歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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16話

「そんな、嘘だ…。…嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だウソだウソダウソダウソダウソダ‼赦さないぞ、お前等っ‼」

 

兄イチカが墜ちたのを見てしまったマドカは体の奥底から沸き起こる怒りに我を忘れ、自身が展開できるビット全部を展開し攻撃をしだした。マドカの様子に危険と判断したラウラは直ぐに叫んだ。

 

「全員逃げろ‼ 今のアイツは危険だ‼」

 

そう叫ぶと鈴達は急ぎ敵から離れるべく海面擦れ擦れまで降下し、退避する。その間にマドカはビットでドラケンを次々に墜としていく。その光景は旅館に居た教師達も確認できていた。

 

「マドカさん! 応答して下さい! 駄目です、応答ありません!」

 

「面倒な事をしてくれたわね、あの子‼」

 

エリシアは下唇を噛みながら、束が居るオスプレイに連絡をとる。

 

『何? 今忙しいから手短に言って‼』

 

通信越しに忙しそうに動いている束が出た。

 

「そっちでも確認したと思うんだけど、彼女を『今止めるための作業をしているから待ってて!』分かったわ」

 

その言葉を最後に通信は切られ、エリシアは万が一に備え保険医を待機させておいた。海上ではマドカが最後の一機を墜としたところだった。

 

「たった数分で全部を…」

 

「僕達が束になっても手こずった相手をたった一人で…」

 

鈴やセシリア達は驚いた表情を浮かべる中、マドカは次に鋭い視線を向けたのは箒だった。

 

「……お前が邪魔しなければ無事に任務は終わったんだ。……お前さえいなければ兄さんは無事に旅館へと帰ってこれたんだ。私の大切な家族を…。兄さんをよくも…!」

 

そう言いマドカはビットを箒へと向け放つ。箒は恐怖から何も出来ず刺されると思ったがビットは箒の目の前で止まった。

 

「く、クソォ。何で邪魔をする…博士ぇ!」

 

そう言いマドカのISが解除され海へと落ちようとしたが簪がいち早く抱きかかえた。

 

「撤収よ。……セシリア、あそこの馬鹿を捕縛して運んで。私だと殺しそうだから」

 

そう言い鈴は睨むような視線を箒へと向けながらセシリアに頼む。セシリアはは、はい!と言い箒を拘束し旅館へと戻って来た。砂浜へと到着した8人。それを最初に出迎えたのは千冬だった。

 

「箒、お前を拘束する。それと更識そいつをこちらに渡せ」

 

そう言い5人は箒は分かるが、何故マドカまで渡さないといけないのか分からなかった。

 

「何でですか、織斑先生。彼女が居なかったら私達は死んでいたのかもしれなかったんですよ。それなのになぜ渡さないといけないんですか」

 

鈴は睨むような眼で問うと千冬は腕を組みながら訳を話した。

 

「幾ら何でもそいつ一人であれだけの敵を倒せるのは可笑しい。ならそいつのISが違法なほど威力が高いからかもしれん。だから本人に事情聴取するためだ」

 

そう言いマドカを連れて行こうと近付いた瞬間、5人は千冬の後ろに居た人物に気付く。

 

「あ、篠ノ之博士」

 

鈴がそう言うと千冬は驚いた表情を浮かべ後ろを振り向く途中で、顔面に鋭い蹴りが入りそのまま砂浜を20mくらい転がって行った。

 

「ふざけたことぬかしてんじゃねぇよ。……かんちゃん、ラーちゃん。マーちゃんとその人を保険医の元に連れて行って」

 

そう言われ簪とラウラはナターシャとマドカを保険医の元へと連れて行った。鈴は何故マドカのISが強制解除され本人の意識が無くなったのかその訳を聞く。

 

「あの、博士。なんでマドカの意識が突然無くなったんですか?」

 

「マーちゃんは家族と言う温もりを体験したことでそれを無くしたくないという思いが芽生えていると思ってたんだ。だから万が一マーちゃんが暴走した時の事を考えマーちゃんのISに鎮静剤を組み込んでいたんだ。それと若干の睡眠薬も」

 

束の説明に鈴は納得した顔を浮かべる。そして束は顔を箒へと向ける。

 

「本当に余計な事しかしないよな愚妹」

 

そう言うと箒は拳を握りしめる。

 

「―――が悪いんだ」

 

「ん?」

 

「全部一夏が悪いんだ! アイツが敵が居るにも関わらず逃げようとしているのが‼ 男なら敵に真っ向から「言い訳はそれ?」ヒッ!?」

 

箒が自分勝手な言い訳を並べている途中に遮る様に束は殺気を解放した状態で箒に近付く。周りに居たセシリアやシャルロット、鈴は恐怖から口から言葉が出なかった。

 

「敵が背後まで迫っている中、人命を背負っている状態なら旅館まで後退し、人命の安全を確保するのが最優先なんだよ。それなのに敵に真っ向からだと? だったらお前一人で行けばいいだろうがっ‼」

 

束は箒の目前まで来て顔に向け蹴りを入れた。蹴りは綺麗に箒の顔に入りメキッと音が木霊した。蹴られて仰向けに倒れ箒は鼻を押さえる。鼻を押さえて居る手の間からは血がダラダラと流れていた。

そして束は倒れ込んでいる箒に近付き、足をあげる。

 

「お前の頭は特攻と言う言葉しかないのかっ!「グフッ!?」 だったら一人で行けよなっ!「ガハッ!!?」いっくんや皆を巻き込むんじゃねえよっ‼「かはっ!??!」」

 

何度も箒の腹を目一杯踏みつけた束。何度も踏みつけられたことによって箒は胃の内容物を地面へとぶちまけ、苦しそうな顔を浮かべる。

 

「ほら、いっくんを探しに行ってこいやっ‼」

 

束はそう言い箒の脇腹に力一杯の蹴りで海へと蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた箒は海面を数回跳ねた後海へと沈んでいった。

 

「いっくんの捜索をするから3人共指揮所に出頭してよ」

 

そう言い束は砂浜を後にした。鈴は千冬と箒の事を無視して束と同様に砂浜を後にし、セシリアとシャルロットはどうすべきだろうと右往左往していると、千冬の帰りが遅い事を気にして様子を見に来た真耶がやって来たため、状況を説明し、教師達に箒の回収をお願いして指揮所へと向かった。

指揮所へと集まったマドカとイチカを除く専用機持ち達と束、そしてエリシアと数人の教師達。エリシアの表情は険しく、束も殺気全開の状態で佇み教師達、そして専用機持ち達全員早くこの部屋から退室したいと願っていた。すると一人の教師のモニターに『学園長』と表示されコール音が鳴り響く。教師は後ろに居るエリシアに顔を向けると、エリシアは黙って頷く。教師は応答ボタンを押すと投影ディスプレイに学園長が映った。

 

『エリシア先生、状況を教えてもらってもよいですか?』

 

「……はい、銀の福音のパイロットは無事保護し現在医療スタッフが状態を確認しております。それと…」

 

エリシアは下唇を噛み締め報告を続けた。

 

「救出に向かったイチカ・メルダース君が所属不明機の攻撃により被弾。現在行方不明となっております」

 

その報告を聞いた瞬間学園長の目が見開き、驚いた表情へと変わった。

 

『……何があったんですか?』

 

「本来の作戦では当学園の専用機持ち4名、並びにエンシェントセキュリティー社所属の3名が当たっておりましたが、作戦空域に篠ノ之箒が学園が訓練用に持って来ていた打鉄で現れ作戦の妨害をしました。その結果イチカ君は被弾したのです」

 

そう言うと学園長は机の上に置いていた手を握りしめ、鋭い視線を向けつつあることを聞いた。

 

『織斑先生は何処に居ますか? 指揮権は無いとは言え指揮所で勝手に部屋から退出したりする生徒が居ないか監視していたはずです』

 

そう言うと教師達の多くが困惑した表情を浮かべエリシアへと向ける。

 

「……織斑先生は作戦時間中、此処には居りませんでした」

 

『!? どう言う事ですかそれは!?』

 

エリシアからの報告に学園長は表情が固まり、握りしめていた手を机へと叩きつけ怒り口調で訳を聞いた。

 

「分かりません。それと今現在何処に居るのかも「それだったら私知ってるよ」篠ノ之博士、彼女は一体どこに?」

 

そう言うと鈴達は何とも言えない表情を浮かべ、イラついていた束は若干怒り顔で答えた。

 

「浜辺。其処で多分寝てるんじゃない?」

 

そう言っていると真耶が戻って来た。

 

「す、すいません。今戻りました」

 

「山田先生。織斑先生は?」

 

「えっと、今保険医の新垣先生に診てもらってます。何故かは分かりませんが、鼻の骨が折れているそうで」

 

そう言うとエリシアは呆れた顔を束へと向ける。

 

「篠ノ之博士、貴女でしょ? 織斑先生の鼻の骨を折ったの?」

 

そう言うと束は当然と言った表情になる。

 

「だってアイツ、マーちゃんのお陰でかんちゃん達が無事だったのに、マーちゃんを拘束しようとしたんだよ?」

 

そう言うとエリシアははぁ~。とため息を吐き、学園長は申し訳ないと言った表情になる。すると指揮所の襖が開き、其処から鼻の部分を包帯で固定された千冬が現れた。

 

「束貴様ぁ‼」

 

そう叫び掴みかかろうとしたが、エリシアがその手を掴み拘束する。

 

「な、何する貴様‼」

 

「大人しくしなさい、学園長の前よ」

 

そう言われ千冬はモニターを見る。モニターには険しい表情を浮かべた学園長が映っていた。

 

『織斑先生、率直に伺います。作戦時間、貴女は一体どこに居たんですか?』

 

そう言われ千冬は何も言えず黙ったままだった。その態度に学園長もついにブチ切れた。

 

『織斑‼ 一体どこに居たのか聞いているんだ! 答えろ‼』

 

その気迫には指揮所に居た全員が恐縮してしまい、姿勢を正す。

 

「……束に海に放り投げられ、その後部屋で服を着替えておりました。着替え終え指揮所に向かい、その際に部屋から聞こえた会話で状況を知りました」

 

『……そうですか。織斑先生、貴女に任せてある全ての指揮権を無期限の凍結、並びに無期限の減俸及び夏休み中、寮での謹慎を言い渡します』

 

学園長は険しい表情だが何時もの口調で罰則を言い渡す。千冬は反論を言おうとしたが学園長から鋭い視線を向けられ黙殺された。

 

『今後の指揮権等は全てエリシア先生、貴女にお任せします』

 

そう言われエリシアは首を縦に振った。そして学園長は通信を切り、エリシアは外に待機していたエンシェントセキュリティー社の兵士を呼ぶ。

 

「彼女を部屋から出さない様に監視しておいて」

 

そう言い兵士達は千冬を拘束した。

 

「離せ! 私が何をしたって言うんだ!」

 

「色々と邪魔とかしそうだからよ。連れて行って」

 

そう言い兵士達は暴れる千冬を拘束し部屋から連れ出した。そして残った鈴達に顔を向ける。

 

「ではこれよりイチカ・メルダース君捜索を「た、大変です‼」どうしたの?」

 

「これを見てください!」

 

真耶は慌てた様子でモニターにある光景を映した。其処にはドラケンが数十機も映っていた。

 

「!? まさか」

 

「はい、真っ直ぐこの旅館を目指して飛行しています!」

 

その報告にエリシアは舌打ちをする。

 

「作戦変更よ。此処に向かっている所属不明機の撃墜。それを新たな任務とするわ」

 

そう言うと鈴と簪とラウラはやるしかないと言った表情になり、セシリアとシャルロットは若干不安な表情を見せる。そしてセシリアは手をあげた。

 

「あ、あの私達以外に増援は頼めないのですか?」

 

「残念ながら今から呼んでも恐らく間に合わないと思うよ。と言うか日本の無能政治家共に頼る自体無理だと思うよ」

 

束はそう言い、投影ディスプレイで何かをしていた。すると指揮所の襖が開き一人の少女が入って来た。

 

「私も、行くぞ」

 

そう言い入ってきたのはマドカだった。

 

「マドカちゃん! 大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。博士、本当だったら殴り飛ばしたいところだが今回は水に流してやる」

 

そう言うと束はニンマリとした表情でありがとうね。と言う。

 

「では、申し訳ないけど貴女達だけが頼りなの。出来る限り此処から情報は遂次報告するから」

 

そう言われ専用機持ち達は出撃するべく浜辺へと向かった。




次回予告
所属不明機ドラケンを撃墜すべく出撃するマドカ達。そんな中束は美雲の元へと向かいあるお願いをする。それは歌を歌う事だった。
次回
神秘の歌~いっくんはきっと君達の元に帰ってくるはずだから~

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