歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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22話

地下のハンガーから機体を上げ、滑走路に進入し先に上がったイチカ。その後マドカも滑走路に進入する。

 

『デルタ6、離陸を許可する。頑張れよ』

 

管制官からの応援にマドカは、あぁ。と返しスロットを踏み込み空に上がった。イチカが居る高度まで上げたマドカ。そしてイチカの機体を見つけその後ろに就く。

 

『よし、マドカ。模擬空戦を行う。ルールはいたって簡単だ。互いに別方向に飛び、そしてある程度距離が取れた所でまた接近。そして互いに交差した瞬間に模擬戦開始だ。勝敗はペイント弾に撃たれるか、背後からキャプティブ弾にロックオンされ撃墜コールが鳴った瞬間終了だ』

 

「分かった」

 

マドカがそう言うと、イチカは左に旋回していきマドカは右に旋回する。そして互いに距離を取って行き、ある程度距離が離れた所でまた機体同士を向け接近する。そして互いの機体が交差した瞬間

 

『模擬戦開始!』

 

イチカの合図と共に互いに互いの背後を取ろうと旋回を始める。地上に居たアラドや美雲は空を見上げ、見物していた。

 

「さてどちらが先に撃墜されるだろうな」

 

「それ、分かってて聞いてるの?」

 

美雲は笑みを浮かべながらアラドに聞くと、フッと笑みを浮かべながら空を見上げる。

 

背後を取らせまいと旋回をし続けるマドカとイチカ。すると

 

『確かに戦闘機だったら旋回し、背後を取るチャンスを伺うのは戦闘機乗りとして鉄則だ。だがマドカ。お前が今乗っているのは只の戦闘機じゃないぞ!』

 

イチカがそう言うと、自身の機体VF—31A2をファイター形態からガウォーク形態に変形させミニガンポッドで狙い撃つ。

 

「ちょっ!? いきなり変形だなんて卑怯だぞ、兄さん‼」

 

そう言いマドカは攻撃を避けるべく海面擦れ擦れまで急降下し攻撃を避ける。

 

「変形の方法は……これか!」

 

マドカは機体を変形させる方法を見つけ、機体を同じくガウォーク形態にし反撃を開始しようとしたがすでにイチカの機体が目の前まで降下しており、既にミニガンを向けられていた。

 

『海面まで急降下したのは良い判断だ。だが敵が背後から迫っている中、ガウォーク形態になったら隙だらけで狙ってくれと言っている様なもんだぞ』

 

イチカはそう言いガンポッドを下ろす。

 

『もう一戦するか?』

 

「…勿論だ!」

 

マドカはさっきの敗因をしっかり考察し、次はある程度距離が離れてからガウォークにするか、機体が見えない死角に隠れて変形させるかと色々考察し二戦目を始めた。

その後の戦いもペイント弾やキャプティブ弾に狙われ、マドカの撃墜数が重なった。

 

訓練を開始して数時間後

 

『マドカ、そろそろ訓練を終えるぞ』

 

「……分かった」

 

マドカは体に掛かるGに耐えながら訓練に臨んでいた為、体力的にも限界が近かったのか声に張りが無かった。

そしてマドカの機体が滑走路に進入し、地下のハンガーに入った後マドカはイチカにお礼を言うべくイチカの元へと向かう。

 

「兄さん、今日はありがとう」

 

「どういたしまして。そうだ、もし明日も模擬戦をしたいって言うんだったら声を掛けてくれ。時間が有ったら模擬空戦かシミュレーターで訓練に付き合ってやるからよ」

 

「ん、分かった」

 

そう言いマドカはパイロットスーツを脱ぎに更衣室へと向かった。するとマドカと入れ違いに美雲が入って来た。

 

「お疲れ様、イチカ」

 

「おう。…やっぱりアイツは俺の妹だよ。メキメキと腕を上げてる」

 

イチカはそう言いながら美雲からミネラルウォーターを受け取り口にする。

 

「そうみたいね。最後辺りに、イチカの機体にペイント弾を1発当てて被弾を取ったんだから」

 

そう言い美雲はイチカの機体を見上げる。イチカのカイロスの翼には一発だけペイント弾が付着していた。

 

「また訓練を受けてあげるの?」

 

「アイツがそれを望むならな」

 

そう言いイチカは着替えに更衣室へと向かった。

 

 

 

それから数時間後、服を着替え終えたマドカは汗を流し、疲れ切った体を休めようとベッドに横になった。

 

「うぅ~、滅茶苦茶疲れたぁ。兄さん、容赦なさすぎるぞ」

 

そう呟きながら明日の予定を考えた。

 

「明日は、父さんにデルタ小隊のメンバーを紹介して貰って、兄さんとISの訓練とバルキリーの訓練をして、あと……。スゥ…スゥ…」

 

マドカは明日の予定を呟いていると、睡魔が襲ってきて眠りについてしまった。

 

 

「――おい、起きろ」

 

突然男の呼ぶ声が聞こえ、マドカは目を開くと其処は真っ白な世界だった。

 

「!? 此処は一体何処だ?」

 

マドカは自身が寝ていた部屋とは全く違う事に驚き辺りを見渡していると一人の男がいた。

 

「誰だお前?」

 

「俺か? 俺の名はキースだ。お前の機体、サイレントゼフィルスのコアに宿った人格だ」

 

キースと名乗った男の言葉にマドカは、何を言ってんだコイツ?と怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「まぁ、誰だってそんな顔をするはずだ。だが事実だ。現にお前の兄、イチカの機体には俺の好敵手が宿っているようだからな」

 

そう言いキースは、フッと笑みを浮かべた。

 

「好敵手? …! まさか兄さんが言っていたメッサーって言う人物じゃ?」

 

「そうだ。奴とは幾度となく戦い、辛くも俺が勝った。その後は(イチカ)が俺に挑むようになった。死神に負けず劣らずの技量で幾度となく戦ったが結局決着は付かなかった」

 

「…なるほど。それで、何で私の前に現れたんだ?」

 

マドカは鋭い視線をキースに向けながら、用件を聞く。するとキースは真剣な表情を浮かべマドカの方に顔を向ける。

 

「お前は何故、奴と居ようとする?」

 

キースからの問いにマドカは疑問符を浮かべる。

 

「お前は昔、自身が生み出された原因となった一家をお前は恨んでいたはずだ。それなのにお前はその一家に居たアイツと共に居る。何故だ?」

 

そう言われマドカは思い返すように顔を俯く。

 

「……確かに、昔の私が今の私を見たら怨み言の一つや二つ言うだろうな。だが、そんなことは知らん。私だけが抗っているんじゃない、兄さんも同じように抗っていたんだと知ったからだ。あの女の所為で、誰も自分を見てくれない。そんな中でも兄さんは抗った。あの女の弟ではなく、一人の人間として見てもらうべく抗った。それを聞いた瞬間、私は兄さんの家族として傍で支えたい。自分があの女のDNAで創られた命であっても兄さんの傍で支えたい。そう思ったから兄さんと共に居るんだ」

 

そう言うとキースは、真剣な表情から笑みを浮かべた。キース自身も異母兄弟であるハインツを守る為に、命を掛けた。この女もおなじ様に命を懸けて兄をを守る気だと感じたからだ。

 

「……良いだろう。お前には力も持つ覚悟がある」

 

そう言うと同時に真っ白な世界が少しずつ消え去って行く。

 

「おい、どう言う事だ! 何だ、力を持つ意味って!」

 

「朝目を開けたら分かる」

 

そう言うと同時に真っ白な世界は消え去った。

そしてマドカは目を開け体を起き上げた。辺りは質素ながらも女の子らしい人形などが置かれ、枕元の収納棚には兄イチカと束達と撮った写真の入った写真立てが置かれていた。

 

「……夢だったのか? ……ん?」

 

マドカは夢かと思っていると、目の前にディスプレイが突然現れ書いてある文字にマドカは声が出なかった。其処に書かれていたのは――

 

『第2形態に移行しますか? Yes/No』と。




次回予告
何時の間にか現れた第2形態の表示にマドカは困惑しながらも、力を受け入れた。そして束に機体のチェックを頼む。そしてイチカと訓練へと向かった。束はある物の開発を続けながら機体チェックを始めた。
次回
黒き翼

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