朝目が覚め、突然目の前に現れたディスプレイ。
『第二形態に移行しますか? Yes/No』
マドカは何故突然このディスプレイが現れたのか、疑問で頭が一杯だったがある可能性が上がった。
『お前には力を持つ覚悟がある』
夢の中でキースが言っていたその一言。その言葉の意味がこれか。と考えついたのだ。
「力を持つ覚悟か……」
そう呟き、ディスプレイを眺めるマドカ。
(兄さんは新しい力を得たことで、更に一人で大切な人達を守るべく戦うかもしれん。私は、兄さん一人にそんな無茶はさせん。……だから!)
そう思い、ディスプレイの『Yes』を選択した。すると機械音声が流れる。
『第二形態に移行します。移行中……完了。新機体名『サイレント・グリフォン』……搭乗者最適化中……完了。システムオールクリア』
音声がそう告げるとディスプレイは閉じ、マドカはベッドから立ち上がり服を着替え部屋から出て、ある場所へと向かった。
<束さんの研究室>
そう表札が掲げられている部屋にマドカは入って行く。部屋の奥では束が空間ディスプレイにDNAや何かの拡大画像と思われる物を見ていた。
「博士、少しいいか?」
そう声を掛けると、束は手を動かすのを止め後ろを振り向く。
「おりょ、マーちゃんじゃん。どうったのぉ?」
「私のISの点検を頼みたいんだ」
そう言い自身のISの待機形態である腕輪を外し、束に渡す。
「ん~、この前点検したばかりだよね? それなのにどうして?」
「詳細情報を見ればわかる」
そう言われ束はISにコネクターを挿し、詳細情報を開いた。
「さてさて一体何が……。はぁぁっ!!???」
束はマドカのISが何時の間にか第二形態に移行していた事に驚き、大声をあげ椅子から転げ落ちた。
「ちょちょちょっ! 何時第二形態になったの!? 束さん全然気付かなかったんだけど!」
「今朝方だ。目が覚めたら突然目の前にディスプレイが現れて、其処に第二形態に移行するかどうか聞かれたから、移行に同意した」
そう言うと束は
「やっぱりマーちゃんのコアもか。やっぱりいっくんのとこの二つは他とは違う何かがある。けど一体何が?」
そうブツクサ呟いていた。
「博士。一人で考え込むのは良いが、点検やっておいてくれよ」
そう言うと束は顔をニパァーと笑顔にする。
「もっちぃ~! お昼頃までには終わらせておくよぉ」
そう言うとマドカは、分かったと言い研究室から出て行った。マドカが出て行ったのを確認した束はISの待機形態を点検用の台座に置き、ISを展開する。
「装甲も武装もほぼ変わってる。BITはそのまま積んであるみたいだけど」
そう言いながらISを見つめる束。
「……ねぇ、君は何故他でもないマーちゃんを選んだの?」
そう呟きながらマドカ達を救助した時の事を思い返す。
―――数年前
スコール達を助けて数日が経ったある日、束は隠れ家にしている航空基地にある研究室で、頭を捻っていた。
「相変わらずこの2つのコアはうんともすんとも言わないなぁ~」
そう言いながら目の前にある二つのコアを眺める束。すると扉が開き一人の少女が入って来た。
「おい博士。スコールが右腕の義手の調子が悪いと言いながらお前を探していたぞ」
そう言いながら部屋に入って来たのはマドカだった。
「ん~、了解だよぉ」
束は顔をマドカの方へと向け返事をし、返事を聞いたマドカはそのまま部屋から出て行く。マドカが部屋から出て行ったのを確認した束は椅子から立ち上がろうと机に両手をつく。
「さて、スーちゃんの義手のメンテに『ピピッ、ピピッ、ピピッ』……ウソ」
束は見ると、これまでうんともすんとも言わなかったコアの2つの内一つが突然反応したのだ。束は何故突然動き出したんだと思い考え込む。
「これまでうんともすんとも言わなかったこの2つのうち一つが突然動いた。一体なんで……。……まさか」
そう呟き突然動き出したのはマドカが来た直後だったと気付く。だとすると先ほど来たマドカにこのコアが反応したのは、何らかの理由でこのコアはあの子を選んだと思い着いた。それから束はマドカからサイレント・ゼフィルスを預りコアを入れ替えた。
「―――それから幾日が過ぎて変化は特になかった。けどいっくんのISが第二形態に移行して直ぐにマーちゃんのISも第二形態に移行した。やっぱりあの2つは他とは違う特別な何かが備わっているんだ。けど、それが一体何かが分からないんだよねぇ」
そう言いながら、マドカのISを眺める。
「まぁ、焦らず調べていけばいいや。別に急ぎの用事でもないし。さて、オートメンテ起動っと」
そう言いメンテ用のロボットを起動し、マドカのISを点検させた。束は机へと戻りまた空間ディスプレイを眺め始めた。
「さて、問題はこっちだ。フーちゃんの老化をどうやって防ぎ、一般人と同じ寿命にするかだよね」
そう言い束は空間ディスプレイに映った、DNAや皮膚組織を眺めた。束はISを作る際、人間工学や人体についての勉強もしていた為ある程度知識はあった。その為イチカを救ってくれたアラド達に少しでもお礼が出来ればと思い、人より寿命が短いフレイアの寿命を伸ばす方法がないか調べるべく先日フレイアとハヤテを呼んだのだ。
「外見は人と同じ。けど皮膚細胞の分裂が普通の人の数倍速い。多分高い身体能力を出す代わりに、これがウィンダミア人の短命の原因なんだろうね」
そう呟きながら、何かないかと必死に考えを巡らせた。
「皮膚の移植手術。嫌、駄目だ。それだと寿命自体が伸びたわけじゃない。臓器などを入れ替える。拒絶反応が出るかもしれないし、まず地球人のと合うかが分からないからダメ。ん~、どうすればいいんだ」
そう言い頭を抱え込む束。するとコーヒーが入ったコップを持ってクロエが部屋へと入って来た。
「束様。砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをお持ちしました」
「お! ありがとうねクーちゃん」
そう言いコーヒーを受け取り口にする。
「ん~! クーちゃんの淹れてくるコーヒーは何時も美味しいよ!」
「お褒めいただきありがとうございます」
クロエの淹れたコーヒーを褒めながら、感想を口にした。
「こう、クーちゃんの淹れてくれたコーヒーは体の内側から隅々に糖分が満遍なく行く感じなんだよね。……そうか!」
感想を述べていた束が突然大声をあげ立ち上がると、クロエは首を傾げながら束を見つめる。
「そうだよ。わざわざ皮膚移植もする必要も無ければ、臓器の入れ替えをしなくもいいじゃないか。内側から少しずつ変えていけばいいんだよ。そうと分かれば急いで、造らないと!」
そう言い束は今まで映していたディスプレイを閉じ、様々な計算式を打っていく。クロエは空になったマグカップを束の机から回収し、「頑張ってください、束様」と言い部屋を後にした。
次回予告
エンシェントセキュリティー社に戻って来て数日が経ったある日、久しぶりに訓練を行わず本社から程近い無人島でバカンスを取ることとなった。
次回
バカンス
~見て見てイッチー! 新しい水着なんだぁ!~