歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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11話

突然出現した暮桜にアリーナ内の観戦席にいた生徒達はパニックとなっていた。そんな中、イチカは冷静にあれが何なのかマドカに聞く。

 

「マドカ、あれは?」

 

「恐らくVTシステムって言う物だと思う。あれは本来開発、研究は世界中で禁止されているはずなんだけどアイツのISに搭載されているってことは……」

 

「軍の連中が載せた。もしくは奴自身が載せたかのどちらかだな」

 

イチカの推測にマドカは同意するように頷き、武装を展開する。するとイチカ達に無線が入り出ると、画面にはエリシアが映っており、その背後には真耶や他の教師達が急ぎ準備している光景が映っていた。

 

「エリシア先生、準備にどれほど掛かりますか?」

 

『早くても5分よ。2人はそれまで持ち堪えるか、撃退を』

 

「了解しました」

 

無線を切ったイチカとマドカは互いの顔を見て頷く。そして目線を暮桜の方へと向ける。

 

「作戦は?」

 

「まずどれ程の脅威か確認する。その後に集中攻撃だ」

 

そう言いイチカはバルカンをいつでも撃てる様構える。

 

「それじゃあ牽制射撃を始める!」

 

そう言いイチカはブースターで移動しつつバルカンで牽制射撃を行う。暮桜は持っていた刀で防ぎつつ近接戦に持ち込もうとするが、その前にマドカのビット攻撃に阻まれた。

 

「近接攻撃だけか」

 

「兄さん、これだったら距離を置いて戦う方が勝機はあるかもしれない」

 

マドカの提案にイチカも同意し、ミサイルなどを暮桜の方へと放とうと向けた瞬間イチカの頭に突然声が響いてきた。

 

『た、……助けて…』

 

一瞬の出来事にイチカは驚くも、先ほどの声がラウラの声に似ている事に気付いた。

 

(まさか、助けを望んでいるのか?)

 

イチカはどちらか分からないが、迷っていられないと判断し単一機能を展開する。突然単一機能を展開したイチカにマドカは驚くが、何か案があるのかもと判断し援護できるようビットを展開する。

イチカは暮桜に鋭い視線を向けつつ呟く。

 

「……今助けてやるからな」

 

そう言いイチカはミサイル、そしてバルカンを一斉に暮桜の方へと向ける。そして一斉にある一点に向け発射した。ミサイル、バルカンの攻撃に暮桜は躱しつつ接近しようとしたが、ビット攻撃を受け躱す事が出来ず、イチカからの攻撃を受けた。

イチカがある一点を攻撃し続けるとその一点が抉れだし銀髪が見えた。それを確認したイチカはブースターで懐に潜り込み、塞ぎだそうとしている部分に手を突っ込みラウラを引きずり出し、その場から後退する。引きずり出された後、暮桜は悶え苦しむように暴れ、最後は力尽き倒れドロドロとしたスライムは消え去った。

 

「ふぅ~、任務完了」

 

そう言いイチカはラウラをそっと地面に寝かせる。

 

「ソイツ生きてるの?」

 

「あぁ脈と息はしっかりしている様だ」

 

そう言いイチカはピットの方へと顔を向けるとISを身に纏った教師達がやって来てラウラ、そして原因となったISを回収した。イチカとマドカは教師達と共にアリーナを後にし、学園長室で報告を行った。

 

「――――そうですか。お2人ともご苦労様でした」

 

「いえ、では我々はこれで」

 

そう言いイチカとマドカは学園長室を後にし、寮へと戻る。すると、その途中の廊下でスコールとオータムの2人と会った。

 

「あら2人とも今報告を終えた所?」

 

「えぇまぁ。それでお2人はどうして此処に?」

 

イチカの問いにスコールは少し悲しそうな顔で告げた。

 

「実は例のドイツの子、どうやらドイツから国外追放を言い渡されたらしいのよ」

 

スコールからの突然の告白にイチカとマドカは唖然となった。

 

「はぁ? どう言う訳ですかそれ?」

 

「どうやらドイツの軍上層部は彼女が勝手にVTシステムを載せたと発表して、自分達の身を潔白にしたのよ」

 

「何ですかそれ。それじゃあアイツは……」

 

マドカは悲観そうな目線を浮かべる。

 

「そう、帰る国を失ったと言う事よ。で、彼女にある提案をしに今聞きに行ってきたのよ」

 

スコールのある提案に2人は首を傾げる。

 

「スコールさん、そのある提案って一体?」

 

スコールが説明しようとしたが、オータムが自分ですると言い説明を始めた。

 

「俺の妹になってもう一度人生を一からやり直すか?って聞いたんだ。で、向こうは了承してくれたぜ」

 

「え? つまりアイツはオータムさんの家族になるって言う事ですか?」

 

「おう、そうだ」

 

オータムの告白にイチカとマドカは開いた口が閉まらなかった。

 

「それじゃあ私達はあの子の戸籍やら何やら、準備があるから帰るわね」

 

「またな、2人とも」

 

そう言い2人はイチカ達から去って行き、残された2人は未だに状況が呑み込めずただ茫然と佇んでいた。

 

その夜、千冬はある所に電話を掛けていたが何度コールをしても繋がらなかった。すると、突然背後に人の気配を感じ振り向く。

 

「やぁやぁ久しぶりだね、織斑千冬」

 

給水塔の上で月を背景に笑みを浮かべていた束だった。

 

「……あのVTシステムはお前が仕掛けたのか?」

 

「あぁ、あの不細工なシステム? あんなのが束さんの作った物だなんて思わないんで欲しんだけど。と言うか、あんなシステム作るより束さんはもっと凄い物造ってるもん」

 

そう言いながら束は給水塔の上で足をブラブラさせる様に座る。

 

「それで、一体何をしに此処に来た?」

 

千冬は睨むような目線を束へと向けるが、束はその視線をうざったい視線と思いながら答える。

 

「何って、教える訳ないじゃん」

 

そう言い束は立ち上がり、その場から去ろうとする。

 

「待て束!」

 

千冬がそう叫び、束に待ったをかける。束は顔を少しだけ千冬の方へと向けた。

 

「貴様一夏が生きていたのを知っていたのに、何故私に教えなかった!」

 

その叫びを聞いた束は最初はクスクスと笑い出し、次第に大声で笑い始めた。

 

「何故って、そんなの分かり切ったことじゃないか」

 

そう言い束は黒い笑みを浮かべつつ千冬を見下すように答えた。

 

「そりゃあ束さんが、お前の事が大嫌いだからに決まってるじゃん」

 

「!?」

 

そう言い束は笑いながらその場を去って行った。千冬は驚愕の表情を浮かべ、その場で動けず佇み続けた。

 

箒は誰もいない暗い廊下を、自身の寮がある部屋へと向かって歩いていた。

 

「何で私じゃなく、あんな奴とタッグを組んだ一夏!」

 

そう呟きながら奥歯をギリッと噛み締める箒。

 

「そりゃあお前みたいな屑とは誰だって組みたがらないからに決まってるじゃん」

 

突然の言葉に箒は思わず声のした方向に顔を向ける。其処には窓辺に座りながら、笑みを浮かべた束が居た。

 

「……ね、姉さん」

 

「やぁ久しぶり」

 

束の出現に箒は驚き、同時に歓喜した。この人に頼めば自分だけの力が持てる。そう思ったが

 

「さて、帰るね」

 

「え? ま、待って下さい、姉さん!」

 

突然顔だけ出して帰ろうとした束に箒は慌てて止める。

 

「なに? 束さんさっさと帰りたいんだけど」

 

「……実はお願いが「お前のISは造る気はないから」な、なんでですか!?」

 

自身のお願いを言おうとする前に束がその願いを潰してきた。箒は慌てて理由を尋ねる。

 

「理由? そりゃあお前が碌な使い方しないからに決まってるじゃん。それにお前、IS適正値Cランクじゃん。いっくんやマーちゃん達はSランクを有しているんだよ?他の代表候補生とかはAAだとかA+とかだし。Cランクのお前が専用機を持つとか資格すら無いから。それが理由」

 

そう言い束は去って行った。箒は慌てて束が去って行った方に追いかけたが、束が去った方向には誰一人いなかった。

 

 

部屋へと戻ってきたイチカ、そしてマドカ。学園長室から部屋に戻ってきた後部屋で寛ぎ夕飯を済ませた。そしてそれぞれ風呂を済ませ、布団に入り眠り始めるがイチカは椅子を持って来て窓辺で腰掛ける。

 

「あれから数ヵ月が経ったのか」

 

イチカは夜空に浮かぶ月を眺めながらそう呟く。自身の思い人美雲は無事か。元気にしているか。イチカの頭にはただそれだけがグルグルと回っていた。ただ一つ確信をもって言えること、それは

 

「絶対に君の元に帰るからな。待っていてくれ美雲」

 

そう呟き胸元のペンダントをギュッと握りしめ、イチカはベッドへと潜り込んだ。

 

 

そしてその頃惑星ラグナからほど近い宇宙空間で、マクロス・エリシオンはイチカ捜索の為再度周辺宙域へと飛びだっていた。

真っ黒い空間が続く外を美雲はただジッと見つめていた。そして胸元にあったペンダントを開き、中にある写真を見つめる。写真はイチカと同じ物で、美雲も大切に持っていたのだ。

 

「……イチカ、無事でいるわよね?」

 

そう呟きもう一度、外の景色を覗く。辺りは変わらず真っ黒い空間が続いていただけだった。自身の願いが届くか分からない。だが美雲は兎に角願い続けるしかなかった。

その願いが届いたか分からないが異変が起きた。

それはブリッジがいち早く感知した。

 

「艦長! 前方に高エネルギー反応! データからイチカ中尉がMIAになった時と同じ反応です!」

 

「なに!? なら今すぐこのエリアから離脱を開始だ!」

 

アーネスト艦長はエリアからの離脱を指示するが、その前に穴がエリシオンの前に現れ吸い込み始めた。

 

「駄目です艦長! 穴の吸い込む力が強く、艦が維持できません!」

 

「くっ! 全員耐ショック体勢!!」

 

その言葉が最後にマクロス・エリシオンは穴に吸い込まれてしまった。

そしてエリシオンは穴から吐き出され、何処かの宇宙空間に漂った。

 

「全員無事か?」

 

アーネストはブリッジにいるスタッフにそう聞くと、艦内の被害状況の調査を優先に行わせた。そして艦内に被害はないが、ラグナと交信が出来ない事が判明し別の銀河まで飛ばされたのかと思い、アーネストはアラドをブリッジに呼び状況を説明する。

 

「つまり、現在此処は見知らぬ宙域という事ですか」

 

「恐らくな。ラグナと交信が出来ない今、艦内にある物で何とか「艦長!」どうした?」

 

アラドとアーネストが相談している中、突然ブリッジオペレーターのミズキが大声で艦長を呼んだ。

 

「レーダーにイチカ中尉の機体反応がありました! 此処から12時の方向からです!」

 

その言葉を聞いたアラドは息子が生きている事に驚きと歓喜が沸き起こった。

 

「本当か! アーネスト艦長!」

 

「うむ。これよりエリシオンはイチカ中尉の機体の反応があった方角に進む。各班は第2種戦闘態勢でいる様伝えろ!」

 

「「「了解!」」」

 

アラドも急ぎ格納庫に向かい、イチカが生きているかもしれない事を報告しに向かった。




次回予告
謎の穴によって何処かに飛ばされたエリシオン。そしてイチカの機体があった方向へと進むと其処には地球があった。アーネストはデルタ小隊、そしてワルキューレの出撃を指示し、アラド達は地球へと降下していった。
次回
再会へのカウントダウン~いっくんの事これからもよろしくね~


現在アンケートの方実施しているので、お時間がありましたらお答えいただきますとありがたいです。

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