歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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19話

「このぉ!」

 

鈴はそう叫びながら双天牙月を振るい、ドラケンを墜とす。だが落としても落としても数は減っている感じでは無かった。

 

「ヤバいわね」

 

鈴は肩で息をしている中、マドカ達は一機でも多く落とそうと武器やBITを振るう。

 

「いけぇ‼」

 

簪は大量のミサイルを発射して墜とすも、やはり数は減っている雰囲気ではなかった。

 

「…もうミサイルが」

 

簪はディスプレイに投影されているミサイルの残弾数を確認すると、既にレッドアラートが出ておりミサイルの残弾は底をついていた。

 

「不味いな。もうこっちも弾が無いぞ」

 

ラウラは持っていたバルカンの弾が無くなった為、近接格闘武器を出す。

 

「も、もうBITが…」

 

セシリアも展開できるBITは無く、残ったSEを消費してライフルを撃つわけにもいかず、近接ナイフのインターセプターを取り出す。

 

「ぼ、僕も弾が無いよ」

 

そう言いパイルバンカーを出すシャルロット。マドカは何も言わずただ残っている数少ないBITを展開する。

 

「万事休すね」

 

鈴は此処までかと諦めかけていると、

 

「~~~~♪」

 

歌が聞こえた。鈴達はどうして歌がと疑問している中、マドカはその歌を知っていた。兄イチカがよく聞いていた歌だからだ。だからこそ最初に頭に浮かんだのが

 

「兄さん、助けに来てくれたのか?」

 

そう思っている中も、ドラケンは突然聞こえた歌に驚くもそのままマドカ達を攻撃しようとした。それぞれもう駄目だと思った瞬間、攻撃しようとしたドラケンが爆散した。一同は一体何がと驚いていると、遠くから一機の戦闘機がやって来た。

 

「あ、あれがやったの?」

 

「そ、それにしても戦闘機にしては小さくない?」

 

鈴達は接近している戦闘機の小ささに疑問している中、マドカは喜びで胸がいっぱいになった。

 

「あぁ、やっぱり兄さんだ‼」

 

そう言い、落ち込みかけていた自分に喝を入れBITをドラケンへと向け放つ。

 

「そら墜ちろ‼」

 

マドカが元気になったのにつられ、鈴達も攻撃を始める。

 

「あの機体、イチカなのマドカ?」

 

「あぁ。兄さんが乗っている機体だ!」

 

そう言いドラケンを墜とすマドカ。それを聞いた鈴は、笑みを浮かべドラケンを墜としていく。

 

「だったら心配かけた件、後でとっちめるわよ!」

 

「あぁ!」

 

鈴達に活気が漲っている中、イチカは背後から迫ってくるドラケンに急旋回などで背後に回り込み墜としていく。そして最後の一機を墜とした後、機体をバトロイド形態にしマドカ達の元に行く。

 

「悪いな心配を掛けた」

 

そう言うと鈴達は安堵した表情を浮かべ、マドカは涙を浮かべていた。

 

「兄さぁ~ん」

 

と涙を流しながら抱き着くマドカ。

 

「悪かったなマドカ。心配かけて」

 

そう言い頭を撫でるイチカ。

 

「本当に心配かけるんじゃないわよ」

 

鈴は目に溜まった涙を拭い、笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ旅館に帰ろう」

 

そう言いイチカは鈴達と共に旅館へと帰投した。

旅館へと戻るとエリシアや真耶が居た。

 

「皆無事に戻って来てくれて、本当に良かったわ!」

 

「皆さん本当に無事で良かったですぅ」

 

エリシアは笑みを浮かべ、真耶は涙を流しながら出迎えた。

 

「それとイチカ君。貴方も無事で戻って来てくれて本当に良かったわ」

 

「えぇ。こいつのお陰ですけどね」

 

そう言いイチカはISの待機形態を見せ、笑みを浮かべる。

 

「そう。それじゃあ精密検査を受けてそれぞれ自由にしてもいいわよ」

 

そう言われ全員中へと入り、保険医の元へと向かった。

 

保険医の検査が終わったのは夜が更けた時間で、イチカは一人浜辺で散歩していた。

 

「はぁ~、色々あったなぁ」

 

そう言い浜辺の真ん中あたりに来ると、浜辺へと座り夜空を見上げる。空はキラキラと光る星々が輝いていた。

 

「まだこの辺は空気が綺麗で澄んでいるんだな」

 

そう言っていると、背後に人の気配を感じ振り向くと其処には美雲が居た。

 

「此処に居たのねイチカ」

 

「あぁ。ちょっと散歩したくてな」

 

そう言いまた空を眺めるイチカ。美雲はそっとイチカの傍に座り同じく空を眺める。

するとイチカは何かを思い出すかのように口を開く。

 

「俺が美雲に告白した時も、これだけの星が輝いていたよな」

 

「そうね。……ねぇイチカ」

 

美雲はそっとイチカの手を包み込むように掴む。

 

「もう、私を一人ぼっちにしないで。もう貴方が居ない世界は考えられないの。だから」

 

そう言い美雲は掴んでいた手を強く握りしめる。

 

「美雲……」

 

俯く美雲に、イチカは握りしめてくる手を同じように握り返す。

 

「約束する。絶対に俺は君を一人ぼっちにしない。ずっと傍にいる」

 

そう言うと美雲は顔を上げる。その目には涙が溜まっており、イチカはそっとその涙を指で拭う。

 

「本当に……。本当にずっと傍にいてくれるの?」

 

「あぁ、ずっといる。もし向こうの世界に帰れる手段が見つかったら、俺は君と共に向こうの世界に帰る」

 

そう言うと美雲は、顔を笑顔にしイチカに抱き着く。

 

「ずっと一緒よ、イチカ! ずっっとこれからも!」

 

「あぁ、ずっと一緒にいる」

 

互いの愛を確かめ合った時に、イチカはラグナでコッソリと買って何時か渡そうとしていた物を取り出そうとした瞬間

 

「あぁ~! 二人共こんなところでイチャイチャするなんてずるいぃ~!」

 

「先を越された」

 

マキナとレイナが突如現れた。

 

「えっ?! マキナ、それにレイナも!?」

 

「むぅ~! 私達もまぜろぉ~!」

 

「美雲ばかりずるい」

 

そう言いイチカ達の所に行き、同じくイチカの隣に座る2人。

 

「全く2人共、イチカは私の恋人よ?」

 

「諦めないって言ったじゃん! だから諦めずイッチ―に突撃!」

 

「イチカの傍は私の心をチクチクしてくれる」

 

そう言うと美雲は呆れる様にため息を吐くも、直ぐに笑みを浮かべる。

 

「なら私は離さない様にちゃんと見ておかないといけないわね」

 

「は、はっははは」

 

イチカは乾いた笑みを浮かべながら空を見上げる。

 

(渡すのはもう少し先でもいいか)

 

そう思い拡張領域から出した指輪をそっと戻した。

 

その頃旅館前では箒が警察に引き渡されるところだった。

 

「私は何も悪いことはしていない!」

 

「いいから、さっさと乗りなさい!」

 

女性警察官が箒をパトカーに乗せようとするが、箒は暴れて乗ろうとしなかった。するとマドカがその傍へとやって来た。

 

「ん? 君、危ないから向こうに「そんな感じでは何時までも乗りませんよ、そいつ」……けど他に方法が」

 

パトカーの横にいた男性刑事はそう言うと、マドカが箒の方へと近付く。

 

「! 貴様、見ていないで助け「兄さんを殺そうとした奴を助ける訳ないじゃん。それとこれは兄さんを殺そうとした報い」 グゥツ!!!???」

 

そう言い箒の腹に向け、力一杯の拳で殴った。箒は姉束に蹴られた脇腹に出来た内出血が更に酷くなり、痛みから気絶した。

マドカは箒に兄イチカを撃墜した報いを受けさせたらなと思い入口に来たため、丁度暴れていた為大義名分の元殴れると思い近付いたのだ。

 

「黙らせたので、後はお任せします」

 

そう言いマドカは何処かへと去って行った。警察官達はそれぞれ篠ノ之博士が蹴ったところが悪化し、気絶したと後の報告書にそう記したそうだ。

 

その頃束は空母でイチカのISを調べていた。

 

「やっぱりいっくんの機体が突然2次移行したのは、載っていたISコアのお陰なのかな? そうするとマーちゃんのコアも同じような事が起きるのかな?」

 

そう言い空を見上げる束。空には綺麗な満月が昇っていた。

 

「……まぁいいや。あの2人のコアは特別製って事で今後も経過観察だ」

 

「束様」

 

束は出していたディスプレイを閉じ、後ろから声を掛けてきたクロエに顔を向ける。

 

「何かなクーちゃん?」

 

「はい、大破した所属不明機を調べた所、載っていたISコアは全て擬似コアでした。形等は似ておりますが、やはり作りと出力等が大きく違います」

 

「そっかぁ。何処のどいつなんだろうねぇ。私の可愛い子達の偽物を作っている屑野郎は」

 

そう言い笑みを浮かべながらも、目が笑っていない束は空を見上げた。

 

 

こうして大きな謎を残しながらも臨海学校は終了となった




次回予告
夏休みが始まり、イチカはエンシェントセキュリティー社に帰って来た。するとマキナやレイナ、そして美雲が出迎えた。
次回
夏休み編
~この夏はイッチ―と急接近チャンスだからね!~

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