イチカとマドカはアリーナから学長室がある場所へと向かっていた。そして学長室へと到着し扉をノックする。
『どうぞ、お入りください』
そう中から聞こえ、イチカとマドカは中へと入る。学長室へと入ると、現場指揮を任されていた千冬、そして管制室にいたであろうエリシアと緑髪の教師と専用機持ちの2組の凰、1組のセシリア、4組の簪が居た。
「御足労いただきありがとうございます」
「いえ、こちらも依頼を受けた身。依頼主に報告するのは当たり前なので」
そう言いイチカは報告を始める。
「では、報告を始めます。学園長がエンシェントセキュリティー社に依頼後、社長から自分達に依頼の事を伝えられ、ピットへと行き出撃しました。アリーナへと出ると更識代表候補生と凰代表候補生が、アンノウンと交戦中で2人の機体は既にボロボロだった為、2人をピットへと退避させマドカと共にアンノウンと交戦しました。交戦の最中、敵が装備していたビーム砲をマドカが破壊したところ、本来人が乗るところが機械で埋め尽くされており、無人機と判明し、単一機能を用いて撃破しました。報告は以上です」
「……そうですか。無人機についての詳細を山田先生、お願いします」
学園長はそう言い緑髪の教師、山田真耶にアンノウンの詳細を報告させる。
「はい。あのISには確かに人は乗っていませんでした。機体についての詳細なんですがコアは何とか無事でしたが、他が相手に知られないようにする為なのか分かりませんが、ほぼすべてが黒焦げの状態でデータの抽出は恐らく無理だと思います。コアの方も初期化されており、分かったのはコアに残っていたシリアルナンバーで、調べたところ2年前イスラエルにあるIS研究所で盗まれたコアだと判明したことだけです」
「……そうですか。分かりました、では今回の件は皆さん学外に漏らさないようお願いします。エンシェントセキュリティー社側も今回の件を外部に漏らさないようお願いしてありますので」
そう言い学園長は全員退室してもいいと言おうとしたところで、セシリアが手をあげる。
「学園長、少し宜しいでしょうか」
「何か? オルコットさん」
「彼女の持っているISの事です」
そう言いセシリアはマドカに指さす。マドカは怪訝そうな顔を浮かべており、イチカも同様だった。
「マドカさんのISがどうかしましたか?」
「……彼女の持っているISは我が祖国、イギリスで開発されていたサイレントゼフィルスです。テロリストの襲撃で盗まれたと聞いてましたが、何故貴女がその機体を持っているのか、それを聞きたいのです」
そう言うと周りにいた人は全員マドカの方へと視線を向ける。マドカは呆れたような顔つきでため息を吐く。
「何だそんな事か」
その言葉にセシリアは頭にきて、声を荒げる。
「そんな事ですって! その機体は元々我が祖国の物です! 即刻返しなさい!」
「この機体はもう私の専用機になってる。返してほしかったら会社に連絡して返還用の手続きをとれば? けどその代わりお前が国から怒られるのが先だと思うけどな」
「な、なんですって?」
セシリアはうろたえるようにそう聞くと、マドカはめんどくさいと言った目つきで答える。
「だって、この機体をテロリストから奪還したのはうちの会社なんだよ? で、私のBT適性値が高いことが分かったから機体を売ってくれって社長が言ったら喜んで売ってくれたよ。つまりこの機体はうちの会社が政府にちゃんと手順に則って買い取った機体だから」
そう言いマドカはイチカに帰ろ。と言い帰ろうとするとセシリアは納得できないのか声を荒げる。
「待ちなさい! そんなことで納得できるはずないでしょ!」
「そんなに信じられないなら、国の役人に聞いたらどうなんだ?」
イチカはめんどくさいと思いながらそう促すが
「黙りなさい! 男の癖にわたくしに指図しないでくださる?」
そう言うとイチカはあ、バカ。と思ったと同時にセシリアの首が何者かに捕まれ持ち上げられる。
「……お前、今兄さんに何て言った?」
セシリアの首を持ち上げていたのはISを展開したマドカだった。
「もう一度聞く。今兄さんに何て言った?」
マドカは殺意の篭った目をセシリアに向けながらゆっくりと首を絞めて行く。
「あがっ!…、がっ!……」
セシリアは必死に首を絞めている手をどかそうとするが、相手はIS。外れることは出来ず、成す術なく只足をバタつかせることしかできなかった。
「マドカ、その辺にしておけ」
イチカがそう言うと、マドカはISを解除する。セシリアは床にドサッと落ち、むせるように呼吸を整える。
「……マドカさん、今回は目を瞑っておきますがあまりそう言ったことはしないようお願いします」
学園長は冷や汗を額から垂らしつつそう促すと、マドカはフンッ。と鼻を鳴らして踵を返し、イチカと共に学園長室から出て行く。
「山田先生、彼女を保健室へ」
「は、はい!」
そう言い真耶は、セシリアに肩を貸して保健室へと連れて行く。その後簪や凰も退出してもいいと伝え、残った2人に学園長はあることを伝える。
「さて、貴女方に残ってもらったのは他でもありません。イチカ君とマドカさんの事です。」
「イチカ君達が何か?」
エリシアがそう言うと、千冬が進言する。
「学園長、メルダース兄妹の機体は提出されたデータと大きく違いがあると思われます。再度こちらで調べ直す必要があります」
そう言うと、学園長は大きく息を吐く。
「……織斑先生、彼らはPMC所属の生徒です。実戦経験があるかどうかは分かりませんが、元軍人などが所属しているPMCなどではこのような事態にも対処できるよう訓練されているはずです。その為提出されたデータは基本的な機体性能で、戦闘になった際のパイロットの技量などを含めたら、提出されたデータと大きく誤差が出るのは当たり前です。その為調査の必要はありません」
そう言われ、千冬は奥歯を力強く噛み締める。
「では続きを話します。エリシア先生、今後こう言った事態に陥った際に恐らくまた彼らに依頼を出すと思われます。その為彼らには学園長権限で特例の学園警備権限を与えようと思っております」
「それはつまり、彼らに教師部隊の様に学園の警備に出てもらうってことですか?」
エリシアがそう言うと学園長は頷く。
「そうです。その際に学園警備の主任は今織斑先生になっておりますが、彼らに指示を送るのはエリシア先生、貴女にお願いしたのです」
学園長がそう言うと、真っ先に千冬が反対した。
「待って下さい! 学園の警備主任は私です。それなのになぜ私ではなく、彼女に任せるのですか!」
「この際ですから、エリシア先生の本職を話しておいた方が宜しいのでは?」
学園長がそう言うと、エリシアはそうですね。と同意し、自身の所属を明かす。
「私はエンシェントセキュリティー社から派遣された社員よ。メルダース君達が問題なく学生生活が送れているか、その観察と我が社の社員に侮辱等を行ってくる人間が居ないかの監視を社長から頼まれて、此処に居るの」
「な、なぜこのような人物を入れたのですか!」
「先ほど彼女が言った通り、世界初の男性操縦者という事なので、妹さんだけ警備につかせていても不安があるという事なので彼女も学園に所属させたいと、先方から頼まれたので受け入れた次第です。現に問題を起こしている教師や生徒が居るようなので受け入れてよかったと思っておりますし」
学園長からの鋭い視線を受け、千冬は視線を逸らす。
「では、話は以上です。エリシア先生、彼らにもこのことは伝えておいて下さいね」
「えぇ分かっております。では」
そう言い、エリシアは学園長室から出て行った。
「……では、私も」
千冬もそう言い出て行こうとしたが
「待ちなさい。貴女には色々と聞かないといけないことがあるので、もう暫く此処に残ってもらいます」
「聞きたいこと? 何ですそれは?」
「エンシェントセキュリティー社に許可なく、メルダース君のISを製造したことです」
そう言われ、千冬は体を強張らせた。
「エンシェントセキュリティー社から、抗議の電話が来ましてね。一体どういう事なのか詳しく聞かせてもらいますよ」
その後、千冬には1年間の減俸とイチカに授業以外の話しかけ禁止を言い渡された。
その頃イチカとマドカは廊下を歩いて食堂へと向かっていた。
「マドカ、あの金髪の首を絞めたのは俺が侮辱されたからか?」
そう言うとマドカは特に返事することなく、首を縦に振る。
「そうか。……ありがとうな」
そう言いイチカはマドカの頭を撫でてやった。マドカは怒られると思っていたのかイチカの手が頭に乗った瞬間、体が一瞬ビクッとなったが撫でる行為だと分かると大人しく受けていた。
「ねぇ、ちょっといい?」
そう声を掛けられ、2人は後ろを振り向くと鈴が立っていた。
「何か用か凰さん?」
「私の事は鈴で良いわよ。ちょっと話があるんだけど、いい?」
そう言われイチカはマドカにお金を渡し、トンカツ定食を頼んでおいてくれと頼み鈴と共に屋上へと行く。
屋上へと着いた鈴は柵の方へともたれるように立つ。イチカは向かい側で立っていた。
「で、用ってなんだ?」
「うん。アンタって織斑一夏じゃないの?」
そう言ってきてイチカは怪訝そうな顔を浮かべる。
「何でそう思ったんだ?」
「そりゃあ何となくかな? 小4の頃から一緒にいたからそう思っただけ」
そう言うとイチカは屋上の入り口に目線を一瞬目線を向けた後、目線を戻す。
「悪いが、人違いだと思うぞ」
そう言うと鈴は、何か言いたげな表情を浮かべるが、口をつぐむ
「……そう。分かったわ。ごめんなさいね、手間とらせて」
「いや、構わない。じゃあな」
そう言い屋上を後にするイチカ。鈴は悲しそうな顔を浮かべつつ夕日を眺める。
屋上の出入り口の扉を開け、建物内に入ったイチカは陰に隠れている人物に向け、言葉を投げる。
「コソコソするのは構わないが、あまりそう言ったことをすると間違えて撃つかもしれないので、用があるならちゃんと面と向かって言ってくれ」
そう言い階段を降りて行く。影から現れた人物は簪と同じ水色の髪をした女性だった。
「……そうね。面と向かって言える日が来たらちゃんとお礼を言うわ」
屋上を後にしたイチカは、食堂で待っていたマドカ、そしてその隣には簪がおり、イチカも席に着いて一緒に夕飯をとった。
その夜、イチカは鈴をもう一度屋上に呼び出した。
「悪いな、今度はこっちが呼び出して」
「別に良いわよ。で、用って何よ」
そう聞かれ、イチカは簡潔に言うぞ。と言う。
「夕方、お前が言った通り俺は織斑一夏だ」
そう言うと鈴ははぁ?と言った顔になる。
「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんであの時違うって言ったのよ」
「いや、俺達以外の人が居たからな、あぁ言わざるを得なかったんだよ」
「な、なるほど」
鈴は納得するよう頷き、拳を握り締めるが、直ぐに解く。
「で、アンタこの2年何処に行ってたのよ? めちゃくちゃ心配してたのよ?」
「悪いが、それは言えない。それと―――」
「分かってるわよ。織斑はもう捨てた名だ。でしょ。何年アンタと付き合ってたと思ってるのよ」
そう言われイチカはフッと笑みを浮かべる。
「……それよりさイチカ、一つ聞いてもいい?」
「なんだよ急にしおらしく聞いてきてよ?」
イチカは頭に疑問符を浮かべていると、鈴は言いづらそうな顔になりつつも必死に口を開く。
「その、この2年にさ、す、す、好きな人とかって出来たの?」
「はぁ? 何だよいきなり?」
「い、いいから答えなさよ!」
そう怒鳴られ、イチカは怪訝そうな顔になりつつも答える。
「あぁ、いるよ」
そう言うと鈴は一瞬驚いたような表情を浮かべ、直ぐ乾いた笑みを浮かべる。
「そ、そっか、いるんだ。……その、その子大切にしないさよ」
そう言われイチカはさっきから何なんだと疑問に思いつつあぁ。と答える。
「そ、それじゃあ私部屋に帰るね」
「お、おう」
イチカの返答を聞いた鈴は、屋上を後にして寮へと入って行く。鈴は段々と歩きが早くなり気づいたら走って部屋のベッドで寝ていた。そしてイチカに恋人がいる事を思い出した鈴は隣で本を読んでいたティナが驚くほどの大声で泣きだす。暫くして泣き止み、スッキリとした顔で風呂へと向かった鈴。親友のティナは何だったんだ一体と疑問を思いながら風呂へと向かう親友の背中を見送った。
次回予告
学園はGWに突入し、イチカとマドカはISの整備の為エンシェントセキュリティー社へと戻った。ISの整備中、イチカは久々に乗るかとバルキリーに乗り込む。するとマドカが格納庫に現れ、一緒に乗ると言いイチカは乗せ、空へと飛び出す。そしてGW終了後、学園にまた転校生がやって来た。
次回飛ぶ楽しさ~ISと違って楽しいぞ!~