鬼ヶ島 太郎と姫子の大冒険   作:越路遼介

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三つの宮水

 京の都で宮水を探しだすよう定められた太郎は都に入った。仲間のりんごと歩く。

「そういえばりんご、今まであまり考えなかったけれど『宮水』ってなんだ?」

「特別な力が含まれた清水…とでも考えて下さい。しかし普通の人間や動物では飲んでも、ただの清水と聞いています。しかし龍宮人が触れると、その力に反応して光を発し、飲めば少しくらいの病は治ると聞いています」

「じゃ、この腕輪で宮水かどうか分かるわけか」

「その通りです」

「しかし都と言っても広いしなあ…」

「そうですねえ…」

 都の中心部にやってきたが、国府と思えないほどに何とも閑散としていた。おじいさんの話ではたくさん人がいるはずなのに誰もいない。

「誰もいないぞ」

「静まりかえっていますね。京の人々はみんな鬼の手から逃れるべく避難したのでしょう」

 もう、都に残っている人はいないようだ。太郎とりんごは京の町を歩く。やがて京都御所に至った。

「うわぁ、ずいぶんと長い壁だなぁ」

「太郎さん、これが京都御所ですよ。この国の帝がお住まいになっているところです」

「その帝さん、鬼や竜にやられてしまったのかな」

「おそらく…。京の人々が揃って避難を始めたのは帝が討たれるか、もしくは魂を取られてしまったがゆえと思います。もう駄目だ、と思ったのでしょう」

「みんなでやっつけようと思わなかったのかな」

「最初は思ったことでしょう。しかし人智を超える強さの鬼と竜にどうしようもなかったと思います」

「でも、おいらはやる。姫子と、おじいちゃんおばあちゃんを助けて、竜を封印するんだ」

「その意気です。あ、太郎さん、あれが御所の門です。やっぱり鬼が番をしていますね」

 

「はあろう、太郎」

 聞き覚えのある変な言葉。太郎は振り向いた。

「金太郎」

 サングラスを外した金太郎。太郎に歩む。

「やっとここまで来たか」

「おいらが太郎と分かるのか?」

「分かるさ。あのだぶだぶの服がしっくりいっているな」

「いきなり大きくなったんだおいら」

「ひのえ様の『打ち出の小槌』によるものだな。まあ、それはいい。いいか太郎、よく聞け」

「うん」

「姫子は御所の宝物殿に閉じ込められている」

「ええ!」

「宮水を探すと同時に助け出せ」

「その前にお前!それを知っていて何で姫子を助けてくれないんだ!」

「前に言わなかったか。俺はお前と姫子を助けない、助けられないと」

「何でだよ!」

「お前がすべてやらなければならないことだからだ。今に分かる」

「分かんないや!こうしているうちに姫子が酷い目に遭ったらどうするんだ!んもーアッタマに来た!あの時はお前より小さかったから負けたけど今はもう負けないぞ!!」

 太郎と金太郎の間にサッとりんごが入った。

「太郎さん、姫子さんのいる場所を教えてくれただけでも感謝すべきですよ」

「だけどりんご!」

「我らの敵は鬼と竜です」

 プクとホッペを膨らませ、への字口をして太郎は金太郎の前から歩き去った。金太郎は苦笑した。

「ふん、俺より大きな体になったくせに、まだ子供だな」

「体躯は立派な少年になりましたが、中身はまだまだ子供です。無理ありません」

「りんご、お前もあいつのお守りをするうちに腰が据わってきたようだな」

「そ、そうですか?」

 

◆  ◆  ◆

 

 りんごは子犬のころ、ひのえを信仰する小さな村で心優しい老夫婦に拾われ育てられた。その村が鬼に攻め滅ぼされた。何とか主人たちを見つけようと焼け野原を駆けていた時、出会ったのが金太郎である。りんごは生まれてから何度か『ひのえ様』のお告げの夢を見ていた。

“りんご、そなたは来るべき時、二人の童子と共に竜と戦うのだ”

 しかしそんなお告げも主人夫婦と離れ離れになってしまった今はどうでもいい。途方に暮れて歩いているとマサカリを担いだ童子が熊に乗って向こうからゆっくり歩んできた。りんごとすれ違うとき、金太郎は変な言葉で話しかけてきた。

『はあろう、りんご』

『……?』

『まいねーむいず金太郎』

 警戒して金太郎を睨むりんご。サングラスを外した金太郎が犬にも分かる言葉で言った。

『何度かひのえ様のお告げで知っているはずだな。お前はこれから二人の童子と共に竜と戦う運命(さだめ)にある』

『……』

『その一人である少年が、この先で橋のたもとに泣きべそかきながら歩いてくるだろう』

『…?』

『お前はその少年が持つ“きび団子”をもらうのだ。そうすればお前は人語を理解し、先祖と同じく高い知識を持つ誇り高き犬の戦士となるのだ』

 金太郎はりんごの思念に直接語りかけたようだ。りんごはすぐに橋のたもとには行かず、老夫婦を捜し求めたが発見に至らず、馴染みのカラスから『お前の主人夫婦は生きていて山に逃げ延びている』と知らせを聞いた。すぐに向かおうとした時、ひのえのお告げを聞いた。りんごの頭に直接ひのえは語った。

『誇り高き犬の戦士りんごよ。今は耐えよ。お前を拾い育ててくれた心優しき主人夫婦のため、お前は立ち上がるべきなのだ。運命に従い二人の童子と共に邪悪の化身『竜』を倒し平和をもたらせ。結果それが主人夫婦を救うことになるのだ』

 踏みとどまったりんご。人間でもない、ただの非力な犬の自分にそんなことが出来るのか、そう思ったが足はすでに金太郎に言われていた橋のたもとに駆けていた。そして太郎と会い、きび団子をもらい、人語と知識に目覚めたのである。

 

 話は戻り京都御所。金太郎がりんごに言った。

「りんご、もう一人の使いの者が都に着いたはずだ。そろそろお前たちの前に現れよう」

「その方は我らに何を?」

「さてな、俺は姫子の居場所を教えに来ただけだからな」

「分かりました。お会いした時に訊ねてみます」

「さて」

 サングラスをかける金太郎。

「あっぷる、しーゆーあげいん」

 金太郎は御所の前から去っていった。すぐに太郎を追いかけたりんご。

「さて、太郎さん。宮水探しだけではなく、姫子さんも救出もしなければ」

「うん」

「でも正面からは行けませんね。鬼が門番しています」

「違う門はないかな」

 太郎とりんごは御所の周囲を歩いて入口を探した。すると御所の使用人たちが使用していたのか、小さな戸口を見つけた。門番はいない。りんごが塀のうえに登り様子を見る。

「大丈夫です、太郎さん。鬼はいません。井戸があるだけです」

「よし、入るぞ」

 井戸の前に歩く太郎。

「ちょうどいい、喉が乾いていたんだ」

 綱を握り、桶を上にあげる太郎。しかし上がってきたのは桶ではなく

『一ま~い…二ま~い…三ま~い…四ま~い…五ま~い…六ま~い七ま~い八ま~い九ま~い…一枚足りな~い…うらめしや~』

 何と女の幽霊だった。

「うぎゃーッ!で、出たーッ!!」

 一目散に逃げる太郎。慌てて追いかけるりんご。

「太郎さん!どこまで逃げるのですか!」

 御所からずいぶん離れてしまった。肩で息をする太郎。

「はあ、はあ…。お、おいらお化けは駄目なんだ」

「得意な人なんていませんよ。せっかく御所に入れたのに」

「ごめん戻ろう。でも井戸には触らず」

「でも、あの井戸の水、あやしいですよ」

「え?」

「ただの水ではない匂い…。腕輪を水につけましょう」

「宮水かもしれないと?でもお化けが出るし…」

「任せて下さい。今度出たら私が追っ払ってあげますよ」

 再び井戸の前に来た太郎とりんご。桶を上げようとすると幽霊が出た。

「りんご、今だ!」

「わんっ!」

『つ~…すり~…ふぉ~…ふぁいぶ…しっくす…せぶん…えいと…ないん…てん…?あっら~?十枚ある…?』

 幽霊は消えてしまった。どうやら成仏したらしい。

「お皿、九枚じゃなかった?」

「何とも嬉しい数え間違い。まあ成仏されたのなら良いではないですか。さあ、太郎さん、桶を改めて」

「うん」

 井戸から水を汲み出した太郎。そして桶に並々と満ちている清水に腕輪をつけた。すると腕輪は光り、その光は太郎を包んだ。不思議な空間だった。

 夜空、そしてどこや知れない地に立ち、広い地平線が見える。そしてその地平線の向こうに一際輝く星、かつておじいさんとおばあさんの夢の中で男の子と女の子が授かると告げた時に見た光景。それが太郎がいる場所だ。星は静かに語り出した。

 

◆  ◆  ◆

 

『…太郎よ、よく来た。ひのえである』

「あなたはお星様だったのか」

『これは仮の姿だ』

「教えてくれ。竜は、奴は何者なんだ?」

『…この世には二つの世界がある。彼奴はもう一つの世界、闇の世界の者だ』

「闇の世界?」

『闇と申しても“男と女”、“陰と陽”のように、いまお前のいる光ある世界と闇の世界もお互いを必要とする。しかし遠い昔、闇の世界にある一つの大宝玉が意思に目覚め光を闇に飲み込まんと、こちらの世界に飛び出してきた』

「宝玉?」

『それが龍の玉だ』

「そんな玉っころが何で巨大な竜に?」

『彼奴には体と云うものがない。人の魂を吸い取り、自らの体を作っているのだ』

「竜の体は人の魂で出来ているのか…」

『そうだ。魂は龍の玉に繋がれている。これを解き放てば彼奴の体は消滅するのだ』

「消えちゃうのか…」

『はるか昔、私は竜を討伐せんと一人の少女をこの世に生誕させた』

「それが乙姫なんだね」

『そうだ。乙姫には二つの力がある。私の雷を召還すること、そして動植物や昆虫を友とする力だ』

「すごい…」

『その力で乙姫は竜を玉手箱に封印したのだ』

「もう一度、やらなければならないんだね」

『太郎よ、宮水はこの一つだけではない。あと二つ、この都にある。探し出せ』

「え!?」

 太郎の腕輪の光り方が弱くなってきた。

「ま、待って!」

 ひのえの声は聞こえなくなった。そして元の井戸の場所にいた。しばらく呆然とする太郎。

 

「太郎さん」

 と、りんご。

「ひのえ様は何と?」

 ひのえの言葉をりんごに言う太郎。

「人の魂で己の体を…」

「だから鬼にどんどん魂を奪わせているんだな」

「急がなければなりませんね鬼ヶ島に」

「なありんご、おいらおじいちゃんに竜を倒すと言った。だから竜と戦うことになったのは別に良いんだけど、どうしておいらがひのえのような神様に選ばれたのだろう」

「それは私も分かりません。私とてどうして選ばれたのか分からないのですから」

「そうだよな」

「とにかく今は残る宮水を探し出すことと、姫子さんを助けることです」

「うん、じゃ行こう」

「あ、太郎さん。井戸の綱を持っていきましょう。綱は色々と役立ちますよ」

「そうだね」

 御所内の貴族が住んでいた一帯に来た太郎とりんご。しかし、かつて優美だった屋敷一帯も廃墟同然。鬼に破壊されたのだろう。

「見事に壊されたものですね。道具一つ落ちていません」

「あ、隠れろりんご!鬼が来た!」

 物陰に隠れた太郎とりんご。鬼たちは太郎たちに向かってきたのではないようだ。廃墟の中にきて地面を見て回っている。

「何か探しているようですね」

 やがて鬼たちは探しものをあきらめて去っていった。太郎とりんごは鬼たちがいた場所へ歩いた。特に何も見当たらない。しかしりんごが、

「太郎さん、この地面ずいぶんと冷たいですよ」

「冷たい?どれ」

 太郎は落ちていた板切れでりんごの言う場所を掘った。するとボコッと云う音と共に穴が開いた。下からやたら冷たい空気が流れてくる。

「太郎さん、これが鬼たちの探していたものかもしれません。降りてみましょう」

「よし」

 さっき井戸で手に入れた綱を壊れた家屋の基礎に結ぶ。十分に上り下りが出来る強度を確かめると綱の端末を穴に落とし、太郎は穴の中に降りていった。中は猫の額ほどの空洞だった。穴の上からりんご、

「太郎さ~ん、どうですか」

「うわぁ、何だここは。やけに寒いなあ…」

 空洞の中には四角で大きい氷がたくさん置いてあった。どうやら氷室らしい。太郎が入ったため外の空気も流れてくる。氷室内の温度が上がり、少し溶け出した。

「もしかして」

 太郎は溶けた氷の水を腕輪につけた。すると腕輪が光り、最初の宮水を見つけた時と同様の空間に行った。燦然と星が輝く。ひのえである。

 

「ひのえ!一つ聞きたいことがある!どうしておいらたちが選ばれたんだ?」

『…選ばれたのではない。これは運命なのだ』

「さだめ?」

『まだ分からないのか?お前たちがどのようにして生まれたか聞いたはずであろう』

「おいらと姫子は何者なんだ?どこから来たんだ?」

『…お前は犬や猿ですら出来た務めを果たすことが出来なかった。姫子の言ったことを守らず竜を解き放ってしまったのだ』

「い、姫子だって?」

『…竜を封じるため、お前たちは生まれ変わったのだ』

「わぁ~っ!待ってくれ!」

 ひのえの声は消えた。氷室の中で立ち尽くす太郎。

「どういうことなんだ。おいらが姫子の言ったことを守らなかったって…」

 

 太郎は地上に出た。りんごが迎える。

「太郎さん、二つ目の宮水を見つけたみたいですね」

「うん、もしかすると宮水は御所にすべてあるかもな。二つもあったんだから」

 しかし、使用人が使っていた戸口ゆえか、御所の中心部にどうしても近寄れない。要所要所には鬼がいる。先に進めない。

「どうしよう、りんご…」

「一度御所を出て作戦を練りましょう。ここでは鬼との遭遇を警戒しなければなりませんから、良い思案も浮かびません」

「うん」

 しばらく経ち、りんごが京都御所の東門へと歩いた。他の門は二人か三人の番がいるが東門の番の鬼は一人だけだった。りんごが鬼に近づく。気にもとめない鬼。しかし自分の足にいきなり小便をされて激怒。追いかける鬼を誘導するように走るりんご。そして

「…!?」

 鬼は落とし穴に転落。まだ動ける。這い上がろうとした時、“ごっちーん!”太郎が太い丸太で鬼の頭を打った。さしもの鬼も気を失った。

「やた!」

「さあ、太郎さん、作戦通り鬼の面と衣服を」

「うん」

 そう、太郎とりんごの立てた作戦は鬼に変装して御所の中に入ることだった。そのためには鬼一人を倒す必要があったということだ。裸にした鬼を気づかれないように隠した太郎たち。改めて御所に向かう、その途中、

「これ童」

「え?」

 それは一体さんだった。易者の姿をして机と椅子を構えていた。さっき通った時はいなかったのにいつの間に。

「一体さん!」

「誰じゃそれは。人違いじゃぞ」

「…どうしてもそう言い張るんだね」

「何か占ってほしいことはないか」

「今のとこはないよ一体さん」

「だから一体なんて名前は知らんと云うに。まあよい、何か迷ったらまたここに来い」

 りんごは(ははあ…。この方が金太郎さんの言うもう一人のひのえ様の使いか…)と分かったが、それは太郎には言わなかった。

 太郎とりんごは御所に向かい、そして、太郎は鬼の姿をした。すると手に金棒がポンと現れた。驚く太郎。鬼の服はどんな仕組みなのだろう。しかし今はそれを考えている暇はない。良い武器が手に入った。太郎はりんごと一緒では目立つので入口で分かれて御所内に入った。御所の中は鬼でいっぱいだ。バレたら終わりだと内心ビクビクの太郎。しかし鬼の姿でよかった。どの鬼も太郎に気づかず、そのまま廊下ですれ違う。

「宝物殿はどこだろう…」

 御所内を探しているうち、太郎は仏殿に迷い込んだ。

「うわー。立派な仏像だなー」

 普段、鬼たちは仏像に拝んだりしない。太郎は無事に姫子を助けられるよう手を合わせようとすると

『こ~れ~。そこにおる鬼よ。そなたたちは何故そんなに悪事を続けるのだ…。私は悲しい』

 仏像の目から涙が出てきた。

「ありゃ、こんな変装だから鬼と思われたか。おいら鬼じゃないよ」

 仏像の涙を拭こうと手ぬぐいを取り出し、そして仏像の目に腕を伸ばすと涙が太郎の腕輪に落ちた。腕輪が輝く。

「仏様の涙が宮水…!?」

 ひのえの空間に飛ばされた太郎。

 

『…よくぞすべての宮水を見つけた』

「試していたんだね」

『…そうだ、姫子と共に竜封じをするのに叶う男になったかどうかを』

「この腕輪と姫子の首飾りどういうものなんだ?」

『あれはお前たちの命だ。あれが無ければお前たちは八年しか生きられなかったのだ』

「そんな!あれはおいらたちが偶然に見つけ…」

『使いの者が言ったであろう…』

「使い?…あっ!」

 金太郎がその場所にいざない、そして一体さんに似た男によって腕輪が龍宮人のものと分かった。太郎は金太郎と一体さんがひのえの使いと悟った。

『腕輪と首飾りは龍宮人と同じ力を授けるものだ。さあ、姫子を助け出し白石の泉へ急げ』

 鬼ヶ島には竜の力が作用して普通に船で海に出ても辿り着かない。どこかにあると云う白石の泉から行くしかない。それは以前に聞いていた。

「その白石の泉はどこにあるんだ?」

 ひのえの声はもう聞こえない。自分で探せということか。その後、御所の中を探すも宝物殿は見つからない。りんごを連れて来て一緒に探すことも考えたが、犬を伴い歩いていたら怪しまれる。太郎は一度御所に出て、りんごを伴い、さっきの易者のところへ行った。

「ねえ一体さん、どうしてこんなところにいるの」

「一体ではないと云うに」

「大きくなったでしょ。おいらだよ、太郎だよ」

「知らんなあ」

「とぼけないでよ。おいらには分かるんだ。ほら、あの時に一体さんからもらった大きな服が今はピッタリ」

「お、お前なんか知らんと言っているだろうが…」

「一体さん、宮水を三つ見つけたよ」

「一体さんじゃないと云うに。でもよい、これをお前にやろう」

 易者は太郎に刀を与えた。

「刀、しかもこんな高そうなの。おいらお金ないよ」

「お前が文無しくらいなことは、金に縁のなさそうなその面を見れば分かる。やる」

「いいの一体さん?」

「もう、それを使えるくらいの男にはなっただろう、…と、その一体さんとやらなら言うであろう」

「ありがとう」

「太郎さん、その刀は名剣『鬼切り丸』ですよ」

 と、りんご。

「鬼切り丸」

「はい、鬼を切れる唯一の一振り」

「何でりんご、そんなことを知っているの?」

「…?そういえばそうですね。何ででしょう」

「ふはは、おそらく先祖の血の記憶であろう」

「え?」

「おっと、何でもない、何でもないぞ。ところで童、儂に何か占って欲しくて来たのではないか」

「あ、そうだった」

 ペロと舌を出して、改めて姫子のいる御所の宝物殿の場所を訊ねた。易者は占い卦を出した。

「宝物殿は御所の中を西奥に行き、つきあたりの壁に飾られている絵の額縁をずらせて入れ。同じく東奥のつきあたりの壁にも同様の細工がされている。そちらには銅鐸が山と置いてあるから壊していくんじゃ」

「ありがとう一体さん!」

「知らんと云うに!」

 

◆  ◆  ◆

 

 御所前で再び鬼に変装して御所内に入った太郎。最初に東奥に向かった。姫子を助けてからでは銅鐸の破壊は出来ない。やがてつきあたりに出て、飾られている絵の額を動かすと壁が開いた。銅鐸がたくさん並べてあった。

「人の魂を吸い取る悪い道具、みんな壊してやる!えい!」

 太郎は金棒を振り回して銅鐸を片っ端から破壊した。

「こんにゃろ!こんにゃろ!こんなもの、なくなっちまえ!」

 すべて破壊したころ、鬼が駆けつけたが、太郎も何食わぬ鬼の姿で侵入者を探すふりをして西奥へと駆けた。鬼たちは銅鐸が壊された東奥へと集まっている。今が好機である。西奥の壁にある絵の額を動かすと壁が開いた。宝物殿だ。その奥で倒れている少女がいた。

「いたぞ!姫子!目を覚ませ!早くここから逃げるんだ!」

「うっ…」

「姫子~っ!」

「うっ…頭が痛い。鬼に殴られたみたいで」

「しっかりしろ」

「え?あなたは…?」

「おいらだよ、太郎だ!」

「太郎?こんなに大きくなって」

「ひのえのおかげさ」

「ひのえ様のお告げを、私も眠っている間に聞いたわ」

「え?」

「私は龍の宮の乙姫」

「は?」

「太郎、私が乙姫だったのよ」

「ひのえの言っていた、あの乙姫?」

「そうよ、やっと思い出したわ」

「姫子…」

「いま一度、あの悪の化身を封じなければ…。太郎も手伝ってくれる?」

「おいらでいいんなら」

「あなたじゃなきゃ駄目なのよ」

「えっ?」

「ううん、何でもない」

「さあ急ごう!鬼がくる!」

「ええ」

 二人は大急ぎで御所を脱出。りんごも追いかける。

「姫様!」

「来てくれたのね!ありがとうやまと!」

「や、やまと?私の名前はりんごに…」

(やまと…。何か聞いたことのある名前。それに何故私は姫子さんを見たとたんに『姫』と呼んでしまったのだろう…)

 しかし、今そんなことを考えている暇はない。太郎と姫子を追いかけて、まずは安全な場所に行くことだ。

「さあ太郎、やまと!白石の泉へ急ぐわよ!」

「よおし!」




ゲーム初プレイの時は、この姫子救出までかなり大変だったの覚えています。いまみたいに攻略サイトなんて無かったしねぇ。

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