 

「相変わらず持ち込む荷物とか少ないな。学園に転入してきた時も、それくらいの荷物で済ませたんじゃないのか?」

 

「だって、そんなに持って行く荷物なんて無いでしょ? 着替えも必要な分だけで後は買えば良いし」

 

鈴はそう言いながら案内された検査室へと入る。

 

「それじゃあ荷物を其処に置いてください」

 

そう言われ鈴はボストンバックをベルトコンベアの上に乗せると、ボストンバックはそのまま運ばれ機械の中に通された。

 

「X線検査問題無し。どうぞお通り下さい」

 

そう言われ鈴はボストンバックを受け取りイチカと共に建物から出て行く。そしてそのまま鈴を宿泊寮へと案内する。

 

「ほれ、此処が今日泊まるお前の部屋。一応冷蔵庫には飲み物が入ってるし、お腹が空いたらこの建物の一階に食堂が開かれているから其処で食べればいい」

 

「へぇ~、学園の寮とはえらく違うわね。こっちの方が綺麗じゃない」

 

そう言いながら鈴は荷物を置く。

 

「えっと、それで見学は何時始めるの?」

 

「お前が良いって言うなら、今からでも出来るぞ」

 

そう言われ鈴はじゃあお願いと言い、メモ帳とペンを持って部屋を出る。

 

 

 

最初に2人は外の戦闘車両が停められている場所に向かった。

 

「此処が戦闘車両待機所だ。此処に置いてある車両は依頼された地域に派遣されて護衛や救出、更には軍事訓練などをする移動手段とかに使われている。置いてある車両は、軽装甲偵察車両や装甲車などだ」

 

「へぇ~、よくこれだけのモノが集まるわね」

 

「此処に置いてあるのは殆んどが、軍に売られる予定だったものでISの影響で行先の無くなった商品とかだ。だから金を払うから売ってくれって兵器会社に言ったら喜んで売ってくれたんだと」

 

ふぅ~ん。と鈴は言いながらメモを取る。

そして次に向かったのはエンシェントセキュリティー社のオペレーター達が体を鍛える為のアスレチック等が置かれている場所で、今も体を鍛えるオペレーター達が居た。

 

「此処はウチのオペレーター達が体を鍛える為のアスレチック場だ」

 

「うわぁ、滅茶苦茶大変そうね」

 

鈴はそう言いながら見渡す。屈強な男性や、細い体だが程よい筋肉の女性達は汗を流しながらアスレチックを次々に越えて行く。

 

アスレチック場を後にした2人は次に到着したのはハンガー。鈴はイチカに連れられ中に入ると、様々な戦闘機が整備されており、油汚れなどで顔を汚しながらも働いている人達が目に映った。

 

「凄いわね、此処に置いてある戦闘機も兵器会社から買い取ったの?」

 

「あぁ。ISが登場して以降戦闘機や戦闘ヘリの需要は減り始めていたらしいから、一番安く調達出来たって聞いてる」

 

そう言われ鈴は、ISの影響は此処まで大きいとはと実感した。

 

それから鈴はイチカの案内の元、エンシェントセキュリティー社の各所を案内してもらい時刻は夕方となった。

 

「これでエンシェントセキュリティー社の案内は終わりだ。で、どうだった?」

 

「なんか、凄い所に勤めてるって改めて思わされたわ」

 

鈴はそう言いながらメモ帳をポケットに仕舞う。

 

「そうか。さて、夕飯を食べに食堂に行くか」

 

そう言われ鈴はイチカに続き、宿泊寮に行き一階の奥へと行くと大勢の人達が食堂で夕食をとっていた。

 

「うわ、学園と同じくらいの広さじゃないの此処?」

 

「多分同じくらいだろ。それじゃあ注文方法は学園と同じだから、行くぞ」

 

そう言いイチカは食券販売機へと向かうと、鈴も続く。そして鈴は食券販売機で中華定食(醤油ラーメン、酢豚、卵スープ)を頼み、イチカはトンカツ定食を頼み、食堂の店員に渡す。そして定食が乗ったお盆を持って席に着く。

 

「さて、飯食って明日に備えろよ」

 

「え? なんで備えるの?」

 

鈴は首を傾げながらイチカに問うと、イチカはトンカツを頬張りその訳を話した。

 

「モグモグ…。明日実際にオペレーター達がやっている訓練をして貰うんだよ。」

 

「はぁ? あたし聞いてないんだけど、それ?」

 

「何事にも経験が一番だからな。ウチについて詳しく知りたいなら実際に彼らに混ざって訓練すればよく分かる。だから俺が急遽決めた」

 

そう言いイチカは飯を頬張る。鈴は目元をぴくぴくさせ、拳を握りしめる。

 

「そう言うのは……」

 

「もっと早く言いなさいよぉおお!!」

 

そう言いイチカの頬に拳が飛ぶ。

 

「グホッォ!!!??」

 

そう言いイチカはそのまま殴り飛ばされていった。その様子を見ていたオペレーター達は

 

 

((((良いパンチ持ってるな、あの嬢ちゃん))))

 

と、褒めていた。




次回予告
翌日、鈴がエンシェントセキュリティー社のオペレーター達と共に訓練に臨んでいる頃、箒と束の父龍韻は少年刑務所へと来ていた。

次回
絶縁~束の思いを分からんような奴は、家の娘ではない!~

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