歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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今回あの某ゲームの空母名が出ます。


17話

旅館へと接近しているドラケンを撃退すべく、専用機持ち達は浜辺へと集まっていた。

 

「それじゃあ行くわよ」

 

鈴が先頭にそれぞれ飛び上がり、出撃していった。その背後を見送る束。

 

「さて私も動きますか」

 

そう言い、旅館のある一室へと向かう。そしてその部屋の前へと到着し声を掛けた。

 

「ちょっとごめん。今いいかな?」

 

そう声を掛け、暫くすると若干不機嫌顔のアラドが扉を開けた。

 

「篠ノ之博士か。何か用か?」

 

「うん。此処だと不味いから、中でいいかな?」

 

そう言われ、アラドは扉を大きく開き束を中へと入れた。部屋へと入った束は奥へと行くと、三角座りで俯く美雲と涙を流しながら何かを作っているマキナとレイナ。

 

「イチカが行方不明と聞いてこの有様だ。……博士、原因はエリシアって言う教師から聞いてる。アンタを責めるつもりはないが、お前の妹は正直気が狂っているとしか思えないぞ」

 

「それは私も思ってた。もうアイツの頭は病気みたいなものになってるからね」

 

そう言い、束は美雲達の元に近寄り座る。

 

「……3人にお願いがあるの」

 

そう言われマキナとレイナは作業の手を止め、束を見る。美雲は俯いたままだった。

 

「……歌って欲しいの。歌を」

 

そう言うとマキナとレイナ、そしてアラドは驚いた表情を浮かべ、美雲は肩が一瞬動いた。

 

「どうして歌を?」

 

「これを見て欲しいの」

 

そう言い束は顔をあげている3人に投影ディスプレイである物を見せた。ディスプレイには心電図と名前が映されていた。心電図は微弱だがテンポよく動いており、名前には『イチカ・メルダース』と表記されていた。

 

「これって、イッチ―の心電図?」

 

「そう、まだいっくんは生きてる」

 

「「「「!?」」」」

 

束の言葉に俯いていた美雲も顔を上げた。

 

「本当に、本当にイチカは生きているの?」

 

「うん。微弱だけど、それでもいっくんは生きている。けど此処でわかるのはいっくんがまだ生きているという事だけ。だから」

 

束は意を決したような顔をマキナ達へと向ける。

 

「3人の歌の力を貸してほしいの。いっくんが居ると思われる場所は、潮の流れとかで大体予想は出来る。その場所に歌を届ければいっくんは必ず反応するはずだから」

 

そう言うと美雲は立ち上がった。その顔をは先程まで暗かった表情ではなく挑戦する顔つきだった。

 

「だったら早くイチカの元に送らないとね」

 

「うん。こんなところでイッチ―捜索アンテナ何て作っていられない!」

 

「早くイチカを助けるために」

 

3人はそう言い、立ち上がると束も立ち上がる。

 

「よし、それじゃあ空母にもう準備させてるから早く行こう!」

 

そう言うと5人は部屋から退出し、外で待機しているオスプレイへと乗り込み旅館を発った。

その頃、旅館を先に発った鈴達はドラケンの予想飛行ルートを遡る様に飛行していた。

 

「もうすぐあいつ等が来る頃よね?」

 

「あぁ。奴らが居た所から旅館までの距離を算出し、旅館から奴らの予想飛行ルート上を正しく遡っていればもう間もなくのはずだ」

 

鈴の問いにラウラが答えていると、シャルロットは前方に複数のドラケンが見えた。

 

「!? 見つけたよ!」

 

「よし、それじゃあ全員単独で動こうとせず2人1組で確実に落として!」

 

鈴の指示に全員頷き、それぞれ武装を展開し攻撃を始めた。マドカ、鈴は近接戦に持ち込みながら攻撃し、ラウラと簪は互いに前衛、後衛と初めて組んだにもかかわらず息の合った攻撃でドラケンを墜としていく。セシリア、シャルロットも互いに不得意としている近接に持ち込まれる前に、火力で敵を近づけなかった。

6人の奮闘は、敵を確実に墜としているがそれでも圧倒的物量の差に6人のSEと弾薬は着実に減り始めていた。

 

「一体どれだけいるのよ! これじゃあジリ貧じゃない!」

 

「文句を言う前に敵を墜とせ! 簪、後ろだ!」

 

ラウラの警告に簪は薙刀を展開し、背後から迫っていたドラケンを斬り捨てる。

 

「ありがとうラウラ!」

 

「礼は後だ。また来るぞ!」

 

全員何とから奮闘している中、マドカは戦いながらも心の中で願っていた。

 

(頼む兄さん。生きていたら助けて!)

 

――エンシェントセキュリティー社所有空母『ケストレル』甲板上

束と共に空母へと到着した3人は、それぞれマイクを持って甲板上に居た。束は海の中にスピーカーを下ろし、投影ディスプレイを展開してイチカの容体を遂次確認していた。

 

「2人とも準備はいい?」

 

「勿論何時でもいいよ、くもくも!」

 

「バッチオ~ケ~」

 

「それじゃあ行くわよ。女神の歌を!」

 

その声と共に曲が流れ始めた。曲は『絶対零度θノヴァティック』

3人の歌声は辺りに広まり、甲板上に居た人達はそれぞれの作業を中断し食い入る様に見る。3人の歌声が海中に送られているのを確認した束は、イチカの心電図が出ているディスプレイを確認するが大きな変化はなかった。それどころか心電はピィーと音を立てて動きを止めた。それを見た束は目を見開き、溢れる涙を零しながらも声をあげた。

 

「お願いいっくん。皆いっくんの帰りを待ってるんだよ! みーちゃんやマキマキ、レーちゃん達がいっくんの帰りを待ってるんだよ! だから死んじゃダメ!」

 

そう願っていると、突然ディスプレイが投影され其処には

 

『ファルコ、第2形態に移行します。……移行完了。パイロット状態検査……背部に重度の火傷を確認。……治療完了。パイロット意識喪失中と確認。……強制覚醒機能展開……完了』

 

そのディスプレイを見た束は何が起きたのか全く分からずにいると、艦内放送が響いた。

 

『3時方向、ISの反応あり!』

 

その報告に束は直ぐに甲板の端っこまで行き確認する。すると突如海中から水柱が立ち、其処から一機の白い機体が現れた。それは束自身が作成した機体だとすぐに分かり、声をあげた。

 

「いっくん‼」

 

その声が聞こえたのか、背を見せていたISは振り向くと其処には新たな翼を身に纏ったイチカだった。




次回予告
撃墜されたイチカは、気付けば真っ白な世界で目が覚めた。自身は死んだのかと思っているとその背後に信じられない人物が立っていた。
次回
エースとの再会
~久しぶりだな、イチカ。~

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