「この前は訓練できなかったから今日こそはやるぞ」
そう言いながらイチカは、マドカと共にアリーナへと向かっていた。
「そう言えば、あの日以降例の男装女子見掛けないね」
マドカが思い出すように言うと、イチカも確かにと同意するように思い出す。シャルル事、シャルロットは先日の模擬戦以降、一度も見掛けていないのだ。簪の友人が1組にいるらしく、その子が言うには風邪をこじらせたため暫く部屋で休んでいると、2人は簪に教えてもらったのだ。
「まだ仮病と言う名の病気に掛かってるんじゃないのか?」
「どうなんだろうね。……何か作戦でも考えているなら早急に叩き潰したんだけど」
「向こうが絡んでこないだけでも、いいじゃないか。絡んで来たら撃滅すればいいだけだしな」
そう言いながらアリーナへと到着した2人。早速前回出来なかった訓練をやろうと、的を適当に置いていると、隅の方で訓練していた生徒達が驚いた様な声をあげながら、ある物を見ていた。
「ねぇ、あれって?」
「うん、ドイツの最新機体だよね」
「まだトライアル中だって聞いてたわよ」
そんな声が聞こえ、イチカとマドカは生徒達が向けている視線の先を辿ると、黒い機体を身に纏った銀髪の生徒が自分達の方へと向かっていた。
「イチカ・メルダース、私と勝負しろ!」
そう宣言してくるが、イチカとマドカはえぇ~と面倒くさいと言った顔で呟く。
「悪いんだが、また今度でもいいか? 今から訓練したいんだよ。前回できなかったから」
イチカはそう提案するが、銀髪の少女は拒否と受け取ったのか表情を歪める。
「だったら戦うしかない様にしてやる!」
そう叫びキャノンをマドカの方に向け放つ。放たれた弾はマドカが居たところに着弾し、爆風が起きた。
「キャーーー!?」
突然の事に隅の方にいた生徒達は悲鳴を上げる。銀髪の少女はこれで戦うと思っていた。
「ふん。お前の妹は容易くやられたな。さぁ今度はお前だ!」
そう叫ぶが、イチカの表情をうんざりと言った表情だった。
「はぁ~、また訓練出来なくなったじゃねぇか。どうするマドカ?」
そうイチカが言うと、煙からはISを身に纏った無傷のマドカが立っていた。
「どうするも、アイツがやった行為ってさ規則違反だから、あの人達が如何にかしてくれるんじゃない?」
そうマドカが顔を向けたところには教師部隊が立っており、先頭にはエリシアがISを身に纏った状態で立っていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒさん。学生規則第45条の違反として一緒に来てもらいます。拒否した場合は強硬手段をとる。すぐにISを解除しなさい」
そう言われ、ラウラと呼ばれた銀髪の少女はチッと舌打ちをしてISを解除した。そして複数の教師に囲まれ、拘束用の手錠を掛けられ連れていかれた。エリシアはイチカとマドカの傍に向かう。
「2人とも大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「大丈夫。そう言えばどうして私達が攻撃を受けたって分かったんですか?」
そう言いながらマドカは肩に付いた埃を掃う。
「篠ノ之博士から銀髪の生徒が2人の元に向かっているって情報を貰ったのよ。で、仲のいい教師たちを連れてここに来たって訳。『ピピピピ』ん? はい、エリシアです。……何ですって! 何で解放したの! ……分かった、私が後で訳を聞いておくから、皆は先に戻ってて」
突然掛かってきた電話にエリシアは怒鳴り、そして電話を切った。
「どうしたんです?」
「……さっき拘束したラウラ・ボーデヴィッヒさんを、織斑が勝手に拘束を解いたのよ。自分がちゃんと言い聞かせるって言って」
エリシアはイラついた表情を浮かべる。
「はぁ~、また絡まれる可能性ってありますよね?」
「恐らくね。2人共、もし訓練するなら私に一言くれる? くれたら陰ながら警護するし」
「助かります。そう言えば本来こういった事態は、アリーナを監視している教師が事前に止めるはずですよね? 何であいつが攻撃しようとした時、止めようとしなかったんだ?」
イチカがそう呟くと、エリシアは驚いた表情を浮かべる。
「イチカ君、それは本当?」
「えぇ。此処に居た生徒達に聞いてもらってもいいですよ」
「……分かったわ。情報ありがとうね」
そう言いエリシアはピットへと戻っていった。
「それじゃあ兄さん、訓練再開するか」
「そうしたいところだが、残念ながら時間切れだ」
そう言い、時計を見せる。マドカは時計を見るとアリーナで訓練できる時間を既に過ぎており、マドカははぁ~。と息を吐く。
「……また出来なかったね」
「……本当だな。俺、この学園に来るのは間違っていた気がしてきた」
そう呟きながら2人はアリーナを後にした。
次の日、イチカは次の授業が始まる前にトイレにと、クラスから少し離れた男性用トイレへと向かっていた。その途中、イチカは廊下の途中にある中庭で2人組が何か話している声が聞こえた。
「……先日は申し訳ありませんでした」
「もういい。二度とあのような事はするな」
ラウラは頭を下げ、了承する。そしてラウラはあるお願いを千冬に出す。
「……織斑教官、お願いがあります」
「ドイツに戻るつもりはないぞ」
「!? なぜですか! 此処に居る奴らはISを只のイヤリングだとか装飾品としか思っていません! このような所で貴女の才能を発揮できないのは、私は遺憾でしかありません! だから―――」
「ほう、言うようになったな小娘が」
「ッ!?」
千冬から滲み出る殺気にラウラは体を硬直させうなだれる。
イチカは自分には関係ないことかと思い、そのまま廊下を歩き過ぎて行く。
「い、一夏」
そう声が聞こえ、首を少しだけ後ろへと向けると、中庭から入って来た千冬が何か言おうとしていた。だがイチカはそんなのを無視して歩き出した。
「ま、待て一夏!」
そう言い千冬はイチカの腕を掴もうとしたが、イチカはその腕を払う。
「話しかけないで貰えますか、織斑先生」
そう言いイチカはその場を去って行った。
「待ってくれ一夏!」
そう叫び、もう一度腕を掴もうとしたが
「メルダース君、此処に居たんですね」
廊下の角から出てきた学園長がそれを阻止した。
「何か用ですか、学園長」
「えぇ。学園の警備依頼の事で少し伝達事項があるのでお昼休み第1会議室に来てもらっても宜しいですか?」
「分かりました」
そう言いイチカは学園長に頭を下げてから去って行った。学園長は去って行ったイチカの後姿を見送った後、鋭い視線を千冬へと向ける。
「織斑先生、彼には授業以外では話しかけるのは禁止だと言ったはずです」
「……申し訳ありません」
「次はありませんからね」
そう言い学園長は去って行くと、千冬は拳を握りしめた。
次回予告
アリーナでの一件から数日後、学園上層部が突然個人別トーナメント戦をタッグマッチトーナメント戦へと変更した。イチカはマドカとペアを組み、試合へと臨む。
次回
タッグマッチトーナメント戦