歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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14話

臨海学校2日目の朝、専用機持ちと一般生徒達は浜辺に集合しそれぞれISスーツを身に纏っていた。

浜辺にはそれぞれの代表候補生の国から送られてきたコンテナが置かれていた。

ジャージを着た千冬は生徒達の前に出る。

 

「ではこれより一般生徒と専用機持ちごとに別れて訓練を行う。政府が用意した拡張パッケージがある者はそれぞれインストール等を行え!」

 

そう声をあげた後、一般生徒達は2組と3組の教師に連れられて訓練を行いに向かう。残った専用機持ちはその場で政府から送られた拡張パッケージをインストールするためコンテナを開けていると、海の方からローター音が聞こえイチカは海の方を見ると2機のオスプレイが飛行しており、一機にはコンテナをぶら下げており前方を飛行していたオスプレイは先に浜辺へと着陸し、中から数人の兵士達が降りて来て赤色棒でコンテナをぶら下げたオスプレイに指示を送りながら、コンテナを地面へと降ろし始めた。

 

「おい、貴様ら何処の国の者だ!」

 

千冬は怒鳴りながら兵士達に近付くと、一人の兵士がライフルを構えそれ以上近付くなと警告する。

すると背後に居たエリシアが呆れた様な表情で兵士が何者なのか話す。

 

「彼らはエンシェントセキュリティー社の兵士達です。荷物が遅れて到着すると昨日職員会議で言ってたはずですが?」

 

そう言われ千冬は視線を明後日の方へと向ける。

するとオスプレイから白衣を着た束が降りて来て兵士達に声を掛ける。

 

「ご苦労様! それじゃあ本部に報告と周辺警戒をお願いね!」

 

そう言いイチカ達の方へと体を向ける。

 

「やっほ~いっくん、マーちゃん。元気にしてた?」

 

そう言いながら束が近づく。

 

「えぇ元気にしてましたよ」

 

「同じく」

 

2人が元気にしている事が分かった束はそうかそうかと顔を振り、エリシアへと顔を向ける。

 

「エーちゃん、2人に危害を加えたり罵声を浴びせたりする馬鹿はあれ以来いる?」

 

「そうね、其処にいるラウラ・ラブリスさんはタッグマッチ戦後に2人に謝罪して許してもらってるわ。今は戦友って言った所かしら。其処にいるセシリア・オルコットさん、シャルロット・デュノアさんに関しては特に謝罪らしきものは2人にはされていないわね」

 

そう言うと、束は真顔で2人に向ける。

 

「へぇ~、まだ自分達がしでかした罪がよく分かってないのかな?」

 

そう言われ2人は冷や汗を流す。

 

「そ、それにつきましては大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「ご、ごめんなさい」

 

2人の謝罪にまぁ、いいよ。と言い束はイチカ達の方へと行こうとするとシャルロットがあ、あの!と束に声を掛ける。

 

「なに?」

 

「約束通り全部学園に話したので、こ、この腕輪を外してください!」

 

そう言い自身の腕に付いている腕輪を見せるシャルロット。

 

「それはシャルロットさんが付けたアクセサリーでは?」

 

セシリアはそう思い口に出すが束が否定した。

 

「違うよ、それは私が付けた物だよ」

 

そう言いながら腕輪に何処からか取り出した小さな鍵を差し込む。そして

 

「ドカーーーーン!!!!」

 

「ヒッ!?!!?」

 

シャルロットは束の突然の大声に驚き尻もちをつく。それを見た束はアハハ!と笑いあげる。

 

「これは只の盗聴器しかついていない玩具だよ。爆薬なんて1グラムも入ってないよ」

 

そう言い腕輪をポケットに仕舞う束。

 

「そ、そんな! 僕を騙したんですか!?」

 

「騙した? そうだね、確かに君を騙した。だけど君もいっくんを騙そうとしてISのデータを盗ろうとしたじゃん。お互い様じゃん」

 

束にそう言われシャルロットはぐうの音も出ず黙り込む。そんな光景を見ていた鈴と簪は突然現れた人物が誰なのかイチカ達に聞いていた。

 

「ね、ねぇイチカ。あの人って……」

 

「ん? おぉお前の予想通りISの生みの親の篠ノ之束博士だぞ」

 

そう言うと鈴は驚きのあまり口がアングリとひらきっぱなしになり、簪はISを作る際に点検用のソフトをくれたのがあの篠ノ之博士だと分かり驚きのあまり束の元に駆け寄る。

 

「あ、あの篠ノ之博士。点検用のソフトとデータのコピーをくださってありがとうございます!!」

 

「ん? おぉ君がいっくんの言っていた更識簪ちゃんね。別にお礼されるような事じゃないよ」

 

そう言いイチカに近付く束。

 

「それじゃあいっくん。IS見せて」

 

そう言われイチカはISの待機形態であるドッグタグを見せる。束はコネクターを取り出しそれに挿しデータを確認する。

 

「ふむふむ。いや~、流石いっくんだね。この機体といっくんの相性は類を見ないね」

 

そう言いデータを取り終えた束はコネクターを外し、ディスプレイを閉じる。すると思い出したかのように手を叩く。

 

「そうだ、いっくんに会わせないといけない人達が居たんだった」

 

「会わせたい人?」

 

イチカは怪訝そうな顔でそう言うと、束はオスプレイに方向に大声で叫ぶ。

 

「お~~い! そろそろ出てきてもいいよ~!」

 

そう叫ぶと機体の後部ハッチから一人の男性とフードを被った3人の女性が降りてきた。イチカはその人物達に思わず目を疑った。

 

「よぉイチカ。無事でよかったぞ!」

 

そう言い男性はイチカの頭に手を置きわしゃわしゃと荒っぽく撫でる。

 

「な、何で此処に居るんだよ父さん!?」

 

イチカがそう言うとアラドは笑いながら説明する。

 

「いや~、色々あってこの博士がお前の所に行くって言うもんだから一緒に連れて来てもらったんだ。後ろの3人とな」

 

そう言い後ろにいる人物に指さす。

 

「3人? ……まさか」

 

イチカは後ろにいる3人に信じられないと言った表情を向けると、一人がフードを脱ぐとフードの中に纏めて入れていたのであろう紫色の髪がバサッと出てきた。

 

「美雲……。君なのか?」

 

「えぇ、私よ。……会いたかったわイチカ!」

 

そう言い美雲はイチカに抱き着く。イチカも抱き着いてきた美雲をそっと抱きしめ、目元から溢れる涙をそっと零す。

 

「会いたかった。ずっと会いたかった美雲!」

 

「私もよイチカ」

 

二人が抱きしめ合っていると残りの2人がフードを脱ぎ捨て2人に近付く。

 

「ちょっと~、くもくもずるい~!!」

 

「私達も感動の再会させて」

 

そう言うとイチカは2人の顔を見て驚く。

 

「マキナ! それにレイナも! 何で2人も!?」

 

「そりゃあイチカ、この二人はお前に好意を持ってるからに決まってるだろ」

 

アラドがそう説明すると、イチカはえぇ~。と困った表情を浮かべる。

 

「あの、2人の気持ちは嬉しいが俺は美雲と「うん、知ってるよ。けどそんなことで諦めるマキマキとレイレイじゃないからね!」「必ず振り向かせる!」 えぇ~」

 

イチカは困った表情を浮かべている中、美雲は笑みを浮かべながらイチカに更に密着する。

 

「ダメよ。イチカは私のモノなんだから」

 

「ちょっ!? 美雲密着しすぎだ!」

 

イチカは頬を真っ赤に染めながらそう言うが、内心嬉しく思い放そうとはしなかった。

 

「全くウチの息子はモテモテだな」

 

アラドは笑みを浮かべながらそう言っているとその傍にマドカがやって来た。

 

「えっと、お父さん」

 

「ん? おぉマドカか。久しぶりだな」

 

そう言いイチカと同じように頭を撫でる。そして口パクでこう言った。

 

《よろしく頼むな、娘よ》

 

そう言うとマドカは嬉しそうな顔をして荒っぽい撫でを受けていた。するとその傍に千冬がやって来た。

 

「あの少々宜しいですか」

 

「何か?」

 

アラドはマドカを撫でるのを止め、目線を千冬の方へと向ける。

 

「一夏をこれまで育てて下さってありがとうございます。後は私が引き取りますので」

 

「あんた何言ってるんだ?」

 

千冬がイチカを引き取ると言う話を聞いたアラドは鋭い視線を送る。

 

「アイツは俺の息子だ。アンタの家族じゃない」

 

そう言うと千冬は違うと叫びアラドに掴みかかろうとしたが、その腕を束が取り押さえる。

 

「お前まだそんな事言ってたのか?」

 

「束! 離せ!」

 

分かった、放す。そう言い束は千冬を掴み上げ、そのまま海へと投げ捨てた。

投げ捨てた束は清々したと言わんばかりに手に付いた埃を払うように叩く。

すると束を呼ぶ声が木魂した。

 

「姉さん、やはり私にISを持ってきてくれたんですね!」

 

箒がそう言うと束はまた面倒なのが来たと言わんばかりにため息を吐く。

 

「だから作らないって言ったじゃん。何? お前の頭って鳥頭なの? あぁ御免、鳥頭じゃなかったや。頭の中にある脳ミソが鳥以下だったね」

 

そう言いマドカのISの状態の確認を始める。箒は束の言葉にキッと睨んでいると視界の端にイチカが居る事に気付く。そしてその周りに見知らぬ女性が居ることも。

 

「なっ!? イチカ、誰なんだそいつらは!」

 

そう声を荒げると、イチカは直ぐに美雲達を自分の後ろに移動させ守る様に立つ。

 

「彼女達は大切な仲間だ。そしてそのうちの一人が俺の大切な彼女だ」

 

そう言うと箒は信じられないと言った表情で詰め寄る。

 

「ふ、ふざけるな!」

 

そう言い箒が近付こうとした瞬間、近くに居た兵士がライフルを構える。箒は撃たないと思いイチカに近付こうと一歩踏み出した瞬間、足元に一発放たれた。

 

「それ以上近付いた場合、今度は警告じゃないぞ」

 

そう言われ箒は、拳を握りしめ奥歯をギュッと噛む。

 

「ほら、さっさと一般生徒達の所に帰れよ」

 

そう言い束は箒の肩を押して一般生徒達の方に帰らせる。箒は舌打ちをした後一般生徒達が居る方へと戻って行った。

戻って行ったのを確認した束はイチカに顔を向ける。

 

「さて、お邪魔虫は何処かに行ったからいっくんの拡張パッケージをお披露目するね」

 

そう言い束は持ってきたコンテナを開く。中にはVF-31シリーズの拡張パーツであるスーパーパックが入っていた。

 

「スーパーパックじゃん。もしかして束さんが?」

 

「うん。けど途中で行き詰ちゃってね。それでマッキー達にも手伝ってもらってようやく完成したんだぁ」

 

そう言うとマキナとレイナがイェイ!とVサインを出す。イチカはありがとう。とお礼を言い早速ファルコにインストールした。特に問題も無く早速試そうと展開した瞬間、一人の兵士がオスプレイから降りて来て束に耳元で何かを囁く。兵士からの報告に束は顔を強張らせイチカとマドカ、そしてラウラを呼び寄せる。

 

「3人共、イスラエルのIS技術開発所から依頼が来たからオスプレイに乗って」

 

そう言い3人は意識を切り替えオスプレイへと向かう。すると旅館から真耶が走ってやって来て待ったをかける。

 

「ま、待って下さい! 学園側にも特別任務が入って来たので連れていかれるのは困ります!」

 

するとエリシアが真耶の肩に手を置く。

 

「大丈夫よ。彼らに与えられた任務もこっちに送られてきたものと同じ物だと思うし、それにエンシェントセキュリティー社に協力するよう言われているんじゃないの?」

 

そう言われ真耶はふぇ?と目を点とした表情を浮かべると、もう一人の教師が来てPDAを持ってきた。

 

「ちょっと山田先生。貴女ちゃんと確認もせず行かないの!」

 

そう言い近くに居たエリシアにPDAを渡す教師。エリシアは中身を確認してやっぱりね。と頷き真耶にコツンと頭に拳を落とす。

 

「緊急指令が来ても慌てず確認。常識でしょ」

 

そう言われ真耶はあぅううと涙目になりながら謝罪する。

 

「もういい? それじゃあ皆乗って」

 

そう言い束はイチカ達を連れてオスプレイに乗り込み飛び立った。




次回予告
オスプレイに乗り込んだイチカ達と束。具体的な作戦を旅館にいる専用機持ち達と決め、作戦を決行する。そして目標となるISを発見しパイロットの救護に成功する。すると突然多くのドラケンⅢが襲ってきた。
次回
臨海学校~襲撃~

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