歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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18話

ドラケンⅢの攻撃を受け海中へと落ちたイチカは、自身が温かい何かに包まれている感覚を憶え、そっと目を開けると周りは見渡す限りの真っ白な世界であった。

 

「此処ってまさか……黄泉の国だったりしてな」

 

自虐的な笑みを浮かべながら、立ち上がるイチカ。

 

「此処が黄泉の国だと? お前は馬鹿か?」

 

そう言われ懐かしくもあり、そしてもうこの世にはいないはずの人物の声に驚き後ろを振り向くと其処には

 

「め、メッサー!?」

 

「久しぶりと言うと、可笑しいがまぁ久しぶりだな」

 

メッサーは腕を組みながらそう言うと、イチカは頭の中がこんがらがったままで、本気で死んでしまったのでは思い込んでしまう。

 

「メッサーが此処に居るって言う事は、俺は本当に死ん「お前はまだ死んでないぞ」だ、だが何で此処に居るんだよ!」

 

「それはまぁ簡単に説明すれば……」

 

メッサーの口から出る言葉に息をのむイチカ。

 

「お前が乗っているISのコアに俺の意識が宿っている」

 

「はぁ?」

 

メッサーからのカミングアウトにイチカは意味が分からんと言った表情を浮かべる。

 

「まぁいきなり言われても分からんだろうな。俺自身も最初はどう言う訳か分からなかったからな」

 

そう言いメッサーは順を追って説明を始めた。

 

「俺が白騎士とのドッグファイトに負け、そして死んだ後俺は見知らぬ場所で目が覚めたんだ。目の前にはうさ耳をした変な女が居て、体を動かそうにも言う事が聞かずただ目の前で起きている出来事を只傍観することしかできなかったんだ。ISの事、ISコアとは何かなど、多くのネットワーク上の情報を見ながら時間を潰していたある日、うさ耳の女が大慌てで部屋を出て行くのを見て女が何を発見したのかモニターを見たら、お前の機体が映っているのが見えたんだ。そしたら何故かは分からんが、自身の奥底から今まで失っていた力が込み上がってくるのが感じられたんだ。そしてお前が俺の前に現れISに触れISを身に纏った瞬間お前の身に何があったのか直ぐに読み取れた。ラグナからの撤退や終戦、そしてワルキューレの一人と付き合っている事などをな」

 

「……人の記憶を覗き見るなよ」

 

イチカはジト目で睨むと、メッサーはフン!と鼻を鳴らして続きを話し始めた。

 

「その後は女が俺に向かって『いっくんを守ってあげてね』とそう言って、お前の機体と同じような武装を乗せたISに俺を組み込まれ、ずっとお前の戦いを見ていたんだ。そしてさっきのお前が撃墜された瞬間もな」

 

そう言われ、イチカはそうだったのか。と息を吐き俯く。

 

「なるほど。それじゃあ此処は?」

 

「此処はまぁ簡単に言えば、ISコアに存在する世界だ。お前が撃墜され気絶している間、少し話がしたかったから俺が此処に呼んだ」

 

「ふぅ~ん、そうなのか。……それじゃあ俺が救助されるまで此処に居ればいいのか?」

 

「馬鹿をいえ。俺の用件が済んだらお前に俺の中に残っている力をお前に渡す。それで空に帰れ」

 

そう言われ用件?とイチカは首を傾げる。

 

「それでその用件って、なんだよ」

 

「イチカ、お前は何で空を飛び続ける?」

 

メッサーの問いに、イチカは頭に疑問符を浮かべるが自身が飛ぶ理由を考え始める。

 

「そうだな。最初、デルタ小隊に入ったのは自身の力で人を助ける正義の味方になれると思ったからヴァルキリーに乗った。だが日が経つにつれその思いが変わり始め、今は一人の女性が歌う歌を守る為に飛んでる。彼女が歌を歌い続ける限り俺は飛び続ける」

 

そう言うとメッサーは笑みを浮かべる。

 

「そうか。ならお前は空に戻れ」

 

そう言うとイチカは違う。と言う。メッサーは突然違うと言う言葉を呟いたイチカに怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「メッサー、俺一人が戻るんじゃない。アンタも空に戻るんだよ」

 

そう言うとふっ。と笑みを浮かべメッサーは拳をイチカの前に出す。

 

「ならさっさと上がれ、イチカ。エースを超える道のりが遠くなるぞ」

 

「抜かせぇ! 直ぐにでもアンタを抜いてやるよ、メッサー!」

 

そう言い拳をぶつけるイチカ。そして世界はスゥ―と消え去り、真っ黒な世界が包む。そして体の奥から力が沸き起こる感覚を感じ、イチカは目を開こうと力を入れる。目が開き辺りを見渡すと、暗い海底で寝そべっている状態だと気付き、目の前にディスプレイを出し自身の状態を確認する。

 

「……行けるな」

 

そう言いイチカは立ち上がりブースターを吹かし、一気に海中から飛び出した。海上に出た後辺りを見渡すように首を左右に振るイチカ。

 

「此処はどの「いっくん‼」束さん?」

 

そう言い背後を見ると、空母の上に束が泣き顔で立っていた。イチカはその傍まで行く。

 

「良かったよぉ。いっくん死んだんじゃないのかって思って涙が止まんなかったんだもん‼」

 

そう言い涙を拭く束。そして顔付きを真剣な表情に変える。

 

「本当は詳しい話をしたいところだけど、マーちゃん達があいつ等と戦っているから急いで援護に行ってあげて!」

 

「あいつ等が!? 分かりました!」

 

そう言いイチカは飛び上がり、マドカ達が居る方へと飛ぼうとしたがその前に甲板の上にいた美雲達の元に向かった。

イチカが無事だったことに3人は喜び手を振った。そして束の前にディスプレイを出し、3人に見えるようにして欲しいと頼む。

 

『3人共、ちゃんとした再会を祝いたいがマドカ達を助けに行かないといけないから、行ってくる。だから頼む。歌を歌ってくれ』

 

そう言うと3人は笑顔を浮かべ頷く。

 

「任せてよイッチ―!」

 

「イチカの心をチクチクさせる歌を届けてあげる!」

 

「任せなさいイチカ。女神の歌を、貴方だけの歌を届けてあげるわ!」

 

3人の言葉にイチカは大きく頷き、マドカ達が居る空域へと向け飛行しようとすると、ディスプレイが投影された。

 

『変形モード使用可能』

 

と表示され、イチカは迷うことなくその方法を調べ機体を変形させた。機体はバトロイド形態からファイター形態へとなり飛び立った。飛んで行く姿を見送った美雲達はマイクを持つ手を握り直し、息を整える。

 

「さぁ行くわよ、女神の歌を!」

 

その声と共に歌が響く。




次回予告
数多くのドラケンに囲まれた鈴達。此処までかと思っていると突然歌が聞こえ、そして援軍が現れた。
次回
復活の翼~VF31A2改 イーグルクロウ、エンゲージ‼~

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