区切りが悪くて、文字数がいつもより少いです。前が2800字ぐらいなのに対し2200字ぐらいになります。
グラスに入った氷がカランと音をたてる。薄暗バーのカウンターには雄英の制服を着た少女が空になったグラスを目の前のモヤの男、黒霧につき出す。
その少女の横に座る猫背の男はカウンターにうつ伏せになっている。
「もう、一杯お願いします」
「……貴女、どんだけ飲むんですか…………。もう、そのぐらいにした方が良いと思いますが……」
「大丈夫です。あっ、あれ飲んでみたいです。ほら、マティーニとか。ね!死柄木くん」
横に座る死柄木の背中をトントン叩きながら、いつもよりほんのり赤い頬を緩ませ機奇は笑う。
だが叩かれる死柄木は反応らしい反応はせず、静かに横目で機奇を見るだけだ。その顔は機奇より数段赤く誰が見ても酔いが回っている事が分かる。
「あれ?死柄木くん?もう、ギッブ?」
「…………煩い……」
「ほら、どうしたの?死柄木くんが誘ってきたのに~?」
「…………もう、無理……。……なんで、お前……平気なんだよ……」
「ハッハハハ。まだまだ、いけるね!」
こうなった原因は、冗談半分に死柄木が機奇を酒を飲まないかと誘ったからだ。最初はニヤニヤ笑いながら飲んでいた死柄木だが、予想外に機奇が酒に強く。逆に死柄木がダウンしてしまったのだ。
その成り行きを見た黒霧は作ったカクテルを機奇に出しながら、静かにため息を吐いた。
「機奇貴女、明日学校があるのですからこれぐらいにしといた方が良いですよ」
「うん~……。そうだね、もっと飲みたいけどこれで終わりにしとくよ」
そう言いグラスを傾けくいっとまるで水を飲むように飲み干す。そして、「あのさぁ」と機奇は鞄から絵の書かれた紙を取り出す。
「名も売れてきたし、【チラバラシ】のコスチュームを作ろうかなぁと思うんだよね。これ代案」
「コスチュームですか……」
はて、ヴィランにコスチュームは必要なのだろうか?と言う疑問はこのさい置いておき。黒霧は紙に目をやる。
全体的に黒が印象深いマジシャンの様な服装。頭にちょこと乗せるような小さなシルクハットの帽子に黒の燕尾服似の裾の長いコート、中に着込むは灰色のシャツに黒と青のベスト。下は黒のズボンに革靴。
「なんと言いますか……派手ですね」
「フッフフン、結構自・信・作☆」
派手だと言う黒霧の認識は正しいだろう。確かに黒は目立ちにくい色だろうが、彼女の提案した服装はその効果を意味無くするものだ。
それ自体は彼女の好みだからと否定的な意見をしない黒霧だがフッと疑問に思う。
「これ、男物ではありませんか?」
「おぉ、流石黒霧さん。よく分かりましたね」
そう、女が着ても問題はないだろうがこのコスチュームは男が着るものに感じる。
機奇は説明するように口を開く。なんでも、チラバラシは男であった方が似合うからだと。機奇は機奇自身を支配し、他人になることは出来ないが性別を変えることが出来る。そこでこのコスチュームだ。
「神出鬼没ってキャラ付け面白くないですか?」
「はぁ、そうですか……」
「でも、顔バレしちゃうから何か顔に着けないと」
強盗がつけるようなマスクではキャラが崩れる。マスクとグラサンも駄目だ。
「……仮面でも……つけりゃあいい……だろ」
「おっ、そうですね!ナイスアイデアです、死柄木くん」
項垂れる死柄木の背中を機奇はバシバシ叩く。普段の死柄木ならその叩く手を掴み崩そうとするだろうが、今は酒が回っており睨むだけに止める。
しかし、死柄木が抵抗しないことをいいことに機奇は笑いながら彼の頭をアハハハと撫でる。癖毛っのある髪を気に入った機奇は一通り撫でた後、「じゃあ、また」と言って家に帰っていった。
なんとも自由奔放な彼女であった。
翌日、眠気眼に学校に登校し机に伏せていた彼女の前に筋肉隆々のアメリカンチックの男が教室に現れた。
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
機奇は半開きであった目を見開く。
平和の象徴と名高い【オールマイト】。それを目の前にして機奇の目に悦びと憎悪のどす黒い火が灯る。あることによりヒーローそのものを憎む機奇だが、そのヒーローNo.1に立つオールマイトを見て少しばかし動揺する。
普段ヒーローと対峙する時とは何かが決定的に違う違和感を覚えたからだ。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ!」
高らかに宣言するオールマイトを機奇は静かに見つめる。そこには感情がなく冷たい笑みを浮かんでいた。
「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!」
機奇は盛り上がる生徒達の中、自身の言い様のない感情に戸惑っていた。表情は笑顔ながらも、その実内面はかなり荒れていたのだ。
意味が分からない。何が分からないのかが分からない。理解できない。決定的に違うこと。機奇が今まで殺してきた者達との違いとは何だろうか。
殺意が湧かない訳ではない。なんなら今すぐにでもその喉元目掛けて切り裂いてやりたく思う。
苛々する。
機奇には珍しく感情の波が荒立った。前日ヒーローを殺した時でもこうも意識が揺れることは無かった。自分自身の理解できない感情に機奇は、ただただ喉に小骨が引っかかる様なジリジリと焦がす苛立ちを覚える。
「四罪忌ちゃん、皆着替えに行ってるわよ?」
「あっ、あぁ。ちょと考え事をしていて……行こっか!」
「そうね、皆のヒーロー着気になるわ」
「梅雨はどんなの?」
機奇はいつもと変わりなく瞬時に猫を被る。その変わり身の速さは目を見張るものだ。
そして、皆の後に続きながら感情の整理をする。
アニメを見た勢いで書きました。いつもこのぐらい筆が乗ればいいのに、と思う作者です。次は死柄木さんが出ないので更新は遅くなると思います。