歌と共に舞うひと夏   作:のんびり日和

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8話

噂の転校生が入ってきて数日が経ったある日。イチカとマドカはアリーナへと向かっていた。

 

「訓練に付き合ってくれて悪いな、マドカ」

 

「別にいいよ」

 

そう言ってる間に2人はアリーナへと到着し、ISを身に纏ってフィールドへと出た。

 

「それで兄さん。今日はどういった訓練をするんだ?」

 

「そうだなぁ、空中で回避行動しつつ的を射抜く訓練かな」

 

そう伝え、イチカは倉庫から的を持ってきてあちこちに置いていると、ピットから一機のISが現れた。

 

「えっと、ちょっといいかな?」

 

そう呼ばれ2人は顔を向けると、其処には色違いのラファールを身に纏ったシャルルが居た。

 

「何の用?」

 

「えっと、メルダース君と模擬戦してみたいなって思って、ダメかな?」

 

マドカの問いにシャルルは申し訳なさそうに頼むが、イチカは若干嫌な顔で答えた。

 

「……悪いんだが今から訓練するところなんだが、今度でもいいか?」

 

「えっと、そこを何とかお願いできないかな?」

 

イチカはこれしつこく頼んでくるパターンだなと思っていると、隣にいたマドカが案を出した。

 

「でしたら私と模擬戦をしてください。兄さん以外の男性とはやったことが無いので」

 

「え? ま、まぁそれでもいいけど」

 

決まりですね、とマドカはそう言い管制室にいる教師に通信し、模擬戦をする申請を出す。そしてイチカはピットへと移動し、模擬戦を見守る。

 

『ではこれより、模擬戦を行います。ルールは通常試合と同じで、どちらかのSEが尽きたところで勝負ありとします。ではカウント5秒前!』

 

審判役の教師のカウントを聞きながら2人はそれぞれの武器を展開する。

 

『1、……試合開始!』

 

その合図とともにシャルルは、ヴェントを展開し攻撃を加えてくるがその前にマドカは間合いを詰めた。

 

「!? だったら!」

 

シャルルはシールド・ピアースを展開し接近してくるマドカを貫こうとしたが、背後から突然攻撃を受ける。

 

「グッ! まさかビット兵器!?」

 

シャルルは何時の間にか配備されていたビット兵器に驚きつつもその場から逃げようとしたが、ビットに一瞬気をそらされた所為で自身の懐に、潜り込まれている事に気が付か無かった。

 

「しまっ!?」

 

「遅い!」

 

そう叫びマドカは近接ナイフでシャルルを斬りつける。その結果シャルルは大幅にSEを削られた。

 

(……つ、強い!)

 

シャルルは自分の腕には自信があった。だが今目の前にいるマドカは自身のそれ以上の腕を持っていた。

 

「そろそろ終わらせます」

 

そう言いマドカは、ブースターを吹かし一気に接近する。

シャルルは接近してくるマドカを向かい討つべく、アサルトライフルなどを展開し接近を許すまいと弾幕を張るが、接近できなければビットを展開し遠距離から攻撃を加えるなどをして着実にSEを削られ遂に、シャルルのISのSEが底をついた。

 

『そこまで! 勝者マドカ・メルダースです!』

 

そう宣言され双方ISを解除し、地面へと降り立った。

 

「……つ、強いねマドカさん」

 

シャルルは疲れ切ったような顔でそう言うと、マドカは当然と言った表情で返す。

 

「当たり前じゃん。素人とPMC所属の人が勝負しても結果は明らかじゃん」

 

「さて、2人の模擬戦でアリーナを借りられる時間がほとんど無くなったからな。出した的とかの後片付けをしてくる」

 

そう言いイチカは的を片付けに行った。マドカもそれに随伴するように一緒に行く。

シャルルも手伝おうとしたが

 

「別にいいぞ。疲れた奴に更に労働をさせるほど俺は鬼じゃないんでな」

 

そう言われシャルルは仕方がなく、ピットへと戻り着替えに行った。

 

更衣室へと入ったシャルルことシャルロットは着替えている最中、背後に人の気配を感じ振り向くと其処には機械のうさ耳をした女性が立っていた。そう束である。

 

「だ、誰ですか!?」

 

それを知るもしないシャルルはISを展開しようとするが、その前に束の手に早く腕を掴まれ、動けないよう拘束される。

 

「動くな、叫ぶな、産業スパイ君? いやスパイちゃんの方が正しいかな?」

 

束はニンマリと黒い笑顔をシャルルに向けながらそう聞くと、シャルルは慌てるように否定する。

 

「ぼ、僕は男「下手な嘘つかない方がいいよ。とっくに分かってるんだから」!?」

 

束の目は殺気を含んでおり、シャルルは体を強張らせながら大人しくする。

 

「さて今から言う質問に正直に答えて。あぁ、喋っちゃダメだから。……君は男ではなく女。間違いないね?」

 

束の質問にシャルルは大人しく首を縦に振る。

 

「次の質問、君は会社からいっくんのISから情報を盗むよう命令された。合ってる?」

 

次の質問にもシャルルは首を縦に振った。

 

「じゃあ次の質問、今から言う事にどっちがいいか答えて。1、このまま此処で私に殺される。勿論死体なんて此処には残さないよ。どこか別の、そうだなぁ。君の母親が眠っているお墓に一緒に埋めてやるよ」

 

「!?」

 

束の提案にシャルルは激しく首を横に振った。

 

「2、学園にさっさと自分がスパイをする為に偽装して入学して来たと、正直に告白する。勿論告白したらスパイ行為で逮捕されるかもしれない。どっちが良い?」

 

そう聞かれシャルロットは震える唇で何とか口に出す。

 

 

「……に、2が良いです」

 

「……分かった。ならさっさと言いに行け」

 

そう言い束はシャルロットを廊下へと突き放す。転んだシャルロットは、更衣室の方へと顔を向けるが其処にはもう束の姿が無かった。だが突然声が響いた。

 

『肝心なことを伝えるのを忘れてたよ。お前の右手にチョットした物を付けといたよ』

 

そう言われシャルロットは自身の右手を見ると、其処には銀色で装飾された腕輪が付いていた。

 

『それはお前の位置、会話などを全て私が聞ける物だよ。しかも爆薬付きだ。お前がもし選択した行為とは違う事をした瞬間に、その腕を爆発させる。因みにその爆薬結構威力があるから人一人殺す事が出来るからね』

 

そう言われシャルロットは体をガタガタと震えさせながら腕輪を見つめる。

 

『君がちゃんとスパイ行為を目的に入学してきたと学園の職員に言えば、その腕輪を外してやるよ。それじゃあバイビ~』

 

その言葉を最後に声は聞こえなくなり、シャルロットは膝から力が抜け崩れ落ちる。そして束から当てたらた殺気で乱れた呼吸を整える

 

「はぁ、はぁ、はぁ。……い、急いで行かないと!」

 

そう呟き、シャルロットは急いで職員室にいる教師に自分の正体を暴露しに走った。

 

シャルロットが去った後、柱の影から束はクスクスと笑いながら出てきた。

 

「まさか暇で作った玩具の腕輪があんな役に立つなんて思いもしなかったよ」

 

そう呟きながら束はその場から去って行った。




次回
模擬戦乱入者~また訓練できなかったじゃねえかよ~

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