「バカンス、ですか?」
「そう、バカンスよ」
ある日、イチカはスコールから呼び出され開口一番に言われたのだ。
「えっと、どうして突然バカンスなんて言うんですか?」
「貴方、ここ最近訓練やら何やらで全然休んでいないでしょ?」
そう言われイチカは心当たりがあるのか、えっとぉ~。と苦笑いを浮かべる。
「兵士は時として休憩は必要なの。疲れた状態じゃ、いざっというときに力が発揮できない。だから心と体をリフレッシュしていらっしゃい」
そう言われイチカはでも。と渋ろうとした。
「駄目よ、これは命令。イチカ・メルダース、本日0900時から2100時までバカンスをするように。その際、監視として12名ほど貴方に付けるから」
「いや、12名って多すぎますよ!?」
「多すぎないわよ。貴方にはこれ位つけないと休まないでしょ?」
そう言われイチカは仕方なく部屋へと向かおうとすると、スコールが待ったを掛けた。
「部屋に行かなくても良いわ。此処に必要な荷物等は用意してあるから。これを持って第2埠頭に向かいなさい」
そう言いスコールはデスクの上に大きめのカバンを出す。イチカはそれを受け取り指令された第2埠頭まで行く。すると其処にはアラドやデルタ小隊の面々とワルキューレのメンバーが居た。
「あれ、皆が此処に居るって言う事は……」
「そうだ、俺達がお前の監視員だ」
アラドが笑みを浮かべながらそう言うと、イチカはなるほど。と納得した表情を浮かべた。
「さて、イチカも来たみたいだし行くとするか」
そう言い船の操舵室に居たのはオータムだった。
「オータムさん、船の免許持ってたんですね」
「船舶免許やら乗り物関連の免許だったら色々あるからな」
そう言われイチカはどれだけ持っているんだろう。と疑問に持ちながら船へと乗り込む。そして船は埠頭を離れエンシェントセキュリティー社から数時間ほど離れた位置にある島へと到着した。
「この島はバカンス様に買い取った島だから、ちゃんと英気を養えよ」
そう言いながら荷物を船から降ろしていくオータム。
「オータムさんは?」
「俺はこれから本部に戻ってラウラと共に買い物だ。アイツ、この前買い物に行った際に地味な服ばかり買ってやがったからスコールと一緒に買い直しに行くんだよ。明日の朝には迎えに行くから、ちゃんとバカンスしろよ」
そう言いオータムは船の中へと戻って行き、そのまま島から離れて行った。
「さて、それじゃあ行くぞ」
アラドがそう言うとそれぞれ荷物を持って埠頭を離れた。暫く歩くとアラド達の前に2軒のコテージが並んで建っていた。
「ほぉう。男女別と言う訳か」
「そりゃあそれが当たり前でしょ」
男性陣と女性陣はコテージ前で別れ、それぞれ中へと入って行った。
中へと入ったアラド達。コテージ内は広々としていた。
「さて、部屋に荷物を置いたら海に行って泳ぐぞ」
そう言い部屋があると思われる場所に向かうと貼り紙がされていた。其処には部屋割りが書かれており、奥の広めの部屋にイチカの名前が書かれていた。それを見たチャックがぶぅー、ぶぅー。と文句を漏らす。
「なんだよ、イチカだけ広めの部屋とか羨ましいぞ!」
「いや、俺に言われたってこの貼り紙を作ったスコールさんに文句を言ってくれよ」
そう言い貼り紙の隅に指さすイチカ。其処には小さく『スコール作』と書かれていた。
「まさか、あの人が決めたのかよ。案外何か仕掛けてたりしてな」
ハヤテが冗談交じりにそう言うと、イチカはまさかぁ?と思いながら部屋へと向かった。入口は他のと同じ窓の無い木造扉だった。イチカは扉に鍵を挿し込み、回す。そして鍵が開きドアノブを回して中へと入る。
「さてさて、一体どんな部屋なんだろう「あら、イチカ」「あ、いっちーだぁ!」「イチカと同室。ラッキー」……へ?」
部屋の中にはもう片方のコテージへと向かったはずの美雲とマキナ、そしてレイナが居た。
「な、なんで3人が此処に?」
「さぁ? 部屋割りの貼り紙には、私達3人は奥の子の部屋に名前が書かれていたんだもの
「もしかして、スコールさんが仕組んでくれたりしてぇ!」
「だったらGJ!」
イチカは3人も同じように奥の部屋、そして自分も奥の部屋。其処で全てが合致した。このコテージ、奥の部屋が互いのコテージと繋がっていると。
「……俺廊下に布団を「あら、基地だと同じ部屋で寝てくれるのに、此処だと彼女を置いて廊下で寝ようとするなんて寂しいわね」お、おい美雲! ばらす必要がるのかそれ!?」
美雲が2人が居るにも拘らず、同じ部屋で寝ているとばらすと、マキナとレイナは頬を膨らませた。
「むぅ~~、くもくもずるぅ~~い!」
「私達も同じ部屋が良かった!」
2人からの嫉妬の眼差しに美雲はどこ吹く風の様に応対する。
「あら、イチカと私は恋人同士ですもの。お互い同じ部屋でも何ら可笑しくないわ」
そう言うと2人はぶぅー、ぶぅー。と鳴らす。
イチカは取り合えず荷物を置くかと思い近くに荷物を置く。
「はぁ~、口論しているのは良いが海に行かなくていいのか?」
そう聞くと、マキナとレイナはそうだった!と気付き、水着が入っているであろう袋を持って部屋から出て行く。イチカも水着の入った袋を取り出そうとカバンを探っていると
「ねぇ、イチカ。これどう?」
そう声を掛けられ顔を上げると、水着を着た美雲が其処に立っていた。
「い、何時の間に着替えたんだよ!?」
「ふふふ。な・い・しょ♡」
そう言い腰を曲げ前屈みとなる美雲。
「~~~~っ!!」
顔を真っ赤にするイチカは水着が入っている袋を見つけ出し、足早に部屋から逃げ出した。
「あらあら、からかいすぎちゃったかしら?」
クスクス笑いながら鞄から袋を取り出し、それを持って部屋から出て行く。
水着に着替え海辺へと着いたイチカ。
「あっちぃ~~~」
照りつける太陽にイチカは砂浜に立ちっ放しはキツイと思い、持ってきたコテージ近くにあった倉庫で見つけたパラソルを開き、地面に突き刺す。
「はぁ~、この暑さは流石の俺でもきついなぁ」
そう言いながら水着に着替えたアラドはクーラーボックスの地面に置き愚痴る。
「父さん、それは?」
「ん? こいつか」
アラドはクーラーボックスを開けると、中には氷水に浸かったコーラやサイダーなどのジュース類にビールなど酒類が入っていた。
「熱中症対策にな」
「ほぼ自分が楽しむ用にしか思えないんだけど」
イチカはジト目でアラドを見ると、アラドは下手な口笛を吹きながら視線を明後日の方向に向ける。
「お、ジュースいただき!」
そうハヤテは言いサイダーに手を付ける。
「隊長、いただきます!」
チャックもそう言ってビールを取る。
「おいおい、それは俺が買ってきた奴なんだぞ……」
アラドは呆れ顔で2人に言うが、最後は諦めたように息を吐く。
「まぁ、多めに買って来てあるからいいか」
そう言っていると
「あ、飲み物持って来られてたんですか?」
「けど、人数が多いですし一応持って来て正解ですね」
カナメとフレイアはそう言いながら一緒に持ってきたクーラーボックスを置く。
「なんだ、そっちも飲み物を持ってきてたのか」
「はい。一応常備してあるとは聞いていたのですが、足りないといけないと思って買ってきておいたんです」
アラドはカナメにそう話している中、フレイアはハヤテの元へと行く。
「えへへへ。どうハヤテ? 可愛い?」
「お、おう。可愛いぞ」
フレイアはハヤテの前でくるっと一回転し感想を聞き、ハヤテはその可愛さに頬を赤く染めながら答えた。
「……く、悔しくないぞ。俺だって何時か彼女が」
チャックは震えながらそう言っていると
「いっち~~!」
「イチカ」
そう呼びながら2人がやって来た。
「おう、2人も来たか」
「うん。ねぇねぇイッチー、この新しい水着どうかな?」
「私も新しい水着」
そう言いフレイアみたくその場で一回転するマキナ。マキナは縞横のバンドゥビキニで、レイナはタンキニの水着であった。
「ん? 良いんじゃないのか? レイナのは動きやすそうな水着だな」
「「むぅ~~」」
イチカの感想に2人は不服そうな声を漏らす。すると美雲もやって来た。
「ふふふ。2人は欲しい感想が貰えず不服そうよ、イチカ」
そう言ってやって来た美雲は部屋で来ていた水着とは違う眼帯タイプの水着を着ていた。
「あれ、さっきとは違う物か?」
「えぇ。あれはラグナでも着てたもの。これは新しく買った物よ。どう?」
「その……、綺麗だぞ」
イチカは頬を染めながら、そう言うとマキナとレイナはむぅ~。と頬を膨らませる。
「イッチーはくもくもばかり褒めてずるい!」
「私達ももっと褒めるべき!」
そう言いズイッとイチカに近寄る2人。
「あ、いや。その2人も十分可愛いぞ」
突然間近まで迫られたことに驚いたイチカは、思った事を素直に口にすると2人はえへへへ。と照れた表情を浮かべる。
「……うぅうぅぅう、俺の春は一体何処に落ちているんだぁ」
涙を流しながら一人寂しくイチャつくカップル(一組違う?)を眺めるチャック。
因みにマドカは美雲にスタイルをよくする方法は何か聞いていた。
それから時間は経ちデルタ小隊、そしてワルキューレのメンバー達は海で泳いで遊んだり、浜辺でハヤテやチャックを埋めたりして遊びつくした。
次回予告
海でバカンスを楽しんだイチカ。夜、部屋にあるバルコニーで寛いでいると美雲達も出てきて同じく寛ぐ。そしてそれぞれ思いを口にする。
次回
恋の炎は永遠に
~私は、イチカ・メルダースの事が大好きです~